〜麗芳乙女の一大決心を告げ、鳳月ますます尻に敷かれるのこと。〜
カン!キン!ガキョン、カンッ!
山の中腹にある妖しげな洞窟の中で、馬面の巨漢と女顔の小柄な少年が、激しい剣戟の音を響かせていた。
馬面と言っても顔が面長って意味じゃなくて、人の身体に馬の首を生やした、いかにもって感じの妖怪である。
少年とは背丈だけでも三倍近く差があるんだけど、押されているのは馬面妖怪の方だ。
しかしそれも当然のこと。その少年は、力の大半を封じられたとはいえ、以前は天界の神将の一人。
捕らえた敵を独断で逃がした罪によって下界に落とされた、元破軍星君の鳳月くんだった。
「でりゃあっ!」
ズバドコバシドカッ! ……ズズゥン!
気合一閃、鳳月は白金に輝く刀──鶴翼斬魔で勢い良く斬りつけると、相手を思い切り背後まで吹っ飛ばした。
袈裟懸けにバッサリやられた馬面妖怪は、マッハの速度で岩壁にぶつかり、地響きを立てて倒れ込む。
危なげなく勝利を決めた鳳月が、ピッと刀の血糊を振り払った時、背後から新たな人物が現れた。
「あ、鳳月くん。そっちも片付いた?」
「たった今な。それで、さらわれた娘さん達とかは見つかったか?」
「うん。ついでに残りの雑魚も全部片付けてきたわよ。意外と大したことなかったわね」
活発そうな雰囲気の、金色の瞳をしたその美少女は、鳳月に向けてグッと親指を立てて見せた。
こちらは、自分を救う為に罪を被った鳳月を追って、少し後から下界に降りてきた麗芳だ。
配下の妖怪までがこんな可愛らしい小娘に全滅させられたと知り、倒れた馬面妖怪は最後の力で訊ねる。
「お、おめぇら一体、何モンだ……?」
「俺か? 俺は北斗破軍せ……っとっと」
「下界の悪を叩いて砕く! 金仙華児の李麗芳! 正義と愛の元仙人よっ!」
クビになった役職を言いかけて口篭もった鳳月をよそに、麗芳は胸を張って高らかに名乗りを挙げる。
見せ場を取られた鳳月は、あうあうと口を開け閉めしてから、やがて寂しそうにションボリと肩を落とした。
天界から荒野に降り立った鳳月と麗芳が最初に辿り着いたのは、山の麓にある結構大きな街であった。
更に二人にとっては実に都合が良い事に、その街は棲み着いた妖怪達から、色々とひどい仕打ちを受けていた。
追放された鳳月の刑期を縮める為には、下界で悪事を働く妖怪どもをコツコツ退治していくしかない。
早速のチャンスに、二人は勇んで妖怪どもの潜むという山へと向かい、アジトの洞窟に強行突入。
盗られた財宝や連れ去られた娘さん達も無事に取り戻し、その日の内にあっさり街へと凱旋したのだった。
「──という訳で、悪い妖怪はわたしとこの鳳月くんとで、きっちり退治してきましたから」
「あ、はぁ……。しかし、まさか本当に奴らを倒すとは……」
軽いお使いでも済ませたような麗芳の言葉に、街の領主であるおじさんは、かなり呆然として呟いた。
屈強な兵士達でも敵わなかった妖怪どもを、こんな少年少女が蹴散らしたって言うんだから、まあ無理もない。
だけど、数台の馬車に山と積まれたお宝とか、戻って来た街の娘達を見れば、さすがに納得するしかないだろう。
軽く首を振って何とか気を取り直すと、領主さんは鳳月たちに向かって深々と拱手した。
「いやいや、おみそれ致しました。まだお若いのに、さぞや名のある武人に師事されたのですな」
「えっ? ああ、まあ、そんなような感じで……」
慣れない尊敬の目で見られた鳳月は、ポリポリと頬を掻きつつ適当に話を合わせた。
別に隠す必要はないけれど、「実はちょっと前まで天軍の神将で……」なんて一々説明するのも面倒臭い。
相手が勝手に誤解してくれたんならそれでいいかと、隣の麗芳とアイコンタクトを取って頷く。
「今宵はお二人への感謝も含めて、祝いの宴を開こうと思います。どうぞ私の館にご逗留下さいませんか?」
「えーと、いいよな、麗芳?」
「もっちろん!」
数日ぶりのちゃんとした食事と、あったかいお風呂やふかふか布団への期待に、二人の顔が自然に緩んでくる。
取り巻く街の人々の大歓声を受けながら、鳳月と麗芳は領主さんの後をついてトットコ歩いていった。
◇ ◇ ◇
妖怪どもが退治された事を祝うその晩の宴席は、そりゃもう盛大なものだった。
参加した誰もが、立役者である鳳月と麗芳を口々に称え、争うように料理やお酒を勧めてくる。
お酒と褒め言葉のどっちにも弱い鳳月は、おかげで赤面し通しだったりもしたが、決して悪い気はしない。
そうして、盛り上がる会場からやっと二人が解放されたのは、夜もかなり更けてからの事だった。
「ほら鳳月くん、だいじょうぶ?」
「ん……、ああ。へいき、へいき……」
麗芳に時々手を貸してもらいながら、ちょっと千鳥足になった鳳月は、用意された客間へと向かっていた。
部屋の入り口まで辿り着くと、案内してきた使用人のおばさんは、にっこり笑って立ち去っていく。
その笑顔には、何やら含む処があったようにも見えるが、酔っ払った鳳月はそんな事にも気が付かない。
かなり立派な調度の部屋に踏み込んだ鳳月は、そこで入り口の近くに積んである荷物の山に目を引かれた。
「あれ、なんだろこの荷物? あのおばさん、部屋を間違えたのかな?」
「なに言ってんのよ。わたしたちへの報酬に決まってるでしょ?」
「ほ、報酬っ!? こっ、これ全部かっ!?」
続いて部屋に入ってきた麗芳の言葉に、鳳月は思わず酔いも忘れて、素っ頓狂な声を上げた。
見たところ、野宿用の天幕や保存食、紐で束ねられたお金エトセトラと、小さい荷車が必要な程の量がある。
下界の物価なんてまるで知らない鳳月くんでも、これはかなりの金額になるだろうって位は見当がつく。
「なっ、なあ、少し貰い過ぎじゃないか? この半分ぐらいでも充分……」
「……あのね、鳳月くん」
雑魚妖怪を退治したお礼としちゃ少し多すぎるように感じた鳳月は、うろたえて気弱な発言をする。
そんな鳳月に向けてチッチッと指を振ると、麗芳は噛んで含めるように語り出した。
「いい、考えてもみて? わたしたちが行く先々で、必ず妖怪が悪さしてる可能性なんて、まず無いのよ?」
「え、いや、そりゃまぁな……」
至極もっともな麗芳の言葉に、鳳月は気圧されたように同意した。
そうゾロゾロと悪い妖怪がそこら中に跳梁跋扈していたら、下界の人間だってたまったもんじゃない。
むしろ大方の街や村では、妖怪の姿どころか、噂さえ聞かないって処の方が一般的だろう。
「それに、妖怪に迷惑かけられてる人がビンボーだったりしたら、無理にお礼を取ったり出来ないでしょ?」
「うん、まあ、それもそうだけど……」
これまた当然な理屈に、鳳月はあいまいに頷いて見せた。
もともと自分たちの都合で妖怪退治をするってのに、貧しい人々からお礼を強要するなんて、言語道断だ。
鳳月が話を呑みこんだと見て取って、麗芳は更に説明を続ける。
「でも、他に仕事なんてしてたら戻るのが遅れるだけだし。だったら、稼げる時に稼いでおくべきでしょ?」
「そ、そんなもんかな……?」
「まだ納得できない? それとも、このさき街中で野宿したり、野良犬と一緒に残飯漁ったりしたい?」
そういう言い方をされちゃうと、鳳月もこれ以上、ウダウダと異議を唱える事は出来なくなった。
大体、いくら根本的には罰だからと言って、何も自ら進んで要らない苦労をする事はない。
「そ、そんなのイヤに決まってるだろ? 分かったよ、感謝の気持ちってことで納得しておくよ」
「ね? ちゃんと領主さんと交渉して、無難な線でまとめたんだから。そんなに気にしなくてもいいの」
どうやら鳳月の知らない間に、麗芳は今回の件について、ちゃっかりマネージメントしていたらしい。
元より武術一辺倒で日々を過ごしてきた身では、世慣れている上に弁の立つ麗芳に口先で敵うはずもない。
強引に説得させられてしまった鳳月は、複雑な顔付きで頭を掻き掻き、視線を寝台の方へ逸らす。
すると、そこで報酬なんか目じゃないほどインパクトのある物を目撃して、鳳月は思わず大声で叫んだ。
「なっ、なんで枕が二つあるんだっ!?」
「あ……」
わりと大きめの寝台には、ぴったりと寄り添うようにして、二つの枕が並んで鎮座していた。
いけない連想が一気に脳裏を駆け巡り、酒に酔った鳳月の顔へ更に血が昇って、まるで茹でダコみたいになる。
麗芳の方に視線を戻すと、彼女も鳳月同様に頬を朱に染めて、えらく居心地悪そうにしている。
とっても気まず〜い雰囲気を耐えかねて、鳳月はわざとらしい笑い声を上げ、その場を誤魔化そうとした。
「はっ、ははは……。な、何を馬鹿なこと考えてんだろうな、これを用意させたヤツ……」
「……悪かったわね、馬鹿な事で」
「は?」
どうにか冗談にして流そうとする鳳月の言葉に、麗芳は何故か不満そうに唇を尖らせた。
何で麗芳がそこで不機嫌になるのかがサッパリ判らなくて、鳳月はハテと小首を傾げる。
その態度にちょっと苛立たしげな表情を浮かべると、麗芳はますます顔を赤らめてポツリと呟く。
「あたしなの」
「へ?」
言葉の流れをうまく理解できず、鳳月は間の抜けた声を出した。
すると麗芳は鳳月の顔を上目遣いに睨んで、怒ったような口調でもう一度繰り返す。
「だからっ! こういう風に用意してくれって頼んだの、わたしなのっ!」
「はぁっ!?」
思っても見なかった台詞に、鳳月は目をまん丸に見開いて、赤面してむくれた麗芳の顔を見直した。
この街に来るまでの間も、荒野で一つの毛布にくるまって寝ていたけど、それはあくまで寒さを凌ぐ為である。
いくら鈍い鳳月でも、今回のこれが別の意味を持っているってぐらいの事は、さすがに察しがついた。
「なななっ、なんでまた、そんないきなりっ!?」
「別にいきなりなんかじゃないわよ。鳳月くんと一緒に行くって決めた時から、ずっと考えてたんだから」
動揺してどもる鳳月の問いに、麗芳は恥ずかしそうに目線をずらして答えた。
言い方こそぶっきらぼうだけど、胸の前で落ち着かなげに指を絡ませる仕草が、妙にしおらしい。
殆ど見た事のない、麗芳の女の子らしい態度を目の当たりにして、鳳月の心臓が大きく高鳴ってくる。
「ホントはさ、最初の夜に……とかって思ったんだけど、初めてが外でっていうのも、なんかアレだし……」
「え、えぅ!?」
大胆過ぎる発言に、鳳月は喉に詰まったような奇声を洩らした。
全くいつも通りだった態度の裏で、まさかそんな事を考えていたなんて、黄帝様でもご存知あるまい。
目を白黒させる鳳月をチラッと盗み見てから、麗芳は尚も述懐する。
「わたしを助けたせいで追放されたんだし、そのせめてものお礼っていうか、お詫びっていうかさ……」
「いいっ、いいってそんなの! おお俺は、れ麗芳が一緒にきき来てくれただけで、じゅ充分なんだから!」
「だから、どうしてそこで逃げるのよっ! わたしだって恥ずかしいのを我慢してるのにっ!」
「え、いや、だってだな! そそっ、そんなお礼とかってだけで、そういう事するのは……」
及び腰で後ずさってゆく鳳月にブチ切れたらしい麗芳は、挑むような足取りでズンズカ近寄っていった。
慌てる鳳月を寝台の脇まで追い詰めると、手を伸ばせば届くぐらいの距離で立ち止まり、ひたと顔を見据える。
「あのねっ! 単なるお礼ってだけで、女の子がこんなこと言うとでも思ってんの!?」
「あ、え? でも、麗芳が今、自分で言ったんじゃ……」
「ほんっとに鈍いんだからっ! 鳳月くんの事が、本気で好きになっちゃったからに決まってるでしょ!?」
つくづく察しの悪い鳳月に耐えかね、麗芳は振り絞るようにして本心を告白する。
真っ白になった鳳月の脳裏に、彼女の言葉が何度もこだまして、やがてゆっくりと意識に届いていった。
「……ほ、本気か、麗芳?」
「あ、当たり前でしょ。いくらなんでも、こんな状況で嘘つくわけないじゃない」
「いっいや、疑ってるんじゃなくて、ただちょっと驚いたっていうか……」
言い訳めいた台詞を返しながら、鳳月は想いを寄せている少女の金色の瞳を覗き込んだ。
胸の内をさらけ出した事で恥ずかしさがぶり返したのか、麗芳はその視線から逃れるように顔を俯ける。
「そうでもなきゃ、下界まで追いかけてきたりしないわよ。まさかホントに気付いてなかったワケ?」
「えっ、あ、いやその……。ほんのちょっとはそんな気もあるかな、とは思ってたけど……」
「気になる男の子が、神将の地位を捨ててまで自分を助けてくれたって聞いたら、普通はそうなるわよ……」
手持ち無沙汰に上着の裾を弄りながら、麗芳は拗ねたような口振りでそう告げてきた。
別に鳳月は見返りを求めて助けた訳じゃあないけれど、それが却って麗芳の乙女心をいたく刺激したらしい。
それでも鳳月が行動を起こせずにいると、痺れを切らした麗芳が再び目線を上げる。
「ねえ、女の子の方からここまで段取りしたんだから、鳳月くんもちゃんと答えてよ……」
「あ、ああ……」
確かに、好きな娘にこうまで率直に言われて黙っていたとあっちゃ、男としては面目が立たない。
鳳月は掌の汗を自分の服で拭ってから、ぎこちない動きで麗芳の肩に両手を掛ける。
グビッと生唾を飲み、気を落ち着けるように大きく深呼吸して、吐く息と共に思いの丈を口から放つ。
「お、俺も、麗芳のことが、大好きだ……」
「うん……」
「そっ、それから、本当にお前がいいんなら、その……」
「うん、いいよ……」
鳳月が途中で口篭もると、麗芳は分かってるという風に頷き、そのまま顎を上げてそっと目を閉じる。
緊張に睫毛を震わせる可憐な様子にドギマギしつつ、鳳月は麗芳の唇に顔を近づけていった。
「んっ……」
ちょん、と軽く触れ合う程度に鳳月が唇を重ねると、麗芳は小さく吐息を洩らした。
麗芳の唇はふにっと柔らかくて、一旦離れた後も、その温もりが鳳月の口元にじんわりと染み込んでくる。
その余韻が消え失せない内に、鳳月は再び顔を寄せていき、今度は麗芳の上唇を優しくついばむ。
間近にある麗芳の髪からフワリといい香りが漂って、興奮した鳳月の頭をますますヒートアップさせた。
「鳳月くん……。わたし、すっごくドキドキしてる……」
「おっ、俺だって、そうだよ……」
「んんっ、あ、ほんとだ……。鳳月くんの胸も、トクトクいってるね……」
薄く瞼を開いた麗芳は、潤んだ瞳で鳳月の目を見つめ返し、頼りない口調で呟いた。
鳳月は肩に掛けていた両手を背中へ回して、麗芳の身体を緩やかに抱き寄せていく。
胸板に当たる胸の柔らかさと、思いのほか華奢な手応えが、やっぱり女の子なんだなあと改めて実感させる。
一方、服越しにもハッキリ伝わる鳳月の激しい動悸を感じて、麗芳の顔が安心したようにほころぶ。
やがて麗芳の腕もおずおずと鳳月の背後に回り、二人は熱い抱擁を交わしていった。
「はぁ、んっ……。なんだかわたし、立ってらんない……、んっ、ふ……」
「ええっと、じゃあ、座ろうか?」
「……ん、うん……」
抱き合ったまま幾度もキスを繰り返すうちに、麗芳の足が生まれたての小鹿の如くプルプル震え出した。
鳳月はもたれ掛かってくる麗芳の身体を支えながら、背後の寝台の端へゆっくりと腰を下ろしてゆく。
麗芳もその動きに引き摺られ、鳳月と膝を並べて横座りになり、ぴったりと寄り添う。
鳳月が背中をそっと撫でさすると、麗芳は心地良さそうに目を細めて、ふくよかな胸を更に押し付けてくる。
その内に、段々と他の場所にも触りたくなってきた鳳月は、背中に回した手をそろそろと下げていった。
「あっ、ねえ、鳳月くん……?」
「う、いや、ごめんっ! 別に変な気は、まあその、全く無い訳じゃないと言えない事もなくて……」
鳳月の手が背中とお尻の微妙な境い目に伸びると、麗芳は軽く頭を後ろに引き、か細い声で呼び掛けてきた。
自分の下心を咎められるのかと思い、鳳月はギクリと手を止めて、しどろもどろに弁解する。
けれど、麗芳は特に気分を害した様子も無く、ただ恥ずかしげに目元の朱を深め、小さく首を横に振った。
「ううん、そっちはその、あんまり問題じゃないんだけど……」
「え? じゃ、じゃあ、何が?」
「えっとね、ここから先は、灯りを消してからにして欲しいかなって……」
「あ、そ、そっか。ちょ、ちょっと待ってろよ?」
乙女の恥じらいにようやく気付いた鳳月は、そう言い置いてアタフタと立ち上がり、灯篭の方に駆け寄った。
壁沿いにある灯りを吹き消していくと、部屋の中に闇が落ち、窓から差し込む月光が寝台をうっすらと照らす。
淡い光に浮かぶ麗芳の顔が、いつもと違った艶めかしさを醸し出して、鳳月は思わず息を呑む。
暗さにちょっと蹴つまづきつつも、鳳月は再び麗芳の隣に腰を下ろすと、おずおずと手を上げて問い掛けた。
「ええと、それじゃあ、さ、触っても、いいか?」
「うっ、うん……。いい、よ……」
麗芳の許可に後押しされて、鳳月は震える指先をそろそろと彼女の胸元に伸ばしていった。
照れと緊張を交えてその手を見つめる麗芳の視線を痛いほど意識しながら、そっと包み込むように触れてみる。
「あんっ……」
服の上から胸の膨らみを捕らえられた途端、麗芳の口から可愛い声が洩れた。
掌をゆっくりと押し付けると、柔らかく充実した感触が、鳳月の手から頭まで電撃の如く駆け抜ける。
鳳月は股間のモノが早くも大きくなってくるのを感じながら、慎重な手付きでそこを揉み解していく。
同時にもう一方の手は背中から腰へと回し、丸みを帯びたお尻の辺りを遠慮がちに撫でていった。
「麗芳、こ、こんな感じで、いいのか?」
「ん、うん……。わたし、背筋が、ゾクゾクしてきて……、んっ、はぁ……」
鳳月がたおやかな身体の線を撫で回していくにつれ、麗芳の息は次第に荒くなっていった。
胸元に宛がった指を緩やかに動かせば、豊かな膨らみがフニフニとたわみつつ、しっとりとした弾力を返す。
赤い頬にチュッと軽く口付けると、少しくすぐったそうにしながらも、潤んだ金色の瞳に喜びの色が浮かぶ。
大好きな女の子が感じているという実感が、鳳月の頭を埋め尽くし、愛撫により一層の熱がこもった。
「あっ、ふ、んむ……。んんっ、鳳月、くんっ……」
唇から頬、顎の線から首筋へとキスを連ねていくと、麗芳は寒気を覚えたようにプルッと身を震わせた。
大きく開いた手でお尻の肉を覆い、揉み込むようにして指を蠢かせれば、胸とはまた違った柔らかさがある。
麗芳の身体はどこもかしこもすごく気持ち良くて、鳳月の興奮も信じられないほど高まっていく。
ただ、そうなってくると、やっぱり服越しじゃなく、素肌に直接触れたくなってきてしまう。
鳳月は胸を撫でていた手を止めると、欲求の赴くままに麗芳の耳元へ囁いた。
「麗芳、その、ぬっ、脱がせても、いいか?」
「え……? あっ……」
一瞬戸惑った麗芳は、鳳月の指が上着の襟元に掛かった事で言葉の意味を理解し、小さく身じろぎした。
困ったように眉尻を下げ、少しの間思い悩んでから、鳳月の手に自分の掌をやんわりと重ねる。
「それは、ちょっと照れ臭いから……。じ、自分で脱ぐんでも、いい……?」
「あっ、ああ。麗芳がそうしたいんなら……」
縋るような目付きで訴えられ、鳳月はカクカクと頷きながら、名残惜しげに服の襟から指を外した。
正直、自分の手で一枚ずつ脱がせていきたい気持ちも多少はあるけれど、麗芳のお願いとあっちゃ断れない。
だけど、麗芳は足を引いて寝台の中央に移動すると、まだ何か言いたそうにモジモジし始めた。
「ほ、他にもなんかあるのか?」
「うん……あとね、出来たら脱ぎ終わるまで、むこう向いてて欲しいんだけど……」
「わ、分かった。……こっ、これでいいか?」
「うっ、うん……」
鳳月が促すと、麗芳は上着の止め紐を弄りながら、遠慮がちに告げてきた。
言われた鳳月はすぐさまクルリと背を向けて座り直し、正面を見据えたまま上擦った声で訊ねる。
ようやく熱い視線を外してもらえた麗芳は、安心したような吐息を洩らして、紐の結び目を解き出す。
背後から聞こえるかすかな衣擦れの音に想像力を刺激され、鳳月の心臓の音がうるさいほど高鳴っていった。
「え、えっとさ。俺も、脱いだ方がいいかな?」
「それは……、そうでしょ? そっちだけ服着たまんまじゃ、その……。不公平、だし……」
「ああ、うん、やっぱそうだよな。なに言ってんだろ俺……」
言わずもがなの鳳月の問い掛けに、麗芳はちょっと言葉を選びながら同意した。
間抜けな台詞を吐いた事を自覚して、鳳月は居たたまれない思いで呟くと、自分も服を脱ぎ始める。
だけど、すぐ後ろにいる麗芳の気配が気になって、なかなか手が思うように動かない。
何とか残り一枚の処まで脱いだものの、ここで最後の下帯まで外したもんかどうか、ちょいと判断に迷った。
「なっ、なあ、麗ほ……うっ!」
「きゃっ!?」
思い余った鳳月は、肩越しに背後を振り返りつつ、麗芳の意見も聞こうとした。
しかし、麗芳の格好を目にした途端、鳳月はそれまでの思考も吹き飛ばして、むぐっと絶句した。
慌てて胸を隠した麗芳は、すでに一糸纏わぬ姿になって、寝台の中央でぺたんと女の子座りをしている。
夜目にも鮮やかな彼女の白い裸身の美しさが、鳳月の脳裏を瞬時に埋め尽くした。
「もっ、もうっ! こっち向くなら向くって言ってよね!」
「………………」
照れ隠しに唇を尖らせる麗芳の文句も耳に入らない様子で、鳳月は殆ど呆然として彼女の姿を眺めていた。
ついこの間、成長させられていた時のダイナマイトボディほどじゃあないけど、それでも充分に発育している。
腰や胸は見事なボリュームを備えていて、対照的にウエストは両手で掴めるんじゃないかってぐらい細い。
滑らかなお腹には、少し縦長の可愛いおへそがポツンとあるだけで、あとは小さなホクロひとつ見当たらない。
抱え込んだ腕とぴったり閉じられた太腿で、肝心な部分は隠れて見えないけど、それが却って男心をそそる。
普段の鳳月なら、刺激的な光景に鼻血をダクダク流してブッ倒れてる処だが、今はそんな場合じゃ無い。
だけどその分、逃げ場を失った血が頭の中で圧力を増して、目眩を起こしそうになる。
ポカンと半口を開けて黙り込んだ鳳月に、麗芳は少し不安な様子で声を掛けた。
「……鳳月くん? えっと、わたし、どっかおかしいかな……?」
「キレイだ……」
「えっ!?」
「あ、うわわっ!? いっいや、今のナシっ!」
麗芳の驚きの声にハッと我に返った鳳月は、自分が何を口走ったかに気付いて、ワタワタと慌て出した。
思わず洩らした本心を聞かれてしまった照れ臭さから、もうこれ以上はないってほどに頭へ血が昇っていく。
「バッ、バカ……。そんな事言われたら、余計に恥ずかしくなるじゃない……」
「う、あの、ゴメン……」
「べっ、別に、謝らなくってもいいわよ……。恥ずかしいけど、やっぱり嬉しくもあるし……」
本気の台詞にキュンとときめいてしまったらしい麗芳も、湯気がでる位に赤面して、身体を竦ませている。
小さな声で複雑な乙女心を告白するその姿は、例え様もなく愛らしい。
鳳月はまるで灯りに引き寄せられる羽虫のように、フラフラとした動きで麗芳の元へ近づいていった。
「麗芳……」
「あ、うん……」
鳳月が胸元を隠す手首に指を掛けると、麗芳はその意図を察して、組んでいだ腕をするりと解いた。
力の抜けた両腕が身体の脇へ滑り落ちていき、豊かに実った二つの乳房が、鳳月の視線に余す処なく晒される。
お椀を伏せたような形の良い膨らみは、麗芳の僅かな動きにフルンと震えて、備えた柔らかさと弾力を示す。
ぷっくりと起き上がった淡い色合いの乳首が、白い丘にアクセントを添え、鳳月の欲求を駆り立てる。
その在り様を食い入るように見つめながら、鳳月は開いた両手を持ち上げて、下から掬う感じで触れていった。
「んっ……」
「う、わぁ……」
物心ついてからはおそらく初めての、手肌から直に伝わる女性の胸の感触に、鳳月は呆けた声を上げた。
すごくあったかくてスベスベしていて、つきたてのお餅にも似てるけど、それより遥かに気持ちいい。
軽く押し込んだだけで指先がくにゅっと沈み込み、力を抜くと小さく弾んで元の形に戻る。
服の上からでは分からなかった温もりと玄妙な手触りに、鳳月は一気に魅入られてしまっていた。
「んんっ、ふ……。んぅ、鳳月、くんっ……」
鳳月の手が外から内へ円を描いて動き始めると、麗芳の口から可憐な喘ぎが洩れ出した。
たっぷりと持ち重りのする柔肉が、鳳月の指の間で緩やかに形を変え、吸い付くような触感を返す。
ツンと尖った乳首が掌の中央でコロリと転がる度に、細い肩が小さくピクンと跳ねる。
「あっ、は、んん……。そこっ、そんなに、弄っちゃ……、ん、ふぅん……」
鳳月が少し手をずらし、小さな突起を親指の腹で捏ね回すと、麗芳の背筋にゾクッと震えが走った。
そこが弱いと感付いた鳳月は、乳房をゆっくりと揉みしだきながら、乳首の辺りを重点的に攻めていく。
次第に鳳月の顔が麗芳の胸元へ寄っていき、熱い視線と吐息とが、彼女の素肌を密やかにくすぐっていった。
「はむ、ちゅっ……」
「きゃんっ!? んっ、鳳月くん、はっ……んぅっ!」
鳳月が胸の先端へ優しく口付け、舌を鳴らして吸い上げた途端、麗芳の背中がクンッと反り返った。
何かを言いかけた処で、もう一度同じように乳首へキスをすると、鼻に掛かった甘い吐息で台詞が途切れる。
軽く顎を引いて鳳月を見下ろす麗芳の顔は、新たな刺激にトロンと蕩けて、すごく色っぽい。
チラリと目線を上げてその表情を確認した鳳月は、そのまま麗芳の胸をチュピチュパとしゃぶり出した。
「んっ、ちゅ、はふ、麗芳……」
「あんっ! くふぅ、んっ、は……! やだ、胸がっ、ジンジン、するっ……んん!」
鳳月が左右の胸へ交互に唇を寄せていくにつれ、麗芳の小さな乳首はますますピンと尖っていった。
唾液に濡れたそこを指で弄ると、ぷりゅぷりゅとした感触と共に、まるで逃げるように指の腹を滑る。
掴んだ両の乳房は一層火照りを増し、鳳月の掌にピタリと吸い付いて離れない。
快楽の喘ぎを高めてゆく麗芳は、やがてモソモソと合わせた太腿を擦り寄せて、もどかしげに身を捩り出す。
鳳月はちらちらと見え隠れする薄い茂みに気を惹かれ、ゆっくりと頭を下げようとする。
だけど、片手を膝の上に伸ばした処で、鳳月の肩は麗芳の手によってハッシと押し留められた。
「ほっ、鳳月くん! な、なにする気?」
「なにって、その、こっちも見たいなぁって……」
急に焦り出した麗芳へ、鳳月はつまみ食いが見つかった時みたいにバツの悪い顔で答えた。
素直に希望を告げられて、麗芳は恥ずかしさと期待のせめぎ合いに、ますます困惑の度合いを深める。
「あっ、あのさ……。いくら暗くても、そこを間近で見られるのは、ちょっと……」
そんな風に今にも泣きそうな感じで呟かれると、鳳月としても無理に欲求を貫く事は出来ない。
内心の落胆をしっかり表情に出しつつ、鳳月は照れる麗芳に向けて、それじゃあとばかりに問い掛けた。
「な、なら、触るだけなら……いいか?」
「うっ、うん……。それだったら、いいよ……」
ねだる鳳月へあいまいに頷くと、麗芳は閉じていた膝をほんのちょっと緩めて、脚の付け根に隙間を空けた。
それだけでも恥ずかしくて堪らないらしく、きゅっと下唇を噛んで眉を寄せ、寝台の敷き布を握り締める。
月光からも陰になって、細部を見て取る事が出来ないそこへ、鳳月はそっと片手を忍ばせていく。
ヒヨコのようにポワポワとした巻き毛を掻き分けると、指先はすぐにぺちょんと柔らかい場所に辿り着いた。
「んぅ……っ!」
「あ、こんなに……」
麗芳のそこは、身体のどこよりも尚あったかくて、しかも最上級の絹みたいに滑らかだった。
おまけに触れた場所全体が、汗とは違うヌルッとした湿り気を帯びていて、その感触に鳳月は思わず声を出す。
鳳月も春画集──いわゆるエッチな本だ──なんかの知識で、女の子が濡れるって事ぐらいは知っている。
けれど、大好きな麗芳が自分の手でそういう状態になっていたという事実は、鳳月の理性を強烈に掻き乱した。
「麗芳っ……!」
「んっ、あ、やっ! んん、鳳っ月、くぅ、んんっ!」
鳳月は麗芳の胸にむしゃぶりつきながら、股間を指先で激しくまさぐっていった。
頭の中はピンク色のもやが掛かったように訳が判らなくなり、身体だけが本能に従って麗芳を責める。
猛る欲望が遠慮を取り払い、大事な処を弄る指にも、無意識のうちに段々と力が入っていく。
「ん、つっ! 鳳月くんっ、ちょっと、痛い……っ!」
「あっ、ご、ゴメンっ!」
だけど、麗芳の口から短く苦痛を訴えられた途端、鳳月は冷水を浴びせられたように理性を取り戻す。
顔を上げて麗芳の様子を窺うと、つぶらな瞳の端には今にも零れ落ちそうなほどに、涙の珠が浮かんでいた。
「本当にゴメン……。俺、頭がカーッとなっちゃって……」
「ううん、いいよ、別に怒ってないから……。でも、もうちょっと、優しくして……、ね?」
「あっ、ああ……」
大いにしょげ返った鳳月を元気付けるように、麗芳は彼の首筋にふわりと両腕を絡め、そっと囁いた。
麗芳に嫌な思いをさせた上、余計な気遣いまでさせてしまった事が、申し訳なくて仕方が無い。
鳳月は欲望の手綱をしっかりと押さえつけて、今度は出来る限り慎重に、股間に当てた指を動かしてゆく。
表面をなぞるように軽やかなタッチでも、麗芳のそこの心地良さは充分に感じ取れた。
「こん……な、感じで、いいかな……?」
「ん、うん……。そのくらいが、ちょうど、いいっ……。んっ、ふ……、んんぅっ……」
中指の腹で下から上へ緩やかに撫でていくと、麗芳の表情と声に再び快楽の色が浮かび出した。
その言葉を裏付けるかのように、麗芳の股間からはトロッと新たなぬめりが滲んで来て、鳳月の指を濡らす。
鳳月が初めて触れるそこの形をゆっくり確認していくと、上の方でコリッとした小さな突起に行き当たる。
それと同時に、麗芳はビクンと全身を強張らせ、鳳月の背中にギュッと指を立てた。
「あ……、ここ、痛かったか?」
「違うのっ、痛くは、ないけどっ……。ただ、そこ、すっごく敏感だから……」
強い反応に鳳月が手を止めて訊ねると、麗芳は細かくかぶりを振り、艶のある声でそう答えた。
言外のもっと触れて欲しいという欲求を、珍しい察しのよさで読み取って、鳳月は再び指先をそこへ這わせる。
「判った、じゃあ、もっと優しくだな……?」
「んんんっ、あ、っはぁ! んはぁ、んっ、それっ、くぅ……んん!」
ごく軽く宛がった指先でくぬくぬと円を描いて刺激すると、麗芳は鳳月の肩口に額を預け、大きく身悶える。
丸まった背中をもう一方の手で宥めるようにさすりつつ、鳳月は彼女の官能を更に引き出していった。
「はっ、あっ、んんぅっ! やっ、わたしっ、こんなっ、あ、んくぅ!」
鳳月が段々とコツを掴んでくると、麗芳は肩に当てた額をグリグリと押し付け、ひっきりなしに喘ぎ出した。
可愛いお尻をモソモソと揺り動かし、鳳月の首っ玉にヒッシと縋り付いて、全身で悦びを表す。
脚の間は蕩けたように濡れそぼり、指先を蠢かせる度に、柔らかな外側の襞がチュクチュクと絡みつく。
鳳月の股間のモノも、麗芳の官能的な肢体と甘い声に限界まで膨れ上がり、下帯の中で痛いほど屹立している。
これ以上は辛抱できないと感じた鳳月は、股間を探る手を緩やかに止めていき、麗芳の耳元に囁き掛けた。
「れ、麗芳……。あの、そろそろ、いいかな……?」
「はぁ、はっ、ん、うん……。良く、分かんない、けど……、たぶん、もういいと、思う……」
のろのろと顔を上げた麗芳は、鳳月の言葉にコックリ頷き、少し自信無さげに呟いた。
鳳月が身を乗り出していくのに合わせて、頼りない動きで後ろ手をつき、寝台の上へ仰向けに横たわる。
ゆるやかに開いた足先の間で膝立ちになると、鳳月はもどかしげに下帯の紐を解きに掛かる。
やがて、その中から反り返ったモノがピョコンと飛び出すのを見て、麗芳は小さく息を呑んだ。
「うっ、ウソ……。そんなに、おっきいの……?」
どうやら想像以上に大きかったらしく、麗芳はちょっと怯えた顔付きで鳳月のソレを眺めた。
だけどそう言われても、経験が無い上に、他人と比べっこなんてした試しもない鳳月だって返答に困る。
「よ、良くは知らないけど、普通ぐらいなんじゃないかな、多分……」
「そう、なの……? ホントに、そんなのが、わたしの、その……中に、入るのかな……?」
「俺も、あんまり自信は無いけど……。麗芳、恐かったら、ここまでで、その……」
「ううん、平気……。ちょっとだけ、不安になった、だけだから……。最後まで、続けて、鳳月くん……」
鳳月が無理をして中断を持ち掛けると、麗芳はプルプルとかぶりを振り、震える声で告げてくる。
立てていた膝がしどけなく左右に倒れていき、濡れた内股が青白い月光を跳ね返して、鳳月の腰を誘い入れた。
「えっと、じゃあ、いいか……?」
「んっ、うん……」
鳳月は片手を突いて麗芳の上に覆い被さると、残る手で天を指すナニの頭をぐっと押し下げた。
薄闇の中でハッキリとは見えない麗芳の股間に視線を落とし、静かに腰を近づけていく。
敏感な先端がしっとりと濡れた外側の襞に触れると、えも言われぬ快感が背筋を這い上がってくる。
だけど、そこはどうやら入り口から少々ずれていたらしく、軽く押し付けるとツルッと滑ってしまった。
「あっ、あれ?」
「ほ、鳳月くん……。そこじゃなくて、たぶん、もう少し、下のほう……」
「下って、この辺か? んっ、と、あれっ、入らないぞ……」
麗芳の声に従いつつ位置を変えてみても、鳳月のモノはやっぱり先程と同じく、ぜんぜん中には入らなかった。
続けて何度か試すものの、まるで細い針穴へ木綿糸を通す時の如く、あっちこっちへズレてしまう。
それでも、その内にとある地点でクヌッと沈む感じがして、先っちょが柔らかな襞の狭間に潜り込んだ。
「痛っ!」
「あ、わ、悪い! 俺、また……」
やっと探り当てて安心したのも束の間、鋭く発せられた麗芳の苦痛の声に、鳳月はピタリと動きを止めた。
鳳月が慌てて腰を引こうとすると、麗芳は痛みを堪えながらたどたどしく訴えてくる。
「いっ、いい、のっ……。これはその、しょうがない、事だし……。我慢、できるから……」
「そ、そうか? それじゃ、……んっ、と、うっ……」
「くっ! ん、つぅっ、は、くぅっ!」
だけど、麗芳の全身は硬く力んでいて、入り口もそれ以上の侵入を拒むかのようにキュッと締まっている。
鳳月は軽く手で押し込もうとしてみるけど、その程度の力では、なかなか先に進む事が出来なかった。
「ねえっ、鳳月、くんっ……。あの、もっと強く、しちゃっても、いいよ……?」
鳳月が悪戦苦闘しているのを見かねたのか、麗芳は苦痛に震える声でそう言ってきた。
だけど、聞くからに辛そうな声色に、鳳月はすんなり同意も出来ず、戸惑った様子で訊き返す。
「え? だって麗芳、痛いんだろ?」
「うん、痛いけど……。でも、一気に済んだ方が、却って辛くないんじゃないかなって……」
「そ、そうなのか?」
鳳月の乏しい知識では、麗芳の言ってる事が本当なのかどうかは、全く判断がつかない。
でも結局の処、麗芳の言う通りかなり強めにしないと、ここから先に進めそうもないのは確かだ。
「なら、い、行くぞ……?」
「ん、うん、来て……」
鳳月が告げると、麗芳は逆手で寝台の敷き布を強く握り締め、予想される痛みにグッと身構える。
片腕と両膝から重心をずらすと、鳳月はそこから体重を掛けて、ゆっくりと腰を沈めていった。
「う、っく……!」
「んっ、んんんんん──っ!」
鳳月の先端は、狭い麗芳の中を大きく押し広げながら、ヌプヌプと奥を目指して突き進み出した。
きつく四方から締め付ける内部の抵抗が、鳳月の力強い動きに負けて、静々と道を空けてゆく。
麗芳はピンと伸ばした爪先を寝台の上に突っ張らせて、逃げようとする身体を何とかその場に留まらせる。
「──ん、くぅん!」
「はぁ……っ、はっ、入った……」
やがて鳳月の腰は麗芳の脚の間に深く割り込み、硬いモノもその根本近くまで彼女の中に収まる。
ようやく繋がる事が出来た達成感と、押し包む温かい粘膜の心地良さに、鳳月は大きく息をついた。
「……い、ったぁ……」
「あっ、麗芳、平気かっ!?」
鳳月の動きが止まると、麗芳はポロッと大粒の涙をこぼして、閉じていた瞼をゆるゆると開いた。
麗芳の弱々しい苦痛の呻きを耳にして、気持ちよさに酔っていた鳳月は、慌てて彼女の表情を窺う。
その拍子に鳳月の身体がわずかに動くと、麗芳は再びきゅっと目を閉じて、脱力しかけた手足を強張らせた。
「つっ……! 鳳月くんっ、お願い、ちょっとだけ、動かないでっ……!」
「あ、わっ、悪いっ!」
まるで擦り傷にすごくしみる薬を塗られた時のように、麗芳は切羽詰った声色で懇願した。
鳳月は凍りついたようにピタリと身動きを止め、息遣いまで小さく殺し、麗芳の痛みが和らぐのを待つ。
大きく息を吸う度に、麗芳の中はキュクッと収縮して、鳳月のモノを強く締め付けてくる。
スーハーと痛みを追い出すように深呼吸していた麗芳は、最後に長く息を吐くと、鳳月の顔を振り仰いだ。
「はぁ……っ。鳳月くん、もう……、いいよ、動いても……」
「ほ、ほんとに大丈夫か?」
「うっ、うん……。でも、ゆっくりね……?」
「あ、ああ……」
まだちょっと眉間にしわを寄せながら、頼りない口調で囁く麗芳に、鳳月は小さく頷いた。
言われるまでもなく、こんなに辛そうにされちゃ、あまり激しく動くなんて可哀想で出来やしない。
鳳月は体を軽く揺する感じで、繋がった部分に細かい振幅を送り込む。
「く、は……っ、麗っ、芳……」
「うっ、つ、んく、ぅん……」
そんなわずかな動きでも、周囲を取り巻いた内部の粘膜が擦れて、痺れるような快感が湧き起こる。
自分だけが気持ち良いのを少し悪いようにも感じながらも、鳳月は小刻みに麗芳の中を行き来し始めた。
「っは、はぁ、んっ、麗芳、辛く、ないかっ……?」
「ん、ふぅ、だい、じょうぶっ……。この、くらい、んっ、ならっ……」
快楽に息を切らしつつ鳳月が問い掛けると、麗芳は身体を縦に揺さぶられながら、気丈に訴えた。
けど、時々強い痛みが走るらしく、たまに手足をビクンと跳ねさせて、唇を固く引き結ぶ。
その上、無意識の内に苦痛から逃れようとしてか、敷き布の上をじりじりと頭の方へずり上がっていく。
鳳月もそれを追って膝をずらして行き、二人の身体は段々と寝台の端に近づいていった。
「あっ、麗芳、それ以上、行くとっ……」
「え、なに……んきゅっ!?」
鳳月の忠告も一歩遅く、ゴチンと鈍い音を立てて、麗芳の頭が寝台の背板に激突した。
下腹部だけじゃなく脳天からも激しい痛みを受けたせいで、つぶらな金の瞳にじわっと涙が滲む。
「だ、大丈夫か麗芳!?」
「うう、今のは、あんまり大丈夫くない……」
「ご、ごめんな。えっと、だけど、どうしたら……あ、そうだ」
「えっ、あ……」
鳳月は頭をもたげた麗芳の首の後ろへ片腕を回し、細い肩をしっかりと抱き止めた。
そして、抱えた身体もろとも少し後ろに下がり、麗芳の瞳を正面から覗き込む。
「こうしてれば、もう頭はぶつけないだろ? ……だ、駄目かな?」
「ううん、わたしも、こっちの方がいい……」
鳳月の力強い腕に首を支えられて、麗芳は柔和に目を細める。
白い繊手を鳳月の背中の上でゆるく交差させ、後は全てを任せるように余計な力を抜く。
出来るだけ体重を掛けずに身体全体を寄り添わせると、鳳月は再びゆっくりと腰を揺り動かしていった。
「はっ、はっ、んっ、はぁ、はっ……」
「ん……っふぅ、鳳っ、月、くぅん……、ん、んっ!」
鳳月が同じ拍子で中を往復していくと、痛みに慣れてきたのか、麗芳の眉間のシワは徐々に薄れ出した。
内部のぬめりも摩擦を和らげるようにその量を増して、鳳月が動く度にクチュクチュと湿った音が立つ。
強い締め付けはそのままに、滑らかさを高めてゆく粘膜の感触が、鳳月の敏感な部分をこれでもかと刺激する。
鳳月は溶けて無くなってしまいそうな心地良さの中で、自分の限界が近づいてきた事を感じていた。
「麗、芳っ……! 俺、もうっ、出そうっ、だっ……!」
「んっ、いっ、いい、よっ……! わたし、はっ、いいっ、からっ……ん、あっ!」
強烈な本能と麗芳の声に衝き動かされ、鳳月は無意識の内に動きを早めて、生まれる快楽に集中していった。
速度を増した突き上げに、麗芳の肩が逃れるようにうねるのを、回した腕で固く抱き止める。
それから幾らもしない内に、今までの行為で充分に滾っていた鳳月のモノが、麗芳の中でビクビクと暴れ出す。
「あっ、くぅ! んんんっ、ほうっ、げつ、くぅんっ、ちょっ、はげしっ、すぎっ……!」
「ごめっ、おれ、もう、止まらなっ……くううっ!」
「ん、あっ……!?」
苦しげな麗芳の言葉に答えを返すその途中で、鳳月の最後の高まりが一気に弾けた。
膨れ上がった鳳月の先端から、堰を切ったようにドクドクと、熱く粘り気のある液体が麗芳の中へ流れ込む。
一時の激しさが嘘のように、動きを止めて身を震わせる鳳月を、麗芳はボンヤリとした目で眺めやる。
「んっ、ほうげつ、くん……。その、おわった、の……?」
「はあっ、はあぁっ、あっ、あぁ……」
麗芳の問いにしっかり答えたくとも、激烈な快感が断続的に意識を駆け抜けて、正直それどころじゃない。
溜まっていた全てが出て行くような長いわななきに、鳳月は荒い息の合間から短く頷くので精一杯であった。
◇ ◇ ◇
「っは、はぁ、くっ、ふぅ……っ」
「ん、あんっ……」
しばらくして強い脈動が収まると、鳳月は震える身体に力を入れ、緩慢な動きで腰を引いていった。
少し柔らかくなったモノが麗芳の中からチュルンと抜け出て、彼女の口から小さく声が洩れる。
麗芳の下腹部には、鈍い痛みや異物感と共に、鳳月の全てを受け入れた感覚が、痺れる余韻となって響く。
肉体的にはまだ全然気持ち良くはなれなかったものの、その心理的な充実感だけで、麗芳は充分満足だった。
「うっく、はあ、ふはぁ、はぁ……」
一方、鳳月は麗芳の上に倒れ込みそうになるのを意地だけで堪え、麗芳の脇へゴロンと仰向けに寝転んだ。
そこで力尽きたかの如く天を仰ぎ、ぐったりと脱力して矢継ぎ早に呼吸を重ねる。
大量に麗芳の中へ出したはずなのに、却って腰は鉛のように重くなり、身動きするのも億劫に感じる。
運動量としては微々たるものでも、こういう事だとやはり勝手が違うのか、胸の鼓動もなかなか収まらなかった。
「あ、ごめんな、麗芳……。俺、最後のほうでまた、我慢できなくなっちゃって……」
「ううん、平気……。わたしも、辛いだけじゃなかったから……」
どうにか息を整えた鳳月は、自分の横顔をじっと見つめていた麗芳に気付き、もう一度ちゃんと謝った。
鳳月の腕にコテンと頭を預けたままの麗芳は、妙に律儀な彼の言葉に小さく微笑み、身体をすり寄せてくる。
脇腹から腰の横にかけて触れる柔肌の心地良さに、鳳月は何だか癒される気分になる。
「……ところでさ、鳳月くん。今ので、赤ちゃん出来たと思う?」
「え? ……ええぇっ!?」
だけど、続けて告げられた麗芳の台詞に、そんな気分も天界の彼方までスッ飛んでいく。
にこやかな顔つきのまま含み笑いをする彼女に向けて、鳳月は凄まじくイヤな予感を覚えながら問い掛けた。
「れっ、麗芳、お前、大丈夫な日……とかじゃ、ないのかっ?」
「やあね、鳳月くん。わたしだって初めてなんだもん、そんなのキッチリ計算してる訳ないじゃない」
鳳月のそんな反応を見越していたのか、麗芳は別に気分を害するでもなく、あっけらかんとそう答えた。
だけど、鳳月の方にしてみれば、青天の霹靂というか寝耳に水というか、とにかく予想外の事態だ。
思わずアゴを外しそうになるのを気力で支えながら、一縷の望みに縋るように麗芳へ問い質す。
「だだ、だって、俺が出そうだって言ったら、確かにいいからって……」
「うん。でもわたしは、鳳月くんの子供が出来ても、別にいいよ? って意味で言ったんだけど」
「そっ、そそそ、そんな事、あれだけの言葉で、分かるわけないだろっ?」
「それに、大丈夫な日って言っても多少はずれたりするから、絶対確実に妊娠しないとは言い切れないのよ?」
「えっ、そっ、そうなのかっ!?」
次々と明かされる真実に、鳳月は顔を赤くしたり青くしたりと、忙しく表情を変えた。
さんざん脅しをかけてから、麗芳は安心させるように鳳月の胸をポンポンと叩き、楽しそうに呟く。
「ま、今日はホントに危ない日じゃ無いと思うけどね? ……たぶんだけど」
「そ、その最後の『たぶん』がすごく不安なんだけど……」
もちろん、麗芳の事は本気で好きだし、いずれはゴールインという形になっても特に異論はない。
しかし、お腹が大きくなった麗芳や、生まれた赤ちゃんを連れて妖怪退治の旅をするのは、ちょっと勘弁だ。
更に、もしもそうなったら、天界に戻った後、両親や上司や同僚に、何て言われるか知れたもんじゃない。
「だったら、こういう事はもうやめる? わたしは鳳月くんがしたいなら、またしてもいいんだけど?」
「うっ……」
でも、そんな魅力的な提案を囁かれちゃ、とてもじゃないけど誘惑に打ち勝てそうもない。
多少は大人になったとは言っても、鳳月が麗芳に振り回される展開は、やっぱり変わりゃしないのであった。
〜END〜