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お互いに思い合っていてもきっかけが無いと進めない――私たちもそんな時期だったと思う。  
あの日、私は藤臣くんにいつものようにアパートまで送ってもらった。  
コーヒーでもと引き止めたのは私。ドアに鍵を掛けたのは彼。  
唇を重ねるだけの優しいキスを交わすと、さっきの映画が甦る。  
とても切ないラブストーリー。  
彼が何事か耳元に囁いたと思う。抱きたい――そう聞えた。  
一瞬で真っ赤になったのがわかる。どうしたらいいのかわからない。  
何か言わなきゃいけないと思って口から出たのは  
「汗かいたよね。シャワー浴びる?」  
って台詞――映画の中で恋人が言っていた――だった。  
外は暑かったけど、ドキドキして汗だくなのは私なのに。  
藤臣くんは笑って言う。  
「そうか、じゃあシャワー借りる」  
彼の照れた表情から同じシーンを思い出していたのだと感じる。  
 
私が焦ってドジをすると彼は穏やかに微笑んで手を差し出してくれる――この手に何度励まされたことか。  
この日が訪れても私は彼に全てを委ねようとずっとずっと前から決めていたのに……  
 
 ベットに座った彼が戸惑う私に手を差し出した。  
真っ直ぐに見つめる彼の瞳に私の迷いは消え去り、その手に自分の手を重ねる。  
彼は手をぎゅっと握り締め、私を引き寄せた。  
その途端、私はバランスを崩して彼の胸の中に倒れ込み、小さく悲鳴を上げてしまう。  
 
「後悔はさせない」  
 私を抱き締め、彼はそう言った。うん――そう頷くことしか出来ない。  
本当はもっと伝えたいことがあるのに言葉にならない。  
付き合い始めた時のような胸の高鳴りが、何だか気恥ずかしい。  
でも、彼のことがとても好きで、愛しくて大切で、ずっと一緒にいたいと心から願うから、  
私も一つになりたいと思ってる。  
 唇を重ねたままベットの上に倒れ込む。彼の重さが心地よい。  
 初心な私はどうして良いのか見当もつかない。ただ彼の為すまま染まって行く。  
熱を感じ合うように唇を合わせ求め合う。彼の舌が口腔の中に入ってきた。  
舌を絡ませ、お互いを味わうと、体が熱くなり、肌に微かに触れる感触にすら火傷しそう。  
首筋を唇が伝い、服の上から乳房を包まれると、コンプレックスが頭を過ぎる。  
Tシャツの中に手が入ってきて素肌に触れ、背中に回りフォックを外す。  
胸が小さいって言う私の悩み――今更隠せないけど、やっぱり気になる。  
彼の目に晒すのに耐えられない。  
「で、電気を消して……」  
やっとのことで声に出す。  
「ああ、気付かずに悪かった」  
と、灯りを消してくれるけど、豆球の光は残っている。  
 
「あの……ね、これも消し――」  
私に最後まで言わせずに彼は唇を塞いだ。  
「……おまえの姿が見えない」  
私の顔を覗き込んで彼は言う。彼の腕に抱えられ上半身を起すとTシャツがあっという間に脱がされてしまう。  
ブラも外れ、裸体をさらしてしまったけれど、彼はとても優しく私の肌に指を這わせ、小さな胸に唇を付けた。  
私は体の奥が熱くなるのを感じる。  
恥ずかしいけど触れて欲しい――中から溢れてくる想い。  
彼の大きな手で乳房を包みこまれ優しく揉まれて、乳首を指で摘まれた。  
「……ぁっ――」  
ビクンと体が震える。今のは何?  
自分の体に戸惑い、意図せぬ声が漏れて恥ずかしくてジタバタしている私を、彼は優しく包み込んでくれる。  
何度も何度も胸を愛撫され、自分でも驚くところが熱くなり疼いている。  
彼が私の足をそっと開き、そこへ手を伸ばす。体の中を電気が走り抜けたような衝撃を感じる。  
指が動かされるとクチュクチュと音がする。  
更に指が動くと身の置き所に困るような疼きに包まれて、もどかしくて指先にも足にも力が入ってしまう。  
押えきれない感覚に声が漏れて、私はもうどうしたらいいのか分らない。  
体中が彼の名を叫んでいる気がしていた。  
 
いつの間にか彼も服を脱ぎ裸になっていた。  
薄明かりの中、彼の逞しい体が目に焼き付く。  
自分だって産まれたままの姿なのにドキドキしてしまう。  
でも不思議、恥ずかしい気持ちはあるけれど、目が離せない。ずっと見つめて触れていたい。  
ぎこちなく彼の頬に手を伸ばすと、泣きたいほど切なくなりキスをする。  
初めてかもしれない――私からキスをしたのは。  
「どうした?」  
私からのキスに驚いたのか彼が尋ねる。  
なんて答えたらいいのだろう――わからない、この気持ち。もどかしいよ。  
言葉が見つからず首を振り、もう一度キスをする。  
思いが伝わったのか彼は私に覆い被さるように強くキスを返してくれた。  
髪を撫でられ、背中に回した手に力を入れて抱き締められると、腿の辺りに硬い物が当たった。  
その正体に気付く――私と同じように彼も疼いているのかしら。  
 
再び私の熱い部分に手が伸び、指で刺激を与えられ始める。  
私の意思には関係なくビクビク反応して――体が何処かに行きそうで怖い。  
だから何かに掴まりたくてシーツを握り締める。  
甘い疼きが掛けぬける度に、呼吸が乱れ喘ぎ声が混ざってしまう。  
そこは熱くて蕩けそうなのに、疼きが後から後から湧き上り止まらない。  
つま先にぎゅっと力が入り、その瞬間、ポーンと何かが弾けた。  
えっ?何、今の?――心臓がドキドキ激しく鼓動して息が苦しい。  
体も痺れてる感じだけど、嫌な感じではなくて、上手く言えないけど――気持ち良かった。  
 
「入れるよ……」  
そう彼の声が聞える。言われた意味に気付き、小さく頷く。  
足を広げられ、彼が体を押し入れる。  
何かを探るように手が動き、熱い場所を何度か硬い物が行き交った。  
そしてゆっくり私の中に何かが入ってきた。  
「――力を抜いて」  
そんなこと言われてもどうしていいのか分らない。  
グイッと力が込められた途端、引き攣れるような強い痛みを感じる。  
私は痛くて小さな悲鳴を上げてしまった。  
何で痛みがあるのだろう――世界で一番好きな人と一つになったのに。  
痛いって聞いたことあったけれど、本当に痛いんだ。  
悲しくないのに涙が出てきちゃった。  
「大丈夫か?」  
彼の声が耳元で響く。  
優しく髪を撫でられ、キスをされているうちに痛みが和らいできた気がした。  
 
「大丈夫」  
そう告げるけれど、彼は心配そうに私の顔を覗き込んでいる。  
ぎこちない微笑を浮かべて、もう一度頷いて見せた。  
そんな私に、困った顔をして彼はゆっくり動き出しす。  
彼の荒々しい息遣いが聞え、動きが段々激しくなっていく。  
私は何処かに飛ばされそうで彼に必死でしがみつき、痛みと微かな甘い疼きに飲み込まれていく。  
一瞬のような、長い時間のような後、彼が私の上に覆い被さってきた。  
ドクドクドクと言う鼓動と荒い息が聞えるけど、自分の音なのか彼のものなのか分らない。  
二人の音が重なり交じり合って聞えている。  
 
暫らくして目を開けると、引き締まった彼の顔があった。  
そして、とても優しく静かに彼の唇が私に触れる。  
 
「……好きだ」  
大きな彼の腕の中に包まれて、確かにその言葉を聞いた。  
 
嬉しくて、でも体がだるくて痛くて、眠たくて――私も好きだよ――と答えたつもりなんだけど……  
そのまま幸せな夢の中へ落ちていったみたい。  
 
 
翌日、彼の腕の中で目を覚まし、一人でうろたえ、照れて恥ずかしがって  
――そんな私に彼は微笑んで、優しいキスをしてくれた。  
これは初めて二人で迎えた朝のこと。  
触れ合いたいと言う自然な思い。でもきっかけが無くて、ぎこちなかったあの頃。  
 
それから二人で時々、朝を迎えるようになった。   
 
  ―― end ――  
 

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