秘密の花園/バーネット夫人
あらすじ:インドで育ちの我儘な少女メアリーがヨークシャーの自然に触れ合って心身ともに成長するお話。
登場人物
メアリー・レノックス:10歳インドで両親をコレラで亡くして伯父の元に引き取られる。元我儘お嬢。
ディコン:12歳ヨークシャーの自然児。マーサの弟。
コリン:10歳メアリーの従兄弟。病弱、我儘、坊ちゃん。せむしにならないかと不安でいっぱいだった。
マーサ:屋敷の女中。なんか良い奴。
アーチボルド・クレイヴン:メアリーの伯父。10年前妻を事故で亡くす。せむし(本当は背が高くて肩が曲がってるだけ)
あの、父息子の出会いの後、メアリーは塞ぎがちになった。
独りで外へ行く事が多くなり、ともすると花園もディコンに任せたきりにする日も多かった。
陰鬱な部屋に独りでいると、高い窓から見える荒地が風の吹くたび波のようにうねるのが見える。
花園は秘密でなくなり、全ての秘密は白日のもとに曝け出された。
胸の躍るような内緒事はもう何もない?
昔ならばこんな時、メアリーは苛々と当り散らしただろうが、今は切なげに内に篭ってしまうだけだった。
ソファに深々と身を沈めると、軽く溜息をついた。
外をぼんやり眺めているとマーサがお茶を持ってきた。
「最近あんまり外に行かないみたいだね?」
お茶の支度を調えると、マーサは話したそうに出てゆかず編物を手に取った。
メアリーは何か曖昧に口の中でもごもごと応えると紅茶を啜った。
紅茶は熱すぎて冷たいミルクを入れると丁度いい具合になった。
マーサは毛糸を指先で弄りながら続けていった。
「弟が最近あんたの事を見かけないんで心配していたよ。
もう花園にはこないんじゃないかって……」
メアリーはそこがどんなになっているだろうかと想像できた。
蔦の葉は真っ赤に燃えて壁の苔の緑とのコントラストが鮮やかだろう。
駒鳥は赤い木の実を咥えて羽ばたくだろうし空は抜けるように澄んでいることだろう。
あぁ、それはきっと綺麗なんだろう!
「そう、ねぇ」
気の無いように言ってみても、メアリーの頬は自然と上気し眼が輝くのを見るとマーサはにっこりと笑った。
マーサって人の心を読む魔女かしら?とメアリーは一瞬考えてしまった。
その晩、月の光が荒野を照らし草がさらさらと音をたてる中、メアリーは美しい夢を見た。
花園の中、あずまやの中でメアリーは独り佇んでいた。
夏の宵だった、ライラックが甘い馨を漂わせ、睡蓮の合間に月影が揺らぐ。
耳を澄ますと誰かの呼び声がする。
メアリーは声のするほうへと振り返ると、伯父が随分若い様子で
息せき切って、薔薇のアーチを抜けて此方へと駆けて来るのが見えた。
リリアス!リリアス!
メアリーは自分がリリアスである事を知っていた。
駆け寄った若い男の首に手を廻しその黒い髪を撫でた。
伯父の息が頬に掛かりメアリーの胸は高鳴った。
「貴方、逢いたかったんです。……ずっと。あのブランコから落ちて、あちらへ昇ってもずっと。
あれから貴方がずっと塞ぎこむのを見るにつけ、私の心は痛みました。
もう悲しい顔をなさらないと誓って下さいな」
自分の口から漏れた切ない台詞に少し驚きながら、
メアリーはじっと若い伯父の顔を見詰めた。
その顔に憂いは無く、黒い瞳は愛に輝いていた。
「誓うよ、約束する。だからもう何処へも行かないで。おまえも約束してくれるね?
もう一度一緒に……」
メアリーの両手を取り、自分の胸に押し当てて、力強く抱き寄せた。
伯父さん、こんなにお綺麗だったの。
メアリーは感心したが、池に映る自分の姿も美しい女性になっている事に気付いた。
あの壁の絵と同じ姿になっていた、コリンのお母さまだ。
頼もしい腕に抱かれながら、その顔が近付くのを感じると自然に目が閉じた。
辺りに鬱蒼と茂る薔薇の花が咽るほどの香気を放ち、睡蓮の花が一つポンと音を立てて開いた。
その瞬間、身体がぱっと宙に投げ出されたように感じた。
「リリアス!リリアス!」
伯父の伸ばした手はメアリーに触れる事も出来ず、虚しく空を彷徨う。
悲鳴のような伯父の声が聞こえるとメアリーも声を張り上げて叫んだ。
アーチイ!アーチイ!
アーチィ……
アー……
目が覚めると頬が涙で濡れていた。
布団がはだけて剥き出しの腕が冷たい。
涙をこすると窓の外に目を向けた。外は未だ暗い。
今の夢は花園が見せた幻なのだろうか?
伯父の美しい顔立ちが目蓋に焼きついていた。
美しい夫婦だと思った。
そろりとベッドを降りると裸足に床が冷たい。
足の指を縮こまらせてガウンを引っ掛けるが、スリッパが見当たらない。
ランプに火を入れるとほっとした感じが部屋に広がった。
自分の姿を鏡に映すと、痩せっぽっちで不安顔の小娘がそこにいた。
鏡に向かって不機嫌な顔をしてみて、少し哀しくなった。
優しいえくぼなぞ、望むべくも無かった。
メアリーは帽子を被りブーツを履いた。
使う事の無くなった鍵を外套のポケットに入れるとこっそり屋敷を抜け出した。
花園へと向かう中、白い月の光だけが行く先を照らしていた。
はあはあと息吐くたびに白い湯気が蒼い空へと昇って行く。
悴んだ指先をポケットに突っ込み早足で歩いた。
鼻先を赤くしてメアリーは久しぶりで花園の中へと入った。
ぎいっと静寂を破る音を立てて扉が開くと、ひっそりとして、厳かで、天国のようだった。
未だディコンも来る前の、皆夢の中にいるときにこそ此処はメアリーだけの秘密の花園になる。
ポケットの中で握り締めた鍵が暖まる。
それは、そのとき世界で唯一の暖かいものだった。
枯れ草をカサカサと踏みながら、夢で見たあずまやへと進み、
白い手摺に凭れかかるようにして、冷たい石段に腰を下ろした。
眼の前にはディコンと一緒に手入れをしたジャスミンの茂みやら、
前に草むしりをした、水仙の球根の跡が過ぎ去った季節を物語っていた。
ほんの少し物悲しさの漂う花園は、次の春までゆっくりと眠りに落ちてゆくように見えた。
膝を抱えて、ぼんやりと辺りを眺めると、夢の光景がまざまざと蘇り、メアリーは思わず唇に手を触れた。
冷たい唇が、爪の先で微かに震えている。
「……アーチ‥ィ……?」
恐る恐る、そっと声に出してみるとその響きは優しく、懐かしく辺りに沁み込んでいった。
それは伯父、アーチボルド・クレイヴン氏を、亡くなったその妻が呼ぶ名だ、ということは疑いもなかった。
「でも、なぜ?」
メアリーは何故自分がそんな呼び方を知ったのか、あの夢は一体何だったのか、と
唇が微かに触れた夢の記憶を留めていた。
つらつらと考えていると、その内、再び眠りに落ちてしまった。
朝の陽射が花園の中を温め、露に樹木の幹が湿ると小鳥たちが目を覚ました。
金色の陽光がメアリーに降り注ぎ、髪の毛は滑り落ちる黄金の滝のようだった。
駒鳥がメアリーの側に来て、おはよう、おはよう、と囀っても、メアリーの眠りは覚めなかった。
その内、駒鳥も飛び立ってメアリーは夢も見ないほど深い眠りに取り残された。
「……メアリーさん?メアリーさん」
花園に来たディコンが声を掛けるとメアリーは眠りの底から徐々に浮上しはじめた。
膝で組んだ手をディコンの狐が舐めた時、メアリーの眼はようやく開いた。
「メアリーさん、こんな所で寝たら身体に良くない」
ディコンは横に座り、そう言うとメアリーに上着を着せ掛けた。
メアリーは上着に頬をうずめるとディコンの匂いをかいだ。
大きな上着は野原の匂いがしてお日様みたいに温かだった。
自分の身体が大変冷え切っている事に気付くと、そのままディコンの胸に擦り寄った。
「どうしたってんだ、一体……」
ディコンは驚いてメアリーの肩を離そうとするがメアリーは益々きつくディコンにしがみ付いた。
メアリーの髪の毛がディコンの鼻にふんわりと触れる。
柔らかい身体は野ウサギの様だった。
「わたし、何も、何にも持ってないの。ちっぽけな秘密も何にも……
全部無くなってしまったわ」
ディコンはメアリーが泣いているのかと思い再び吃驚した。
しかしメアリーは泣いてなぞいなかった。
「あんたは沢山素敵なものを持っているわね」
メアリーは呟いてディコンの首に手をまわすと、
大きな瞳で、ディコンの青い瞳の奥まで見透かすように、じっと射すくめた。
ディコンはこのヨークシャーの自然を全てもっている、温かな家族も、何もかも。
両親を無くし、家を無くし、秘密すらも無くした自分と大きな差がある。
メアリーの顔は夢の時と同じようにディコンの顔に近付き、唇が触れ合った。
そのまま、階段に押し倒し、メアリーはディコンに覆い被さるようにして唇を合わせ続けた。
圧し掛かるメアリーの身体をディコンが持ち上げると金色の髪の毛が解れて朝日を透かし輝いた。
伏目がちな睫毛がほんのり桜色の頬に蔭を落として艶やかな唇は少し震えていた。
「メアリーさん、綺麗だ……」
思わずディコンが漏らすと伏せた目を上げて二人目を見交わした。
ディコンは照れたように、にっと歯を見せ、メアリーも思惑を湛えた微笑みを向けた。
「前、言っじゃないか?お前さんの事、素晴らしく好きだって。
何も持ってないわけじゃない。おらはメアリーさんのもんだ」
「本当に、わたしだけのモノ?あんたの事、全部?」
メアリーはディコンに跨り、シャツの中に手を滑り込ませた。
「此処も、此処も?」
冷たい指で素肌を触られると、ディコンは今まで感じた事の無い感覚にゾクゾクとした。
抵抗しないのを見て取るとメアリーはシャツの前を開けて、首筋からつっと指で撫で下ろした。
「ふぁっ」
声が跳ね上がるように漏れると、メアリーはその口に指を当てて言った。
「声を出さないの、秘密が漏れちゃうわ」
ディコンが真剣な顔をして頷くと、メアリーは嬉しそうに頬にキスをしながら耳元で囁いた。
「好きよ、あんたの事。好きよ」
囁きながら顔はディコンの肩に降り、柔らかな筋肉の張った胸に鼻を摺り寄せながら舌で乳首を突付いた。
「っ…」
ディコンは必死に声を堪えながらメアリーの顔を引き寄せた。
少し不安げな潤んだ瞳がじっとディコンを見下ろす。
「いけない?」
そんな瞳に見下ろされ拒否するなぞ出来ない相談だった。
メアリーは不敵に微笑むと、ディコンの口に舌を滑り込ませ、
左手で髪を、右手でディコンのズボンを擦った。
ディコンの股間は硬くなってメアリーの掌の中で熱くなった。
むくむくと頭を擡げる股間を慈しむように優しく撫でるとメアリーはズボンの中に手を差し込んだ。
直に素肌を触ると、ディコンははちきれんばかりに膨らんでいた。
「あんたは、どこでこんな事を覚えたんだ?こんな……」
「――インドは、ヨークシャーとは違うわ」
メアリーはくくっと声を押し殺して笑うと、そう言って掌の中の塊をそっと撫でた。
腹にくっつくほど反り返ったモノは熱い血潮の流れがどくんどくんと脈打っていた。
指の間で硬くなるのをメアリーは愛しいと感じた。
少し粘つく先端から指で根元まで引っ張るようにして締め付ける。
ディコンは腰に力が入らないでメアリーの為すがままにされていた。
すこし獅子鼻のディコンの鼻と筋の細いメアリー鼻が擦れ合うとメアリーの瞳は悪戯っぽく煌いた。
ぐっと両手をつかいディコンのズボンを引き下ろし、充血した所を大気に晒した。
剥き出しになった下半身を、ディコンは慌てて隠そうとしたが、
メアリーはそこに顔を寄せて、ふっと息を吹きかけると思い切って唇をつけた。
小さい動物にするように、優しいキスを繰り返す内、粘液が少しずつ漏れてきた。
それを舌ですくう様に舐め上げると、柔らかい皮膚の内側がカチコチに張っているのが判った。
ちらりとディコンの顔を見ると、辛そうに眉間に皺を寄せて拳を握り締めていた。
「気持ち良い?でも、もっと気持ちよくなって頂戴ね」
メアリーはディコンの幹を小さい口に頬張ると唾液を絡ませて唇を上下させた。
舐めている時はじゃれている仔猫の様だった。
今はディコンを喰らう野獣のようだ、とメアリーは感じた。
ディコンなら良い、大好きな人ならば寧ろ食べてしまいたい。
メアリーは自分をインドで見た虎のように感じ、猛々しくディコンに挑んだ。
鼻息も荒く、メアリーの口は若々しい少年を容赦なくしゃぶった。
どうしたらディコンはもっと気持ちよくなるのかしら?
考えながら舌を隅々まで伸ばし絡ませた。
球根から芽吹いたばかりのクロッカスのような塊は、小さな舌に嬲られて一気に開花しそうな勢いだった。
ディコンの顔が紅潮し、吐く息も荒く熱っぽくなると、メアリーも嬉しくてつい熱心になるのだった。
もっともっと、ディコンの事知りたい。この不思議な少年の全てを自分のものにしたい。
メアリーの中に新しい感情が生まれて胸が高鳴った。
「あんた、まだおらの事好きか?酷いことした?」
ぎこちなくヨークシャー訛りを使うメアリーはとても可愛らしく見えた。
紅潮した顔はまるで林檎の花弁のようで、太陽を背にして天使と見紛うばかりに思えた。
ディコンは起き上がると、両手でメアリーの顔を包み優しくキスをした。
一瞬、自分の性器を咥えた唇を思ったが、それすらも貴いものに思えた。
「勿論、大好きだ。ずっとずっと大好きだ」
太陽の熱に地面が温まり、メアリーも温まった。
ディコンに抱きしめられて、やっと自分の巣を見つけた気がした。
メアリーはディコンの胸に額を押し付けた。
「メアリーさんは寂しい顔なんかしちゃ駄目だ。
今度は、メアリーさんにも気持ちよくなってもらいたいな」
ディコンは少しはにかんで言うと胸の上のメアリーと目が合った。
真面目な顔でメアリーは考え深げに言った。
「今は駄目。でも、きっと……いつか、ね。
あんた、私の巣になってくれるわね?」
ディコンは、あの誰もが彼を好きになってしまう澄んだ笑顔をメアリーに向けた。
屋敷では朝の賑々しさが始まろうとしていた。
マーサの来る前に部屋へ戻らなくては。
そして、この秘密の巣を誰にも、決して話すものか、と、メアリーは自分に言い聞かせた