ブリッジから下がるジョミーの背後を、トォニィは追いかけた。
「グランパ!」
怒気を含んだその声に、ジョミーは一瞬足を止めたが、振り返ることは無かった。
「あの女のところに行くんだね」トォニィが胸の前で握る拳は小刻みに震えている。
「そうだ」ジョミーはそっけなくそう言い放つと、再び歩き出した。
「どうして!どうしてあんな女の所へ!」
トォニィは一瞬でジョミーの前に回りこみ、行く手に立ちはだかった。
「…何がいけない」抑揚の無い、冷たいその声の響きが、トォニィの意気をそぐ。
ジョミーはトォニィに一瞥もくれず、その場を行きすぎようとした。
「あの女は裏切り者じゃないか。僕のママも、ナスカの仲間たちも、あの女がテラの男と通じたせいで死んだんだ。そんな女をどうして許すの」
「許してはいない」
え、とトォニィは怪訝な顔になる。
「彼女は僕に抱かれることを喜んでなどいないよ。僕が無理やり犯しているんだ。嘘だと思うなら覗きに来ればいい。あんまり抵抗するからシールドは敷いているが、お前にはわけないだろう」
ジョミーが歩を進めながら淡々と語るその言葉に、トォニィは凍りついた。
天体の間に入っていくと、アルフレートが一瞬息を呑み、あわてて顔を背けるように頭を垂れた。
「下がってくれ、アルフレート。フィシスに話がある」
そっけなく言葉を投げて、ジョミーは真っ直ぐに部屋の中央へ進んでいく。
アルフレートはまだ何ごとか躊躇して、ジョミーに声をかけるタイミングを推し量っていた。
「恐れながら、ソルジャー」ようやく意を決して発せられた彼の声は震えていたが、その芯には固い意志が秘められていた。「フィシス様は体調を崩されておいでです。今日のところはお引取りいただけないかと…」
「そうなのか」ジョミーは階段の上り口にかけた足を止め、大げさな口調で後を続けた。「では彼女に直接聞いてみよう。君もそこで聞いているといい。彼女がなんと答えるか。僕と彼女のやり取りを、一言も漏らさず聞いているがいい」
ジョミーがゆっくり階段を上っていくと、やがてターフルの前で身を硬くしている、小さな女の影が見えてきた。
「ようこそ、ジョミー」
気丈に振舞うフィシスの蒼い顔を見て、ジョミーはほくそえんだ。
「やあフィシス。アルフレートが君の身体を心配しているよ。僕と君の会話を聞いていたいそうだ。君はどう思う?」
フィシスは答えない。
彼女のひざの上で組み合わされた細い指先が、血の気も無く白いのを見て、ジョミーは弾かれたように高らかな笑い声を立てた。
「君のあの声を、アルフレートは聞きたいんだそうだよ」
その瞬間、跪いていたアルフレートは声も無く立ち上がり、素早く一礼すると天体の間から出て行った。
ジョミーはターフルに近づき、カードを一枚手に取ると、指で弾き飛ばした。
「何をしていたの、こんなもので」
俯くフィシスの顎をとらえて、ジョミーはその顔を覗き込んだ。
「何が見えるの。僕らの未来?」
「ジョミー、やめて」弱々しく彼女が口を開くと、ジョミーはその顎を乱暴に突き放した。
「君には見えていたんだ、ナスカの悲劇が。だがそのことを誰にも告げなかった」
「やめて…」
「あの男に会いたかったからだ。あの日、君は突然ナスカに降りると言い出して…」
「いやっ!」
椅子の上で身をよじるフィシスの腰を無理やり引き寄せ、彼女の背後から両腕できつく締めつけた。
「やめて、お願いジョミー…」
喘ぐフィシスの耳元に、ジョミーはもう幾度となく繰り返した呪いの言葉を吐きつける。
「どうして君は逃れられると思うんだ。誰も運命から逃れられなかったというのに。君は罰を受けるべき身であるのに」
「ああ、でも…ジョミー…」涙を浮かべながらフィシスは嘆願する。「こんなこと、あなたらしくない…」
「誰が僕をこんなにしたのだと?」語気同様に荒々しくフィシスを抱き上げ、奥の寝室へと進みながら、震える彼女の顔に冷たい視線を浴びせかける。
「…魔女め」
憎しみの矢のようなその言葉が、刹那、フィシスを射竦めた。
おとなしくなったフィシスの様子に、ジョミーは満足の笑みをもらす。
そのまま彼女の身体をベッドの上に投げ出して、自分の衣服を素早く脱ぎ捨てる。
身じろぎするフィシスをおもむろに上から押さえつけると、細い身体から抵抗の意志がにわかにはっきりと伝わってきた。
「ジョミー、お願い」みなまで言わせず、ジョミーはフィシスの口内に深く舌を差し込む。
同時に、首から胸元へ繋がる飾りを巧みにはずし取ると、一気にドレスを引き下げ、あらわになった胸に手を伸ばした。彼の手のひらの中で柔らかい乳房はすぐに弾力を持ち始め、固いつぼみが彼の親指に応えた。
唇をふさがれて言葉を発せないフィシスの身体から悲哀に満ちた感情があふれ出し、ジョミーの中に流れ込む。
その中に、一縷の希望を信じようともがく彼女の気持ちを感じ取って、ジョミーは動きを止めた。
「君の装うその鈍感さが、僕は我慢ならないよ」舌を抜き、すぐ上の、形の良い鼻の先を唇で軽く挟みながら、ジョミーは言う。
「いつも僕の気持ちを知りながら、気づいていないふりをして。純情だった僕がどんなに傷ついたか、それも君は楽しんでいたんだろう?」
「違います、そんな」顔を背けたフィシスの耳の飾りを手ではずし、ジョミーはその小さな耳の穴に舌を這わせた。
「あああっ、やめて…」
フィシスの身体を閃光のように走り抜ける快感が、ジョミーをも悦ばせる。
身を二つに折ろうとする彼女の肩を押さえつけ、ジョミーの手は次に彼女の下半身へと伸びた。
ドレスの裾をたくし上げ、足の間に手のひらを差し込む。フィシスは足をこわばらせて逃れようとしたが、かまわずそのまま付け根まで上り、下着に達した指をいきなり挿入した。
「いやあっ!」フィシスは叫びながら、腕でジョミーの身体を押し退けようとする。
ジョミーは薄ら笑いを浮かべてその腕を捉え、彼女の頭の上に押さえ込むと、先ほどから彼に向かって突き出されている両の乳房に顔を近づけた。
ジョミーの舌の先で、固く結ばれたつぼみはぷりりと引き締まる。
乳房全体が十分に張り切って、フィシスが少し動くだけで大きく揺れた。
「ああっ、いやよ、やめてジョミー」
今や泣き声にしかならない彼女の悲鳴は、ジョミーの耳に心地よく届く。
「こんなに感じているのに何が嫌だというんだ。君は本当に、どうしようもない嘘つきだよ」
ジョミーはフィシスの中に挿入していた指をはずし、すばやく下着を腰骨から下ろすと、あらためて深く3本の指で、その秘部を愛撫し始めた。
喘ぐフィシスの表情から目を離さず、隙を見て両足の間に身体ごと移動する。
「あああ…駄目こんなこと…いけないわ」
ジョミーはフィシスの両ひざの裏に手を入れて一気に押し広げ、その足の付け根に口を寄せていった。
「ああっ…」
もはや言葉にはならなかった。
ジョミーは濡れきったその場所に唇をつけると、先ほど彼女の上の唇にしたように肉の間に深く舌を入れていく。
フィシスは全身を震わせて逃れようとするが、ジョミーは彼女の広げた足を両腕にしっかりと絡めていた。
すぐに彼女の肌は熱くほてり始め、ジョミーの周囲で彼女の「香り」がたちのぼる。
「ああ、魔女め。どうしてこんな…」
その香りにうっとりと酔いしれて、ジョミーはさらに残虐な光を瞳に湛える。
目前で輝くピンクの真珠が、彼を呼んでいた。
その表面に息を吹きかけるだけで、フィシスの身体には電流のような快感が走る。
ジョミーは笑みを浮かべ、舌先を尖らせてると真珠を撫でるように舐めてやる。
「あっ、あっ…」
フィシスはすでにジョミーの拘束を離れた手を自らの口に強く押し当てているが、広げた指の間から漏れる声は歓喜の響きを隠し切れない。
「駄目、だめっ…」
軽いタッチで攻めているだけで、あっという間に彼女の足の表面からは汗が吹き出してた。痙攣し、縮まろうとする足を押さえて、ジョミーは彼女の身体をよじ登る。
一気に彼自身を挿入すると、顔を隠していたフィシスの両手を広げさせた。五本の指を彼女と組み合わせ、手のひらをべったりと上から押し付ける。
挿入の律動にあわせて彼女の歓喜の波が寄せては返すのを、ジョミーは心ゆくまで味わった。
「どうして君の中はこんなに気持ちがいいんだろう?」
腰の動きを早めながら、ジョミーはフィシスの耳元で意地悪く囁く。
「すごくいいよ。君はこんなことを、どうやって覚えたの?」
フィシスは顔を背けるが、手のひらを通して彼女の考えていることは伝わってくる。彼女はそれを阻止するつもりか、無理にあれこれ他の像を思い浮かべようとする。
そんな彼女のうなじを、下から上へ舐め上げる。
一瞬、のどの奥を引きつらせた声を上げ、フィシスはすぐに深く息を吐き出す。
「君がこんなに感じやすいのは誰に教え込まれたからなの?誰だろう。僕の知っている人?」
嫌がる彼女の唇に再び口づけて、ジョミーは直接思念を送り込む。
(こんなふうにしてもらったのか?彼は他に何をした?)
その時、彼女が隠そうとする人物の他に、異質な黒い影が走ったのをジョミーは見逃さなかった。
「あの男が君を?!」
唇を離しフィシスを睨みつけると同時に、カッとジョミーの全身は怒りに包まれ、その炎がそのまま勢いとなって彼女の下半身に注ぎ込まれた。
「…はあっ!」
雷に打たれたようにフィシスは仰け反る。だがその足の間は華奢な女とは思えないほどの強い力で、彼自身を捉えていた。
ジョミーは怒りと快感で自分が爆発するのではないかと感じ、その感覚を重ねた肌を通して彼女に伝える。
応えて恐れおののく彼女の思念はしかし、彼と繋がっている部分から満ち溢れる快感と悦びの濁流に飲み込まれた。
ジョミーは、激しい腰の動きにピッタリとついてくる盲目の女を畏れながら憎んだ。
「あの男に身体を許しただと!いつの間に。よくも今まで僕を騙していたな」
もはやジョミーの腰の動きは限界の速さだった。
別の生き物のように貪欲な彼女の下の口を破壊したい欲望だけが、彼を支配していた。
「僕だけじゃない。ブルーもだ」
フィシスが失神しかけたことを察して、ジョミーは彼女の白い頬に平手打ちを食わせた。
「許さない。君は歴代ソルジャーを侮辱したんだ」
激情に伴い、怒りの太い柱が彼からほとばしる。
彼から吹き出す何もかもを、フィシスは夢心地ですべて飲み込んだ。
どうして女という生き物は、こんなにも強い憎しみを全身で受け止めながらも快感に酔うことができるのだろう。
力を尽くしたあと、束の間の呆けた感覚の中でジョミーは女の顔を見下ろす。
フィシスはいつも虚しい抵抗の中で打ちひしがれたように彼に抱かれるが、その白い裸体の奥で荒々しく息づく彼女自身は貪欲に彼を欲しがっており、あるいは彼以外を欲しがっていると、はっきり読み取れるのだった。
だからこそ自分は、この女の上に絶対的に君臨したいという欲望に駆られるのだとジョミーは思う。
「君はまだ大丈夫みたいだな。いいことを思いついた。ここに、トォニィを呼ぼう」
フィシスの表情におびえが走ったが、ジョミーにはそれが演技のように見えた。
口の端に笑みを浮かべて、ジョミーは彼女の足の間に再び手を伸ばす。
「あいつも急に大きくなった身体をもてあましているんだ。女がどんなものか、教えてやらなくてはいけない。君は格好の教材だよ」
くくっと声を上げ、フィシスにあらためて挑みかかりながら、ジョミーはトォニィに思念を飛ばす。
(来い、トォニィ。本当の大人になるとはどういうことか、今から教えてやる)
フィシスが、のどの奥から掠れた声をふりしぼって憐れみを請う。
それがすぐに歓喜の喘ぎに変わるのだと思うと、ジョミーは可笑しくてたまらなくなった。