「なにを、するのです!アルフレート!」  
フィシスの右手を、アルフレートがきつく握り締める。  
「申し訳ありません。ですがもう気持ちを押さえ込むことなど  
出来ないのです…お許し下さい。フィシス様…愛しています…!  
愛しているんです!」  
そのまま覆いかぶさる様に、無理やり唇を重ねた。  
ずっとずっと恋焦がれていた。  
その麗しく、美しいぽってりとした唇の味にアルフレートは酔いしれる。  
無我夢中で、少し乱暴に口内を蹂躙する。  
堪えきれないのか、フィシスの瞳からは涙が零れ落ちた。  
 
「…い、やぁっ…!」  
ドン、とフィシスがアルフレートの胸を叩き、唇がパッと離れた。  
「いや…なんて…なんて事を!ああ、ブルー!ブルー…!」  
泣きながら混乱しながらフィシスはアルフレートを責める。  
それを何処か冷ややかに見下ろしながらアルフレートは唇を動かした。  
 
「ソルジャーはもうお亡くなりになったのです。それを誰よりも知っているのは  
他でもない貴女でしょう。そうして、ソルジャー・ブルーの亡くなった今  
貴女はもうただの人…」  
その言葉に、一瞬でフィシスの顔が青ざめた。  
「―――どうして、それを」  
くすり、とアルフレートの口元がこれまでに無い位に歪んだ。  
 
「何年、お傍に居るとお思いですか?」  
 
それは、恋焦がれた綺麗な感情とは遠くかけ離れてしまった、どす黒い感情。  
愛して、愛して、愛しているから。  
ずっと、貴女を、貴女だけを、見つめ続けてきたから。  
 
(解ってしまったのですよ、フィシス様)  
 
貴女に、誰もが崇拝した神聖な力はもう宿っては居ない。  
人に―――堕ちた女神。  
そう、人に堕ちたのなら、私の手で汚して差し上げます、フィシス様。  
 
アルフレートの冷たい瞳に、フィシスはじりじりと壁伝いに逃げる。  
「…い、や、来ないで、アルフレート!人を、呼びます!」  
「…呼べるものなら、どうぞ?」  
 
絶望で、フィシスの瞳が暗くなる。  
人を呼べないことは最初からアルフレートには解っていたのだ。  
フィシスが力を失った事を知っている、ただ独りの人物。  
脅すのにこれほど良いネタはないだろう。  
クスリ、とまたアルフレートの口元が残酷そうに歪む。  
 
「さあ、フィシス様。ソルジャーの痕など、全て私が消し去ってあげますよ…。  
ソルジャーの愛した、その美しい唇も、その柔らかそうな乳房も、隠されている  
その絹のような肌も、細いやわ腰も。ぜんぶ―――全部、私が愛してあげますよ。  
さあ―――フィシス様」  
 
ゆっくりと、アルフレートの手が。  
 
震えるフィシスへと―――伸 び た 。  
 
 
 
 
終わり。  
 

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