「おはようございます、ブルー」
目覚めたブルーに告げたのは、数日前に自らが救い出した少女だった。
身支度がすっかり整っているところを見ると、どうやら自分よりかなり早くに目が覚めたらしい。
ふんわりとした無垢な微笑みが目映いほどだ。この笑顔だけは最初から変わらない。あの水槽の中にいた頃から、彼女はいつも自分にこうして微笑みかけてきた。
「おはよう、フィシス。今日は目が覚めるのが早かったみたいだね」
「はい」
寝台から身体を起こしながら聞くとフィシスはこくりと頷く。
ここは『青の間』と呼ばれるブルーの私室だ。シャングリラに来てから、フィシスはここで寝起きをしている。
いきなり放り込まれた新しい環境に不安を感じるのか、シャングリラに着いた時からブルーの服を掴んで放さなかった。
ブルーもそんな少女を一人にしておくことができず、ならばと自分の手元でしばらく生活させることにした。
外聞が悪いと長老たちは眉を顰めたが、ブルーは取り合わなかった。フィシス自身が強くそうしてほしいと願ったからだ。
寝台がひとつしかないこともあり、ブルーとフィシスは同衾していた。
この部分が一番長老たちの眉を顰めさせた部分だったのだが、自分とフィシスは親子以上に年が違う。なにより女神に等しい大切な存在なのだ。色めいた思いからして抱きようがない。
事実、ブルーはフィシスを抱きしめるようにして眠りはしたものの、それ以上のことは決してしはしなかった。それ以上のことなど自分はしないという絶対の自信があった。
ふと見ると、フィシスは心配そうにブルーを見つめていた。
「そんな顔をして……どうしたんだい、フィシス」
「お体の具合は大丈夫かと思って」
「身体? 僕の? 特になんともないが……何か気になることでもあったのかい?」
こくりと頷き、フィシスは答えた。
「目が覚めた時にブルーの身体がいつもと違ったのです」
「違うって、どんな風に?」
フィシスはそっとブルーの手をとった。
「口で伝えるのが難しいので、記憶を読み取ってください」
「わかった」
こういう時ミュウはやりやすくていいと思いながら、ブルーはフィシスの伝えたい記憶を読み取る。
視点は当然ながらフィシスのそれだ。フィシスは盲目だが、ブルーが与えたミュウとしての能力を用いてそれを補っている。心の目というやつだ。
心の目は、白いシーツを見つめたいた。その下には眠ったブルーの身体――もっといえば、ちょうど男性器部分にあたる。そこが不自然に盛り上がっていた。
おそるおそるフィシスがシーツをのけてみると、その下の部分が盛り上がっている。こんな状態のブルーは今までみたことがない。
どうしたのだろう。何か、具合が悪いのだろうか。
フィシスの思惟はブルーの心配に満ちていた。
「……ブルー。わかっていただけま」
「ああ、僕の女神!」
いきなりブルーはフィシスを強く抱きしめた。
「あ、あの、ブルー?」
「ミュウでも最年長で、そんなものはもう枯れ果てたと思っていたが……そうか、僕もまだまだ大丈夫なんだな。いや、君だからかな。どちらにしろ、男としてこんなに嬉しいことはない」
噛み締めるように言うブルーの心は歓喜に溢れていた。
「よかったですね、ブルー」
フィシスはどうしてこんなにもブルーが喜んでいるのかがさっぱりわからなかったが、とりあえず自分の伝えたことが彼を喜ばせたという事実が嬉しくて、にっこり微笑んだ。