――――彩女、お前は俺のことを好いておるか?
突如として聞かれた。
すぐ近くにある力丸の顔を見る。鋭く、しかし優しい眼差しが彩女をとらえていた。
「突然何言い出すんだい」
「いや、お前とは寝所を共にする仲だが、はっきりとさせておきたくてな。」
「・・・そうだねぇ」
彩女は少しため息をつき、向かい合っていた力丸から顔を背けるように寝返りを打った。
初めて力丸から抱かれてから幾年か経つ。
お互いに自分の命に代えがたい、大切な存在であることは意識している。
力丸は素直に彩女への愛情を表現する男だが、彩女は特に力丸へ気持ちを伝えていたわけではなかった。
顔を背けてしまった彩女に対して、後ろからそっと手を回し、抱きしめた。
きつく身体を密着させる。
「お前が龍丸よりも俺のことを好いておると言ってくれたら、俺はもうこの世に悔いも何もないのだが、な」
――またそんな事言うのかい
彩女は少し呆れたような顔をしたが、その表情を伺えない力丸はそのまま彼女の首筋に唇を寄せた。
首を吸っていくと、徐々に彩女の熱が昂ぶってきているのが分かる。
「彩女」
力丸は彩女の身体をころりと自分の方に向けて、お互いの唇を重ねた。
強引に舌を彩女の口内に割り込ませ、その味を確かめるようにねぶる。
彩女の舌も彼の口腔に入ってきたところで、口づけは激しさを増し、唾液があふれ出す。
口づけだけでじわりじわりと自分の芯から熱いものが溶け出していくのが、彩女の恍惚感を更に加速させた。
――お互い、心が通じ合っているのならコトバなんて形にしなくても良いじゃないか・・
あんたがあたいを必要として、あたいにとってもあんたが必要なのは二人とも判ってるんだ
はだけた着物から見える彩女の白い肌が、美しく月明かりに濡れていた。
今日は力丸が事を急いていて、前戯もおざなりにもう褌を脱ごうとしている。
いつもは時間をかけて彩女を悦ばせようとする力丸だが、やはり彩女が答えを曖昧にしたままでいるのが不満なのだろう。
「挿れるぞ」
「っ・・・・・」
ぐい、と自身を押し入れる。
一瞬彩女の身体が強張るが、繋がったままの状態で緊張が取れるのを待つ。
小柄な彼女の身は、抱きしめるとすっぽりと力丸の身に収まった。
その華奢な身体を包み込むと、膣を軽く小突くように小刻みに腰を動かしていく。
「、っあ、、、あっ、」
しっとり汗ばんだ手足を力丸の胴に絡みつけ、彩女は彼の剛直を胎内に感じた。
それは別の生物のように膣の中を進み、ずいと突いてくる。
「りきまる、も一度、口を吸って」
「・・・俺のことを好きだとはっきり言えば好きなだけ吸ってやる」
ここぞと力丸が意地悪そうに笑いながら言う。
そして、彩女のぷくりと勃った乳首を軽くひねった。
「あッ!!!」
刹那に電気が走るのを感じ、身体をひねった。
彩女は少し眉間にしわを寄せたが、すぐに、真上の力丸の首に手を伸ばして口づけをした。
言葉ではあのように言ったものの力丸はその口づけに応じ、彩女の濡れた唇をまた丹念に吸った。
やがて胎内の剛直の突きが激しくなり、彼はその中で絶頂を迎えた。
彩女は力丸に彼女の想いを伝えない。
もちろん気恥ずかしいという理由もあるし、影として生きていくには恋愛情事に溺れられないという強い決意もある。
それに、力丸がふと呟く、この世に悔いが無くなるのだが、という言葉が彩女を躊躇させていた。
迂闊に「力丸、愛してる」なんて呟いたら本当に力丸がいなくなってしまう――そんなおそれが以前からあったのだ。
「あんたがヨボヨボの爺さんになってからだったら、あたいの愛情がどのくらいか教えてやるよ」
達してからまだ上に乗っている力丸の背中をそっと撫でて言った。
力丸は少々不満げな表情をして、
「ヨボヨボの婆さんに言われてもな、」
と目尻を細くして笑った。
【終劇】