船内で爆発が起きたあのとき、行ってはならないと本当は分かっていたのに、憑かれたように  
彼の元へ向かう足を、どうしても止めることができなかった。  
彼に手首を掴まれて引きずるように連れまわされたときも、首に手をかけて殺すと言われたときも、  
助けを求めながら、どこかでこのまま一緒に連れて行って欲しいと願っていた。  
とっさだったとはいえ、ブルーを裏切り、彼を庇ってしまった程に。  
だからギブリの中で、お前を置いて行くと言われたときは、気が狂いそうだった。  
どんな目に合わされても構わなかった。殺されてもいいと思った。だから連れて行くと言って欲しかった。  
「悪魔…!」  
歯噛みするように呻いたあの言葉の意味を、彼は理解していなかっただろう。彼は嗤って言葉遊び  
のように私を魔女と呼び、関心を失ったかのように操縦席の機器に眼を向けると、真っ青になって  
震える私の前で、自分だけの脱出の準備を進めた。  
私の本当の絶望の意味に一切、気付くこともなく。  
結局、爆発するギブリから彼は無事に脱出し、彼に見捨てられて死ぬはずだった私は、ジョミーに  
救われて命を長らえ、仲間の元に戻った。  
 
こうして、あの日突然、私の前に現れた彼は、嵐のように私の何かを壊滅的に破壊して、消えた。  
そしてこのことが原因で、後に私は多くの仲間とブルーを失うことになった。  
 
許されない罪を犯した私は、切り裂かれるような罪の意識に嘆き苦しんだ。  
だが、一番罪深いのはあのときの私ではなく、今の私自身だろう。  
朝、眼を覚ましてブルーのいない悲しみに泣き暮れた、同じその日の夜に、彼の面影に焦がれて  
泣きながら眠る私。ミュウの未来のため、地球へ向かうために戦う仲間を見送りながら、地球へ行けば  
また彼に会えるかもしれないと思ってしまう私。罪の意識に苛まれているくせに、もし、過去に戻って  
やり直すことができたとしても、やはり同じことを繰り返すだろうと確信してしまう私。  
彼に捨てられ、多くのものを失うと分かっていても、私はまた、彼の元へまっすぐに駆けていくだろう。  
喜びと畏れに胸を震わせ、彼に巡り会えた奇跡を神に感謝しながら。  
 
あのときの目の眩むような幸福と絶望を、今でもうっとりと思い出す。  
掴まれた手首の痛み、抱きすくめられた胸の熱さ、低く響く心臓の音。  
首筋に触れる指の冷たい感触、耳元で囁く言葉、冷ややかな嗤い声。  
それは、誰にも触れることを許さない、私だけの心の奥底で、ひっそりと、何度も何度も甦り、  
醒めることのない永遠の夢のように、鮮やかに私を閉じ込め続けている。  
 
終わり  
 

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