超能力を使うミュウとはいっても、基本的には生身。  
 健康に気をつけるのは当然で、年に一度は必ず全員メディカルチェックを受けることが義務付けられています。  
 今日はフィシスのメディカルチェックの日。  
 細心の注意を払って念入りに、しかしあまり肌に触らぬように頼む。  
 前日、ソルジャー・ブルーから何度も何度も何度もそう頼まれたドクターことノルディは、相変わらずの執心ぶりにため息をつきつつ、それでもソルジャーの為に職務を全う。  
 無事に終ってほっと息をつき、そして気がついた。  
 
 
「おや、フィシス。服を変えたんだね」  
 少し前までは白いワンピースのようなものだったのだが、今は藤色に近いピンクの、肩を露出させたものを着ている。  
 診察中は外していたアクセサリーを身につけたその姿は、占いを良くするという彼女に相応しい神秘さがある。  
 フィシスの居室のようになっている天体の間の雰囲気にもよく合いそうだ。  
「はい。ソルジャーが見立ててくださったのです」  
 頷きこぼれた幸せそうな微笑みに、ノルディも思わず唇をほころばせる。  
「そうか。それはよかったね。しかし……」  
「?」  
「えらく肩がでているね。少し露出が過ぎるような気がするけど」  
 清楚さの中にある少々の艶になんとなく聞いてみただけだったのだが、すぐにノルディは聞いたことを後悔した。  
「これはソルジャーの意向なのです。なんでも、突っ込みやすいからとか」  
「……突っ込み……」  
「はい」  
 固まったノルディの様子に首をかしげながら、フィシスは頷いてみせる。  
 
 
 ……突っ込みって、なんだ?  
 ボケて突っ込むあれじゃない。絶対にそれはない。  
 他に突っ込み。  
 ソルジャー・ブルーの意向でこの衣装。  
 そして、突っ込み。  
 突っ込みやすい。  
 何がどう突っ込みやすいと……?  
 脳裏を巡るのは、ブルーの発した驚愕の言葉のあれこれ。  
 そこから推理すると、どうしても色事方向に答えが導かれてしまう。  
 さらに、あのソルジャーならいいかねないとも思ってしまう。  
 
 いやいやいやいや。  
 あのひとは冗談で言ったのかもしれない。  
 ああ見えて面白いひとでもあるから。  
 しかし言葉がおっさん臭い。いや実年齢を考慮すればジジ臭いというべきなのか。  
 そういえば、フィシスは随分と大人っぽくなった気がする。  
 体つきや雰囲気が女性らしくなったというか。  
 そういえば、その変化はブルーが自分の所へ来て以降のことだったような。  
 
 いやいやいやいやいや。  
 そういう風に考えを持っていくのは、なんというか大人気ないというか、下世話な気がする。  
 それに何より個人的なことだ。本人同士が合意の上でなら、特に問題はない……はずだ。  
 とはいえ、やはりロリコン・光源氏計画などというあまりよろしくない単語が脳内をよぎってしまう。  
 
 
「ドクター?」  
 声にはっとする。少々考え込んでしまっていたらしい。  
 フィシスは不思議そうに自分を見ていた。どうやら自分の考えは読めていないらしい。  
 自分のよろしくない考えをこの純真そうな少女に読まれなかった幸いを喜びつつ、ノルディは笑顔をつくった。  
「ああいや、なんでもないよ。メディカルチェックはこれで終わりだ。結果は後で知らせるからね」  
「ありがとうござ……あ」  
 頭を下げかけたフィシスが、ふと遠くを見つめる仕草をした。  
「どうしたんだい?」  
「失礼するよ」  
 フィイスが答えるより早く、メディカルルームにブルーが入ってくる。  
 なんというタイミング。  
 もしや、こちらを盗み見ていたのだろうか。  
 備えた能力の高さを考えれば、できないことはないような気がする。  
「ソルジャー!」  
 その間にフィシスは喜びに輝く笑顔でブルーの方へと走ってゆく。  
 細い肩をさりげなく抱き寄せ、ブルーは優しく微笑んだ。  
「もうメディカルチェックは終ったかい?」  
「はい」  
「では、天体の間に戻ろうか」  
「一緒にですか?」  
「うん。少し時間ができたからね。久しぶりに君とゆっくりできそうだ」  
「嬉しい!」  
 少女がブルーに抱きつくと、ブルーの笑みが一層深くなる。  
「それでは行こうか。ドクター、結果は僕にも教えてくれ。僕は、フィシスの保護者のようなものだからね」  
 ブルーはどこか楽しげな笑みをノルディに向ける。  
 もしや、先ほどの物思いのあれこれから読んでいたのか。  
 くえない。容姿的には細くて頼りなさげだというのに、中身はまったくもってくえない狸だ。  
 もはや、心配するのも馬鹿らしくなってきた。  
 しかし、それでもノルディは言った。  
「ソルジャー」  
「なんだい?」  
「あまり妙な言葉を言わないように……いや、言ったとしても口止めしてください。不名誉になりかねないですよ」  
 誰がと言わずとも伝わるだろう。さすがに本人の目の前で名は口にできない。おそらく、本人が気にしてしまうだろうから。  
「……それは困るな。気をつけよう」  
 自分ではなくフィシスにであると、かくも素直に神妙に心に留めるらしい。  
 それほど少女を大切にしているのかと感心する。  
 どうせなら少女への執心も少し隠してほしいところだが、あれほどだと隠しても漏れてしまいそうな気がしないでもないが。  
 立ち去る後ろ姿を眺めながら、ノルディはひとつ、ため息をこぼした。  
 
「……あ」  
 天体の間に入って扉が閉まった途端、ブルーは背後からフィシスを抱きしめた。  
「ソルジャー?」  
「心を開いて……ああ、ノルディは僕の言葉をちゃんと守ってくれたらしいね」  
 露になっているフィシスの肩に口づけると、甘い吐息がその唇から漏れる。  
「なんのことですか」  
「秘密」  
 子供のように無邪気に笑うと、ブルーはいきなりフィシスを抱き上げた。  
 その足が向かうのは奥にある寝所だ。  
「ずるい。教えてください」  
「後でね」  
「そう言って、またはぐらかすおつもりですね」  
「どうだろう」  
 そっとフィシスを寝台の上に横たえ、ブルーは手袋を脱ぎ捨てる。  
 興じる自分に少し怒っている気配が伝わってくる。それがどれほど愛らしく自分の瞳に映っているかをフィシスは知らないだろう。  
 フィシスに覆いかぶさるようにして見つめると、白い肩が視界に入った。  
 惹かれるように口づけて舐めると細い身体がちいさく跳ねる。敏感なと笑みがこぼれたが、ふとブルーは眉根を寄せた。  
「ブルー?」  
「失敗したな。とても良く似合うし、直に触れるにも易いが……痕がつけられない」  
「なぜ?」  
「とても目立つから。人に見られたら、君の不名誉になってしまう」  
「私は気にしませんが」  
「僕が気にするんだ」  
 きっぱり言い切るブルーの真面目さがなんだかおかしくて、フィシスはつい笑ってしまう。  
「では、その分たくさん、見えない部分におつけになればよろしいわ」  
「そうだね。じゃあ、そうさせてもらおうかな」  
 くすりと笑うと、ブルーはフィシスの額に口づけた。  
 
 
「フィシス、そろそろ……」  
「はい」  
 
 衣擦れの音がしてほどなく、静かな室内からふたつの荒い息遣いが漏れてくる。  
 
「……あっ、ソルジャー……」  
「こういう時は名前で呼んでほしいとといつも言っているだろう?」  
「すみませ……あんっ」  
「もうこんなにしてる。そんなに気持ち良いのかい、フィシス」  
「ブルーの意地悪……くやしい。でも、感じて……はあ」  
「可愛いよ、フィシス」  
「ブルー、私……」  
「なんだい?」  
「わかっておられるでしょう?」  
「さあ。皆目検討がつかないな」  
「嘘です。お気持ちが伝わってきますもの」  
「本当にそれが君を望んでいるのかまではわからないからね。  
君が望まないことをして、君に嫌われるのは困る」  
「だから……っ、私は……」  
「してほしいことがあるのなら、ちゃんと口に出して言ってごらん。  
そうしたら、臆病な僕でも遠慮なく君のしてほしいことをできるかもしれない」  
「……私が、そんなことを言うのは恥ずかしいと思っている気持ちは読めないのですか」  
「言わせたい僕の気持ちはわからないかい? ……また肌が赤くなったね。  
でも、身体がいつまで我慢できるかな」  
「……ひどい方」  
「うん。でも、こういう時の君にしか言わないのもわかっているはずだよ。  
それから、そうするのは僕が君のことをこの上なく大切なひとと思っているからこそだと  
いうことも」  
「………………て」  
「なんだい? 声が小さくて聞こえないよ?」  
「……いれてください」  
「……喜んで」  
 
 ぎしぎしと何かの軋む音が次第に大きくなる。  
 あわせて、ふたつの息遣いの切れ間が短くなってゆく。  
 互いの名を呼び、熱を帯びた声ともつかぬ声が混ざりあう。  
 
「あっ……!」  
 唐突に、細い、悲鳴のような高い声が上がった。  
 
「……ハーレイ。これで鼻血拭きな」  
「おお。すまんなフラウ」  
「いやはや、ソルジャーもお若い。ワシも負けていられんなあ、エラ」  
「ゼル。あなたは確かにソルジャーと同じくらいの年齢ですが、身体は遥かに老いていらっしゃる。  
同じことをできるとは限りませんよ。下手をしたら倒れるだけではすまないかと」  
「きついのう。ひどいのう。傷つくのう……」  
「じゃあ、ハーレイなら大丈夫かね」  
「実演していただけばいいのでは?」  
「そうだねえ。今夜どうだい、ハーレイ」  
「……あ。倒れた。まったく、いいガタイと貫禄はもってるんだけど、こういうことは  
朴念仁で困るねえ」  
「まあ、ソルジャーと同じようにいくには性格に問題があるんでしょう。私はこちらの  
いじけたゼルを部屋に連れていきますから、ハーレイの方をよろしくね。フラウ」  
「了解」  
「それにしても、今回も熱かったねえ」  
「本当に。年甲斐もなくドキドキしました」  
「たまにこういうのを聞くのもいいねえ。気持ちが若返るよ」  
「まあ、刺激としてはよろしいでしょう。とはいえ、我々の間だけの楽しみに止める  
に越したことはありませんが」  
「まあねえ。これを私たちが防御しないで垂れ流したら、多分シャングリラ内は  
大混乱になるだろうし」  
「本当にソルジャーたちには困ったものです」  
「まったくだ」  
 
「……もういいかな」  
「皆様、とても楽しみにしていらっしゃるのですね。おかげで私、演技が上手くなって  
しまいました」  
「妙なことに付きあわせて悪いね、フィシス」  
「いいえ。ソルジャーのお願いなら喜んで。長老たちの楽しみなのでしょう?   
この公開テレパシー劇場は」  
「本人たちは実際にしてると思ってるようだけどね。まあ、僕たちも遊びとして  
楽しんでるし、外への防御も完璧だから構いはしないが」  
「……とおっしゃいながら、どうしてそんなところに手を入れたり、触ったりして  
おられるのでしょうか」  
「そうだねえ。僕もまた、健全な男子だからかな」  
「いつもいつも、皆様が聞き耳を立てなくなったらこうなのですから……意味がなくはありませんか?」  
「意味はあるよ。君が本当にあげる声は誰にも聞かせたくない」  
「まあ。なんて独占欲の強い」  
「独占欲の強いのは嫌いかい?」  
「あなたが私にそう思われているのは、とても幸せなことですわ」  
「よかった」  
 
 
 また衣擦れの音がする。  
 ただし今度は、本当に衣服を脱ぐ動作に伴う音だった。  
 
 

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