他愛のない会話を交わしていたはずなのに、急に黙り込んだジョミーをフィシスは訝しく思った。  
突然、ジョミーの顔が歪み、伸びた腕が彼女の身体を強く抱きしめる。  
(………!)  
声にならない悲痛な叫びが彼女の全身を駆け抜け、フィシスは為す術もなく、ジョミーの腕の中で立ちすくんだ。  
 
 
決壊した濁流のように、抑えきれず流れ込んでくる思念の渦。  
ナスカでジョミーが見た地獄の光景がフィシスの目の前に広がっていた。  
裂ける赤い大地。耳を裂く轟音。血まみれになって累々と重なり合う死体の群れ。縋りつき纏わりつく死に際の思念。  
息を呑んだ瞬間、視界が暗転した。いきなり足元の地面が消え、フィシスは墜ちる。暗闇の中を恐ろしい速さで  
真っ逆さまに墜ちる彼女のそばを、ジョミーの意識が閃光のようにすり抜け、彼女の心を切り裂いていった。  
痛みと墜落するスピードの感覚に一瞬、意識が薄れ、何も分からなくなる。  
次に気が付いたとき、フィシスは変わらず、もとの明るい天体の間に立っていた。暗闇も幻も跡形も無く  
消え失せていた。  
静まり返った部屋の中で、ただ、ジョミーの腕が痛いほど彼女を抱きしめていた。  
フィシスは初めてジョミーの感じていた苦しみを自分の身で思い知った。  
ジョミーが彼女の唇を求めてくる。拒むことはできなかった。  
縋り付いてくるジョミーの腕を感じながら、フィシスは呆然と、口づけされるままになっていた。  
ナスカの悲劇の後、ジョミーは変わった。皆の前で地球へ向かうと宣言した強い意志。ひたすら戦いの道を  
突き進む、時に仲間から反感を買うほどの冷徹さ。滅多にみせることのなくなった感情。  
だが、ジョミーの本質は、決して変わってはいなかった。  
重責を背負い、強いソルジャーとしての姿を仲間の前で示しながら、ジョミーがこんなにも苦しんでいたこと。  
平静を装うその心のうちで、誰に見せることもできずにただ一人、こんな思いを抱えていたこと。  
私はこんなことにも気付かなかったとフィシスは思った。周りを見ようとせず、独りよがりな悲しみに  
引きこもっているだけだった。それどころか、悲嘆にくれる彼女を慰めてくれる、ジョミーの優しさに  
甘えてさえいた。  
フィシスの閉じた瞼から涙が零れ落ちた。  
「ごめん・・・」  
フィシスの涙に我に返ったジョミーが唇を離す。  
身体を引き、掴んでいたフィシスの腕を、最後に思い切るようにジョミーは放した。静かに眼を閉じて、  
深く息をついた。  
「――すまなかった」  
謝る声が苦しそうに掠れていた。フィシスの指がジョミーの頬に触れた。ジョミーがはっと眼を上げる。  
温かいフィシスの手がジョミーの頬を優しく包み込んだ。  
「謝るのは私のほうです」  
涙に濡れた顔でフィシスは言った。  
ブルーにもジョミーにも、私は守られるだけで何もしてあげられなかったとフィシスは思った。  
存在そのものが特別だというブルーの言葉そのまま、ただそこに居るだけで、身を削ってまで与えたものは  
何一つなかった。  
封印を解かれ甦った記憶。自分が何者なのか。そしてブルーにとって何であったのか。  
これからどうするべきなのか。どうやって罪を償うのか。  
ずっと頭の中をめぐっていた考えに、ようやく答えが出たような気がした。  
 
フィシスはジョミーから手を離して袖でそっと涙を拭うと、静かに顔を上げた。  
「お話しなければならないことがあります」  
ずっと口を噤んできた、ブルーが守り抜いてくれた彼女の秘密。話さなくてはいけないと思った。  
許してくださいと心の中でブルーに呟く。  
「ジョミー、あなたはナスカでのことを私のせいではないとおっしゃってくださいましたね」  
地球の男を逃がしたのは不可抗力だとジョミーは言った。君はトォニィを人質にとられて逆らうことが  
できなかったのだから、と。  
「でも、違うのです。――あの時、私たちを助けに来たブルーが地球の人を殺そうとしたとき、私があの人を  
庇ったのです」  
「――フィシス…?」  
ジョミーは一瞬、意味がつかめなかった。  
「私が庇わなければ、あの人は死んでいました。私があの人を助けたから、ナスカが焼け、皆やブルーが  
命を落とすことになったのです」  
やがてフィシスの言葉を理解したジョミーは愕然として、フィシスを見つめた。  
「なぜ…」  
問われたフィシスの表情がわずかに揺れる。フィシスは一度口を開きかけてからすぐに閉じ、眼を伏せた。  
「――私にも分かりません」  
再び口を開いたフィシスは振り切るように言った。  
「ですから、ジョミー、あなたが自分をそんなに責めることはないのです。本当に責められなければならないのは  
私なのですから」  
言葉を失うジョミーに向かって、さらにフィシスは続ける。  
「そしてもう一つ。私には、もう未来を占う力はありません。私のミュウとしての能力はブルーから与えられた  
ものでした。私はミュウではありません」  
言い終わったフィシスは少し寂しげに、だが、しっかりした声で付け加えた。  
「もっと早く言うべきだったのかもしれません。けれど…私は怖かったのです。言ってどうなるのか、  
どうすればいいのか私には分かりませんでした」  
 
「フィシス…」  
混乱が収まってくると同時にジョミーの内に沸いてきたのは、不思議とフィシスへの怒りでも不信感でもなかった。  
彼女を見るジョミーの感情の中に、痛ましいものを見るようなものを感じて、フィシスは小さく微笑んだ。  
「そんな顔をしないで下さい。私に同情は必要ないのです。――私は皆を裏切りました。ミュウでもないし、  
未来を見る能力も失いました。でも、もうそのことを辛いとは思いません。こんな私にもできることがあると、  
やっと分かったのですから」  
フィシスはジョミーを見上げたまま、はっきりとした口調で訊いた。  
「私はあなたの支えになりたい。ジョミー、私には何の力もありませんが、私を必要としてくれますか?」  
ジョミーは息を呑んだ。フィシスは恥じらうことも、恐れることもなく、まっすぐ彼に向かい合っていた。  
初めて夢に見たときからジョミーはフィシスが好きだった。現実に出会って言葉を交わし、同じ船で共に  
過ごすようになってからも、その気持ちは深まることはあっても、薄れることはなかった。  
彼女がブルーのものであると知って、何度諦めようとしただろう。それでも忘れられずに長い年月の間、  
ずっと心の中で想い続けてきたその人が、今、目の前に立ってジョミーの答えを待っていた。  
沈黙の後、ようやくジョミーは口を開いた。  
「――君は、それで…」  
いいのか、と飲み込んだ言葉に、フィシスは微笑んだ。  
ジョミーはフィシスの思いを、覚悟を知った。目の奥が熱くなった。胸が詰まり、押し寄せる感情に、  
ジョミーは思い切りフィシスの身体を抱きしめていた。  
フィシスを抱きしめるジョミーの身体が震えていた。フィシスは優しくジョミーの柔らかい金の髪を抱き寄せると、  
母親が幼い子供にするように、その頭を優しく撫でた。  
「どうか私を捕まえていてください。そして、一緒に地球へ行きましょう」  
フィシスはジョミーの頬に頬を寄せた。  
 
照明を落とした薄暗い部屋の中で、それぞれの衣服を脱ぎ、ベッドの上で抱き合う。  
フィシスの身体が小さく震えていた。  
「怖い?」  
ジョミーが訊ねると、フィシスは躊躇い「少し」と小さな声で答えた。  
ジョミーはフィシスの頬を両手で挟んで口付けた。触れた唇が冷たかった。  
仰向けに寝かせて上から身体を重ねる。滑らかな肌を伝って乳房に触れると、フィシスの身体がびくんと跳ねた。  
フィシスの緊張が身体を通して伝わってくる。宥めるようにゆっくりと、乳房の柔らかい膨らみを手のひらで  
包みこんで、優しく揉みあげていく。想像していたよりもずっと柔らかく、とろけるような感触に頭の芯が  
痺れる。手のひらにあたる尖った乳首を指で摘むと掠れた声が漏れた。  
こわばっていた身体から徐々に力が抜け、ほのかに色づき始めた白い肢体に唇を這わせながら、ブルーが大事に  
してきた人を、自分がずっと想ってきた女性をこんな形で抱いていいのだろうかという疑問が  
ジョミーの頭の中をかすめた。  
フィシスにとって、これは恋愛ではないのだろう。彼女にとって最も大切な人は既にない。  
だがそんな躊躇いもわずかな間だけで、肌に触れる温かく魅惑的な身体の前には、すぐに霧のように消え去っていく。  
なだらかな腰のラインに沿って掌で身体をなぞると、フィシスは身をよじって吐息を漏らした。  
彼の愛撫に素直に反応を示す彼女が愛しかった。衝動的に首筋に、胸元に、乳房に次々と口付けを落とし、  
雪のような肌の上にいくつもの赤い痕を残していく。  
乳首に舌を絡めて強く吸う。乳房に顔を埋めるようにして咥え、幾度も幾度も、貪るように吸いたてた。  
「……あ…ん…っ」  
フィシスがしがみつくようにジョミーの頭を抱きしめる。  
ジョミーの指が太腿から彼女の秘所に伸びる。まだ固いその場所を外側から優しく愛撫していくにつれて、  
触れている部分が次第に熱を帯びてくる。襞の中に指を進め形に添ってなぞっていくと、温かい蜜があふれてきて  
ジョミーの指を濡らした。  
「…ん……あぁ…」  
白い喉をさらして喘ぐ声に、欲情をかきたてられた彼自身が熱く昂ぶっていく。艶かしいしぐさでフィシスの  
腰がくねる。乳房を舌で責めつつ指で襞の奥に隠れていた花芯を圧迫すると、一段高い声でフィシスが叫び、  
身体を震わせた。  
 
指先の刺激を強めていくにつれて、喘ぐ声がさらに甘さを増し、身体からは蜜が湧き出てくる。  
その声を塞ぐようにジョミーは唇を重ねて、熱い舌を入れて口の中をかき回し、吸った。  
口付けを続けたまま、フィシスの脚の膝裏をすくって脚を広げ、濡れそぼったその場所に屹立した性器を押し当てる。  
「あっ……!」  
瞬間、フィシスの身体が跳ね、逃れた唇から悲鳴のような声が上がる。その激しい反応にジョミーは戸惑った。  
「――フィシス…?」  
「――ごめんなさい。大丈夫です…」  
呼吸を乱すフィシスの顔が心なしか青ざめているように見えた。  
ジョミーはもう一度、身体を伏せて、中に入ろうと試みた。先端を差込みさらに奥深く沈めようとしたときだった。  
「…や……っ!」  
フィシスが激しく身を捩り、白い脚が足掻いてシーツを蹴った。  
ジョミーが動きを止めた。  
「フィシス、君は…」  
心をよぎった疑惑に、ジョミーは行為を中断して体を起こし、フィシスを見つめた。  
「初めて、なのか…?」  
フィシスが息をつめる。こわばったままのその表情に疑惑が確信に変わる。  
やがて観念したようにフィシスは顔を横向きに伏せた。見下ろすか細い肩がわずかに震えていた。  
沈黙が流れた。ジョミーがそっと身を引こうとしたとき、フィシスの手が離れようとするジョミーの手を捕まえた。  
堪える様に涙を滲ませて、フィシスはジョミーに微笑んだ。  
「――ブルーは私に手を触れようとしませんでした。私はブルーの女神でしたから」  
口にすると、静かな悲しみがフィシスの胸に広がった。  
「私は本当は女神ではありません。だから、いいのです。あなたの手で、私をただの私に戻してください」  
フィシスの手がジョミーの手を乳房へと導いた。  
フィシスの泣き笑いのような顔がジョミーを見上げていた。  
ジョミーはしばらくの間、じっとフィシスを見下ろしていたが、やがて彼女の手を包むように握りしめた。  
ジョミーが彼女を求めているのとは違う形ではあるけれど、フィシスもまた、彼を必要としていた。  
ジョミーは唇を結び、合わせた手の指と指を絡めてベッドに押し付けると、再びフィシスの脚を開いて、  
身体を割り込ませた。もう一度ゆっくりと挿入を始める。フィシスの顔が苦痛に歪み、耐えるように唇をかんだ。  
逃げようとする腰を片手で押さえこんで、ジョミーはさらに深く挿入を続ける。フィシスの脚が何度か  
もがくようにシーツを蹴ったが今度は躊躇わなかった。握り返すフィシスの手が震え、強く手の甲に爪を立てる。  
「…ぁ…っ…」  
白い喉が押し殺した叫び声を上げた。  
二人の身体が完全に重なり、そして一筋、涙が流れた。  
 
隣で眠るジョミーの寝息が規則正しく、穏やかであることを確かめて、フィシスは静かに上体を起こした。  
妨げにならないように注意しながら、そっとジョミーの裸の肩に毛布をかける。  
疲れているのだろう。ナスカ以来、ジョミーが本当に安らげるときはなかっただろうから。  
ジョミーの頬にかかる乱れた髪が、安らかな眠りの邪魔になっているように思えて、フィシスは指を伸ばして  
それを払う。現れた横顔は、近頃の険しいジョミーのものと違って穏やかで、無心な少年に戻ったように、幼くみえた。  
フィシスは深く眠り続けるジョミーの横顔を、じっと見つめた。  
身体の奥にはまだ痛みが残っていた。  
私のやったことは、ブルーをさらに裏切ることだったのかもしれない。  
ふとそんなことを考えて、神に叛くような心細さにフィシスは自分の裸身を抱きしめた。  
最後まで彼女を守り通してくれたブルー。何も言わずに彼女を抱きしめて、許し、代わりに罪を背負うようにして  
逝ってしまった。その優しい手を私は本当に離してしまったのだと思った。  
フィシスにはこれが正しいことだったのかどうか分からなかった。  
けれどそれは、誰に促されたわけでもなく、彼女がそうしたいと望んだことであり、恐らく初めて、本当に  
彼女自身の意志で選んだことだった。  
後悔はしていない。確認するように、その言葉をかみ締めた。  
身体を抱いていた腕の力を緩める。しわの寄ったシーツの上に、金色の長い髪の毛が広がっている。  
女神であることを捨て、自らの足で歩くことを決めた自分。なぜ、あの地球の人を助けたのかと先刻  
ジョミーに問われ、何も言えずに飲み込んだ答えを思い出した。  
組み込まれた同じ地球の記憶。ガラス越しに手を触れたときの、全身を包む優しい水の感触。  
あの、呼吸が止まるほどの懐かしさ。  
たぶん、彼女の中の眠っていたはずの本質の部分が、本能的に彼に惹かれたのだ。  
恐らく彼らは、同じようにして生まれたものだったから。  
何故あれほどまでに惹かれたのか、そのときの彼女には分からなかった。でもブルーは気付いたのだろう。  
幸せではあったけれど、綺麗な人形でしかなかった彼女が、眼を覚ましてしまったこと。  
あの時を境に、美しかった世界は現実味を失い、景色は色褪せた。そんな自分を受け止めきれず、混乱する  
ばかりの彼女を見て、ブルーは最後に、彼女を閉じ込めていた楽園の扉を開け、彼女を解放した。  
どこか気持ちがざわめいていた。フィシスは思わず、ジョミーに向かって手を伸ばしていた。  
髪に触れると、そこからジョミーの瑞々しい生命の息吹が伝わってくるような気がして、フィシスは安堵した。乱れた心がだんだん静まっていくのを感じる。  
大丈夫。私はきっと、大丈夫。言い聞かせるように反芻する。楽園から足を踏み出した私。けれど私には  
ともに生きてくれる人がいる。  
私の心はもう、彼の元へは行かない。  
手に絡めた髪は柔らかく、指で梳くとそのまま何の抵抗もなく、指の間をすり抜けていった。  
私はこの場所で、ジョミーの傍で、ミュウの仲間とともに生きる。  
そして、地球へ行くのだ。ブルーの願いを叶え、ミュウの尊厳を勝ち取るために。  
ジョミーの髪の柔らかい感触が指先に残っていた。  
あの人のことは、忘れる。  
 
フィシスは眠るジョミーの手にそっと自分の手を重ねた。  
その眠りが安らかなものでありますようにとフィシスは祈る。  
眼を覚ませば過酷な現実が待っている。だから今は何もかも忘れて、優しい眠りに身体も心も預けていてください。  
 
「――フィシス…?」  
ジョミーの声にフィシスは顔を上げた。ジョミーがゆっくりとベッドに上半身を起こす。  
「目を覚まされたのですね」  
重ねた手を離してフィシスは微笑んだ。  
「――夢を見ていた」  
身体を起こしたジョミーは、まだどこか目が覚めていないようだった。夢の続きを見ているような、  
ぼんやりした瞳をフィシスに向けて呟く。  
「草原の夢だった。よく晴れた緑の草むらのところどころに花が咲いていて、どこかで鳥が鳴いて  
心地いい風が吹いていた。その中でまだ子供の君が笑っていた」  
半ば独り言のようにジョミーは話し続ける。  
「君は無邪気に草原の中を走り回っていた。花を摘んで草の上に寝転んだり、蝶を追いかけたり、太陽の光の下で、  
身体いっぱいに腕を広げて幸せそうに笑っていた」  
ジョミーはフィシスが触れていた自分の手に眼をやった。手の甲には彼女のつけた爪の痕が、わずかにまだ  
点々と残っていた。  
フィシスは何も言わなかった。ジョミーもまた、黙っていた。  
やがて再び口を開いた。  
「フィシス」  
「何でしょう」  
「君の地球を見たい」  
「いいですわ」  
フィシスが手を伸ばし、もう一度、ジョミーの手に彼女の指を絡めるようにして重ねる。  
眼を閉じると同時に湧き上がるイメージ。闇の中、流星のように現れては過ぎ去るいくつもの星たち。  
そして最後に、遠くでかすかに輝いていた小さな点が徐々に大きさを増して、やがて暗い虚空に鮮やかに  
浮かび上がる、壮大な青い星に変わる。  
美しかった。だがそれも数秒で、地球の映像は儚く消えて、後にはしんと静まり返った暗闇だけが残された。  
ジョミーは再び眼を開いた。目に映るのはいつもと同じ、シャングリラの船内の風景。だが地球の残像は  
いつまでも胸の奥に残っていた。  
暖かいフィシスの手がジョミーの手の中にある。  
メンバーズの男と同じ地球の映像。彼女は何か知っているのかもしれなかった。先刻の、躊躇うように  
口を閉ざしたフィシスの姿を思い出した。言葉を選びながらの告白の端々に、彼女の何かを隠しておきたい  
意図を感じ取ったことも、そして、私はブルーの女神でしたから、と言った時の悲しみの色も。  
彼らがフィシスにとって何であったのか。  
もう何も問うまいとジョミーは思った。ブルーのことも、地球の男のことも。フィシスが語ることを  
望まないのなら、それでいい。  
心の中でどんな嵐が吹き荒れているとしても、これが身を切るような恋ではないとしても、それでもフィシスは  
ジョミーを選んだのだから。  
ジョミーは顔を上げてフィシスを見た。彼女はいつもと同じように静かな微笑みを浮かべていた。  
抱える思いは異なっていても、僕たちが目指すものは同じもの。それが僕たちの償い。僕たちの希望。  
そして二人を結ぶ確かな絆。  
「僕たちは必ず、地球へ行こう」  
フィシスの手をジョミーは強く握り締めた。  
 

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