「あなたが、欲しいんです……。」  
瞳を潤ませたまいさんがそう言った。汗で額に張りついた前髪や上気した頬……やはり最中のまいさんは艶やかで子供っぽさなんて微塵も感じられない。  
 
 
――――  
「なんつー夢を……」  
職場の仮眠室で目を覚ました俺は慌てて飛び起きた。  
確かに最近は彼女とあんな事はしてないし、仕事も忙しくて溜りに溜まっているとは言え、夢の中で彼女にあんなことを言わせてしまったのは気が引ける。  
だがしかし、完全に俺一人の妄想というわけではない。前回やった後にまいさんが「中に出してもいいから」と呟いたこともさっきみたいな夢を見る原因だと……言い訳してみる。……まぁ、あれ以来会ってないからやってないんだけど。  
……明日は久々の1日休みだし、まいさんとこにでもお邪魔してみようかな。  
 
 
 
 
まいさんの所に行こうと思い立ったのは良いものの仕事を片付けないことには帰れないと思い出して、なんとか片付けて今日の休みを確保した。心置きなく休みを満喫できるのは幸せだな。  
さて、今日はまいさんに内緒でやってきたのだが……やっぱり驚くだろうか。何を話そうか、と平日故に人が少ない車内で考えているとアナウンスが終点を告げた。  
 
 
「ようこそ!……って、あれっ?」  
別所温泉駅に下り立つと、まいさんがいつものように駅長挨拶をしていたが俺に気付いた彼女は言葉を途中で切り、俺の方へとやってきた。他にお客さんがいないからこそ出来ることだろう。  
 
「え?あれ?」  
「お久しぶりです」  
まいさんは困惑、でもどこか嬉しそうな表情で見上げてくる。  
 
「え、あ、お久しぶりですっ。……急にどうしたんですか?」  
「いやぁ……、まいさんに会いたくなって。」  
少しキザな台詞を言うと、まいさんは可愛らしく笑った。どうやら俺が内心恥ずかしがっているのはバレバレなようだ。  
 
「ふふ、実は私もこっそり会いに行こうかなって思ってたんです。」  
「そうなんですか?気が合いますね。」  
「ですね。」  
俺が笑うとまいさんもまた笑う。  
お茶をお出ししますね、と駅務室に案内されて、俺はソファーに腰掛けた。……いつも思うけど、取材でもないのに勝手にここに入れてもらっていいんだろうか。まいさんが招き入れてくれてるんだから問題はないと思うけど、やはり心配になる。  
 
「……どうかされました?」  
考え込んでいた俺の前に座ったまいさんはお茶の入ったグラスをテーブルに置きながら尋ねてくれた。……なんか、いつもまいさんに心配させてる気がするな、俺。  
 
 
「あ、いえ、何もありません。」  
慌てて否定してみたが、まいさんは疑り深い目をこちらに向けている。  
 
「えっと、あ、ほら、ど、どうして急に俺に会いに行こうなんて思ったんですか?」  
わざとらしく話題を変えると、彼女は少し気の抜けた声を漏らした。何故か頬が赤く染まっている。  
 
「あの、まいさん?」  
「えっ?え、あ……その……。」  
 
珍しく狼狽し、指をもじもじさせるまいさん。何か地雷でも踏んだのか、俺。  
 
「あの、わ、笑いません?」  
「え?あ、もちろん。」  
「その……、夢で。」  
「夢?」  
「……はい。……夢で、あなたが出てきたんです。」  
 
……嘘だろ、おい。同じタイミングで互いに互いの夢を見てたのか。  
俺が嬉しいやら恥ずかしいやら照れくさいやらで口元を手で覆い隠すと、まいさんに「笑いましたっ?」と聞かれた。  
 
「ち、違います。偶然って凄いなって……。」  
俺が笑いを堪えながら呟くと、まいさんは首を傾げた。  
 
 
「いや、俺も同じなんですよ。……まいさんが夢に出てきて。」  
詳しい内容はさすがに言えたもんじゃないので、それは伏せたまま教えると彼女はそうなんですか?と顔を綻ばせた。  
 
 
「で、でも、さすがに……内容までは違いますよね。」  
顔を更に赤く染めたまいさんはお茶を一口飲んだ。  
 
 
「……どんな内容なんですか?まいさんのは。」  
俺が素直にそう聞いてみると、彼女はお茶が器官に入ってしまったようでむせてしまった。……怪しい。  
 
「ど、ど、どんなって……ふ、普通に……」  
「そんなに、どもるような事ですか?」  
慌てふためくまいさんが新鮮だったから、つい意地悪く切り込んでみると、彼女は真っ赤にした顔を伏せた。あぁ、可愛い。  
 
 
「……俺の夢の内容、教えましょうか?」  
「へっ?……あ、はいっ!先に教えてくださいっ。」  
パッと顔を上げたまいさんに俺は真剣な眼差しを送った。その視線の意味を理解した彼女は俺から目をそらした。  
 
「……まいさん?」  
「その……、まだ、仕事中ですので……。」  
恥ずかしそうに言ったまいさんが余りにも可愛くて、俺は我慢出来ずにテーブルをまたいで彼女にキスをした。  
 
「っ……んっ……はっ、し、仕事ちゅ、だって……」  
「まいさんが可愛いから悪いんですよ。」  
「そんなの……っ」  
「大丈夫、平日だし電車はさっき出たとこだし……人は来ませんって。」  
「そんな問題じゃ、」  
 
まいさんの抗議はキスで遮った。  
いつ人が来るか分からないから袴もつけたまま、着物に皺が寄らないように彼女はソファーに座らせた袴の中に左手を入れた。ショーツの上から割れ目に指を這わせていると、感じてきたのか、まいさんは声を抑える為に俺のシャツを握り締めた。  
 
「んっ……あ……んん……」  
「……まいさん、濡れてますよ。」  
「……やっ」  
言わないで、と首をふるふると振った。  
 
……さすがに、自身を挿入するのはやりすぎだと思い、なんとか指だけでイってもらうように指を抜き差し始める。(ここまでやっといて今更感は漂うが。)  
しかし、まいさんは健気にも耐える。  
 
「あ、あっ……ふぁ……っ」  
「まいさん……!」  
「……や、です。……っ、指じゃ……なくてっ、」  
後半はほとんど聞き取れなかったが、俺は嬉しくなった。あぁもう、本当に……なんて可愛い人なんだ。  
 
わかりました、と頷いて限界まででかくなった自身を取り出してまいさんにあてがった。その時ふと、思い出す。  
 
「あ、ちょ、待ってください……。すぐ、つけますか。」  
ゴムをつける為にあてがった自身をまいさんから離そうとすると、まいさんに服の裾を引っ張られた。  
「?」  
「……だ、大丈夫、ですから。」  
「い、いや、でも、俺、出す前に抜けるか……」  
「だから……大丈夫ですから。……中に、お願いします……っ。」  
 
肩で息をしながら、まいさんは笑顔で俺に言った。その気持ちが何よりも嬉しい。……だけど……。俺が戸惑っていると、まいさんが俺の頬を撫でた。そして一言。  
 
「あなたが、欲しいんです……。」  
 
夢で見た、あの言葉を言ったまいさんに俺は覚悟を決めた。  
 
「ありがとう、まいさん。」  
耳元で囁いて、一気に腰を沈めた。  
 
「あ、ん……っ!あっ、あぁっ、んっ……」  
十分に上り詰めていた俺の意識はあっという間に限界までやってきた。  
「ま、いさん……!」  
頷く代わりに彼女は俺にキスをしてきた。俺の我慢は限界を超え、彼女の中にすべてを放った。  
 
 
「……。」  
「す、すいませんでした。」  
「……。」  
 
幸い、してる最中に人は来なくて無事(?)に終えることはできたが、終わってからが問題だった。まいさんが怒っている。  
若干、崩れた着物を直してからまいさんは淡々と業務をこなしていた。  
 
「あの、ホント……ここまでやるつもりはなかったんですが……」  
困ったら頭を掻く癖がある俺は、つい頭を掻きながらまいさんに謝った。駅務室の床に正座して。  
 
「……。」  
一向にこちらを向いてくれないまいさんに、俺は思わずため息をつく。すると、まいさんはぷっと吹き出した。  
 
「あ、あの……まいさん?」  
「ご、ごめんなさい。……でも、さっきまでと全然違うから……。」  
「は、はぁ……。」  
「……仕事中なのは感心しませんけど、な、中に……してくれたのは、嬉しかったですから……。」  
恥ずかしくて顔を合わせてくれないのか、こちらに背を向けながらそう言ってちらりと見えた横顔のはにかむ様子がとても可愛かった。  
 
 
(終)  
 

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