その日、らいかは新しくできた彼氏と一緒に食事をしに行くことになり、お好み焼き「みゆき」  
を訪れた。  
ところが、相手の男はらいかに対してすでにさめきった感情しか持っていなかった。  
彼女の破天荒な振る舞いとわがままぶりに嫌気がさして、すでに別れたい一心である。そしてこの食事もらいかの一方的なわがままで決まったものだった。  
 
二人が店に入ると、らいかが一方的に予約を取っていた席へ案内された。店に入ってしばらくすると、若い小柄な女性がこれまたらいかが勝手に、予約していた日本酒が運ばれてきた。  
男はここで機嫌をとらないとあとあと面倒なことになるので、らいかの機嫌をとることにした。  
「みんな、お前のこと見てるぜ。」  
「何言ってんの、あんたを見てるのよ。」  
そして勝手にびんの栓を開けると、グラスに注いで一口飲んで、  
「うまい…この苦み、そしてこの香り、このお酒は…東京自暴自棄!違う?ウェイター?」  
しかし加虐的な笑みを浮かべながら得意げ言ったらいかに対して、女性はあっさり言い放った。  
「ハトをカラスというぐらい違います。」  
そしてらいかの手を無理やり取ってヘラを握らせた。  
「広島焼きが冷めます。お客様。熱いうちにどうぞ。ちなみに私はこの店のみゆきです。ウェイターは雇っていませんので。」  
周囲から冷笑が飛び交った。冷たい笑いと裏腹にらいかの顔は真っ赤だ。  
…東京自暴自棄を頼んでおいたのに…!なんで…!こうなったら…仕返ししてやる…!  
そのときらいかは自分の髪の毛を一本抜くと、それを広島焼きの中に混入させた。  
 
そして先ほどの女性を呼びつけた。  
「何よ!この髪の毛!このお店はお客にこんなものが入った料理をお客に出すわけ?」  
ところが…  
「すみません。お客様。私…あまり昆虫には詳しくないんで…」  
その時、らいかの堪忍袋がついに切れた。  
そして…  
「ふざけんなーっ!」  
彼女は渾身の力でこぶしをテーブルに叩きつけ、鉄板ごと広島焼きをたたき割った。  
広島焼きが床に散乱した。ところがみゆきの様子がおかしい。  
「…ちょっとあの髪の毛を取り除いたら…食べれたんじゃないんかねぇ…。三日三晩材料を調達しよるんよこっちは。」  
そしてらいかがみゆきの手を踏みつけると、  
「ちょっと態度が大きいんじゃなくって?こっちはお客よ!お金を払うお客よ!」  
「お金って…腹の足しになるんですか?」  
「…!」  
「腹の足しになるんかって…聞きよるんよ!」  
次の瞬間みゆきが逆立ちになり、プロペラのように両脚を回転させると同時に、らいかは全身に鈍い衝撃が走るのを感じた。  
 
店の中がざわめいている。らいかの手の先から血が散乱した広島焼きの上に落ちている。  
「食べ物を…粗末にしなさんなよ…!広島人の店で…店員に抵抗する事は…自殺に等しいことなんじゃけえね。それをよう覚えときんさい!」  
後篇に続く  
 

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