穴を掘り、その中に抜いた雑草やら落ち葉などを入れる。  
枯葉に火を点けるとパチパチと音を立てて炎が小枝に燃え移る。  
堆肥作りで汚れた手を炎にかざすと、木枯らしに冷えた体にチクチクとした温もりが広がる。  
煙の暖かい香りが辺りの空気を染めた。  
ディコンの周りの動物達も暖を求めて焚き火の近くでまどろんでいた。  
薄っすらと日が翳り始める夕方の幸せなひとときだった。  
ポケットの中から小さい林檎を取り出し一齧りしようとした時、向こうから縄跳びをしながら向かってくるメアリーを見つけた。  
軽い足どりでぴょんぴょん跳ねるメアリーは何か上機嫌な様子で鼻歌なんか歌っている。  
Here am I, little jumping Mary.  
ウトウトしかけた子羊も首だけ上げてメアリーを見た。  
I'm always alone!  
最後の一句を唄い終わると、とん、と靴音を鳴らして座るとニコニコとした曇りの無い笑顔の少年を見た。  
焚き火に照らされて紅くなった頬のディコンは動物達をみるのと同じ目でメアリーに笑いかけた。  
メアリーが炎に手をかざすと小さな手は炎を透かす様にほんのり桃色を帯びた。  
「これ、なあに?」  
「落ち葉やなんかを燃して、その灰を薔薇の根っ子に撒いてやんだ。  
 したら、きっと次の季節には、また花が綺麗に咲くから。手が掛かるんだ、薔薇は」  
「ふぅん」  
メアリーは不思議そうな目つきをディコンに向け、そのまま燃える炎を見詰めた。  
「花の女王様だもんなぁ」  
誰に向けるでもない言葉をディコンが呟くと、メアリーは薔薇の根が柔らかい土の中に潜り込み、  
貪欲に栄養を求めるのに、地上では取り澄まして繊細で優雅な顔をあげている様を思った。  
「わたし、薔薇って好きだわ」  
指をディコンの手の上に絡ませて、頑丈な身体に寄りかかって満足そうにメアリーは言った。  
 
屋敷の窓にぽつりぽつりと灯が見えはじめ、茜色の細長い雲の浮かぶ空に端から藍色が押し寄せてきた。  
「わたし、もう行かなくちゃ」  
メアリーはディコンの肩に頬を埋めて呟いた。  
ディコンは横に置いたきりの果実を思い出してメアリーに差し出した。  
炎の照り返しで夕陽のように赤い。  
 
シャリと、その赤い肌に小さい真珠のような歯を立てて溢れる果汁を啜った。  
じっと空色の瞳を見詰めると澄んだ青空の向こうに赤く燃え上がる太陽が覗くのがメアリーには判った。  
蜜に濡れたままの唇の端を少し上げて、半ば開いたままでディコンの耳元に寄せた。  
「今夜、わたしのお部屋にこっそりきて?」  
そういうと、返事も待たずにさっと縄跳びを抱えて屋敷の方へと走り去った。  
ディコンの目蓋にはメアリーの赤い唇の質感が残った。  
 
メアリーが見えなくなるとディコンはまだ燻っている焚き火にじっと目を落とした。  
一口だけ齧ってある林檎の肌は先刻、間近で見た唇と同じ色。  
少しだけ躊躇いながら、口づけをするようにその林檎を齧ると甘い果汁が口一杯に広がった。  
西日がすっかり沈み、焚き火が消えかけてもディコンはじっと佇んでいた。  
彼の心には様々な思いが渦巻いていたが、火傷しそうなほどの情欲がその渦の向こうに見え隠れしていた。  
そんな自分の心をまだ気付かないで居た。  
 
ベンウェザースタッフが仕事を終え、疲れた様子で通りかかると薄暗い中ディコンが焚き火の後始末をしていた。  
枝で残り火を叩くと暗い空に火の粉が花火のように舞い上がる。  
「肥料か?」  
ベンウェザースタッフが声をかけるとディコンは初めて彼の居る事に気付いた。  
「あぁ薔薇の下に撒くやつだ」  
夕闇迫る中、互いの表情が判然としないがベンはディコンの声が少し大人になったなと感じた。  
少年らしい素直な目も態度も、何時もと何ら相違は見つからなかった。  
違う、と言えば違う。この年齢の子どもはすこし目を離した隙にもぐんぐん育つ、雨季の蔓みたいなものだろう。  
「薔薇か」  
ちらりと視線を花園へ向けたベンウェザースタッフの顔は何時になく寂しげだった。  
「ベン、おめぇ……」  
ディコンは不思議に思って近付こうとするが、振り返ったその顔は何時ものリュウマチ持ちのベンでしかなかった。  
降ろしていた農具を担ぎ、又ぶらぶらと家路へと足を運ぶ後姿をディコンは訝しげに見た。  
数歩行くとベンは又、突然振替えりじっとディコンに視線を向けた。  
「火傷に気をつけろ」  
そういうとノロノロと夕闇に消えていった。ディコンはその後姿を見送りながらその意味を考えた。  
焚き火はすっかり消えていた。  
 
 
晩御飯をコリンの部屋で一緒に食べたあと、メアリーは部屋の隅に置いてあった本を手に取った。  
大きなその本を何気なくめくると、不思議な挿絵が沢山入っていてメアリーは絵ばかりを眺めた。  
後ろからコリンが覗き込むと絵を指差して説明をしてくれた。  
「これはね、魔法の本だよ。お父さんに買ってもらったんだ。  
 僕、もう大抵は覚えてしまったよ。――あぁ、これ魔女だよ」  
 
魔女、といわれた女性の絵は、髪を振り乱し、箒に跨り闇夜を切り裂くように飛んでいた。  
歪んだ口元に仰け反るような体勢で、下肢を細い柄に絡ませる姿で恍惚とした表情すら浮かべている。  
思わず知らずメアリーの表情が強張るのに気が付かぬコリンは、背中からメアリーの肩に顎を乗せて続けた。  
「そうだ、図書室へ行こうよ。あすこになら沢山の本があるから、きっと君が読みたい本も見つかるよ」  
 
そういうと弾けるように立ち上がりメアリーの腕を取った。  
 
 
図書室は少し埃っぽい匂いがして火の気のない暖炉が寒々しい。  
二人の持ち込んだランプの明かりのみに照らされた室内は厚い絨毯が敷いてあり窓にはカーテンが下りていた。  
 
沢山の本を眼の前にすると、メアリーは自分が殆んど本を読んだ事がないので戸惑った。  
こんなに沢山どうしたらいいのだろう?  
大体、読みたい本なんてあるかしら?  
途方に呉れて、適当に色の綺麗な背表紙を引っ張り出すとそれは絵も何も無い面白味のない物だった。  
何冊かそのようにして引っ張り出してはしまっていたが、飽きてくるとコリンが何を探しているのかと気になった。  
 
机の上にランプが置いてあり、その横に数冊コリンの選んだ本が置いてあった。  
その中の一冊を手にとり、ランプを持って暖炉に寄りかかるように座るとページを開いた。  
それはとても美しい本だった。  
 
暗い図書室に、コリンが梯子を滑らせる音とメアリーがページをめくる音だけがし、時間が止まってしまったように感じた。  
コリンの選んだ本は綺麗な彩色の挿絵が付いていて、花の妖精が人間の姿で生活していた。  
その妖精たちはまるで本当に動き出すかのように見えた。  
うっとり眺めていると、ふいにランプの光が揺らめき、薔薇の精がこちらに向かって微笑んだように感じた。  
はっとして頭を上げると、眼の前に音もなく近づいていたコリンがしゃがんでいた。  
暫くは心臓が跳ねたように感じたが、じっとコリンの顔を見詰めるとメアリーは徐々に現実に戻ってきた。  
「その本、気に入ったの?」  
 
コリンは大きな目を見開いてじっとメアリーを見ながら尋ねた。  
視線から逃れたい気持ちと、この本を気に入ったのかどうか分からず質問に答えられないので、  
メアリーは、背中を暖炉の柱にぐっと押し付けて俯いた。  
横に座ったコリンはメアリーの手にある本を見て、それは外国の言葉で書かれていて彼には読めないなと気付いた。  
 
「これは、君が持っていくといいよ。  
 綺麗な絵だねぇ?」  
「でも、少し怖い」  
 
メアリーは臆病な子どもでは無かったし、絵が動くなんて本気で信じるほど子どもでもなかった。  
しかし人気の無い暗い図書室の隅で見るには少し不向きだと思った。  
 
「怖くなんて無いさ」  
 
メアリーの顔を覗き込むように見るコリンに、少し怖がった事が悔しくてメアリーはぷいっと横を向いた。  
ぺらりぺらりとページのめくれる音が続き、その間メアリーは本を見ようともしなかった。  
暫くしてページのめくれる音のしなくなったので、横を見ると、コリンがじっとこちらを見ていた。  
メアリーはいきなり目が合うと少し驚き、尋ねるような視線を向けたが、  
コリンが黙ったままなのでどうしたら良いのか判らなかった。  
 
コリンの手に移った本に視線を落とすと最後のページが開いていた。  
再び目を上げるとコリンの顔が近付いてメアリーの顔と重なった。  
暖炉の柱に押し付けるように唇を押し付けてきてメアリーの息は止まりそうだった。  
 
「イヤ」  
吃驚したメアリーは立ち上がろうとしたが、ガウンの裾を踏みつけて転んでしまった。  
と、その上にコリンが覆い被さりメアリーは立ち上がる事が出来なくなった。  
 
メアリーは驚愕で声を出せなかったが、怖いとは思わなかった。  
抵抗しないメアリーの部屋着の上からコリンの手が滑り徐々に素肌に触れる所へと伸びていった。  
ボタンの隙間から指先で素肌を撫でると滑々としてまるで花弁のような触感だった。  
ボタンを外して掌をすっぽり入れると思う様、メアリーの身体を撫で回した。  
小さな膨らみを感じる胸は、中央部分がぷっくりと柔かく、そこをコリンは神聖なものの様に触った。  
クルクルと指を回すように撫でるとぽっちりとした突起が硬くなり、メアリーの頬に赤味が差した。  
メアリーの呼吸は速くなり、逃れようとする動きも強くなった。  
 
「イヤぁ」  
ズルズルと床を背中で滑るように逃れようとするメアリーを引き戻し、コリンがメアリーの髪に顔を埋める。  
メアリーの髪は柔かくふんわりとしてコリンは女の子の柔かさを知った。  
ここは、ここは?とメアリーの身体中を撫で回す。  
スカートを捲り上げて下腹部に行き着いた時、そこは最も柔らかいと気が付いた。  
下着の上から股を擦ると自分のと違い何も抵抗が無かった。  
知識はあっても、実際見たことの無い生身の身体に触れてコリンは歯止めが利かなくなっていた。  
執拗に捏ね回され、下半身が疼くのをメアリーは感じた。  
 
「駄目、駄目!」  
 
しかしコリンはメアリーの声が聞こえないかのように敏感な所を探った。  
指先が少し埋もれるように押すと、ビクンとメアリーの脚が跳ねた。  
そのまま、指をどこまで差し込めるか確かめるように動かすと、  
メアリーの腰が怯えたように引けた。  
くにゅっとした感触に指を遊ばせていると、ドロワーズに粘つく染みが出来た。  
余り強く押さなければ良いと思い、コリンは指を回すように動かすと、  
メアリーの身体がその動きにあわせるように震えた。  
染みの粘りは増してコリンの指の動きもその潤いで滑らかになった。  
コリンはそこがどうなっているのか見て確かめたかった。  
手を下着の中に突っ込んで直に触ろうとするとメアリーが噛み付くように言った。  
 
「止めてよ、わたしの方があんたなんかより力が少し強いんだから。振り払えるんですからね!」  
「でも振り払わないじゃないか」  
「出来るわよ」  
「やってみなよ」  
「やるわ」  
 
そういうとメアリーはコリンの顔をぐっと引き寄せて口付けた。  
メアリーの舌の巧みな愛撫にコリンは力が抜けたようになった。  
 
「メアリー?」  
 
口が離れると、うっとりとした声で囁くようにコリンが呼んだ。  
瞑っていた目を開くとコリンはメアリーに組み敷かれている事に気付いた。  
 
「止めて、って言ったじゃない」  
メアリーの顔は真剣だった。  
怒ってる?コリンはメアリーの顔を見て思った。  
 
「……ご免」  
「許さない」  
 
ランプの光で、膨らんだ頬に睫毛の影がはっきりと映るメアリーの顔は挿絵よりずっと綺麗だとコリンは思った。  
メアリーはコリンのシャツの前を開き、冷たい手で胸を撫で上げた。  
「冷たいよ、メアリー」  
コリンが悲鳴のような声を上げてもメアリーはせせら笑ったような顔で続けた。  
「あんただって同じ事したのよ?」  
「だから、謝ったじゃないか」  
 
謝罪を受け入れないメアリーはそのままコリンの乳首に舌を這わせ、ズボンの上から股座を探った。  
図書室の中で唯一、熱いそこを剥き出しにするとメアリーは軽蔑したように鼻で笑った。  
コリンは自分の身体が思い通りにならず泣きそうな声を上げた。  
「メアリー、メアリー」  
 
メアリーは立ち上がり、床の上に仰向けで自分の名前を呼び続けるコリンをじっと見ていた。  
華奢な体躯で、同じ年だけれどもメアリーより力の弱かったコリンでは在ったけれど、  
健康になって、男の子だからきっとその内メアリーよりずっと力も強くなってしまう。  
メアリーは悔しさと、少しの寂しさを感じた。  
反り返ったコリンの股をそっと足先で突付き、皮を少し引っ張るように足を動かすと、  
硬くなっていたそこは更に膨らんだように思った。  
小さい足の指で、痛々しく反り返った筋を触るとコリンの口から呻く様な声が漏れた。  
意地の悪い気持ちになって、メアリーの足は、ぐにぐにとコリンの下腹を突付き続けた。  
 
「メアリー止めてよ、もう止めて」  
「止めない」  
 
コリンはメアリーの非情な声を聞いて、しかし、ゾクゾクするような快感を感じた。  
下半身を鈍痛を感じるほど弄ばれ、コリンはメアリーの足を震える手で掴んだ。  
その瞬間メアリーは、はっとしたように足を引いた。  
 
「止めないで」  
「止める」  
「イヤだ」  
「イヤ」  
 
掴んだメアリーの足をコリンは自分の下半身に擦り付けた。  
コリンの指先の力は思ったより強く、片足で立っているとバランスを崩しそのまま座り込んだ。  
足をまるで身体ではないように扱われてメアリーは憤慨した。  
そしてコリンの満足の為だけに扱われている事も心外だった。  
 
「我儘!自分勝手!」  
メアリーが喚いてもおかしな体勢で足を掴まれて抜け出す事は出来なかった。  
じたばたと手を振り回すと先ほどの本が手に当たった。投げつけてしまおうか?  
一瞬、そんな考えが閃いたが先ほどの妖精の顔を思い出すととても出来やしなかった。  
コリンの息遣いが荒くなり、足が汚れた。  
全て出し切るとコリンの指の力が抜けた。  
足を引き抜いても残るコリンの指の力にメアリーは愕然とした。  
コリンはメアリーの柔らかい髪の毛にキスをして精一杯優しい声で謝った。  
メアリーはそんなコリンの手を振り払い、突っぱねた。  
「キライキライキライ!」  
「謝っているじゃないか」  
コリンの顔が曇り、気難しい表情が浮かんだ。  
「許さない」  
「我儘!」  
「知らない!」  
メアリーはぷいっと立ち上がってコリンを残して自室へ駆け戻った。  
 
扉を音を立てて閉めるとそのまま座り込んだ。  
お風呂に入ろう。  
今夜、ディコンが来る。  
 

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