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どうして、こんなことになってしまったんだろう?  
 
「おはようたかねっち!」  
「あ、おはよう」  
「おはよう」  
「うん、おはよう」  
 
いつもと変わらない朝の登校風景。校舎に向かう人の流れの中で、友達と挨拶を交わしながら…  
 
感じる。男の子たちが、ちらちらと視線を送って来るのを。以前は、それを特に気にしたことはなかった。そんな風に視線にさらされるのもイヤじゃなかった。でも、今のわたしは。  
 
ぎくしゃくと体をこわばらせながら、足早に昇降口に駆け込む。せめて、教室に逃げ込んでしまえば、少しは安心出来る。そう思いながら、下駄箱の扉を開けると、そこには白い封筒が入っていた。  
 
体が凍り付いた。  
 
「あー、たかねちゃんまたラブレター?いいなー」  
 
陽気な友達の声に我に返る。  
 
「あ、え、う、うん、ど、どうかしらね…」  
 
慌ててポケットの中に封筒を押し込みながら、急いでその場を立ち去った。声が震えていたの、気付かれなかったろうか。  
 
授業はまったく上の空で、何も考えられなかった。冷たい汗が体を這い回るのを我慢するだけで精一杯だった。休み時間のチャイムが鳴るが早いか、慌てて教室を飛び出して、トイレの個室に駆け込んだ。  
 
ポケットに押し込まれてくしゃくしゃになった封筒を取り出す。いつもと同じ、味気のない、真っ白な封筒。糊付けされた封を開こうとするけど、指が震えてうまくいかない。歯がかちかちと音を立てる。もどかしくなって封筒を力まかせに引き裂いた。中身が飛び出して散らばる。  
 
閉じた便座の蓋の上にぱらぱらと舞い落ちる、幾葉かの写真。  
 
「…!!」  
 
写っているのは、自分の手でスカートをまくり上げ、何もつけていない下半身を露にしている女の子の姿。突き出されたお尻の肉の間に、異様な形の玩具が押し当てられている淫らな光景。しゃがみこんで大きく股を開き、放尿している瞬間の痴態。  
 
…それは、全部わたし。  
 
声もなく、ずるずると崩れ落ちる。きっと顔が真っ青になっているに違いない。散らかった紙片の中に、写真と違うものがあるのが目に入った。  
 
「今夕、第2校舎3階、用具室にて」  
 
それは、悪夢への招待状だ。  
 
 
第2校舎は理科室や視聴覚室のような特別教室しかないから、放課後になると閑散としている。3階奥の用具室ともなると、もう誰もやって来ない。その、少し滑りの悪い引き戸をのろのろと開くと、招待状の主がそこにいた。  
 
「…やあ蒼月さん、お待ちしてましたよ」  
 
眼鏡の向こうの小さな目が、陰険そうに輝く。思わず体に怖気が走り抜ける。…入学以来、この目に見つめられ続けていたんだ…なぜ、気付かずにいられたんだろう?自分自身の愚かさが恨めしい。  
 
彼は、わたしのファンクラブの会長を自称して、わたしにつきまとっていた。スポーツ選手でも芸能人でもない自分にファンクラブなんて変じゃないかと思ったけど、崇拝のまなざしで見られるのは悪い気分はしなかったし、慕ってくれるのを無下に拒むのも何だか悪いような気がして、わたしはずっとそれを黙認していた。  
 
それが過ちだったと気付いた時には、もう遅かった。あの体育祭の日、彼の罠にかかって辱めを受けて以来、わたしはもはや彼の崇拝の対象ではなく、ただのおもちゃに堕ちたも同然だった。  
 
「どうぞ、こちらへ」  
 
内側から扉に鍵がかけられ、わたしは部屋の奥へと押しやられる。雑多な教材や書物が詰まった箱が積み上げられた狭い室内。その奥の方にささやかな空間が作られ、三脚に取り付けられたカメラが置かれている。ポケットにおさまるようなシンプルなものではない、砲台を思わせるような巨大なものだ。  
 
「…じゃあ、準備をして下さい、…いつものように」  
 
まるで係の仕事を指示しているかのような平板な調子で、命令が下される。最初の時に撮られた恥ずかしい写真を盾に、彼はわたしを更に辱めた。何度も。そのたびに写真やビデオを撮られ、わたしを搦め取る蜘蛛の糸が増えて行く。繰り返される陵辱の事実が、わたしの心をすっかり萎えさせていた。…彼がわたしの体をその指や舌で弄ぶのに、もはや薬の助けは必要がなかった。  
 
こんなことではいけない。今日こそは、勇気を出して言わなければ。  
 
「…もう、…やめて下さい」  
 
震えながら、でもはっきりと、口に出した。彼は驚いた風もなくわたしを見ている。  
 
「今までのこと、わたしの両親に言います。先生にも…こんな…こんなこと、もう耐えられません。正直に言って、全部やめさせてもらいます」  
「いいですよ」  
 
彼はあっさりとそう答えた。狼狽えたり、怒り出したりすると思っていたわたしは逆に驚いてしまった。  
 
「でもそうすると、僕が今まで撮らせてもらったあなたの写真は、全部没収されてしまうんですね」  
「えっ…」  
「惜しいなあ…僕だけのものだったのに。全部あなたのご両親や、先生や、場合によっては警察の人なんかにも見られてしまうんですね…あなたが僕だけに見せてくれた、あのたくさんの恥ずかしい姿が」  
「!!」  
「いいんですよ、僕は、破滅しても。…あなたと一緒なら」  
 
なんて馬鹿なんだろう。この状態から逃げ出すことばかり考えて、その結果を全然考えていなかったなんて。今日1日思いつめて、なけなしの勇気を奮い起こしてやっとの思いで口にしたのに、浜辺に打ち寄せるさざ波ほどにも意味がなかった。  
 
「…さあ、もういいでしょう。準備して下さい」  
 
唇を噛んで涙ぐむ、もうそのくらいしかわたしに残された抗議の方法はない。けれど、彼の冷たい視線は動じる風もない。絶望と後悔に打ちのめされながら、のろのろとスカートをたくし上げる。…もう、選択の自由はないんだ。  
 
彼に見られながら、ゆっくりと下着を下ろして、両足から抜き取る。スカートの下でむき出しにされた素肌が心細い。彼の手が差し出され、わたしの手の中の下着を要求する。屈辱に震えながら、黙って渡す。それはこの汚れた儀式の決まりごとだった。  
 
「ふふふ…なんだか重たいですね」  
 
意地悪くそう言いながら、彼は丸まった下着をわざと両手で広げてみせる。  
 
「おやおや。蒼月さんはお漏らしでもしたんですか。こんなに染みを作って…それとも、そんなに待ち遠しかったんですか」  
 
顔中が熱くなる。そんなわけない。…だけど、何も言えない。黙って目を逸らすことしか出来ない。  
 
「まあ、どうでもいいですよ。さあ、見せて下さい」  
 
顔を背けたまま、スカートの裾を掴んで、ゆっくりと持ち上げて行く。隠されていなければいけない部分が、窓から差し込む西日にさらされて行く。デジタルカメラのシャッターが切られる電子音が小さく響く。  
 
「顔をこちらに向けて下さい。そう…いいですよ。さあ、笑って」  
 
泣きそうになりながら、カメラに向かって無理に笑顔を作ってみせる。泣き笑いを浮かべながら、自分の秘所を見せつけているおかしな女の子の写真がまた増えて行く。  
 
「いいですよ、そのまま…」  
 
彼がカメラから離れて近付いて来る。その手にはグロテスクな玩具が握られている。それが男の人の性器の形に似せたものだということが、最初はわからなかった。…今は、もちろん、わかっている。黒光りするそれが、むき出しのお腹に押し当てられる…いやらしくわたしの肌の上をすべらせながら、じわじわと両足の付け根に近付いて行く。  
 
わたしの敏感な部分に近付いたかと思うと離れる。いつそこに触れられるかびくびくしながら、どんどん鼓動が高まって行く。ふと、先端が離れて安堵を感じた瞬間、いきなり全体が両腿の間に押し当てられた。  
 
「っあ・うっ…」  
 
予期しない突然の冷たい感触に体が跳ねる。持ち上げていた手からスカートの裾が落ちそうになる。彼は黙ってスカートの裾を取ると、その端をわたしの口に押し込んだ。わたしはされるままにスカートの裾をくわえ、自由になった両手を後ろの積まれた箱の山について、体の支えにした。その間にもわたしの股間に挟まれた怪しい玩具が彼の手でぐりぐりと押し付けられている。  
 
「ふうっ、むぐ、くぅ…っ」  
「もっと脚を開いて。そうです」  
 
思わず言いなりになってしまうわたし。肉の合わせ目にそって蠢く感触が、しだいにねっとりとまといつくようなものになり始める。  
 
「ふふ、溢れて来たみたいですよ、蒼月さん。感じてくれているんですね」  
 
スカートを噛み締めながら、自分の体を呪った。こんなひどい目にあわされているのに、わたしは…!  
 
股間から送り込まれる刺激に、だんだん頭がぼうっとしてくる。視界にピンクの靄がかかり始め、いつの間にか彼の手の動きに合わせて腰が動いてしまう。彼がもう片方の手でカメラのリモコンを操作している。こんな、こんなことしたくないのに…でも、でも、止まらない。  
 
前触れもなく彼は玩具のスイッチを入れた。モーターの唸る音と共に、わたしの秘裂に押し当てられたまま激しく振動を始める凶器。  
 
「ひ、いっ、あっ、あ、あひっ…!」  
 
思わずお尻を引いて逃げようとするけれど、すぐに後ろの荷物の壁に止められてしまう。体をくの字に曲げて、彼にしがみつきながら、容赦ない激しい感覚にどんどん押し流されて行く。  
 
「はあ、ああっ、あ、あんっ」  
 
ちょうど真正面から、カメラのレンズを見つめるような格好。涙や涎でぐしゃぐしゃになっただらしない顔が写っている。今、この瞬間も残されてしまうんだ…  
 
「………!!」  
 
彼の体にもたれかかったまま、わたしは何度か激しくのけぞって、声のない断末魔を迎えた。  
 
いつスカートを脱がされたのか、全然覚えていない。気がついた時には、わたしは下半身を露にして、カメラに向かって両脚を大きく開いていた。その向こうで彼が何度もシャッターを切っている。思わず脚を閉じようとしたけれど、腰が抜けたようになっていて思うように体が動いてくれず、ただもじもじとお尻を動かすだけになってしまう。  
 
彼はそんなわたしを見て、口の端にいやらしい笑みを浮かべると、カメラの向こう側から再びわたしのそばにやって来る。両の膝頭を掴んでいっぱいに押し広げ、広げられた中心に顔を寄せる。  
 
「い…っ、いや…いやぁ…っ」  
 
太くて短いくせに妙に繊細な彼の指先が、わたしの感じやすい肉を無遠慮にまさぐる。彼の舌と唇が、軟体動物を思わせる淫らな動きで、わたしの粘膜の上を這い回り、吸い上げる。頭の奥で激しい光が何度も爆発する。こんな卑しい相手に、自分を弄ばれる、たまらない屈辱。  
 
何度も上り詰めたのに、彼の執拗な攻撃はやむことなく、わたしはぜいぜいと喘ぎながら切れ切れの哀願を繰り返した。  
 
「お…ねがい、お願い…もう、もうっ…ゆるしてえっ…」  
 
わたしの両脚の間で、彼が顔中をべっとりと無気味に濡らした顔を上げた。息を荒くしながらわたしの上をにじり寄って胸の上に跨がると、ズボンのファスナーを下ろして、見にくい肉塊を取り出し、わたしの手を取ってそれを握らせた。本当はそんなもの絶対に触りたくなんかないけど、もう抵抗する力がない。しかも握ったわたしの手の上から彼の手が覆い被さってしっかりと握りしめてくる。  
 
わたしの手を上から握りしめたまま、彼が自分の性器をしごき立て始める。当然、直接擦り上げているのはわたしの手だ。のしかかられて逃げることも出来ないまま、わたしの顔の目の前で赤黒い先端がぷるぷると震える。  
 
(もう、もうイヤ…)  
 
わたしは両目を固くつぶって、早くこの瞬間が通り過ぎてくれることだけを祈った。やがてわたしの手の中で彼のものがひときわ強く脈打ったかと思うと、激しくしゃくり上げるように、生臭い粘液がわたしの顔中に吐きつけられた。その責め苦は永遠に続くようにさえ思われたけれど、やがておさまった。  
 
「はあ、はあ、…ありがとうございます、蒼月さん…」  
 
そう言いながら彼は、汚物にまみれたわたしの顔をシャッターにおさめるのを忘れなかった。  
 
ことがすんだ後の彼は、几帳面にすべての後始末をした。わたしの体中に付いた汚れを綺麗に拭き取り、乱れた服までも整えてくれる。その姿だけを見れば、甲斐甲斐しいとさえ言っても良かった。  
 
傍目には、たった今辱めを受けたようには見えない、元通りの制服姿。ひとつだけちがうのは、スカートの下は裸のままだということ。このまま家まで帰ること、それも彼がわたしに行う辱めの一環なのだ。  
 
「今日の分は、またプリントして差し上げますよ。では、また」  
 
彼に見送られながら、わたしは悔しさと恥ずかしさに押しつぶされてしまいそうだった。でもどうにもできないまま、わたしは次の陵辱を待つしかない。  
 
どうして、こんなことになってしまったんだろう…  
 

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