DS主人公×まいさん  
まいルートクリア後  
前回前々回よりも前の話のつもりです。 
 
 
 
 
 
――2009年年末。  
 
「はたらく鉄道むすめ」のコーナーも、開始から1年と8ヶ月経つ。  
俺は今年の春に、その担当から外されもっと責任のある役職、いわば副編集長といったポジションに就かされた。俺の後任となったのは、アシスタントだったまなちゃんだ。  
今年の春に正式に入社してタビィークの編集部に配属と相成り、出来すぎた様な偶然が重なり、鉄道むすめのコーナーを担当することになった。……きっと、編集長が裏で手を回したと思うけど。  
まなちゃんは去年の俺と同じように鉄道むすめの取材の為に、全国を西へ東へと駆け回っている。俺はたまに仕事で知り合ったむすめの方々とメールをしたりするぐらいで、交流は疎遠になっていた。  
 
……ある人を除いては。  
 
 
「風邪ぇっ!?」  
すいません、と受話器の向こうにいるまなちゃんは鼻声で謝った。  
 
「あ、いや……謝ることはないけど……大丈夫なの?」  
年末年始は各雑誌が特別編成で、特大号などと銘打って売り出される。  
ページ数も厚くなる為に、鉄道むすめのコーナーも増ページしたぐらいだ。が、どうやらそれが裏目に出た。  
「年末特大号」を編集していた先月と「新春特大号」を編集する今月。2ヶ月連続で増ページとなり、まなちゃんは北は函館から南は福岡までをたった1人で取材に走り回ってくれた。  
それをフォロー出来なかったのは、確実に俺の失敗であり彼女は謝る必要はない。……社会人として自己管理出来てないと言うのもあるかも知れないが……、まぁ今回は俺の采配ミスだろう。  
いくら入社前にバイトでアシスタントをしていたとしても、一編集者としてはまだ新人なんだ。  
それに、入社一年目というのはヤル気に満ちてる反面、無理をしやすい。「こんな忙しい時期に新人の自分なんかが休んでいいのか?」と思いつつ、無茶をするものだ。  
きっと、まなちゃんも少し前から体調が悪かったのかも知れない。  
 
「あたしの方は寝てれば治ると思うんですけど……今日、お昼から取材が入ってるんです……。」  
ずびずびと、時折鼻をすすりながら泣きそうな声で呟く。  
 
「昼から?……それなら、俺が行くよ。」  
パソコンでスケジュールを確認しながら、まなちゃんに提案した。午後の編集会議には、申し訳ないが編集長1人で行ってもらおう。  
「……すいません」  
まなちゃんは再び謝った。  
「いいって。それで、今日はどこに取材行けばいい?」  
俺が苦笑しながら聞くと、まなちゃんはフフっと笑った。  
 
「?どうかした?」  
「え、いや……なんだか、偶然ってすごいなーって。」  
……どういうことだ?  
俺は携帯を肩と耳で挟んで、鞄にICレコーダーやらメモ帳やら、去年まで使っていた取材道具一式を詰め込んだ。  
 
「えへへ……今日の取材、実は読者のアンコールに答えるつもりで別所温泉に行く予定だったんですよぉ……」  
まなちゃんがそう説明してる間にカメラも準備して、言い終わったと同時に鞄のチャックを閉めた。  
 
「いやー、怪我の功名っていうんですか?」  
げほげほ、と咳を交えながらまなちゃんは少し嬉しそうに言う。  
 
「……元気そうなら、今から取材行ってもらおうか?」  
俺が冷ややかな声でそう言うと、まなちゃんはすいません!と言ってから電話を切った。  
……本当に狙ってたんじゃないだろうか。そんな事を少しだけ考えながら、俺は編集長にその旨を報告しに行った。  
 
――  
 
「どうも、お久しぶりです。」  
別所温泉駅で降りてから、俺は目当ての人物である駅長の八木沢まいさんに苦笑しながらお辞儀した。  
まいさんも少し驚いたように手を口に当てている。  
慌てて、こうなった経緯を説明した。  
 
 
「そ、そうなんですか。……あ、えっと。立ち話もなんですし、どうぞ。」  
まいさんは思い出したようにそう言って、駅務室へと招き入れてくれた。  
 
俺は頭を下げて、言われるまま事務椅子に腰掛けた。まいさんはお茶の準備をする為に給湯器の方に向う。  
……まぁ、久しぶり、とは言ったものの実は月に1回程、俺はプライベートで別所温泉に来ている。  
それがまいさんに会いたいからだなんて口が裂けても本人には言えないんだけど……。  
俺のまいさんに対する想いは駄々漏れなのか、まなちゃんや編集長は何かとつけて俺を別所温泉に行かせようとしてくる。  
というか、どこでどう情報がねじ曲がったのか編集部内では俺とまいさんの仲について色々噂がある。  
俺は彼女に特別な想い、特別な感情を抱いてはいるが、決して特別な関係ではない。  
……自意識過剰かも知れないが、彼女も俺には好意を持ってくれてるんじゃないかと思う。  
 
だけど、ここぞという一歩が踏み出せない。  
必要のない遠慮が勝って、結局は何も出来ないし何も言えないんだ。  
 
……嗚呼、まさに一進一退。  
 
「どうかしました?」  
 
コートを脱いで、少し頭を抱えるように俯きつつ考えていると、湯呑みを2つ乗せたお盆を持ったまいさんが心配そうに声をかけてくれた。  
 
「え?い、いや。ちょっと考え事を……」  
俺は慌てて笑顔で返した。  
すると、まいさんは納得出来ないながらもそうですか、と言って湯呑みを手渡してくれた。  
ありがとうございます、と一言言ってからお茶を一口……。  
……そうさ。  
今のこの平穏が壊れるくらいなら、いっそ進展はしなくていい。  
 
たまに会って、お茶をするぐらいの仲で良いじゃないか……。  
 
そうやって、一歩踏み出せずにいる言い訳を頭の中で並べていると急に額にひんやりとしたものが当てられた。  
驚いて顔を上げると、まいさんが左手を俺の額に当ててるのが分かった。  
彼女の右手は、自身の額に当てられている。  
 
「あ、あの……?」  
俺は恐る恐るまいさんに声をかける。  
 
「はい?」  
「……なに、されてるんですか?」  
「いえ、ちょっと体調でも悪いのかなと思いまして。……でも、熱はないみたいですね。」  
良かったです、と微笑みながら手を離すまいさん。  
その一言一言に俺はドキッとさせられる。他意はないハズのまいさんの言葉に俺は一喜一憂している。  
 
「まなちゃんが風邪だと言ってましたし、もしかしたらっ……!?」  
さっき自分で思ったことなのに……。『このままでも良い』って思っていたのに、気付けば俺はまいさんの冷たい手を握っていた。  
……衝動的、と言う表現で許されるんだろうか。  
 
「あ、あの……?」  
まいさんは驚いたように目を開いた。  
 
「……い、痛いです。」  
眉をひそめて、口を歪めた彼女の顔を見て、俺はようやく我に返った。  
 
「す、すいません……!」  
握り締めていた手を離して、そのまま手を頭に持っていき髪をくしゃっと掴んだ。何をしてるんだ、俺は……。  
 
俺は余程強い力で握っていたのか、彼女の手にはうっすらと白い跡が見える。  
 
「す、すいません。……俺、何してんですかね。」  
あはは、と乾いた笑いしか出てこなかった。  
 
「い、いえ……。私の方こそ、すみません。……迷惑、でしたよね?」  
盛大な勘違いをしているまいさんに対して、俺は首を左右に振って否定した。  
 
「ちっ、違うんです……。その……」  
俺は大きく深呼吸をした。まいさんは不思議そうにこっちを見ている。  
 
「好きだって、言ったら……迷惑ですか?」  
流れる沈黙。  
かすかに聞こえたのは、ギィという事務椅子が軋む音だけだ。  
 
まいさんの方をちらりと見る。何も言わず、ただ何かを言おうと口を少し開けている。  
 
「……な、なんて。」  
彼女のその姿が見るに耐えれなくて、俺は声を震わせながらそう付け足した。  
 
「……やっぱり、熱があるみたい、です。」  
逃げる言い訳はただ虚しく響く。……こんな時に限って、お客さんも電車もこない。  
 
まいさんは、何も言わない。  
「……その、熱に浮かされた冗談……なんで、聞かなかった事に……してください。」  
 
俺は無理矢理笑顔を作って、まいさんに微笑んだ。  
 
やっぱり言うんじゃなかった……。  
これで、この美味しいお茶が飲めなくなる。もう、ここにも来づらくなる。  
 
「……ごめんなさい。」  
まいさんは俯きながら、そう呟いた。  
 
突き付けられる現実。  
自意識過剰だったのは間違いなかったのか……。  
改めて言葉にして断られるとぐさりと来るものがある。  
 
「……聞かなかった事には、出来ません。」  
「え……?」  
そう返すと、今度はまいさんが俺の手を握ってくれた。  
 
「私……、聞いちゃいましたから……。」  
まいさんも声が震えている。握られた手も少し震えてるのが分かる。  
 
「あの、まいさ」  
俺が名前を呼ぼうとすると、それを遮るように握った手に力がギュッと込められた。  
 
「私も……好きです。」  
まいさんの青い瞳が揺れる。  
俺はにわかには信じられず、夢じゃないかと疑うように、まいさんの手を握り返した。  
すると、向こうもギュッと握ってくれた。  
 
……夢じゃ、ないのか?  
 
「……ずっと、好きでした。……ずっと……。」  
恥ずかしそうに話すまいさんは本当に可愛らしくて……俺は躊躇しながらも腕を伸ばして彼女の背中に手を回した。  
 
「……あの、すごく、音が早いですよ?」  
まいさんは俺の腕の中でもぞもぞと動いて、見上げるようにして言った。  
 
 
「し、仕方ないですよ。告白とか……初めてなんですし……」  
俺は顔を赤くしながら言い訳をした。  
ふと、気付く。……とてつもなく顔が近い。  
まいさんもこの状況に気付いたのか、より一層赤くなった。  
 
「まいさん……」  
「……」  
この沈黙は、いわゆる暗黙の了解だと解釈しても良いんだろうか。  
「あ、あの……」  
俺が唾を飲み込むのと同時にまいさんは遠慮がちに声を発した。  
 
「……あの、電車が……来ます。」  
「……はい?」  
 
まいさんはちらりと時計を見る。  
つられて俺も時計に目をやると、遠くの方からレールの軋む音が聞こえた。  
 
 
(終)  
 
 

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