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『イッソコワレテシマエレバ…』  
朦朧とする意識の中、何度こう思っただろう。  
しかしそうすることができない。全てを捨てられない弱さと、彼への思いが私をかろうじて生き地獄に留まらせる。  
 
今日も私は『彼』に犯される。そして私も、理性で拒みながらもそれを求めてしまう。  
私は、本当はもう壊れているのかも知れない。  
「あッ!はぁッ!はあッ!あぁン!」  
こんなにいやらしい声を恥ずかしげもなく出すなんて。  
「可愛いよ、可愛いよ笑ちゃん…!」  
耳の後ろに口づけしながら『彼』が囁く。あなたが欲しいのは私なんかじゃない。昔日に秘めた想いを私に見出しているだけ。  
それでも体は心を裏切り続ける。『彼』の下で私はみっともない位に声を出して感じている。  
「はあッ、はあッ、はあッ、はあぁ…ッ!」  
脊髄を甘美な稲妻が走り、胎壁が欲棒を締め付ける。  
「う…ッ、出…!」  
『彼』は手際よく私から凶器を引き抜くと、白濁を私の火照る体にぶちまけた。顔に、胸に、腹に。白蝋の様に、残雪の様に、私の体を白く汚していく。  
「はぁ…はぁ…はぁ…。良かったよ、笑ちゃん…」  
私は最低でしたよ、叔父さん。  
「それじゃあ、お勉強頑張るんだよ」  
『彼』は私の頭を撫でると、裸のまま部屋を後にした。  
余韻に打ち震える体で熱いシャワーを浴びてから、私は再び机に向かった。時間は十一時を過ぎたがまだ時間は作れる。  
 
「え、笑みちゃんそれ本気なの!?」  
「ええ…」  
誰もが私の賭けを無謀と言った。そんな事は自分が一番よく解っている。  
「けど、どうしてまた?」  
「うん…ちょっと、ね」  
別に目標だった訳でも、やりたい事があった訳でもない。ここから逃げたかっただけ。  
正直その門を潜るには私の力はあまりにも非力だ。しかし可能性はゼロじゃない。人間、人生の中で何度か死んだつもりで頑張らなければならない時があるという。私にとっては今がその時だった。もっとも、私にしてみれば初めての経験ではなかったが。  
 
「いいと思うよ」  
「えっ?」  
最初から否定されると思っていたから、予想外の返答に私の方が戸惑ってしまった。  
「理由はわからないけど、努力する事は決して悪いことじゃないと思うよ。翼も公立進学校受けるって言って聞かなかったし」  
私を否定しなかったのは、同じクラスの男の子と双子のお姉さんのかなめちゃん。  
「そうそう。それに本条さんってホラ、普段の行いがいいから」  
「どうして?普段の行いって入試と関係あるの?」  
「私立のいいトコって、入試の結果だけじゃなく内申書も重視するっていうから。本条さんはボランティアとか一生懸命やってるからね」  
「それは…私、そういうつもりで…」  
「あ…ごめん、気を悪くしたら許して。そういうつもりで言った訳じゃないから」  
「もー!笑ちゃんごめんね、バカが無神経な事言って」  
かなめちゃんは彼の頭を無理矢理下げさせた。  
「ううん、違うの。ごめんなさい。私の方こそそういうつもりじゃ…」  
私のあざとい部分がまさかこういう場面で生きてくるとは皮肉な限りだと心の中でちょっと自嘲した。  
「あんまり無理しちゃだめだよ笑ちゃん。勉強も大事だけど、ちゃんと休んで時々息抜きすることも大事なんだからね?」  
「かな、本条さんにまで姉貴ヅラするなよなぁ」  
「もー、何でそう話の腰を折るかなー!」  
お姉さんがぷぅっと膨れる。  
「あ…あはは…。ごめんなさい、ふふふ…」  
二人のやりとりに思わず笑ってしまった。この双子はなんて自然に戯れるんだろう。  
「…本条さん、やっと笑った」  
「え?」  
私を見つめる彼の清んだ視線。私はその視線から目を外せない。  
「本条さん、何だかずっと泣きながら笑ってるように見えてたから。今の本条さんはちゃんと心から笑ってるって感じがする」  
彼がはにかみながら優しく微笑む。その笑顔だけで私は癒されていく気がした。  
ああ、私はまだこうやって笑うことができるんだ。  
そんな小さな奇跡に気づいた、二月最初の金曜の午後だった。  
 
「うーん…」  
佐久間先生は唸ったまま言葉を繋げられないでいた。  
「考え直すつもりはないの?」  
「いいえ。私、絶対にここを受験します」  
「確かに模試の結果も悪くないし、試験の成績も悪くないんだけど…」  
先生は私を諭すように目の前に資料を広げた。  
「入試まであと一月ないのも事実よ。本条さんの成績ならこの辺りの私立は十分に合格できるんだけど…」  
「いいえ。私、絶対にここを受験します」  
「ふぅ…」  
先生は頑固な私に、とうとうため息をついてしまった。  
「ねぇ、どうしてそんなに頑なにここを受験しようとするの?」  
「自由な校風と生徒の個性を尊重する教育方針に感銘を受けました」  
嘘つき。  
「それに、全寮制という事もあります。高校に入ったら親戚から離れようと考えてましたから。これ以上、ご迷惑はかけられませんし…」  
正直、私に遺された両親の遺産をこれ以上使う事は躊躇いがあった。ここを志望する前には苦学生という選択も考えていた。  
「…ああ、そうか…」  
佐久間先生は一応納得がいったようだった。しかし私が血縁と肉欲のしがらみから逃げ出そうとしているとは、一体誰が思いつくだろうか。  
「先生、本条さんを応援するわ」  
この世間知らずの先生には私はどう映っているだろう。  
胸元の、消えないキスの跡がじんと痛んだ。  
 
 
心を、体が裏切っていく。  
彼の事を想えば想うほどに私の体は彼を求める。  
そして心とは裏腹に、体は別の男を受け入れて悦ぶ。  
『キモチヨケレバダレダッテオナジデショ?』  
違う。  
『アナタハアノオトコニモトメラレテイルノヨ?』  
違う。  
『コンナワタシヲカレガアイシテクレル?』  
…。  
私が求めても、彼は私を愛してくれるだろうか。  
最初から叶わぬ恋に身を焦がす滑稽な道化。  
ばかな娘。  
 
「勉強ははかどってるかい?」  
ノックもせずに『彼』が私の部屋に入ってきた。全身が強ばり、思わず鉛筆を落としてしまった。  
「え、ええ…」  
何言ってるの、邪魔しに来たくせに。  
「随分難しい問題をやってるんだねぇ。公立高校ってこんなに難しかったっけ?」  
「自分を甘やかさない為にも、少しランクが上の問題くらいがいいんですよ」  
少しどころではない。公立高校と私が志望する私立高校では絶望的なまでの難易度の差がある。  
「ふぅ…ん。じゃあちょっと息抜きしようか…」  
 
「ん…んふ…」  
椅子に座ったままの私に後ろから強引にキスする。柔らかくザラザラした舌が私の舌に絡みつき、私の思考は閉じてしまう。パジャマの中に大きな手が入り込み、ブラの上から私の小さな胸を強く揉む。興奮して隆起する小さな乳首、そして私の中のもう一人の私。  
「いつ触っても、柔らかくて気持ちいいなぁ」  
「ん…」  
『彼』の手のひらにすっぽりと包まれながら捏ねるように胸を揉まれる。固くなった乳首も摘ままれるように、時には弾かれるように刺激される。  
「今日は久しぶりにお口でしてもらおうかな」  
『彼』はズボンを下げて私のベッドに腰掛けた。既に凶器は硬度を得て黒々とそそり立っていた。私は言われるままに彼の前に跪く。  
凶器の先端の楔に唾液をたっぷりと含んで舌を這わせる。先端の切れ目に舌の先を挿し入れたり、傘の裏側を丁寧に舐めたりする。  
このやり方を教えてくれたのは、ええっと…誰だっけ。  
「笑ちゃんはお口も上手だね。素晴らしいよ」  
「ん…ふ…ん…ん…」  
私は鼻で息をしながら欲棒を口一杯に含んで出し入れする。指で口に入りきれなかった部分をしごく。少し苦しくなったら口から欲棒を出し、裏筋やしわしわの袋を舐めたりする。一旦出して満足すれば、今日は大人しく帰ってくれるだろう。そう思いさえすれば、激しくもできる。  
『ホントウハヨロコンデモライタインデショ?』  
違う。  
『ウソ。アナタダッテタマラナイクセニ』  
…違う…。  
体が火照っているのは、一生懸命動いたから。感じているからじゃない。  
下着が濡れているのは、汗をかいたから。感じているからじゃない。  
 
『彼』の欲棒を再び含んだ時、視界の最果てにちらと彼の部屋の窓が見えてしまった。全身に冷水を浴びせられたように一気に火照りが吹き飛んだような気がした。  
なんて事をしているんだろう。すぐそこに彼がいるのに。  
「…ごめんなさい。今日はちょっと具合が悪いんです…」  
欲棒を放して私は『彼』に止めるように頼んだ。  
「何を言ってるんだい、さっきまではあんなに熱っぽくしてくれたくせに。さ、続けるんだ」  
「…ごめんなさい、今日は許して…」  
私は急に自分がとても汚れてしまったような気がして、思わず涙を流していた。  
パン!と軽い破裂音に似た音と共に私の頬にじんわりと痛みが染み出してきた。口の中に薄く広がる鉄の味。  
「笑ちゃんは!いつからこんなに!…わがままな娘に、なったのかな!?」  
『彼』は私の口に無理矢理凶器を突っ込む。嫌がっても大人と子供、力に屈するしかなかった。  
「んんー!んー!」  
両手で私の頭を抑えつけて口の中に凶器を突っ込んだまま強引に腰を動かし始めた。喉に楔が当たってすごく息苦しい。  
「大人しくしていれば、こんな思いをしなくてすんだのに!」  
『彼』の口ぶりは、今までになかった位に忌々しげだった。何かに苛立っているのは確かだ。  
「畜生、畜生、ちくしょう、チクショウ…!」  
私の喉の最奥に楔を遣りながら彼は白濁を放った。喉の奥に熱くどろっとした塊が何度もぶつかり、私はこみ上げそうになった。  
「飲まずに味わうんだ!いいと言うまで口の中だ!」  
何度口にしても白濁の味は慣れない。今の私には魂さえも汚染する魔薬のように思えた。味覚と嗅覚を泣きたくなる程犯された後、許しを得てそれを飲み込んだ。食道をどろりと流れてゆく感触。吐きそう。  
「けほっ、げほッ、うえッ!」  
何度も何度もむせた。できることならそのまま吐き出してしまいたかった。私の中から、汚れたものを全て。彼に関係ないもの全て。  
「お口がダメだった代わりは、してくれるんだよね…?」  
『彼』のごつごつした手が私のお尻を撫で回した。背筋を冷たいものが走った。  
 
「い…いたい!いたい!叔父さん、お願い、もっと、もっとやさしく…ッ!」  
「ふぅッ!ふぅッ!ふぅッ!」  
ベッドに寝かされた私の上に『彼』が覆い被さり、凶器を容赦なく私に埋め込んでいく。私の牝の部分は既に蜜を吐き出すのを止め火照りを失っていた。出入りする凶器が潤いを失った粘膜を容赦なく擦り、抉っていく。  
「お願い、いたい、やめて…!ゆるして…!い…ッ!」  
いつもならこうじゃないのに、今日に限ってどうしてしまったんだろう。  
また、彼の顔がよぎった。心臓が早鐘を打つ。息が詰まる。どっと汗が出る。  
苦しい。犯されている事が、生きていることが苦しい。  
『アナタガノゾンダコトデショ?』  
何を?  
『コウナルコトヲ。ヨゴサレテツライ、カラダモソウカンジハジメタノ』  
…。  
『カラダトココロガカサナッタノ。ケド、ホントウツライノハコレカラ』  
…。  
「叔父さん、おねがい!本当に、本当にいたいのォ!」  
叫びすぎて、喉が切れてしまったように痛む。  
「こうやってもらうと気持ちいいんだろ?乱暴にされると、感じるんだろ?」  
「違うの、そんなんじゃないの!おねがいです!痛ッ!ゆるし…て…ェ!」  
これは…どこかで見た光景。あれは…。  
どこまでも広がる蒼穹。私に覆い被さる『彼』。そして、向日葵の黄色。  
『コンナノ、イヤダ…』  
私はあの時、辛い気持ちにならないように、あそこに私の「半分」を置いてきたんだ。  
それが今、還ってきた。再び向日葵に、彼に恋したから。  
けどこれは何?身を引き裂かれるような苦痛。魂までもばらばらになってしまいそう。  
愛のない営みというのはこんなに苦しいものだったんだ―。  
早く終わって、早く終わって、早く早く早く早く早く早早早―。  
「ううッ…!」  
彼が私から凶器を引きずり出す。そしていつものように私を白濁で汚していく。その感触、匂い、色までもが私の魂に傷をつけていく。  
さっきまで凶器が出入りしてた部分がひりひりする。触ってみるとかすかにとろっとした感触。血。心と体が流した涙みたいに見えた。  
「うう…っ」  
絶望的なまでに悲しくなって私は泣いた。「初めて」汚されたと自覚した。  
 
 

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