門田さくらは有井駅鉄道警察隊員。  
最近は列車の写真を撮られる方のマナーが悪くなっており、撮り鉄と最近もつかみ合いの喧嘩をしてしまったばかりだった。  
そんな中、彼女を取材した出版社の編集長の釜石まゆりが昨年、カメラマンの方と結婚しすでに妊娠6カ月であった。検診に行く際に顔を合わせお互いに挨拶を交わしていた。  
「おはようございます。今日も検診に行かれるんですか?」  
「ええ、この子が生まれてくるのが気になって仕方ありませんの。」  
「そうですか、お気をつけて行ってらっしゃい。」  
そう言ってさくらはまゆりを送り出した後今度は駅のコンコースを見まわした。  
ちょうどその時彼女の目に気になるものが映った。  
灰色の服を着ており見た目は高校生くらいだろうか。  
駅の出口へと歩いて行くのが見えた。彼女の鋭い勘は警鐘を鳴らした。  
しかしすでに遅かった。  
まゆりが腰かけていたベンチの下からすさまじい閃光がほど走り、  
耳をつんざくような轟音が駅のコンコースはおろかホームや駅前のロータリーにまで轟いた。  
 
その頃夫は妻の経営する出版社にいた。まだ創業してから1年であるがすでに雑誌を発行し業績も好調を納めていた。  
机にはまゆりとまなと一緒に写った写真がある。俺一人じゃあたった1年でこんな大きな出版社に育て上げられることなどできなかっただろうと思いふけっていた時だった。  
ちょうど昼時だったので何気なくTVをつけてみると、有井駅で爆破事件があったというニュースを放送していた。  
近くでこんなことが起きていたのか、でも妻はもう産婦人科についてるころだから心配いらないと思うしあとから電話してみよう。  
そう考えた彼はカップのコーヒーを啜っていた。そんな時だった。自分のアシスタントの女の子が血相を変えて僕のもとへとやってきた。  
彼女の言葉の前半を聞いたとき俺の頭は真っ白になって、気付いた時には自分の愛車のベンツで妻が収容されている病院へ来ていた。  
病室の前に駆けつけるとまゆりの妹のまなが蒼白な表情でいすに座ってベッドに横たわるまゆりを眺めていた。  
医者の話だと彼女の座っていた椅子のパイプが爆発でへし折れ、それが腰部を貫通しさらには肋骨と鎖骨を骨折していて生きているのが奇跡だという状態らしい。  
「俺は…どうしてあの時電話しなかったんだ…クソッ!」  
彼はなんだかんだで最近結婚した伊集院の足元にすら及ばない夫だったことを気付かされたのだった。  
 
一週間後、まゆりは意識が回復した。しかし治療をするにも胎児に影響を及ぼすのを嫌い一切の薬の使用を拒否したのだった。  
「お願いします…鎮痛剤は打たないでください…どんな痛みでも我慢しますから…」  
彼女の必死の願いに医者や夫も鎮痛剤を使用するのをあきらめるほかなかった。  
出産まであと2週間のことだった。  
麻酔や鎮痛剤なしの治療は相当な苦痛を伴った。骨折部分を治す際にも医者が治具を取り付ける治療を行ったが痛みが走るたびにまゆりは絶叫をあげた。  
さらには夜になっても激痛は治まらなかった。むしろどんどん悪化していくばかりでそれを見かねた夫は鎮痛剤を飲むように勧めた。  
しかしまゆりはそれすらも拒否して激痛に耐えかねて掛けていた布団を噛みしめ必死に堪えた。一晩中噛み続けた掛布団は歯茎からの出血で赤く染まりあちこちが破れていた。  
その様子を灰色の服を着たあの若者が病室の外から眺めている。ニヤリと笑うと病院を後にした。  
そしてついにまゆりを最悪の事態が襲った。無理な治療がたたってか40度の高熱が発生し彼女は生死をさまようことになった。  
それでもまゆりは一切薬を飲もうとすらしなかった。  
 
そうこうしているうちに2週間が明けてついに出産予定日となった。  
夫もまなも、取材を受けたほかの鉄道むすめ達もみんな分娩室の前に集まっていた。  
つくしは私が初めて赤ちゃんを抱っこするんだと言って笑みを浮かべ、ありすがそこは私よ、と返していた。  
2時間後、ついに分娩室から産声があがって医者が出てきてなんと双子で会ったことを夫に伝えた。まなや鉄道むすめ達も大いに喜んでいた。  
そしてまゆりにはようやく鎮痛剤が投与され2週間にわたる痛みとの闘いは終結を迎えたのだった。  
 
2011年5月  
あの事件から一年明けた。未だにあの時の爆弾犯は逮捕されていない。けれどもまゆりの子供たちは無事に育っていた。  
そんな中一人の新人警官が配属されてきた。彼の前は東航。  
高校卒業後すぐに警官になり、高校時代は新体操部でその身体能力の高さを買われ特殊部隊SAT候補生でもあった。  
さくらは早速航に仕事を教え込み、一か月で彼はさくらの腰巾着、もといお気に入りの後輩になっていた。  
「SAT候補生だったらこれだけの報告書全部書き上げてね、あと私のもお願い。」  
「お…おっす!」  
その時…電話が鳴った。  
「航…お前警官になったってな。いつかのタイマン預けっぱなしだったからいっちょここで蹴りつける。お前が今からこっちに来い。一人で来なかった場合…人質を殺すぞ!」  
その声は…  
 
神井みしゃは無事大学にも合格し先輩の東屋あやの、橘らいかと街中を歩いていた。  
昼の3時になって彼女たちはそれぞれ用事があるので先に引き上げていった。一人になった彼女は富井に変えるため有井駅へと足を進めた時だった。  
「お嬢さん。ちょっと有井駅の行きかたを教えてくれないか?」  
「ちょうど私も行くところなんです。よろしければご案内しますよ。」  
そういうと男を後ろに歩かせて駅に着いた時だった。みしゃの手を引くといきなり物陰に連れ込んで口をふさいだ。  
「大声出すとお前の身は保証しねえぞ…。」  
そういうなり爆弾の起爆スイッチを突きつけ、彼女の体に大量の火薬を巻きつけた。  
「今から知り合いに電話をかける。助けを呼んでもいいけど…お前の命は俺が握ってんだからな!」  
それから数分後、背の高い警官と思わしき男が現われた。  
「よう航。」  
「赤羽…てめぇ…何の真似だよ…」  
赤羽はニヤッと笑いながら言った。  
「お前は俺に熱くなれる事見つけろって言ったよな…だからやっと見つけたんだ…爆弾ゲームってのをな。」  
「じゃあ去年のこの駅での爆破事件もお前がやったのか…」  
「だったらどうする?俺を捕まえるか?」  
赤羽はみしゃの髪の毛をつかみながら自分のほうへと引き寄せた。  
「彼女を離せ。もう充分だろ…見逃してやるからもう爆弾ごっこはもうやめろ。」  
「そういうわけにはいかないんでさ。あばよ航。」  
 
みしゃは赤羽に襟首を掴まれながらホームに走らせて停車中のキハ189に押し込んだ。  
遠足の団体列車だったらしく子供たちが荷物を車内に残したまま泣きながら列車から去って行った。  
先頭車両には先生や車掌がいた。  
「生徒とお客はいいのかい?」  
赤羽がそういうと先生たちと車掌は血相を変えてよろめきながら車外へと逃げて行った。  
「列車出せ!」  
運転士は言われるがままにドアの開閉ボタンを押していた。  
その時航が階段を駆け上がってホームへ駆け込んできた。  
航は最後部車両の扉をこじ開けようと列車にしがみついていたが加速しており、その時対向列車がこっちに向かってくるのが見えた。  
「くっそお!開け!」  
渾身の力を振り絞ってドアをこじ開けるとわずかに開いた。航はすかさず車内に転がり込んだ。どうやら気付かれていないようだ。  
車内には子供たちの残していったリュックが散乱していた。  
 
「9876D、ATSによる強制停止手配を取りましたので次の駅で即刻停車してください。」  
運転士が無線に応答しようとしたのをみた赤羽は銃を運転席へと向けた。  
「お前使えねえ。交代だ。」  
そういうと銃を発射し運転士はそのまま運転席からずり落ちていく光景がみしゃの目にはっきり映った。  
さすがに堪えられなくなったみしゃは声を震わせながら言った。  
「あんたの勝ちだよ…そうだよ…ゲームに勝ったんだからあたしを開放してよ…」  
「そういうわけにはいかねえんだ。」  
赤羽は一切こちらの言い分を聞くつもりはないようだ。  
 
その頃航は列車の屋根を伝って先頭車両にいた。その時前方から信号機が迫ってきているのが見え身を反転させ間一髪のところでそれを交わしたが、赤羽に気付かれてしまった。  
「航、お前か?いい加減鬱陶しい奴だ。今から降りてきたら分け前で100万円くれてやる。心配すんな、北川さんから1000万円もらってるから逃走資金に困ることはねえ。」  
そういうと赤羽は金のはいった袋を取り出そうとリュックをあけようとした…しかし中には万札と同じ寸法に切られた新聞紙の束が大量に入っていた。  
「…?!なんだよ…これ…全部新聞紙じゃねえか!あの野郎…」  
理性を失った赤羽は天井に向けて銃を乱射し始めた。  
航は屋根を転がりながら次々に飛び出してくる弾丸をかわした。一方赤羽もついに弾切れになったようだ。  
銃を放り投げ叫びながら走り去って行った。  
航は前方を注視するのに必死で後方から迫りくる相手に気付かなかった。  
その時背後から赤羽に押さえつけられさらにその上から殴りつけられた。  
「航…なにしてんだよこんなところでよ…」  
「100万円どうしたんだ?あれは偽物だったか?」  
「おお、そうだ…。本物の金はどこなんだよ?」  
「今頃ゴミバケツの中に入れてあるぜ。おそらく仲間が回収に来てるころだろーな。」  
その言葉に激高した列車の屋根であることを忘れて赤羽は航を列車から蹴り落とそうと立ち上がる。  
そして今度はトンネルの入り口が迫ってきている。赤羽の右足が航を蹴り落とそうとした刹那、列車はトンネルに侵入し赤羽の体はポータルに打ちつけられ列車から落ちていった。  
 
「刑事さん…」  
車内に戻った航を見てみしゃは少しだけ安心した表情を見せた。彼女は手を取っ手に縛られているため座席から身動きが出来ないでいた。  
「赤羽は…」  
「おそらく粉々になっただろうな。」  
「…赤羽とは知り合い?」  
「まあな、いろいろあってな。」  
その時運転席から無線の音が聞こえてくる。  
「9876D、至急停車しなさい!」  
航は運転席へ向かい無線機をとる。運転士はすでに死んでいるようで、運転台には穴があき赤い筋が幾筋も流れていた。  
無線に応答しても無線機は一方的に話すだけだった。自動停止装置も周到なまでに破壊されていた。  
非常ブレーキを作動させても全く機能しなかった。  
「全部…壊されてる…」  
「だったらもう…刑事さんだけでも…逃げてよ…」  
「悪い!そいつぁ出来ねえんだ。今すぐなんか方法考えるから待ってろ。」  
みしゃは何か思い出したように言った。  
「そういえば…富井駅の先に…工事が中止になってた路線があったとおもう…多分途中まで線路もできてたはず…」  
それを聞くと航は意を決したように運転席へと向かった。  
「じゃあ…終点を超えて線路が続いてるところまで行こうぜ!」  
そして航は運転席のマスコンレバーを最大まで引いた。列車は富井駅を通過し車止めをなぎ倒し未成区間に突入した。  
工事中止になってから20年以上たっているが鉄道建設公団にのAB線として設計されているために列車は全く揺れずに走っている。  
踏切も全くないただただ無機質なコンクリートの構造物が続いていた。そして列車は最後のトンネルに突入した。  
航は震えるみしゃをしっかり抱いて身を屈めた。  
 
「本日は道の駅『ふれあい富井館』の会館式にお越しいただきありがとうございます。」  
長年教頭を務めあげ、道の駅の館長となった内山田ひろしが道の駅のオープン式典の祝辞を述べていた。  
「えー…右手に見えますあそこのトンネルは来年には立派な日本酒の貯蔵庫に…」  
そこまで言いかけた時、客たちが騒ぎ始めたのが見えすると一斉にトンネルから遠ざかり始めた。  
何かと思い内山田がトンネルを覗き込むと内部からライトが近づき、そして一気に3両の列車がトンネルから飛び出し、  
線路を外れ列車は駐車場を横滑りしながら、車両は車とぶつかるたびに編成は散り散りになった。そして航とみしゃを乗せた先頭車両だけはそのまま走り続け、  
内山田のクレスタのほうへと向かっていった。内山田はそれをただただ眺めることしかできなかった。  
そして先頭車両はクレスタに当たって横転してようやく停車した。愛車を破壊された内山田はその場に座り込んでいた。  
みしゃと航は人目をはばからずキスをむさぼっていた。  
「今度…時間あったら…どこかで…待ち合わせして…」  
「おう…そうだな…」  
そこには釜石夫婦が子供を連れてきていて、1年に及んだ赤羽に対する感情が吹っ切れていたようだった。  
 
完  
 

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