「忍び鎧始末」  
 
現代、近畿地方の忍術の流れを汲む旧家に、ある大学の考古学調査班が調査に訪れた。  
多種多様な手裏剣や道具類の中、かなり風変わりな鎧が所蔵されている事に注目が集まった。  
 
皮製の下穿きに板葺きの覆いを付けた極端に簡素な作りで、伝承に因ればこれに楔帷子を  
合わせ、臀部に小刀を差して着用したと伝えられていた。  
 
「えらく奇抜な鎧ですな」  
「ええ、何でも私の先祖が着用していたと伝えられております」  
「ご先祖様が?」  
調査員は首を傾げた。男性が着用するには小さ過ぎた為である。  
「我が家は父母共に隠密の家系で、この鎧は母方のものだそうです」  
「母方の?」  
「何でも、当時から優秀な忍者であると同時に、相当な傾き(かぶき)者として名を馳せたそうです。この鎧も、実際に着用したそうですよ」  
「確かに、汗染みが所々に・・・」  
忍び鎧にしては露出が多く、十分過ぎるまでに奇抜なデザインである。  
 
(傾き忍者か・・・こりゃ大発見だ!)  
 
学者は早速、展示品に飾る鎧のレプリカを製作する胸算用を始めた。  
 
珍奇な発見が大胆な想像を掻き立てる事はそう珍しくは無い。  
ただし、この事例の真相はご大層なものでは無く、余りに滑稽千万なものであった。  
 
300年前の郷田領。  
 
戦乱の世が終わり、ようやく城下町として栄えつつあった町並みの外れ、当時としては  
典型的な長屋の一角に、『鍼灸・鍼』と書かれた中吊りの表札が下がった場所があった。  
その中では、坊主頭の鍼灸師の男が商売道具らしき針を砥石で黙々と磨いていた。  
 
商売道具故に手入れが欠かせないのであろうが、何処と無く安達が原の鬼女が出刃包丁を  
研いでいる様な、独特の威圧感を醸し出していた。  
うっかり男に声を掛けずに背後に周ろうものなら、喉元に鍼を突き立てられかねない。  
これも男の稼業故の雰囲気であろうか。  
 
突然、男が磨く手をぴたりと止めた。  
「・・・誰ですかぃ?」  
男は磨いていた鍼を人差し指と中指に挟んで戸の方に問いかけた。  
「あたいだよ」  
「あぁ、力丸のお妾さんですかい。入りなすって」  
男は鍼を再び砥石の上に置いた。  
「・・・妾ならまだマシだよ」  
戸の前に立っていたのは憮然とした表情の彩女であった。  
彼女の表情には憤怒を通り越して何かに呆れた様子が伺えた。  
「・・・もしかして、原因は力丸で?」  
「違うと言いたいけど、その通りさ。  
力丸の野郎ときたら、あいつが酔狂で造った忍び鎧をあたいが着けた姿を見たいって  
五月蝿くて仕方無いんだよ。  
おまけに、巷に出回ってる秘薬の効能を確かめたいって・・・あたいを何だと思ってんだい」  
彩女は吐き捨てるように言った。  
妾ならまだしも、実験体扱いである。彩女が呆れるのも無理も無い。  
それに、例の忍び鎧は動き易いとは言え、地肌を曝し過ぎる上に奇抜で目立って仕方無く、  
どうにも使い道が限定されそうな代物・・・それが彩女の評価であった。  
無論、力丸の無器用な願いを受けて大人しく着る訳が無かった。  
 
「それで、仕事着にしちゃ血の匂いがしねぇと思いましたよ」  
「あたいのは仕事着と言うより普段着だけどね。仕事柄化ける事が多いんだ」  
気分も含めて、流石に疲れたのであろう。彩女は肩を大仰に回した。  
「あぁそうだ。折角ここに来たのも何かの縁だ。鍼を打って進ぜましょう」  
鉄舟が珍しく気の利いた事を言う・・・彩女は面白いと思った。  
「鍼ねぇ・・・只ならいいか」  
「じゃ、まずは痛くなくなる壺に打ちますぜ」  
鉄舟は彩女の首筋を手馴れた手付きで探るなり、すとんと針を打った。  
「くっ・・・」  
「たまに痛いのが嫌だってお客も居るんで、こうしてんでさぁ」  
「は・・・効く・・・」  
 
首筋の秘孔を突かれた彩女の視界は、濃い闇に包まれていった。  
 
「ん・・・!?」  
 
再び目が覚めるなり、彩女は我が身に起こった変化に困惑した。  
 
彼女は例の忍び鎧を着せられ、仰向けの状態で寝かされていたのである。  
当然ながら、剥き出しの臀部が丸見えの格好である。  
「・・・悪く思わねぇで下せぇ。予め前金で請け負ったんでさぁ」  
「鉄舟殿、かたじけない」  
奥の襖から出てきたのは、力丸であった。  
この分だと、予め鉄舟に“鼻薬”でも嗅がせていたに違いない。  
 
自分が計略に掛かったと悟った彩女は顔を赤く染め、力丸に食い付かん勢いで喚いた。  
「力丸!、お前、恥を忘れたのか!?  
あたいをものにしたいんなら、お前自身で片を付けるのが筋じゃないか!?」  
「昔ならいざ知らず、今は郷田藩お庭番役を預かる身・・・拙者に何かあれば、拙者ばかり  
でなく殿や御家老、更には部下や家来衆にまで要らぬ苦労を掛ける」  
 
この辺り、少々事情を説明せねばならない。  
 
この頃、江戸に成立して間も無い徳川幕府は、全国の諸大名に対して徐々に締め付けを  
強めていた。  
関が原の合戦のみならず、お家騒動や百姓一揆においても幕府に睨まれて改易や転封の  
憂き目に遭った家が続出し、失業した武士=浪人が全国に大挙して出現するという悪循環を  
伴っていた。  
後に述べる慶安年間においても、全国に二十数万は存在していたと言われる。  
これらの浪人は、慶長十四年から元和元年(1614〜15)の大坂の陣や寛永十五年(1638)の島原の乱といった大乱においても主要な武装勢力として活躍した。  
当然の流れとして、郷田領に出現した有象無象の集団もこれらの浪人を用心棒や戦力と  
して雇い入れていたのはご存知であろう。  
 
この流れは、慶安四年(1651)の由比正雪の乱によって幕府政権が所領政策の転換を行い、  
幕藩体制の確立を図るまで続いた。  
当然ながら、それらの不穏分子を監視し、集まった情報を統括する力丸の苦労は以前とは  
比べ物にならなかったのである。  
 
・・・とは言え、貞操の危機が間近に迫っている彩女にとっては問題では無かったのだが。  
 
(この旦那も、中々食えないな・・・)  
鉄舟も、涼しい顔をしてさらりと言ってのける力丸に苦笑した。  
朴念仁の力丸がこのような詭計で彩女を手篭めにするのが可笑しいと思った為であるが、  
実は、鉄舟も一枚も二枚も噛んでいたのであった。  
気の強い女子がどの様に喘ぐか・・・この意味では、鉄舟も癖のある好き者であった。  
 
「騒がれては近隣の者共への迷惑になろう・・・少し我慢しろ」  
「こら!、何を・・・」  
力丸は猿轡代わりに、罪人の自決防止用の噛ませ口を彩女の口蓋に噛ませた。  
「ふむ、綺麗な形だ・・・、褌とは異なる密着具合だな」  
力丸は眉一つ動かさず、皮の覆いだけで隠された彩女の臀部を撫で回していた。  
彩女は全身が金縛りにでも遭っているが如く身動き一つ取れなかった。  
(畜生・・・金縛りの秘孔を突いたな)  
力丸が鉄舟を引き入れたのはこれも理由があった。  
腕の良い鍼師でもある鉄舟ならば、全身麻酔の壺も心得ているであろう為である。  
かくして、彩女は2人の男の成すがままにされていた。  
(秘薬の効能を試してみるか・・・)  
力丸は小ぶりの壺を取り出すと、中に入った膏薬を指先に付けた。  
「鉄舟殿、済まぬが彩女の股を開いて貰えぬかな?」  
彩女は首を振って懇願したが無駄であった。  
「こうですかい?」  
鉄舟は彩女の両方の太股を抱えて、谷型(現在の表現で例えるならM字である)に開いた。  
力丸はするりと皮の内側に指を忍ばせた。  
「ひゃうっ!!」  
そして指を回転させたりかき回したりなどして、秘所の辺りを万遍無く塗りたくった。  
 
「旦那、あっしも良いですかい?」  
「そうだな、眺めてばかりでは身体に悪かろう」  
「旦那も顔に似合わず、話の分かるお方で」  
「顔は余計だ。まぁ良い、存分に可愛がってくれ」  
鉄舟は薄手の帷子に包まれた彩女の乳房に手を回し、こねぐり回した。  
勿論、覆い皮の裏側にも手を回し、膏薬の付いた指を差し入れた。  
「くぅぅ・・・」  
彩女もされたい放題で面白い訳が無く、隙を見て反撃したい所ではあったが、手足の自由  
が効かないのではどうしようも無かった。  
 
「ひっ・・・!」  
ひとまず達した彩女は、少しばかり痙攣すると全身から力が抜けた様に床に沈みこんだ。  
ぐったりとした彩女を尻目に、鉄舟は満足そうな表情で指を秘所から抜くと手拭で拭いた。  
「鉄舟殿、それで満足なのか?」  
「あぁ、あっしは仕事柄のせいか、買う時もこうして遊ぶんでさぁ」  
「・・・貴様も顔に似合わず、随分と奥手だな」  
鉄舟は照れくさそうに坊主頭を掻くと、ニヤリと笑った。  
「・・・仕事柄、手の方が敏感なんですよ」  
 
力丸は彩女の意識が朦朧としている事を良い事に、愛液ですっかりふやけた皮覆いを  
捲り、剛直を押し当てた。  
「いい加減弄くってばかりではつまらぬのでな」  
「・・・!!」  
力丸と鉄舟に散々狼藉を働かれた後という事もあり、彩女の臀部はすんなりと剛直を  
受け入れた。  
「ふぅぅぅぅ・・・ん」  
金縛りにかかった状態では、身を捩って逃れる事すらも適わない。  
 
こうして、彩女は後背位のままで攻められる羽目となった。  
ただし、この時はまだ彩女の堪忍袋の緒は切れていなかったのだが・・・。  
 
「しかし、何で又この娘をこんな形で手篭めにしたいと思ったんで?」  
 
彩女は臀部をじっとりと塗らしたまま、ひくひくと痙攣していた。  
未だに金縛りに遭ったままの彩女を背負うと、力丸は表情一つ変えずに口を開いた。  
「彩女が俺の言う事をおいそれと聞く訳が無かろう。  
それに、今から弱みを握らんと俺の身の方が危うくなるかも知れん」  
「お大尽ともなると、何かと厄介の種が増えますからね」  
「まぁな。さて、今宵はじっくりと愉しむかな」  
 
意識だけははっきりとしていた彩女は、いよいよ我慢がならなくなっていた。  
当然、彼女の袋の緒も切れ始めた。  
(・・・あたいの事、本当に何だと思ってやがるんだい!  
あんたとは大人しく契りを結んでやるつもりだったけど、こうなりゃ隙を見て  
きっちりとお返しをしてやるからな・・・)  
 
この“お返し”は、結果として高く付く事となった。  
しかも、力丸の預かり知らぬ所であるばかりか、到底及ばぬ所であった・・・。  
 
そして、300年が経った今日。  
後日、博物館で件の忍び鎧を着装した形が展示公開された。  
マネキンのモデルは、東家に伝わる伝書と肖像画を基にした為  
 
・・・力丸のそれであった。  
 
尚、伝書を編纂したのは力丸の伴侶であり、名うてのくの一であった彩女と伝えられる。  
                                    〔完〕  
 

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