: 160%">
教室、廊下、階段。どこを見ても、思い出すのは昨日の自分の狂態ばかり。学校はも
う、わたしにとっては楽しい場所でも安らげるところでもなくなってしまった。校内
にいる限り、逃げ込める先はどこにもない。行く先々で、自分がどれほど恥知らず
だったかを、真新しい記憶の中に突き付けられて泣きたくなる。いたたまれない気持
ちを押し隠しながら、わたしは今日一日が早く通り過ぎて行ってくれることだけを
願っていた。
「…蒼月さん、顔色が良くないわよ。大丈夫?」
やわらかい声が、自分の中に落ち込んでいたわたしの意識を引き戻す。佐久間先生の
心配そうな顔がすぐそばにあった。
「あ、いえ、別になんでもないです…ちょっと、考えごとを…」
「そう?それならいいんだけど…具合が悪いんだったら、保健室で休んだ方がいいわよ?」
佐久間先生。おっとりした感じの、見るからに育ちの良さそうな、清楚な雰囲気の
人。その分、怒ってもあまり迫力がなかったりするのだけど、そこがかえって男の子
たちには人気があるらしい。
「ところで、蒼月さん…辻村先生、見なかったかしら?」
その名前に、反射的にからだがこわばる。そのわたしの変化に、佐久間先生は気付い
てはいない。…一瞬、この人に相談してみようかという考えが頭をよぎった。すべて
を話して、助けてほしいと言ったら…?
ううん、だめ。この人には、今わたしが経験しているような世界は、きっと想像も出
来ないに違いない。うろたえて大騒ぎした後、通り一遍のお説教を言われるのが関の
山だ。わたしははかない希望をむなしく打ち消す。
「…いえ…見かけません」
「そう。…いいわ、ありがとう」
そう言って踵を返し、足早に去っていく佐久間先生の後ろ姿は、何か焦っているよう
にも見えた。でも、わたしにとってはそれどころじゃなかった。放課後に待ち受けて
いるだろう新たな屈辱の予感に耐えることだけでいっぱいだったのだ。
「…来たか」
午後の明るい光が差し込む、放課後の進路指導室。辻村先生が、テーブルを挟んで向
かい合う椅子の片方に座って待っていた。開け放たれた窓から、野球部だろう、金属
バットがボールを叩く音が聞こえてくる。
「…どうした。入れ」
開いた扉の前で、足を踏み入れあぐねて立ち尽くしているわたしに、辻村先生が促
す。あきらめて部屋の中に入り、後ろ手に扉を閉める。
「座れ」
言われるままに、向いの椅子に腰を下ろす。
結局、来てしまった。無視して帰ってしまったらどうだろうかとも考えたけれど、な
ぜかそうしてはいけないような気がして。昨日のことを表沙汰にされるのがこわかっ
たから?…確かにそれもあった、でもそれだけとも違うような気もする。
恐れと羞恥と屈辱にうつむいたまま、顔が上げられない。そのわたしに、辻村先生は
何も言わない。何も言わないけれど、見ている。目を合わせなくても、視線が注がれ
ているのが痛いほどにわかる。ついに沈黙に耐え切れなくなったわたしは、おそるお
そる視線を上げていった。
背もたれにゆったりと体を預けて、わたしをまっすぐに見つめる辻村先生の目がそこ
にあった。あわてて視線をそらそうとしたけれど、出来ない。神話のメドゥーサの呪
いのように、その視線はわたしの体をからめ取り、石のように動かなくしてしまっ
た。
辻村先生はテーブルの上に無造作に置かれていた煙草の箱の中から1本取ると、ポ
ケットから金属製のライターを取り出して火をつけ、ゆっくりとふかした。その間
も、視線は一瞬もわたしから離さない。呪縛されたわたしは、その視線をもぎ離すこ
ともできないまま、まっすぐに受け止めるしかなかった。
冷ややかな、まるでモノを見るかのような視線。侮蔑と無関心のどちらとも取れな
い、底の見えない深さをたたえた瞳の色。これだ。この目が、昨日のわたしをずっと
見つめていたんだ。体の奥底で、得体の知れない何かがざわめき始めるのを感じて、
わたしはうろたえていた。
…そういえば、辻村先生が煙草を吸うところなんて、今まで見たこともなかった。こ
の人は本当に辻村先生なのだろうか?まるで知らない人を見ているような…それと
も、わたしが今まで見知っていたのは、本当の辻村先生ではなかったということなん
だろうか。
「…西に任せておいて大丈夫かと思っていたが、調教は予想以上に順調に進んでいた
ようだな」
不意に沈黙を破った先生のその声に、思わず体がびくりとはねる。
「さすが1年の頃からファンクラブ会長を自称してお前を追い続けていただけのこと
はある。どこをどうすればお前を飼い馴らせるか、奴はきっと何度も方法を練り上げ
ていたんだろうな」
言われている言葉の意味がよくわからない。わたしは思わずその疑問を口に出してし
まった。
「…ちょうきょう、って…何ですか?」
「家畜やペットを人間に従うように躾けることだ。競馬なんかで調教師と言うのがい
るだろう、知らないか?」
ペット、という単語に心と体が激しく反応した。首に巻かれた革の感触がまざまざと
蘇る。昨日の自分が辻村先生の前で何をしていたかを改めて思い出す。鼓動が勝手に
早くなり、体の奥がかっと熱く火照る。そんなわたしの様子を、辻村先生の冷たい目
が相変わらず射すくめている…椅子の上に釘付けにされたまま、裸に剥かれてしまっ
たような錯覚がわたしを襲う。
「予定では夏休みいっぱいは西にやらせるつもりだったが、前倒しで進めることにした」
「…辻村先生が…彼に、わたしにあんなことをさせたんですか」
「そうだ。奴に薬や道具を与え、場所を提供して、お前を辱めさせた。お前を従わせ
る方法や、段階の進め方も俺が指導した」
「………」
「西が撮って来る写真やビデオは提出させた。すべて見せてもらったよ。カメラの前
で裸にされることに慣れるのが、予想したよりずっと早かったな。お前には俺が思っ
ていたよりも、ずっと高い素養があるようだ」
体じゅうががくがくと震える。息が荒くなるのを抑えられない。昨日のことだけじゃ
ない、全部知っているんだ、この人は。あれも、これも、全部、全部。
「…あ、あっ、あの…っ」
「心配するな。まだ、俺以外の目に触れてはいない」
まだ?まだ、って何?そう言おうとしたけれど、言葉が出ない。ただ口をぱくぱくさ
せて喘ぐだけ。
「あ…っ、わ、わた、わたし…っ」
「うん、今日からお前の調教を次の段階に進める。これからは俺が直接お前に対する
調教を行う、いいな」
「…わ、わかりません!ちょっ、調教ってなんですか!わたしをどうするつもりなん
ですかっ!」
やっとの思いでそれだけ言った。先生は驚く風もなくわたしを見つめたまま、平静な
口調で続ける。
「調教は、調教だ。牝として生まれたものを、牝として教育する。服従することで悦
びを覚え、羞恥と屈辱を幸福に変えられるように、心と体を作り変える」
「な…!」
「すべてが終われば、身も心も完全に肉欲に支配された牝奴隷になる」
想像を絶する言葉が辻村先生の口から流れて来る。思考が混乱して、それが自分に
とってどんな意味があるのか、よくわからなくなってくる。でも、なぜだかそれらの
言葉を拒み切れない。それどころか、胸の奥底で、その先を聞きたがっているわたし
がいた。
「…わ、わたし、わたしは…!」
「お前はこれから肉奴隷になるんだ、蒼月たかね」
辻村先生のその言葉がわたしの頭の中にがんがんと響いた。
(肉奴隷?わたしが、奴隷?)
(心と体を作り変える?完全に肉欲に支配されて?)
言葉が頭の中をぐるぐると回っている。正気を疑うような異常な内容の話を、しかし
わたしはまるで運命の宣託のように受け止めてしまっていた。それでも、わたしのさ
さやかな理性とプライドが、その呪縛を拒もうと試みる。
「…い、いやです!そんな、ど、奴隷だなんて…変です、異常です!わたし、そんな
ものにはなりたくないし、なりません!」
「そう、最初は誰でもそう言うんだ。だが、みんな最後には自分自身の真実を受け入
れ、調教されたことに感謝をするようになる」
「そ、そんな…嘘です、わたしは違います」
「では、昨日俺が見たのは何だろうな」
「あ…っ」
「俺の前で腰を振って股を掻き回して、小便まで漏らして悶えていたのは誰だったか
な?その後も素っ裸で校内を練り歩いて、随分楽しそうにしていたようだったが」
「………」
唇を噛む。あれはわたしじゃない。あの時のわたしはわたしじゃない。そう言いたい
けれど、言えない。どんなに認めたくなくても、あれが自分だったことは覆せない事
実。
「お前は他人に見られることで悦びを感じる牝だ。そのことにお前の体は既に目覚め
始めている。ただ、心がそれに追い付けずに戸惑い、迷っている」
「ちが…ちがう…ちがいます…!」
「なあ、蒼月。俺はお前が本当の自分を知る手助けをしてやりたいと思っているん
だ。牝として目覚めた以上、牝の悦びを知るべきだ、そうじゃないか」
辻村先生の口調は、まるで、成績や進路の相談をしているかのような穏やかなもの
だった。…いや、たしかにこれはわたしにとって進路の問題だった。人間のままでい
るか、肉奴隷に堕ちるか。わたしは、今ここでそれを選ばされるんだ。
「すべてを受け入れた時の悦びがどんなものか、お前は知りたくはないか、蒼月」
(ああ…)
わかってる、これは悪魔の囁きだ。でも、昨日経験した、目もくらむほどの悦びの記
憶が、わたしの心をゆっくりと溶かしていく。辻村先生の冷たい瞳がわたしを見据え
ている。この瞳にすべてを委ねたら、わたしはいったいどうなるんだろう?
「…わたしは…」
何を言おうとしているの、たかね。自分が口にしようとしている言葉さえ予想できな
い。その言葉が音になって出ようかという、まさにその瞬間に部屋に響いたノックの
音が、わたしの麻痺しかけた理性を呼び戻した。
「…入れ。開いている」
遠慮がちに開いた扉の向こうから、人影が室内に足を踏み入れた。その人は…
「…!あ、蒼月さん!なぜ…」
入って来たのは佐久間先生だった。辻村先生の前に座っているのがわたしだというこ
とに心底驚いたという顔をしている。わたしの方も、予想もしなかった人物の登場に
当惑していた。
「失礼します」
佐久間先生の後ろから、いつもの顔が現れた。
「遅かったな、西」
「すいません。準備に手間取りました…こんにちは、蒼月さん」
「どうして蒼月さんがここにいるんですか。…まさか!」
佐久間先生の問いに、辻村先生は無言で答えない。ただ、冷ややかな視線を向けるだ
けだ。…そう、さっきまでわたしに向けられていた、あの冷たい視線。
「なんてこと…!蒼月さんまで…あなたは生徒たちをいったい何人手にかければ気が
すむんですか!わたし、もう我慢出来ません」
佐久間先生が辻村先生に詰め寄ろうとした、と見えた瞬間。佐久間先生の体が前触れ
もなくはね上がった。
「はっ、あ、ああぁっ!」
異様な光景だった。まるで目に見えない糸に繋がれた人形のように、佐久間先生の体
がうねり、踊っていた。美しい顔が驚きと苦悶に歪む。
「あ、あぃっ、ひぃっ、い・あぁあ…っっ!!」
やがて佐久間先生は辻村先生の座る椅子にすがりつきながらがっくりと膝をつき、ず
るずるとくず折れていった。その間にも、豊かな体が何度も震える。
「ひっ、いっ、ひぃ…」
呆然と見守るわたしの目の前で、今や佐久間先生は辻村先生の足下に額を擦り付けな
がら、お尻だけを高く上げてびくびくと痙攣している。
「…して、ゆるして…ぇっ…ひ・いっ…」
蚊の鳴くような声で哀願する佐久間先生を見下ろす辻村先生の顔は、見たこともない
ほど恐ろしいものだった。その左手がポケットの中に隠れて、何かを握っている。
「あ…ん、ん・ふっ…んん…」
いつの間にか、佐久間先生の声が色を変えていた。動きも先ほどまでの弾かれるよう
なものとは違う、どこか蛇を思わせるようなゆったりと艶かしいものになっている。
その顔もついさっきまでとは違い、頬を紅潮させ、悩ましく眉根を寄せながら、襲っ
て来る何かを必死で受け止めている。
隠れていた辻村先生の左手がポケットから現れた。同時に辻村先生の足下にひれ伏し
た佐久間先生が動きを止め、意外と不服の入り混じったような顔で見上げる。その栗
色の髪を辻村先生は乱暴に鷲掴みにして引き寄せながら、自分も腰をかがめて佐久間
先生に顔を寄せた。
「ひ、いっ…痛…!」
「余計なことは言うな。住田のようになりたいか」
その押し殺した一言で、佐久間先生の顔に怯えが走った。
「ごっ、ごめんなさい、わたし、そんな…」
それを全部聞き終わらない内に、辻村先生は投げ捨てるように佐久間先生の髪を離し
た。佐久間先生は肩で息をしながら顔を背けている。わたしには、今、何が起きたの
かさっぱりわからない。
「…今日から蒼月に見学させる。いいな」
「…はい…」
「見学…?」
思わず、聞いてしまった。辻村先生はそんなわたしを一瞥すると、佐久間先生に向
かって言った。
「…見せてやれ。立て」
「は…はい」
佐久間先生が喘ぎながら、テーブルにすがって立ち上がろうとする。一瞬、その潤ん
だ瞳とわたしの目が合ったけど、佐久間先生はすぐに目をそらした。膝をがくがくと
震わせながら、佐久間先生がやっとわたしの前に立つ。
「西。蒼月に見せてやれ」
命じられるが早いか、西くんが佐久間先生の腰を後ろから抱え込む。佐久間先生の方
が彼よりも頭ひとつくらいは大きいから、振りほどいて逃れることは出来たはずなの
に、佐久間先生はなすがままに西くんの腕にからめ取られる。彼の手が佐久間先生の
スカートから伸びる太股にぴったりと吸い付いた瞬間、佐久間先生はふうっと大きな
ため息を吐いた。やがて西くんの手がむっちりと張りつめた太股をじわじわと這い上
がりながら、スカートをずり上げていく。
「…蒼月さん、お願い、見ないで…」
はっと見上げると、佐久間先生が背けた顔を真っ赤にして唇を噛んでいた。その様子
がなぜかとても綺麗に見えて、わたしは佐久間先生の希望を裏切ってつい見とれてし
まう。スカートはもう脚の付け根近くまで引き上げられている。その内股に、糸を引
いて伸びる滴りがあるのに気づく。
やがてスカートが完全にまくり上げられ、露にされた佐久間先生の下腹を見て、わた
しは思わず息を飲んだ。豊かに張った腰を包んでいるのは、普通の下着ではなかった
…いや、下着でさえなかった。黒光りするゴムのように見える素材と金属とで出来
た、帯のようなマスクのような、異様な代物だった。
「さあ、外してあげましょうね、佐久間先生」
「ひ…っ」
西くんは辻村先生から小さな鍵を受け取ると、佐久間先生のおへそのすぐ下にある鍵
穴に差し込んで回した。かちり、と音がして、佐久間先生の下腹を覆っていたモノが
その形を崩す。堅く締め付けられていた帯が解かれ、その下の白い肌が顔を見せる。
股間を覆っていた部分がゆっくりと剥かれ、ふっくらと盛り上がった佐久間先生の秘
部の丘と、その上に濡れて張りついた薄めの恥毛が露になる。
他人のその部分をこんなにまじまじと見つめたことなんて初めてだ。思わず、ごく
り、と生唾を飲み込んで目を凝らしてしまうわたし。だけど、股間のパーツがさらに
裏返され、その下から現れた光景は、わたしの想像を絶するものだった。
「………!!」
わたしの目に飛び込んで来たのは、ぱっくりと口を開いて、黒い棒のようなものを飲
みこまされ、分厚くめくれた肉の唇だった。内側からのぞいた鮮やかなピンクの肉ひ
だが、ねっとりと濡れて妖しくうごめいている。裂け目の合わさる頂点には、不自然
なくらいに大きな肉粒が立ち上がって、ぴくぴくと震えている。
「はあ…ぅ…ん、ふぅ…っ」
背後から回された西くんの手が、中に埋まったものをゆっくりと引き抜いていく、そ
れにつられて佐久間先生は切なげなため息を漏らす。ぬらぬらと濡れて光る棒がじわ
じわと先生の下腹から引きずり出され、その動きに合わせてやわらかそうな肉ひだが
めりめりとうねり、めくれ上がる。ちゅっ…という粘つく水音が響き、どろりと泡立
つ液体が、豊満な太股を幾筋も垂れて流れていく。
わたしはもう声も出せず、息さえ止めて、目の前の光景に心を奪われていた。佐久間
先生はもう西くんに完全に体を預け、うっとりとした表情になってされるがままに任
せている。ずるずると引き抜かれる棒は、もうすでにかなりの長さが外に出ているの
に、まだその先端を現さない。
「あ・あ…ん…」
佐久間先生がもどかしそうに腰をうねらせる。その勢いで一旦抜けかけた棒が先生の
中にいくらか戻ってしまう。
「ダメですよ佐久間先生、取れないじゃないですか」
「…っ、だ、だって…わたし、今日はまだ…いかせてもらって…ひぐぅっ!」
いきなり西くんの手が先生の中から力任せにすべて引き抜いた。突然のことに佐久間
先生はのけぞって悶絶する。引き抜かれた棒をよく見ると、先端が傘のようにふくら
んで開いた形になっていた。こんなもので、体の内側をえぐられ、こすられたら…思
わず、背筋に怖気が走る。
「はあ…はあっ…あぁ…」
佐久間先生はぜえぜえと苦しそうに喘ぎながら、でもその表情にはどこか満たされた
ものを浮かべていた。西くんに抱えられて力なく広げたその両脚の間で、黒い棒を抜
き取られたばかりの秘所が、だらしなく口を開いたまま、名残惜しそうにぱくぱくと
うごめいている。はぜ開いた肉の奥から湧き出る肉汁が湯気を立てそうだ。それを西
くんの指がすくい取って、鮮やかに上気したまわりの肉に塗り込むようにねっとりと
まさぐる。
「あっ、はぅ…っ、だめ、だめよ西く…んっ、もう、もう、こんな…」
佐久間先生は髪を振り乱してそう言いながら、しかし体はすっかり西くんに委ね切っ
て、逃げようという素振りさえない。それどころか、彼の指の動きに合わせて、腰を
突き出すように動かしさえしている。
わたしはすっかり魂を抜かれたようになって、佐久間先生のその部分に見とれてい
た。何がなんだかわからないまま、目の前で展開された異様な光景にすっかり打ちの
めされてしまった。いつの間にか辻村先生が椅子に座ったわたしの背後に立っていた
ことにも、声をかけられるまでまったく気付いていなかった。
「…この先の見学は隣の部屋でする。蒼月、来い」
辻村先生に腕をつかまれ促されたけど、立てない。目にしたもののあまりの衝撃に、
わたしは腰を抜かしてしまっていた。辻村先生はそのわたしを脇に抱えると、室内か
ら扉で繋がった隣の部屋に連れ込み、扉を閉めて、わたしを床の上に放り出した。そ
の薄暗い狭い部屋の中には椅子ひとつなく、壁に羽目殺しの窓がひとつ開いているだ
けだった。先生はわたしを立たせると、その窓をのぞき込ませた。
(あっ…!)
窓の向こうでは、佐久間先生と西くんのからみ合う痴態が続いていた。佐久間先生は
もうスカートを脱がされ、ブラウスのボタンもすべて外されて、たわわな乳房を乱暴
に揉みしだかれていた。ブラが見当たらない…ノーブラだったんだ。
『やめ、やめなさい西くん…っ、わたしたちは教師と生徒なのよ…!』
『今さら何言ってるんです、もう何度も僕のことを受け入れて下さったじゃないですか』
『でも、でも…っ、蒼月さんが見ているのよ…あなた、彼女のことが好きなんじゃな
かったの?かっ、彼女に…ひぅうんっ』
『蒼月さんがどうしたんですか…?佐久間先生?』
『ふっ、うぅっ、だめ、そこはだめぇ…っ』
ガラス越しなのに向こう側のやりとりが妙にはっきりと聞こえる。それが直接聞こえ
ているのではなく、スピーカーを通したものだと気付くまでにしばらくかかった。
佐久間先生は、テーブルの上に上体を折り、お尻を突き出した姿勢で背後から組み伏
せられている。西くんが差し出されたお尻に自分の腰をぐりぐりと押し付けている。
その股間が固く張りつめているのがここからもわかる。
『佐久間先生、ほら、僕こんなになっちゃいましたよ』
『あ、ああ、だめよ、だめっ…』
『お願いしますよ、ほら…』
西くんは背後から佐久間先生にのしかかり、左手で先生の乳房を慣れた手付きで弄び
ながら、先生の右手を後ろに回させて、自分の股間へと導き、立ち上がったものに触
れさせる。
『…あ、ああ…』
『ねえ、先生のせいですよ。先生がこんなにエッチだから、僕もこんなになってしま
うんです。責任取って下さいませんか…』
『…っ、い、いけないわ、先生がこんなことをしちゃ、だめなのよ…』
そう言いながら、西くんがズボンのファスナーを下げて前を開くと、佐久間先生の手
は自分から彼の下着の中に潜り込んでいった。折り重なった不自然な姿勢で、佐久間
先生と西くんがお互いの性器を激しくまさぐり合い始める。もうふたりとも何も言わ
ず、ただ荒い息を室内に響かせて、互いを貪ることに熱中している。
佐久間先生の手が西くんの下着をずり下げ、怒張しきったものを引きずり出す。その
醜悪なものが姿を現したのはしかし一瞬だけで、そのままの姿勢で西くんが一気に腰
を送り込むと、それはまたすぐに姿を消した。
『ああ、先生、いい気持ちですよ先生!』
『くぅ…っ、うん…うんっ…』
西くんの腰が佐久間先生のお尻に激しく叩き付けられる。何度も何度も。びちばちと
肉のぶつかる音が驚くほど大きい。わたしは我知らずの内に窓枠にしがみつくように
して、その光景に見入っていた。
そして、激しく体をぶつけ合った後、西くんは一段と深く佐久間先生の中へと突き入
れ、ぐん、と動きを止めた。
『ああ、だめ、やめ、やめなさ…いぃっ…!』
『う…っ!』
見えなくても何が起きたかわかった。中に、出してるんだ…!迎える佐久間先生の腰
が、うねうねと搾り取るようにうごめく。ふたりはしばらくその姿勢のまま重なって
いたが、やがて西くんが先生の中から自分自身をぬるりと抜き取った。一瞬先生のお
尻がそれを名残惜しそうに追いかけ、抜き取られた後にはぽっかりと口を開けた肉の
穴が、佐久間先生自身の中から湧き出たものと、西くんの注ぎ込んだものとが混じり
あった泡立つ液体をとろとろと吐き出していた。
『…ふうっ…ふぅ…っ…』
『…今日も素敵でしたよ、佐久間先生』
西くんは早くもズボンの前を直して、普段と変わらない姿に戻っている。佐久間先生
だけが、前をはだけたブラウス1枚の姿でテーブルの上に突っ伏すというあられもな
い姿で、放心した顔ではあはあと喘いでいる。
だけど、それで終わりではなかった。向こう側の部屋のドアをノックする音が響き、
佐久間先生の顔がこわばる。西くんは平然とドアに近寄り、ノックの主を室内に招き
入れた。思わず窓から逃げようとしたわたしを、後ろに立つ辻村先生が押し止める。
「このまま見ていろ。むこうからは鏡にしか見えない」
両肩を押さえる辻村先生の力はとても強かった。どの道逃げられないわたしは、諦め
て窓の向こうに再び目を移した。入って来た人影は3人、いや4人もいた。全員生徒
だ。彼らはおそるおそる室内に脚を踏み入れ、半裸の佐久間先生の姿を認めると、驚
きと喜びの入り混じった声を上げた。
『おおっ、すげー!』
『佐久間先生がヤらせてくれるってマジだったのかよ!』
『そ、そんな…!西くん、これは…!』
西くんは意地悪そうな笑いを浮かべながら、佐久間先生に刑を宣告した。
『…まあ、そういうわけですので、彼らにも指導をお願いしますよ』
『おい、ほんとにいいのか?』
『ええ。ただ、あまりよそで大っぴらにしないで下さいね。佐久間先生が変態教師だ
なんて知れ渡ると、この学校を辞めさせられてしまいますから…そうしたら僕たちが
指導してもらえなくなってしまいます』
『へ、へへ、わかったよ』
生徒たちが一挙に好色そうな表情を露にする。佐久間先生は一瞬身を引いたが、狭い
部屋の中に逃げ場はない。絶望したため息が佐久間先生の口から漏れる。
『な、マジで何やってもいいんだな?』
『ご自由に。口でもお尻の穴でも、どこでも大丈夫ですよ』
『せ、先生っ。俺、ずっと先生のことが!』
『あっ、てめえ!』
4人の男子生徒が我先に佐久間先生の裸体に群がった。佐久間先生は逃げようとした
が、ついさっきまでの激しい行為に力を失った体はあっさりと若い男たちの手に捕ら
えられ、組み敷かれていった。
『やっ、やめなさいあなたたち、あっ、ひっ、いぁあ…!』
佐久間先生の力ない悲鳴を聞きながら、西くんがドアの鍵を下ろす。ブラウスも剥ぎ
取られ、完全に裸にされた佐久間先生の成熟した肉体が、男の子たちの間で踊ってい
る。始められた饗宴の第二幕に、わたしは窓越しに呆然と見とれた。そのわたしの体
を、辻村先生の手が制服越しに愛撫している。わざと胸や下腹を避け、物足りないく
らいの優しさで。
窓の向こうでは、肉の宴がいよいよ最高潮にさしかかっていた。佐久間先生は仰向け
に倒され、いっぱいに開いた両脚を抱え上げられた格好でひとりを受け入れながら、
顔は別のひとりの下腹に埋めて、屹立したものを口に含んでしゃぶり上げている。そ
うしながら、手にはさらに別のひとりの性器を握りしめて擦り立てている。その顔は
今や恍惚に輝き、体じゅうが歓喜にむせぶように、汗や汁をまき散らしている。
『ああっ、いっ、いぃ、いいっ…!はっ、ひっ、ひぃいっ』
信じられない。これが、あの佐久間先生だろうか。おとなしそうで、清純を絵に描い
たような人なんだろうか。獰猛と言ってもいいほどの激しさで自分の生徒たちを貪る
その姿は、まさに獣のようだった。
辻村先生の愛撫は続いている。決してわたしの急所には触れないその手に、逆にわた
しはじわじわと追いつめられていた。じれったい。もどかしい。楽になりたい。窓越
しの狂った光景に見とれながら、わたしの頭の中は次第にそればかりで埋め尽くされ
ていった。そのわたしの耳元に、辻村先生が囁く。
「わかるか蒼月。あれが、牝だ」
牝、という言葉がわたしの奥底に深く打ち込まれる。ふと気付くと、いつの間にかこ
ちら側の部屋に入って来ていた西くんが、わたしの足下に跪いて、わたしのスカート
をまくり上げ、頭を潜り込ませようとしているところだった。やがて、下腹を包む薄
布ごしにねっとりと舌が張りつく感触が這い上がって来る。中途半端な愛撫で焦らさ
れ切っていたわたしはそれだけで一瞬目の前が白くなってしまう。けれど、頂きに達
するほどじゃない。
『はあっ、ああっ、うぅんっ…いいっ、いい…っ!』
それから長い時間、わたしは窓の向こうで繰り広げられる佐久間先生の激しい乱交を
「見学」させられながら、服を着たまま辻村先生の手と西くんの舌に、達しそうで
届かない、生殺しのような愛撫に延々と嬲られた。唇を噛んで狂おしいもどかしさに
耐えながら、スピーカーから溢れる佐久間先生の淫らな嬌声を、まるで自分が上げて
いるような錯覚に陥っていた…