「……ジョミー」
寝台に半身を起したミュウの先代長に現在の状況を話し終えてすぐのこと。
唐突に真剣な顔で話しかけてきたブルーに、ジョミーは何事か起こったのかと身構えた。
――が。
「フィシスのスカートの裾をもっと短くしようと思うんだが、どう思う?」
ああ。僕が馬鹿でした、ブルー。
あなたが真剣に考えることは、ミュウの重大事や異常事態ばかりじゃありませんでしたね。
眩暈にも似たものを感じながら、ジョミーは胡乱な視線をブルーに向ける。
「真面目くさった顔で変態くさい質問を投げて寄こすとは、さすがブルーですね」
「変態とは失礼な。僕はフィシスをごくごく普通に慈しみ、愛しているだけだ」
「はいはい、わかりましたよおじーちゃん。どうしてそんなことを僕に聞くんですか」
「君とフィシスは親しい。勿論、一番親しいのが僕、そして僕と君とでは愛しい地球とナスカほど差が開いているわけだが……」
「余計なことはいいですから、早く本題に移ってください」
「余計なこととは」
「僕も忙しいので、それ以上ぐだぐだ続けるようなら仕事に戻りますよ」
「……つまるところ、眼福の度合いを強めようかと思うんだ。あのままでは彼女の白くて細くて美しい足が隠れたままだからね」
なんというか、ブルーには演技者のケがある気がしてならない。
しかも、オペラとか舞台俳優系の。
つまりは表現がくどい。(言葉の)装飾が激しい。本業で今が舞台なら当然であり気にもならないだろうが、日常生活の中でやられるとウザいことこの上ない。
おじーちゃんはそれが楽しいようなので、なおさらタチが悪い。
言い聞かせるとちょっとはマシになるのは、まあ可愛いといえば可愛い……か?
思考の迷路にハマりながら、ジョミーは答える。
「それは僕としても賛成なんですが、いいんですか?」
「何がだい?」
「衣装をそうしてしまうと、どこに行くにもその格好ってことでしょ。つまり、ブリッジにいる皆やら通路の皆さんやら公園の人々やら……
もちろん女性ばかりじゃなく、不特定多数の男性に、ブルーの言うところの『白くて細くて美しい足』を見られることになる。それどころか、その中身も」
「やはりフィシスはあのままが一番いいな。うん、今の発言は忘れてくれ」
これだもの。
そこまで考えてないのかな。ブルーってよくわからない。
「じゃあ、僕はこれで」
「ああ。すまなかったね、ジョミー」
ひらひらと手を振り、とてもいい笑顔でブルーがいう。
ため息をつきつつ、ジョミーは青の間を退出した。