「羅刹の涙」  
 
昼夜を通して建造されていた焔口鬼がようやく完成に漕ぎ着けた頃の事である。  
陽炎座四天王の『青龍』を名乗っていた龍丸は頭領である香我美から「大事な用件」  
があるとの呼び出しでとある場所に足を進めていた。  
 
(来るべき郷田との戦の為のものか、それとも弟弟子達の事か…)  
 
龍丸は崖から落ちた時の衝撃で記憶喪失となっていた。彼が陽炎座に属しているのも  
それを見越した香我美の差し金であったが、その為に知らずとはいえ自らの故郷を  
焼き、あまつさえ師匠の東紫雲斎を殺めるという許されざる非道を犯してしまった。  
“もはや東には戻れぬ…”  
覚悟を決めた龍丸は香我美から例え弟弟子を消せという達しを伝えられたとしても  
躊躇せずに実行する決心を固めていた。  
 
「来たか」  
 
指定された部屋に入るなり、龍丸は目を疑った。  
通された部屋は明国風の装飾を施された臥所であった。  
陽炎衆が根拠としている洞窟は岩肌に簡素な木材の骨組を取り付けただけの簡素な  
ものだったので、明国風の赤漆が塗られた装飾は余計に不釣合いに見えた。  
 
「これは一体・・・?」  
「たまには男と臥所を共にするのも悪くないだろう」  
「だが、今になって何故…」  
 
「これまでは武士の為に敵に体を委ねなければならなかった。だが、これからは  
好いた男と思うが侭に契りを交わす事が出来る。これはその前祝といった所だ。  
あの師匠の元では貴様がその手の事に疎いのは無理もなかろうがな」  
 
「なっ………」  
 
香我美の言う通り、紫雲斎はくの一がよく使う床術や誘惑の術が苦手で、女弟子の  
彩女にすら普通の忍びの術を教えていた位であった。  
龍丸は成す術も無く突っ立っていたが、香我美はおもむろに髷を解いた。  
 
「…せめて、お前の前では女でいたい」  
 
香我美の頬はうっすらと赤味を帯びていた。  
 
龍丸は香我美の胸当ての留め具を外そうとするが、手が震えて上手く行かなかった。  
「ふふ…、女子の肌に触れるのは始めてか」  
香我美に茶化されながらも、やっとの事で留め金を外すと香我美の形の良い乳房が  
姿を現した。その途端、龍丸の顔が赤く染まって動作がぎこちなくなった。  
「どうした、好きにしてよいのだぞ?」  
突然、香我美は龍丸の口に自らの唇を重ねた。  
「!?………」  
「…口吸いも始めてなのか。まぁ良い、わらわが色々と教えてやろう」  
香我美は意味深な笑みを浮かべつつ、ぺろりと唇を舐めた。  
香我美は腰巻を剥ぎ取って一糸纏わぬ姿になると、龍丸の逞しい体に馬乗り  
になった。  
「お前のモノはどうかな…?」  
慣れた手付きで龍丸の股引をまさぐるなり、いとも簡単に剛直を取り出した。  
「なっ、何をする………」  
 
龍丸がたじろぐのも意に介さず、香我美は剛直を口に含んで優しく、しかし舌を絡めて  
執拗に吸い始めた。  
「ん・・・、んっ・・・」  
「くぅ・・・」  
香我美の絶妙な舌技に龍丸は早くも果てそうになったが、どうにか気力を降り絞って  
早漏になる事だけはどうにか免れた。  
 
「良く耐えたな。まぁ、そうで無くては愉しめぬがな」  
香我美は唇を舐めると、胸の谷間に剛直を挿んで亀頭を唇で舐めだした。  
「これはどうだ、気持ちが良いだろう?」  
柔らかな乳房が掌の中で形を変え、亀頭を包む様に締め上げた。  
香我美は小悪魔のような笑みを浮かべつつ執拗に龍丸を攻め立てたが、龍丸はそれに  
必死に耐えた。  
「そう我慢せずに出しても構わぬのだそ」  
「…そなたの美しい顔を汚すのが忍び無くてな」  
龍丸は執拗に迫り来る快楽に顔を歪めながらもニヤリと微笑んだ。  
 
「俺も奉仕されてばかりでは面目が立たん」  
龍丸は上体を起こすと、太い腕で香我美のほっそりとした腰を掴み、己の半身に  
重なる様にあてがった。  
「あひぃ!」  
下から逞しい剛直を突き立てられた香我美は小さく悲鳴を挙げた。  
「痛かったか?」  
心配した龍丸が剛直を引き抜こうとすると、香我美が龍丸の腰を掴んだ。  
「心配要らぬ、このままで良い」  
「そうか…」  
龍丸は香我美の腰を両手で掴むと、慎重に己の剛直で突き上げ始めた。  
「あっ・・・んっ・・・」  
香我美の唇から漏れ出る微かな嬌声と淫靡な水音が薄暗い部屋に響いた。  
乳房も突き上げられる振動に合わせ、小刻みに揺れていた。  
「・・・もっと、深くまで来て・・・」  
「わ、分かった・・・」  
龍丸は繋がったまま香我美の身体を慎重に抱えると、今度は覆い被さる格好で  
己の臀部を上下させ始めた。  
「んぁ・・・あぁ・・・あぁっ・・・」  
「ん・・・くっ・・・ぅ・・・」  
目方の重い龍丸が上になった為か、剛直は更に香我美の身体の奥深くまで沈み、  
香我美を更に喘がせた。  
 
「くっ・・・、もう限界か・・・・・・」  
龍丸が剛直を抜こうと上体を上げようとすると、香我美の両腕が龍丸の逞しい背中  
を掴み、そのまま離そうとしなかった。  
 
「香我美・・・、このままでは・・・」  
「・・・お前のものを、全てこの身で受け止めたい・・・」  
 
香我美は更に龍丸の身体を抱き寄せ、乳房を龍丸の胸に押し付けた。  
 
「ぐあっ!」  
 
龍丸の剛直はとうとう堪え切れず、勢い良く白濁液を吐き出した。  
香我美の身体の中で荒れ狂ったそれは、繋がった部分の隙間から溢れ出した。  
 
「何故あのような事を…?」  
事が済んだ後、龍丸は香我美に尋ねた。  
「妾もお前の全てを受け入れようと思った。それに…」  
「何だ?」  
「…これが最後になると思ったからな」  
香我美は自嘲染みた笑みをこぼした。  
「お前は記憶が戻ったのであろう。今更妾に仕える道理も無かろう…」  
そう言うなり、香我美は顔を背けた。  
 
「俺は戻らぬ」  
 
龍丸の声はその意思を象徴するかの様にはっきりとしていた。  
「前にも言ったであろう。そなたの細き身体では全てを受け止めるには酷だからな。  
俺がそなたの苦しみや悲しみを受け止める為に出会い、弟弟子を斬る運命(さだめ)  
なのであれば、俺は喜んで受け入れるまでだ」  
「分からぬ…。何故そこまでする道理がある…」  
 
「そなたが望んでいる様に、俺もそなたと共に在りたいからな」  
 
「うっ・・・く・・・」  
 
堪え切れなくなった香我美は、龍丸の逞しい胸に抱きかかえられて涙を流した。  
非情な忍びの頭領が一人の男を愛する一人の女になった瞬間でもあった。  
                 *  
「あの女とて所詮はか弱き人に過ぎぬか。つまらぬものよ…」  
 
そう呟いたのは陽炎衆四天王の一人である朱雀であった。  
彼はめしいているにも関わらず、包帯を巻いた顔を二人の居る方に真っ直ぐ向けていた。  
 
「あの女の働きで多くの血が流れた。だが、あ奴には陽炎座の頭領としてもっと血を  
流して貰わねばならん。無論、あの男にも相応に働いて貰うがな・・・」  
 
包帯の奥で何かが光った様に見えた。                   (完)  
 
 

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