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『ワタシハヨゴレテイル』
本当は笑う資格なんて無いのかもしれない。
張り付いた偽りの笑顔。本当の私はこんなに醜く、汚れているのに。
「本条さん!」
呼び止めてくれる彼。クラスメイトの男の子。隣の家の男の子。
「…ごめんなさい…。ごめんなさい…」
しかし私は逃げ出す。彼の優しさが怖いから。本当の自分が、怖いから。
家に帰ってから、自分の部屋でまた泣く。あの日―一緒に遊園地に遊びに行った日、彼を拒絶した日から何度こうして独り泣いただろう。
そして…。
「…ッ、はあ…ッ、んッ…」
何度こうして独り慰めただろうか。
窓を開ければ彼の部屋がある。すぐそばに彼がいる。彼は知っているのだろうか。私が、あなたのすぐ近くでこんな事をしているのを。あなただけを想って。
「は…ッ、ふぅ…、んン…!」
あなたに愛されたい。あなたが欲しい。しかし、あなたの優しさはきっと私を壊してしまうだろう。私の中の闇は暗く深い。
自分自身をまさぐる指の速さがどんどん増してゆく。募る彼への想いと同じくらい、私は淫らに快感を求める。
「ーーーッ!」
自分の奥深く埋没した指を締め付けながら私は向こう側へと到達する。声を殺すために強く噛んだ指の痛みは、こんな自分への断罪であり贖罪だった。
余韻に浸りながらも欲望の後始末をし、部屋着に着替える。
「ただいまー」
その声を聞くだけで全身の筋肉が硬直する。肉体だけでなく魂までもが萎縮する。
急いで窓を開け放ち、玄関へと出迎えに降りる。
「おかえりなさい、叔父さん。すぐに夕飯の支度をするから」
「ああ、お願いするよ」
外では社交的で勤労で真面目な叔父。しかし玄関を潜って私と二人きりになった『彼』は私にとっては悪魔以外の何者でもない。
小学生最後の夏の日、初潮が来た日に私は『彼』に処女を散らされた。
お気に入りのワンピースが汚れてしまった日、私も汚れてしまったのだ。
今も『彼』に抱かれていると、時々まぶたの裏側に向日葵の黄色が浮かんでくる。
私は親戚の家を転々としながらその度に辱めを受けた。その報酬は全て叔父に転がり込む。私は一番「ウマミのある」遺産だった。
「ごちそうさま」
「ああ、後片付けは私がやるから笑ちゃんは先にお風呂に入ってしまいなさい」
顔を見なくても、『彼』の口元に浮かぶいやらしい笑みが見て取れるようだ。
「…はい」
しかし私は抵抗しない。いや、できやしない。
湯船に漬かりながら、「その時」が来るのを怯えながら待つ。
「笑ちゃん、湯加減はどうだい?」
来た。
「ええ、丁度いいです」
「それじゃあ、私も入ろうかな」
『彼』の声は嬉々としている。私は今すぐにここから逃げ出したかった。けどそんな事はできるはずもなかった。
扉が開き、裸の『彼』が入ってくる。股間の凶器はすぐにでも私を貫ける程に大きくなっている。
「さて、いつものようにお願いするよ」
『彼』はマットを敷くとその上にごろりと横たわった。凶器だけが天に向かってそそり立っていた。
私は湯船から出て、全身にボディソープをたっぷりと泡立てずに塗りたくった。そして『彼』の上に覆い被さる。ジャリっとした毛の感触。反射的に眉間に皺を寄せたが、鉄の仮面は果たしてその表情を映し出しただろうか。
私は何も言わずに『彼』の上で前後左右に動き、体を擦りつけるようにした。こうやって毎日体を洗うのが日課になってもう二月以上経つ。
「笑ちゃんは柔らかくて気持ちいいなぁ」
下卑た笑いを浮かべながら腕を差し出す。私はそれを胸の間に挟んで擦りつける。
「気持ちいいかい?」
何も答えない。しかし私の体は確実に反応していた。腕を洗いながらも、私の胸の突起はじんじんと熱くなったいた。
今度は腕を太腿の間に挟んで擦りつける。私の太腿には汗やボディソープとは違う粘液が流れていた。腕の感触だけで火照ってくる。息が荒くなるのが自分でも分かった。
「綺麗になったよ。御礼に、いつもみたいに慰めてあげよう」
汚らわしい。しかし、私は拒絶できない。理性は否定しても、牝の部分が疼いて仕方が無いのだ。
「あッ!あぁッ!はぁあッ!」
「いいよ笑ちゃん…君は最高だ。素晴らしいよ…!」
「はぁッ!うンッ!ふぅッ!」
『彼』の凶器に刺し貫かれながら、私は悦び悶える。もう私は、汚れた悦びなしでは生きていけない体なのだ。
私の中心をリズミカルに肉芯が出入りする。その度に私の肉体は悦びの蜜を吐き出す。凶器に襞がまとわりつく。もっと、もっと動いて。激しく私の中を掻き回して、と。
「ああ…いい、いいよ…」
しかし『彼』は私を見ていない。見ているのは亡くなった私の母―『彼』の姉だ。忘我の境地で何度か母の名前を呼んだのを聞いた。『彼』は母にただならぬ想いを抱いていたのだ。
私は母によく似ていた。『彼』が最初に私を犯したのも、幼い頃の母の姿を見たからだという事を一度だけ親戚の男に聞いた事があった。その時ほど母と同じ顔である事を呪った事はなかった。
「んぅッ!ひぅッ!はぁッ!ああッ!んン…………!!」
脊髄を駆け抜ける絶頂の愉悦。この瞬間だけは全てから開放される。
「で、出る…!」
緩みきった情けない声を上げて『彼』は私から凶器を引き抜く。そして私の腹に、胸に、顔に、白濁した欲望をぶちまける。
「はぁ…はぁ…はぁ…。よかったよ、笑ちゃん…」
嘘つき。あなたが見ているのは昔日の幻のくせに。
私はずるい女だ。
誰も私を見ていない、必要としていない事を知るのは幼い身としてもかなり辛かった。だから私は他人に奉仕し、迎合する事を選んだのだ。そうすれば『私』を必要としてくれると思ったから。冷静に分析すれば何と莫迦な娘だろうと自嘲を禁じえない。
こんな自分が、大嫌いだった。
「…、…さん、…本条さん!」
またあの声が聞こえる。隣の家の、彼の声。
高校受験の追い込みの勉強をしている時の事だからもうそれなりに遅い時間だ。
しかし私は聞かないふりをする。部屋の明かりも点いて部屋に私が居るのはばれているのに、何でこんなことをしているのだろう。
「俺、諦めないから!絶対、本条さんを振り向かせてみせるから!」
カラカラ…と窓が閉じる音が聞こえた。私はまた机に突っ伏して泣いた。何故苦しい思いをしながら、何度こんな自傷じみた事を繰り返すのだろうか。
「うう…、うう…」
涙しながら思い浮かべるのは、彼の顔。彼の笑顔。
『アノカオヲズットムカシミタコトガアル』
そして私は彼に想像の中で犯される。彼はあの部屋で、私を犯した事があるのだろうか。パジャマの裾から手を入れて、ブラをずらして胸を揉みしだく。乳首を指でしごきながら乳房全体を揉む。時に優しく、時に痛いほど乱暴に。彼の手を夢想しながら。
胸を揉んでいるうちに女の中心が疼いてくる。右手をショーツの中に入れて熱く濡れたクレバスを指で擦る。
「ん…んふぅ…」
私はいつからこんな淫らな声を上げるようになってしまったのだろう。
紅く充血した花芯を愛液でどろどろになった指でちょんちょんと触る。気持ちいい。包皮の上から愛液をたっぷりとまぶしながらしごく。とくとくと愛液が溢れるのが分かる。
じっとりとした下着をパジャマごと脱ぎ捨てる。牝の匂いが部屋に充満する。
「あはぁ…ッ!」
中指と薬指をずぶりと自分の中心に突き立てる。駆け抜ける愉悦。そのまま一定のリズムで二本の指を出し入れする。ぴちゃ…ちゅぷ…という淫猥な水音が聞こえる。
時々親指と人差し指でクリトリスを刺激してやる。その度に体内の襞が二本の指にぬらぬらと絡み付いてくる。
もっと触って欲しい。『ダレニ?』
もっと触って欲しい。『ドンナフウニ?』
「もっと…!」
「してあげようか?」
肉体が、精神が、時間が凍りついた。
「一人で寂しかったらいつでも慰めてあげるのに…」
『彼』の言葉は異世界から聞こえてくるように虚ろで現実感がなかった。全身が震えているのが分かる。歯の根がかみ合わないでかちかちと小さく鳴っている。
見られた。一番見られたくない私を。一番汚れた私を。
大きくごつごつした手が私の頬を撫でる。頬がまだ涙で濡れている事に、その時初めて気づいた。
「叔父さん…お願い、許して…」
『彼』の凶器はズボンの中ですぐに私を犯せるようにぱんぱんに膨張していた。
「許す?何を?」
わざとらしく私に訊き返す。
「私に不義を働いていた事だとしたら…私のやりきれない思いを慰めてくれるかい?」
嘘つき。本当は私が何を言いたいのか知っているくせに。
「誰を想ってオナニーなんてしてたんだい?」
「…」
答えない。言えば彼までが、「私の中の彼」までが汚されてしまう。
『彼』の平手が飛んできた。頬に鈍い痛みが走って、私は床に投げ出された。
「笑ちゃんはいつから叔父さんを困らせる悪い子になったのかな…!?」
怒りに声を震わせながら、『彼』は私の三つ編みの髪を掴み上げる。
「痛い…!お願い、許して下さい…!」
「悪い子にはお仕置きしなくちゃね…!」
無慈悲にもイージーパンツは下ろされ、凶器は鞘から抜き放たれた。前振りもなく、ただ乱暴に私の中に侵入してくる。しかし高ぶっていた私の女の部分は悦んで凶器の進入を迎え入れる。熱く硬い鉄の棒。中世の魔女狩りの拷問のようだった。違うのは、私に出入りするのは男の欲棒で、私の肉体もそれを悦んで受け入れている事だった。
「嫌ぁ…!嫌ぁ…!お願いします、許して下さい…!」
「オナニーを途中で止めて、欲しくて欲しくてたまらなかったんじゃないのか?」
「違います!こんなの、嫌ですぅ…!許して…!もうやめて下さい…!」
針のとんだアナログ盤みたいに同じ言葉同じ嘘を繰り返す。こうしていないと汚れた自分を認めてしまう様で怖かった。口から漏れる嘘の数々が、彼との最後の絆の様な気がしたのだ。
「ちっちゃな乳首をこんなに勃たせて、本当は乱暴にされて感じてるんじゃないのかな?」
大きな手が乱暴に私の胸を握りつぶす様に揉んだ。痛い。けど気持ちいい。
「そんな事…、そんな事…!」
髪を掴まれながらも首を振って否定する。
『ウソツキ、ランボウニサレテキモチイイクセニ』
不意に欲棒の動きが止まった。何か面白いことを思いついたといった表情だ。こういう表情のときは何かさせられる。
「こっちに来なさい」
髪を掴まれながら無理矢理窓辺に連れて来られた。『彼』が窓を開け放つ。夜の冷気が淫臭に満ちた部屋にひんやりと流れ込んでくる。
「お隣の家には笑ちゃんのクラスメイトの男の子がいるそうじゃないか」
どくん。
「笑ちゃんがこんな事してると知ったら…どう思うかな?」
どくん。
「もしかして、気になるのかな?」
どくん。
「私としている所は見られたくないだろう。好きでも、そうじゃないとしても…」
どくん。
知っているんだ。私が彼に惹かれている事を。
「窓に手をついて、お尻をぐっと突き出すんだ」
私は言われたとおりにする。自分の姿を思い浮かべる。何ていやらしい娘なんだろう。
「一人で始めなさい。私は観ているから」
私の勉強机の椅子に腰掛け、いやらしい笑いを浮かべる『彼』は間違いなく悪魔だ。
しかし私は悪魔の命令を拒否しない。できるはずもない。
「…します」
人差し指で火照る肉裂を擦る。今すぐにでも濡れた奥に指を突っ込んでぐちゃぐちゃに掻き回したい。
「…はぁ…はぁ…はあぁ…」
液が太腿にまで垂れてきた。しかしその感触でも私の汚れた悦びは加速してゆく。
「一人でした方が気持ちいいのかい?」
私は答えない。いや、もうこの体で答えているようなものだ。
包皮の上から勃起した肉芽を擦る。ぴりぴりとした快感が腿を振るわせる。
向かいの部屋で人が動いた気配がした。カーテン越しに彼が動いているのが見える。理性が一瞬指を止める。
「止めないで」
その声で現実に引き戻され、私は再び快感を貪る。
『オネガイ、コンナワタシヲミナイデ』
しかし無情にも彼の部屋の窓は開けられた。
「本条さん…!」
「こ、こんばんわ」
下半身は窓の下になっていて見えないのが救いだ。しかし指は動きを止めない。
「どうしたの?」
「あ、うん。部屋の窓が開いた気がしたからちょっと見てみたら本条さんがいたんだ」
どくん。
それじゃあ私たちの会話も…?
「私は…ちょっとお勉強に疲れたから」
とろ…っと愛液がお尻を汚す。
「…どうして、俺を避けるの?」
「…ごめんなさい。私…」
「…本条さんがすごく辛そうなの、俺見てられない。何か力になれる事はない?」
彼の優しさが痛かった。
『ソレナラワタシヲオカシテ。アナタノスキナヨウニ』
見えない所で私は欲望を紡いでいる。もう我慢できない。二本の指を突き立てる。
「う…ん!」
「どうしたの?どこか具合が悪いの?」
「ううん、大丈夫。少し休めば…」
指をいつもより激しく出し入れする。愛液が足まで垂れてきた。
「あまり無理はしない方がいいよ。体調を崩して本番に影響したら元も子もないからね」彼の笑顔。眩しい笑顔。私は思わず顔を逸らした。直視なんてできない。
「それじゃ、あまり無理しないでね。寒いからあったかくして勉強するんだよ」
「ええ、ありがとう…」
私の体はこんなに火照っているのに。あなたが欲しいのに。すぐそばに彼がいるのに。この距離が、気持ちが、悲しいくらい遠い。
「それじゃ、また学校でね」
「うンッ…それじゃあ…」
「本条さん!」
彼が私の名前を呼ぶ。
「俺、今本条さんと話できてすっごく嬉しかったから!それだけ!」
そして彼はカーテンの向こうへ消えてゆく。
「なるほどね…」
背後から聞こえてきた『彼』の声で「私の現実」に引き戻される。
「すごいね。あんなに夢中にオナニーするなんて」
女の中心からお尻、太腿を伝って足まで垂れた生暖かい粘液の感触が気持ち悪かった。
「笑ちゃんは、男の子と話しながらいやらしい事ができちゃうんだ…」
いやらしい笑みを口元に浮かべながら詰問してくる。
「否定はさせないよ。現に…」
乱暴に私の右手首を目の前に掴み上げる。
「ほら、こんなにぬるぬるが」
そして私の指にねっとりと絡みつく粘液をべろべろと舐める。私はそれを夢の中の出来事のように眺めていた。嫌悪と諦念。
「さぁ、気持ちよくなろうじゃないか」
私はまた窓辺に手をついてお尻を突き出す。そして突き入れられる欲棒。
「ぁはあぁ…ン!」
嫌悪しても否定しても、私の牝の部分は肉の悦びを必要としている。この愉悦なくては生きていけない。
「ん…笑ちゃんの中…温かくて、ぬるぬるで、最高だ、最高だよ…!」
「はぁッ、はぁッ、ああッ!」
溺れる魚のように口をぱくぱくと動かす。空気を吸って嬌声を吐き出す。
「あれー、笑ちゃん」
聞き馴れたその声で白痴めいた私の精神は現実に引き戻された。全身に冷水を浴びれられた思いがした。
「あ…こんばんわ、かなめちゃ…んッ」
隣の家の玄関にいたのは、さっきまで話していた男の子と同じ顔の女の子だった。彼の双子のお姉さんのかなめちゃん。
「どうしたの、ぅッ、こんな時間にィ…ッ」
「ちょっとね、ジュースジャンケンに負けちゃってコンビニまで。笑ちゃんは?」
「お勉強にちょっと疲れて、一休み…ッ!」
かくんと足から力が抜ける。いよいよ足腰が立たなくなってきたみたいだ。
「あ、大丈夫!?…もしかして、お腹痛いの?」
「ううん、違うの。ちょっと…ね…んふッ!」
私はあなたとお話しながら、叔父さんとエッチしてるの。
「…無理しないで、温かくして休むんだよー」
「うん、ありがとうかなめちゃん」
「それじゃあねー。また学校でね」
彼と同じ顔の女の子。明るくて、かわいらしい、彼の半身。
背徳的な妄想が脳裏に閃いてしまった。どくん、と胸が高鳴る。
「どうした、急に締め付けてきて」
言えない。言えやしない。私は頭まで狂ってしまったのだろうか。
「イクのかい!?私もそろそろ…」
体の中心からタガが引き抜かれる三つ編みの髪を掴まれて、私の口に乱暴に欲棒が突っ込まれる。そして吐き出される白濁。
「うう…ッ」
どくんどくんと脈打ちながら欲棒は白濁を吐き出す。口一杯になった欲望の残りカスが思わず隙間から漏れる。
「残さず全部口に入れるんだ…」
言われたとおりにする。濃厚な独特の味が嗅覚までも犯してゆく。
「よく味わうんだ」
気持ち悪い。
「味わったら、残さずに飲み込むんだ」
嫌いな食べ物を食べてしまうように、口の中の白濁を一気に飲み込んだ。
「気持ちよかったよ。それじゃあ、おやすみ…」
私の頬にそっと触れてから、『彼』は自分の部屋へと戻っていった。私はそれを茫洋と見送った。
涙がこぼれた。声を殺して、その場にうずくまって泣いた。
悲しかった。総てが、悲しかった。
その夜夢を見た。『彼』に向日葵畑で犯される夢。いや、過去の幻影。
『彼』の背中の向こう側には抜けるような青空と、向日葵の黄色があった。
私は訳もわからずに下半身の疼痛を耐えていた。この行為が何を意味するのかも知らなかった。ただ、向日葵に見られているのがとても悲しかった。
『アア、コノヒマワリハカレダ』
遠い意識の中で不意にそう思えた。そして、一層悲しくなった。
「本条さん、どうしたの!?」
「…お願い、もう私には構わないで…」
「だって、昨夜は普通に話したじゃない。俺すごく嬉しかったんだ!」
私だって嬉しかった。
「…お願いだから、もう放っておいて欲しいの」
嘘つき。
私はその場から一瞬でも早く立ち去りたかった。私は彼に好かれるいわれは無い。彼はこんな汚れた女を好きになってはいけない人だ。
どくん。牝の部分が疼き始める。どうして?
『カレニダカレタインデショ』
「はぁう…ッ!」
胸が苦しい。めまいがして力が抜ける。
「どうしたの本条さん!?」
彼が私に触れる。
「お願い触らないで!」
思わず大きな声を出してしまった。放課後の廊下に私の声は意外と響いた。
あなたに触られるだけで、私はあなたを求めてしまう。もっと触れて欲しい。抱きしめて欲しい。抱いて欲しい。めちゃくちゃに犯して欲しい。
「…どうして、あなたは私に優しくするの…?」
彼の優しさが痛かった。
「だって本条さん、辛そうだから…。俺、真剣に本条さんの力になりたいんだよ」
『ダッタライマココデワタシヲオカシテ』
「…」
溢れ出した愛液は下着を汚し始めていた。鼓動に合わせて秘裂から溢れ出してくる。
「あなただって、本当の私を知ったら絶対に軽蔑するわ…」
嫌われた方がどんなに楽だろう。しかし彼にだけは本当の私を知られたくない。
「そんな事ない。本条さんは、本条さんだから」
私を見据える真摯な眼差しが痛い。はっきりと言い切るその言葉が痛い。
「…ごめんなさい…!」
私はとうとう居たたまれなくなってその場から逃げ出した。
「本条さん!」
彼の手は空を切った。これで良かったのだろうか。
「んん…、ふ…ンッ、んッ、んッ、ふうぅッ…!」
職員室の近くの教員用のトイレ。その一番奥の個室で私は欲望に任せて激しく牝の部分を弄った。
ワイシャツの前をはだけて裸の胸を揉みしだく。スカートの裾を咥えて裸の下半身を執拗に弄る。
愛液はタイルの床に小さな水溜りを作る程に溢れ出した。乳首やクリトリスは痛いくらいに勃起していた。突き入れる指に絡まる襞は貪欲に快感を求めた。全身が愛欲を貪るだけの器官になってしまったようだ。
ひくん、ひくんと内壁が指を締め上げる。もう何度目の絶頂だろう。それでも私は自涜を繰り返す。何度でも胸をこね回し、何度でも内壁を擦り上げる。
『ゴメンナサイ…』
何に許しをこえばいいのだろう。何が私を許すのだろう。
『本条さんは、本条さんだから』
嘘つきで偽善的なのも私だというの?
『本条さんは、本条さんだから』
親戚に汚されきったこの体も私だというの?
『本条さんは、本条さんだから』
愛欲なしでいられない病んだ心も私だというの?
また絶頂に達する。癖で噛んだ指が鉄の味をした。何度も強く噛みすぎてとうとう切れてしまった。
この痛みは断罪であり、贖罪だった。
唾液と愛液と血に汚れたその指を見ていたら涙が出てきた。
「…私は…どうすればいいの…?」
歩き出すことも立ち上がることもできないまま、薄闇の中私は一人呟いた。