龍丸や力丸とは気付いたときから一緒にいたから、居て当たり前の存在だと幼い頃は思っていた。
此が所謂、家族や身内に値する人への考えと同じなのだろう。
じゃあ、二人の事を家族や身内だと思ったか?
其れについては、否、と言い返す自信がある。
修行から毎日の生活を共にしたアタイ達三人には、家族や身内以上の絆があったと思う。
そう信じてやまなかった。
「はぁ…」
郷田城内の森で、アタイはクナイの刺さる木の的に寄りかかって溜め息を吐いた。
龍丸が居なくなり、いや、寧ろ東忍流の里が無くなり、アタイ達が城の下に転がり込んで早幾年。
人を殺めながら、アタイ達は共に居る。まだ。
「彩女」
「何だい」
的の反対側に腰掛ける力丸は、どうやら昼飯を頬張っているのか、声が曇っている。
ああ、今昼か。
「どうかしたのか?」
「はぁ?…何のことだい?」
「とぼけるな。さっきの溜め息、聞こえたぞ」
力丸がそう言って立ち上がると、アタイの前に来て腰を下ろした。
両手に小さなおにぎりを持つ、逞しくなった力丸は、少々ばかり滑稽に見える。
「ほら、腹が減っただろ?」
そう言って力丸は左手のおにぎりを差し出した。固くずれの白いおにぎり。
アタイはそんなおにぎりを受け取ると、一口頬張って、一言。
「しょっぱい」
塩濃いおにぎりは、相変わらずである。
「すまない…」
微妙にへたれなのも、相変わらずである。
「ふぅ…」
アタイはまた溜め息のような、そんな息を漏らすと横になった。力丸はアタイのことを覗き込みに来る。
「龍丸、か?」
その一言に目を細めて、アタイは力丸を見遣った。
そう、家族や身内以上の人、龍丸。
アタイが愛しているただ一人の人、龍丸。
「…彩女…」
「煩いね…アタイはもう兄様の事は忘れたんだよ」
「だか、彩女…」
「いいよ、もう…其の名は忘れた…知らないよ」
風が吹いた。
森をざわめかせて、アタイの髪をなびかせて、去って行った。
まるで…其れはまるで…
「力丸」
「ん?…───」
スッと体を起こして、アタイは力丸に抱きついた。
厚い胸板が、少々ばかり懐かしさを匂わせる。
「こ、こら彩女…何を」
しどろもどろな力丸の言葉は忘れて、アタイは手をゆっくりと力丸の下半身に伸ばす。
気付けば力丸は膨らんでいた。
「…アタイと話しながら勃たせてたのかい…?」
ニヤリとアタイは笑う。
力丸が物凄い頬を赤らめるものだから、此方は思わず悪戯したくなる。
アタイはそっと口付けると、力丸の服を脱がし始めた。
「彩女…!」
着崩れた力丸は、アタイを押し倒して首筋に舌を這わせる。
熱い息が首筋に掛ると、思わず腰が浮いてしまった。
「あぅ…」
自分の声とは思えない程甘い声で、アタイはあえぐと、力丸は切なげな表情でアタイの服を脱がし始める。
少しずつ露になるアタイの体は、力丸と比べると遥かに華奢で、色気地味ていた。
「アタイ、女なんだねぇ…」
しみじみと言う矢先、力丸の手は腰巻きに伸びている。
はらりとほどけば、あまり使われていない秘所に力丸の指は届く。
くの一なら沢山使う筈の此処は、男勝りなアタイには必要の無い部位だ。
だが、今日ばかりは力丸をくわえる為に、ヌルヌルの液体で濡れていた。
「…濡れているな…」
「お互い様ってヤツだよ…ホラ、アンタのその欲望をアタイに頂戴よ?」
何時までも意地を張るアタイに、力丸は眉を下げて笑っていた。
いや、呆れてた?
力丸がアタイの白い脚を持ち上げて、肩に乗せる。
ちゅぷ…
「ん…ふぅッ…」
力丸の腰が少しずつアタイに近付いていくのが分かる。
力丸が、アタイの中を滑るようにゆっくりと…入ってきた。
「凄い…気持ちいい…っ!」
アタイの最奥部にまで、力丸は押し入ってくる。
力丸はとてつもない熱を帯びながら、アタイの中を動き回り始めた。
「彩女…ッう…凄い…!」
「はぁ…ぁ…ッんぁ…!」
次第にコツを掴んでいくアタイ達は、締め上げと突き上げを激しくしていく。
結合部からはグチャグチャと水音が溢れ、肌のぶつかり合う音も辺りに響いた。
「あぁっあ…ッぁんん…ッ!」
「彩女…あや…め…ッ!」
淀んだ意識の中、アタイの口から言葉が溢れていく。
「たつ…まるぅ…ッ!」
明らかに、力丸の目は見開かれた。
ヤバイとは思ったが、直ぐに力丸の突き上げに意識が飛んでいってしまう。
クチュッパチュッ!
「…やはりお前は龍丸なのだな…」
「あっ…はん…ッ!りきま…るぅ…!」
そうじゃない。
そう言おうとしたが、力丸の突き上げに掻き消されていった。
「ちょ…りきまる…ッ!激しすぎ…!」
力丸の表情は怒りに震える「無」だ。
本気で怒らせてしまったらしい。
まぁ、無理もないけれど。
「中に出すぞ」
「ちょ…!やめ…ッ!中は駄目…!」
アタイの言葉が、水音とぶつかり合う音に紛れて居なくなる。
力丸は遠慮なく腰を振り乱して、アタイの中を犯し通していく。
「く…うぅ…」
ビュクッビュクビュクッ
「…く…ああああぁぁ…!!」
アタイの中で力丸が弾けた。
ドクドクと力丸の熱い粘液が広がる。
「はぁ…はぁ…」
力丸が何度か腰を揺する。
すると、結合部からは愛液か精液か分からない白い粘液がドロリと溢れでた。
糸を引きながら、粘液は青い草の上に落ちていく。
力丸がヌルヌルの自身を引き抜いて、アタイの脚を下ろした。
「中に出して…申し訳無い…」
いきなりの力丸の小さくはっきりとした声に、アタイは目を見開いた。
「彩女の言葉にカッとなってしまった」
力丸がアタイの体を起こして、ギュッと抱き締める。
「アタイの方こそ、御免」
体を離してアタイは頭を下げた。
「…正直に話すと、アタイは…龍丸を忘れられない。兄様の全てを、力丸に重ねてた」
この言葉に、流石に力丸は眉間に皺を寄せたが、直ぐに首を横に振った。
振り終えた力丸は、微笑んでいた。
「憧れだった兄者と重なると言われただけで、俺は幸せだ…気にするな」
アタイの頭を二、三度叩くと、力丸自身を手拭いで拭き取り、しまい込む。
アタイも手拭いで秘所を拭い、着替えると、立ち上がった。
力丸もつられて立ち上がり、アタイを見下ろしている。
アタイはニコリと笑みを浮かべた。
「力丸も龍丸も…もしかしたら友以上、恋人未満…ってヤツなのかも、ね」
その言葉に少し残念そうな力丸。
面白いな、力丸という男は。
「まぁ此れからだって見込みあるかもしれないけどねぇ」
そう付け足すと、アタイは力丸の厚い胸板を叩いてさっさと走り去った。
「何時か恋人以上になる時が来るように…日々努力する」
そんな言葉が聞こえた。
其の言葉が、龍丸への想いを打ち破る鍵となるかは分からないが…
アタイは信じて力丸を待つことにしよう。