「まなちゃんさー……」
「はい?」
「……可愛いよね」
「……はい?」
人は……女の子は恋をすると変わる、と昔漫画で読んだ気がする。可愛く、もしくは綺麗に変化していくものなのだと。
私の後輩、まなちゃんもその例には漏れてない。
「前から可愛かったけど最近はもっと可愛くなったよね?」
首をかしげるまなちゃんをよそに、私は言葉を続けた。
「そ、そんな……。ありす先輩の方が可愛いですよっ。」
恥ずかしそうに慌てながら首を振るまなちゃん。
私はありがと、と笑顔を返した。
「好きな人でも出来た?」
ぼんやりと事務室の天井を眺めながら、まなちゃんに聞いてみると、彼女は予想以上に慌てふためいた。
「えっ、え?な、なんの話ですかっ、いきなり!」
「あれ、違った?」
「ちがっ……違わなく、ないですけどっ。」
俯きながら、たまにちらっと目線を私にやるまなちゃん。さすが去年まで華の女子高生だったことはあるなー、恥じらった姿も可愛いよっ。
もちろん、まなちゃんが恋してる相手が誰なのかは見当ついてる。傍から見ても分かるぐらいまなちゃんは彼の事が好きなんだと思う。
可愛い後輩の恋を応援してあげたい。けど、私だってまなちゃんが好きなんです。……もちろん、私の想いがまなちゃんに届く事はないと知っている。届くはずがない。
「まなちゃんの好きな人ってさ、やっぱり」
「わーわーわーっ!」
真っ赤になって私の言葉をかき消すまなちゃん。なんで知ってるんですかっ、と目で訴えられた。
なんでと言われても、まなちゃんの彼に対する態度を見れば一目瞭然なわけで……。
「……ふふ、やっぱり。……ね、どこが好き?」
「ど、どこって……。……その、一緒にいると安心するし、優しいし……仕事にも真剣だし……」
まなちゃんは幸せそうにはにかんだ。
「……そっか。」
聞かなきゃ良かったと思う反面、いつも通りの私でいようと思う気持ちもあって……結局は自分の首を苦しめる事になるのも分かっていた。やっぱり、まなちゃんの前では「尊敬される先輩」で在りたい。
私は沈みかけた気持ちを追い払うように、思い切り伸びをした。
「んーっ!恋する乙女の若いエネルギーを頂戴した事だし、午後の業務も頑張ろうかな!」
「若いエネルギーって……。」
まなちゃんは私のセリフに苦笑しながら、椅子から立ち上がった。
「ありす先輩も恋しましょうよ。」
鏡を確認しながらスカーフの位置を整えたまなちゃんはそう提案した。
その提案に私は笑顔を返すしか出来なかったのだけど。嗚呼、上手く笑えてる自信がないよ……。
(終)