「私達・・お互いの慰めになれると思うわ」
スウェナの両腕がキースの肩に置かれ、そっと遠慮がちに首に巻きついた。
しばらくの抱擁のあと、スウェナはキースの唇の自分のそれを合わせた。
けれども、キースの唇はひどく冷たく、口付けというよりただ接触してるという感じが続いた。
スウェナは急に白々とした思いで、相手から身体を離した。
「まるで心ここにあらずって感じね。こんな時くらいエリートの仮面ははずしてくれてもいいのに」
強がって言ってみせたものの、彼女はひどく傷ついていた。
「スウェナ。私がここへ来た理由は・・」
「ええ、わかってるわ。ピーターパンのことね。だけど・・久しぶりに出逢えた友人に対する
礼儀って言うものがあるでしょ?ほんの少しでも・・親密な時間を持った友人なのに」
「そのことなんだが」
キースは突き放したような態度から急に神妙な、誠実ともとれる表情になった。
「今日ここへ来たのは、昔のことで聞いておきたい事があるからだ」
「あら、なあに?」
教育ステーション時代、あるパーティで二人は男女の関係をもった。
その夜の思い出を糧に、スウェナは今まで生きてきたといっても過言ではない。
「あのとき、私はひどく酔っていた。それで君に何か希望を抱かせるようなことを言ったのではないかと、非常に後悔してるんだ」
後悔・・あの夜のことを何度も反芻し、陶酔してきた彼女にとって辛い言葉が返ってきた。スウェナは唇を噛み締める。
「もうちょっとモノの言い方があるでしょうに・・」
「どうなんだ?私は君に守れない約束か何かを口走ったのだろうか?」
「いいえ。大丈夫よ。あなたはベッドの中でも冷静だったわ。その点は安心して結構よ」
「そうか。ではこれで失礼するよ。君が何を狙っているのかは知らないが、我々はもはやあのときの子供ではない。
それくらいの分別は君も分かってるとは思うが・・」
「大人の分別ね。ええ、とてもよくわかるわ、メンバーズエリートさん」
キースはピーターパンの本を手に取ると、さっさとドアの方へ歩き出した。
「こんな形で初恋が終わるなんて思ってもみなかったわ」
スウェナはキースの背中に向かって自嘲気味につぶやく。
キースを愛した長い年月を思うと胸が痛い。けれどあまりにあっけなくて何だかおかしくもある。
スウェナは自分で自分の気持ちがわからず、泣き笑いのような表情でキースを見送った。
(終わり)