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それからの毎日、わたしはさまざまなものを、鏡の裏側の部屋から「見学」した。  
 
辻村先生の言葉の通り、佐久間先生は本当に毎日、男子生徒と淫らな交わりを繰り返  
した。西くん以外に、同じ相手は一人もいなかった。男の子たちの前で裸に剥かれ  
て、教師にあるまじき行為だと嘆きながら、肉の悦びに溺れることは決してやめよう  
としなかった。  
 
見せられたのは、佐久間先生だけじゃなかった。わたしと同じ女子生徒たちも、既に  
何人も肉奴隷としての毎日を送っていたのだ。  
 
ある子は、制服を脱いだ下から荒縄に締め上げられた裸体を現し、それなしでは生き  
ていけないと哀願しながら、見も知らない男に体を開いていた。  
 
またある子は、全裸にされて天井から吊るされ、何度も鞭打たれた上で激しく犯され  
ながら、むせび泣いて激しく失禁した。  
 
また別の子は、手足を戒められて自由を奪われ、目隠しをされて、たくさんの裸の男  
たちの中に放り込まれ、陵辱の限りを尽くされて泣き叫んだ。  
 
自分と同じ年頃の女の子たちが、空想ですら思いつけないほど異常で病的な欲望の虜  
となって、性の道具として扱われているのを次々と目撃させられたわたしの驚きは、  
言葉では言い尽くせないほどだ。  
 
でも、一番ショックを受けたのは、行為そのものの異常さ・激しさ以上に、そんな仕  
打ちを受けている女の子たちが、恥に震え、涙を流し、悲鳴を上げ、身をよじりなが  
ら、しかし誰一人として拒むことも抗うこともしない、ということだった。  
 
「いいか、蒼月。牝の肉体を持って生まれたものは、誰でも牝の欲望を持っている。  
どす黒い欲望にまみれた妖しい夢を隠している。だが、ほとんどの場合はそれに気付  
くこともないまま一生を終える。知らないままならそれでも充分幸福でいられるだろ  
う。だが、一度自分の肉の内に潜む真の望みを知ってしまったら、もう逃げることは  
できない」  
 
今までの自分の価値観が根こそぎ覆されるようなものを見せられ続け、寸止めの愛撫  
に毎日嬲られ通しですっかり無防備になったわたしの頭の中に、辻村先生の言葉が根  
を張って行く。  
 
「自分自身が本当に求めているものから目を背けるなら、行き場のない欲望を抱えた  
まま、身も心も満たされず、肉の疼きに耐え続けて不幸な一生を送ることになる。自  
分が牝だと知ってしまったら、牝として生きる以外に幸福を得る術はない。…あの子  
らは、それまでの自分を捨て、ありのままの自分を受け入れて、幸福になることを自  
分で選んだんだ」  
 
嘘だ、とはもう言えなかった。  
 
肉奴隷にされているのは佐久間先生以外はみんな生徒だったから、どの子もどこかし  
らで見覚えのある顔ばかりだった。それだけでもわたしは気が遠くなる思いだったけ  
れど、時には知っているどころではない、親しい友達までもが現れることもあった。  
 
『さあ、入りなさい』  
 
その日の見学は視聴覚室だった。大型のテレビモニターに写っているのは美術室だっ  
た。モニターの中の誰もいない室内に今日の生け贄を導き入れたのは、佐久間先生  
だ。現れたのは、背の低い、小学生と言っても差し支えないほどの幼い体つきの女子  
生徒。見慣れたマッシュルームカット…  
 
「…こ、梢ちゃ…!!」  
 
目を疑った。友達だから、というのはもちろんだけど、それ以上に、彼女がそんなこ  
とができるなんて信じられなかったから。  
 
それまで見た子たちは、佐久間先生のような成熟した大人と比べると未熟とは言え、  
その体は年相応にはふくよかな起伏を持っていたし、調教され肉奴隷と化した分、男  
の欲望を受け入れるには充分な程度にやわらかく、豊かだった。  
 
でも、梢ちゃんは違う。彼女は3年生になっても、制服を着ていないと小学生とも間  
違われるほど体が小さく、折れそうに細い手足はまるっきり成長期前の子供のもの  
で、女らしい丸みを帯びるのはまだ先の話と思わせる、そんな子なのだ。  
 
その梢ちゃんが肉奴隷なんて、あるわけがない…物理的に無理だとしか思えない。  
きっとこれは何かの手違いで、全然関係ないただの部活動が始まるんじゃないか、一  
瞬そんなことを考えた。  
 
けれど、手違いでも何でもないことはすぐに証明された。恥ずかしそうな顔で部屋に  
入ってきた梢ちゃんは、佐久間先生とふた言み言交わした後、ちょっとためらいがち  
に佐久間先生を見上げて、熱のこもった視線を送った。佐久間先生はそれに応えて、  
ゆっくりと顔を傾けて、梢ちゃんと唇を重ねていった。  
 
(…!!!)  
 
それは唇を重ねるだけというようなおとなしいものではなかった。舌と舌を絡め合  
い、互いの唾液を交換してすするような激しい行為だった。下から受ける格好の梢  
ちゃんの口から、流し込まれた佐久間先生の唾液と、彼女自身の唾液の混じりあった  
ものが、だらだらとあふれて襟元まで滴って行く。抱き合ったふたりの体が、服越し  
に互いを愛撫しあっている。  
 
ひとしきり淫らなくちづけに没頭した後、ふたりは唇を離した。名残惜し気な唾液の  
糸が一瞬きらめいて消える。  
 
『…さあ、あなたのお話、聞かせてちょうだい、佐伯さん』  
『はい…』  
 
ふたりが机を挟んで座り、梢ちゃんの告白が始まった。  
 
『…昨日、放課後に図書室で本を読んでたんです』  
『……』  
『そしたら、…いつの間にか、わたしひとりしかいなくなってて…』  
『……』  
『…それで…』  
『…自分で、したのね?』  
『……はい…』  
 
あっけに取られるわたしの前で、告白は続く。  
 
『困った子ね…いくら人がいないからと言って、図書室でそんなことをしていていい  
と思っているの?』  
『で、でも…佐久間先生も、辻村先生も、最近わたしのことをかまってくれないから…』  
『あら、わたしや辻村先生のせいなの?』  
『あっ、いえ…』  
『あなたは自分自身の卑しさを人のせいにするような子だったのね。先生、がっかりだわ』  
『ご、ごめんなさい。わたし、そんなつもりじゃ…』  
『もういいわ、帰りなさい』  
 
冷たくそう言われた梢ちゃんは、泣きそうな顔になって食い下がった。  
 
『ごめんなさい、先生、ごめんなさい』  
『そもそもひとりでいる時に自分ですることは禁止してあったはずだわね。あなたが  
言いつけを守ってくれないんじゃ、先生、あなたの面倒を見ていく自信がないわ』  
『ごめんなさい…何でも、何でもしますから…』  
『…そう、何でもするのね』  
 
佐久間先生は梢ちゃんのその言葉を聞き逃さなかった。  
 
『じゃあ、図書室でしていたのと同じことを、ここでやってご覧なさい』  
『えっ…』  
『できるわよね?言いつけに背いてまでやるくらいなんだもの』  
 
梢ちゃんは恥ずかしそうにうつむくと、声を出さずに小さくうなずいて、スカートの  
中に手を入れた。お尻を浮かせて下着を脱ぎ、足首のところまで下ろすと、その手を  
スカートの下の深いところまで潜らせる。  
 
『…っ、ん…っ、ん…!』  
 
頬を染め唇を噛みしめて、自分の手で作り出す悦びに没頭していく梢ちゃん。恥ずか  
しげに遠慮したような動きがだんだん大胆になっていく。佐久間先生が立ち上がって  
梢ちゃんのそばに歩み寄り、耳元に唇を寄せて囁く。  
 
『言われたからって本当に始めるなんて、あなたってどうしようもなく卑しいのね。  
あれだけ躾けられてもまだ自分が抑えられないなんて、犬猫以下よ。いけない子』  
『ああ、ごめ、ごめんなさいぃ…』  
 
耳まで真っ赤にしながら、梢ちゃんは指を使うことはやめない。いや、やめられない  
んだ。佐久間先生に肩を抱かれながら、梢ちゃんは自分自身を激しく愛撫し続け、や  
がて先生の腕の中でびくびくと震えて果てた。  
 
『…はあっ、はあっ、はあぁ…』  
『ほんと、ダメな子ね…先生、いってもいいって言ったかしら?』  
『…あ、あぁ…す・すみません…』  
『言うことを聞かない子にはおしおきが必要だわね。立ちなさい』  
 
佐久間先生は梢ちゃんを立たせると、机の上に上半身を横たえさせ、お尻を突き出す  
ポーズにさせた。それはいつか佐久間先生自身が西くんの前で取っていたのと同じ姿  
勢…それを見たのがはるか昔のことのような気がする。  
 
『お尻を出しなさい』  
 
言われるままに梢ちゃんはスカートを腰の上までまくり上げた。小さな丸いお尻が露  
になる。裸のお尻を差し出した梢ちゃんは、怯えと同時に何かの期待に瞳を妖しく輝  
かせながら、先生の次の言葉を待っている。  
 
その小ぶりのお尻、双球の間に、何かが張り付くようにはさまっているのに気がつい  
た。五百円玉くらいの円盤のようなもの。ちょっと取っ手のない赤ん坊のおしゃぶり  
を想像するような形。  
 
それが何なのかを推し量るより先に、次の儀式が始まった。佐久間先生が右手に皮の  
手袋をはめている。  
 
『これからあなたに罰を与えます。いいわね』  
『…………はい…』  
 
梢ちゃんの小さな返事を聞くと同時に、佐久間先生が右腕を大きく振り上げて、梢  
ちゃんのお尻の上に思いきり打ち下ろした。びしっ、と激しい打撃音が部屋に響く。  
 
『ひぃいっ!いっ!いあっ!あひっ!』  
 
びし、ばし、と佐久間先生の手が続けざまに打ち据える。梢ちゃんの小さなお尻がた  
ちまち真っ赤に腫れ上がり、ぷりぷりと悶える。  
 
『ひぅっ、くひぃいっ、ひぃ、ひぃっ…』  
『まだあと20回よ、我慢なさい!』  
 
肉を叩く乾いた音と梢ちゃんの悲鳴が混ざりあって室内を満たす。梢ちゃんは涙を流  
しながら、この仕打ちに耐えている。けれど…  
 
(あっ…!)  
 
梢ちゃんの、膝を閉じても隙間が出来てしまう細い両の太股の間、肉付きの薄いミニ  
チュアのような秘肉がぬらぬらとした濡れた輝きを放ち、新しい滴りをとろとろと溢  
れさせていた。それはさっきの自慰の名残りなんかじゃなく、梢ちゃんがたった今悦  
びの中にいることを教えている。  
 
梢ちゃんのお尻を力の限り打ち続ける佐久間先生。その目は異様な輝きに爛々と光っ  
ている。いつもの、男の子たちにされるがままに嬲られているのと同じ人とは思えな  
い。  
 
「マゾヒストとしての素養に恵まれた者は、同時に優れたサディストでもあるんだ  
よ。何しろ、マゾはどうしてもらうのが一番嬉しいのか、身を持って知っているわけ  
だからな」  
 
辻村先生がわたしの疑念を見透かして教えてくれる。  
 
やがて罰が終わり、佐久間先生は革手袋を外すと、梢ちゃんの腫れ上がったお尻に触  
れた。その手の動きに梢ちゃんの体がはね上がる。今あのお尻を触られたら、きっと  
火がつくほどに痛いに違いない。でも、佐久間先生はお構いなしに撫で回し、梢ちゃ  
んが悶絶する。  
 
『ひぎっ…いぃ…ぃあぁ…』  
 
ひとしきり梢ちゃんのお尻をまさぐった後、佐久間先生の手はお尻の間にのぞいた謎  
のパーツにかかった。親指と人さし指でぎゅっと握ると、ゆっくりとそれを持ち上げ  
ていく。すぽっ、という感じでそれはあっけなく梢ちゃんから外れた。外されたそれ  
は、先の膨らんだコルク栓のような形をしていた。  
 
(…お尻の、穴に…!?)  
 
栓を抜かれた梢ちゃんの肛門が、なかば開いたままでひくついている。佐久間先生の  
指先が、その下の濡れた秘唇から滴る粘液をすくい取って、お尻の穴にていねいに塗  
り込んでいく。梢ちゃんは切なそうに鼻を鳴らしながら、それを受け入れている。  
 
ひとしきりもみほぐした指が離れると、そこは無気味なくらい大きく口を拡げていた。  
 
『よく我慢したわ、えらいわね…さあ、ご褒美よ』  
 
そう言って佐久間先生は黒い棒を取り出した…たぶん、今も佐久間先生自身の中に  
入っているだろうものと同じ。それがどう使われるのか想像は出来たけれど、実際に  
それが行われる瞬間まで、わたしはそれが信じられなかった。信じたくなかった。け  
れど、想像の通りにそれは行われていった。  
 
『はぁ…っ』  
 
梢ちゃんの小さなお尻と対比するとあまりにも大きすぎるものが、魔法のように肛門  
の中に埋まっていく。裂けてしまうんじゃないかと思うほどいっぱいに拡がって、そ  
れでもしっかりと飲み込んでいく。痛かったり苦しかったりしないのかしら、と思う  
わたしをよそに、梢ちゃんはむしろ迎えるようにお尻を上げ、うっとりとした表情で  
受け入れている。  
 
「佐伯は、まだ幼児の頃、悪さをすると親に尻を叩かれていた。まあ、尻叩き自体は  
よくあることだ。だが、佐伯は幼いながらにそれに密かに喜びを感じていたんだ。尻  
を叩いてもらうために、わざといたずらをしたこともあったそうだ」  
 
いつものようにそばに立ってわたしを愛撫しながら、辻村先生が耳元で囁く。わたし  
は友達の想像を絶する痴態を目の前に突き付けられ、ほとんど泣きそうになっていた。  
 
「ある時、叱られて尻を叩かれている最中に、子供ながらに快感を覚えてしまった。  
あまりの快楽に、叩かれながら大小便まで漏らしてしまった。親は驚いて、それ以来  
佐伯を叱るのに尻を叩いたりしなくなった。佐伯自身も怖くなって、罰を受けるよう  
なことをしなくなり、やがて成長するにつれて自分がそれを望んでいたこと自体を忘  
れてしまった」  
 
張型は今や根元までが梢ちゃんのお尻の奥に収まってしまった。かわいらしいお尻が  
くわえたものを噛みしめるようにきゅっ、きゅっと震える。  
 
「だが、佐伯の体はその時の悦びを覚えていた。痛みを与えられることに心の奥底で  
焦がれていた。あるきっかけで、罰を受けることの悦びを再び自覚した佐伯は、ああ  
して尻を打たれることを自分から求めるようになった。肛門を抉られることにもすぐ  
に馴染んだ。…そうして、佐伯は尻を弄ばれる悦びに身も心も完全に囚われた」  
 
佐久間先生の手が、梢ちゃんのお尻に突き立てられた棍棒をゆっくりと出し入れし始  
めた。限界まで伸び切ったまわりの肉が、押し込まれる時はいっしょに奥まで巻き込  
まれ、引き出される時にはめくれ上がってついて来る、それがゆったりとしたリズム  
で何度も繰り替えされる。その様はわたしには痛々しいものとしか見えないのに、梢  
ちゃんは陶酔し切った顔で、快楽の渦に飲まれている。  
 
「あいつは今でも処女だが、もう1年以上前から肉奴隷だ。尻専門のな。肛門にプラ  
グを付けていただろう?ああして栓をしておかないと、中の汚物が垂れ流しになって  
しまうんだ。使い過ぎで、すっかり拡がってしまってな。もう完全には閉じなくなっ  
てしまった」  
 
張型を送り込む佐久間先生の手の動きがだんだん速くなっていく。同時に、空いてい  
る方の手が梢ちゃんの無垢な秘所をまさぐっている。梢ちゃんは今や背をきつくのけ  
ぞらせて、息も絶え絶えになりながら、激しい行為に身も心も委ねている。  
 
「以前の佐伯がどんな風だったか、お前は友達だから知っているだろう?あいつは内  
気で、自己主張ができない娘だった。調教を受けて自分自身の真実を知ることで、初  
めて解放されたんだ」  
 
『ああ、あ、ああ…っ!!』  
 
モニターの中で、梢ちゃんが小さな体をせいいっぱいに震わせて、頂きに達してい  
た。その表情は、妖しい幸福に完全に酔いしれている牝のものだった。  
 
『…あなたのことを聞いて、お仕置きしたいという方がいらっしゃるの。夏休みの最  
初の日曜日、空けておきなさい』  
 
佐久間先生の命令に、梢ちゃんは喘ぎながらこくりと小さくうなずいて見せた。棍棒  
を引き抜かれた肛門が、黒々とした口を開けて、艶かしくうごめいている。そのあま  
りに淫靡すぎる光景に、とうとうわたしの意識は真っ白に遠ざかっていった…  
 
 
「…たかねちゃん、どうしたの?」  
 
怪訝そうにわたしを見上げる梢ちゃんの声に、はっと我に返った。昼休みの食堂。い  
つもの仲良し4人が集まっての昼食の最中。わたしはいつの間にか梢ちゃんをしげし  
げと見つめてしまっていた。  
 
「あ、う、ううん、なんでもないの、ごめんね…」  
「なあに?変なたかねちゃん」  
 
くすくすとかわいらしく笑う梢ちゃんからは、昨日のあの異常な行為は想像できな  
い。嘘だと思いたい…わたしが見たのは幻だと。  
 
「たかねっち、そういえば今日顔色悪いよ」  
「うんうん、なんかこう目の下にクマができちゃってる感じ」  
「受験勉強も熱入れ過ぎると体壊しちゃうよ?」  
「う、うん…」  
 
受験勉強なんかしてない。ゆうべはもうそれどころじゃなかった。家に帰るが早い  
か、食事も断って自分の部屋に閉じこもったわたしは、目の奥に焼き付いた梢ちゃん  
の痴態を反芻しながら、繰り返し繰り返し自慰に耽った。何度もいったのに体のほて  
りがおさまらなくて、全然眠れなかった…  
 
もう、毎日自慰をしないと眠れなくなってしまった。いけない、やめようと思って  
も、気がつくと股間に指を這わせていて、いつも後戻りできないところまで自分を追  
い詰めてしまう。自分がどす黒いものにどんどん蝕まれていくのがわかる…わかるけ  
ど、止められない。むしろ進んでそれに身を任せてしまおうとする自分がいる。…こ  
わい。このまま変わって行ったら、わたしは…?  
 
「あっ、いたいた〜」  
「かなちゃん。なに、どうしたの?」  
 
明るい声が近寄って来る。関谷かなめちゃん。関谷家の双児の片割れ、入学時からの  
友達。そういえば、最近かなちゃんとはあまり会ってなかった。このところ毎日、放  
課後は辻村先生のもとで「見学」ばかりさせられているから。  
 
「ねえねえみんなさぁ、夏休みの予定とかって決まってる?」  
「ん〜今んところ特には。なんで?」  
「あのねえ、海とか行きたくない?」  
「あ〜行きたい行きたい〜でもいつ?」  
「んーとね、できるだけ早い内がいいな。今年は受験のこともあるし、先に遊ん  
じゃった方がね」  
 
かなちゃんがわたしたちのいる机に加わって、夏休みの相談を始める。夏休み…楽し  
そうに予定を語り合うかなちゃんたちの横で、わたしは密かな不安におののいてい  
た。学校がない間、辻村先生は、西くんは、わたしに何をするんだろう、あるいはさ  
せるんだろう。夏休みが終わる頃になっても、わたしは今と同じでいられるんだろう  
か…?考えただけで、鼓動が早くなり、頭がくらくらして来る。  
 
ふと、梢ちゃんを見た。かなちゃんたちの歓談の輪の中で、黙って話を聞いている…  
ように見えて、その瞳は何か別のものを見ている。そうと知っていなければわからな  
いほどかすかな、妖しい光が瞳の奥でゆらめく。  
 
「ね、梢はどう?海」  
「…ごめん、わたし、もう予定あるから…」  
 
そう言って梢ちゃんはほんの少しだけ、腰をよじった。そのわずかな動きで、梢ちゃ  
んが体の奥に残る快楽の記憶を反芻しているんだということが、わたしにははっきり  
わかった。かすかに浮かべた微笑みが、どうしてか、幸せそうにさえ見える。  
 
(梢ちゃん…どうして…?)  
 
梢ちゃんの予定。佐久間先生の言いつけの通り、肉奴隷として誰かの欲望の餌食にな  
ること。それは、彼女にとって友達よりも大切なことなんだ。もう、今までと同じ目  
で梢ちゃんを見ることはできなかった。彼女は別世界の住人、わたしとは違う生き物  
になってしまっていた。いや、ずっと前からそうだったのを、わたしが知らなかった  
だけ。  
 
そう、ただ知らなかっただけ。この学校の、退屈で穏やかな日常の皮を一枚剥いだそ  
の下には、恐ろしい肉の地獄が煮えたぎっているんだ。教室で、廊下で、校庭で、普  
通の女の子のような何くわぬ顔で過ごしている中に、肉奴隷に堕ちた牝たちが何人も  
紛れ込んでいるのを、わたしは知っている。そして、今、目の前にいる小さな体の同  
級生も…もやもやとした感情が胸の奥に渦巻く。  
 
(妬ましい…!)  
 
思ってしまってから、はっとする。どうして、そんな風に感じるんだろう?梢ちゃん  
は幼い体を元に戻らないほどに壊され、たぶん他の子たちと同じように身も知らない  
男の人に嬲りものにされているというのに。自分が同じことをされたらと思うと、  
ぞっとする。…それなのに、あんな風に幸せそうな顔ができる梢ちゃん。理解できな  
い、という思いと共に、理由のわからない猛烈な嫉妬が、わたしの心を塗り潰していく。  
 
「ねえっ、たかねはどう?いいでしょ?」  
「え、えっ?あ、そ、そうね?…あ、え、何が?」  
「んもぉ〜、聞いてないんだ。行こうよ、海、海!みんな都合が悪いとか言うんだ  
よ?友達甲斐がないんだから」  
「だぁって、しょーがないじゃん?急に言われても、ねえ」  
「わ、わたしは…」  
 
かなちゃんが顔を近付けて来る。関谷くんとよく似た顔…双児だから当然なのだけ  
ど、こうして近くで見るたびにどきっとする。特に今は、淫らな妄想に心を奪われて  
いたのを関谷くん本人に見透かされるような気がして、どぎまぎと瞳をそらしてしまう。  
 
「ねえねえ、たかねお兄さんいたじゃない?お兄さんもさぁ、車で一緒に来てくれる  
と嬉しいんだけどな」  
「あーこいつ、人の身内を足に使おうとしてるよ、えげつなー」  
「そんなことないよー!いいじゃん頼んでもらうくらいさあ。ね、ね?朋貴も連れて  
来るからさ」  
 
関谷くん…なんだか、すっかり遠いところにいる人のような気がする。教室では隣の  
席だし、彼はいつも同じようにわたしに接してくれる。お日さまのような笑顔を向け  
てくれる。でも、そうであればあるほど、どんどん穢れていく自分を思い知らずには  
いられなくて、彼のそばにいてはいけないような気がして、自然と避けるようになっ  
ていた。  
 
いろんなことを知り過ぎてしまったわたしは、もう関谷くんにはふさわしくないん  
じゃないだろうか。何も知らなかった頃のように、素直な気持ちで接することができ  
るだろうか。そう思うと、顔を合わせるのが怖かった…  
 
「ね、予定は何もないんでしょ?」  
「う、うん…」  
「じゃあ、決まりね?夏休みの最初の日曜は、わたしたちと海!」  
「え、えっ?か・かなちゃん、ちょっと…!」  
「だーめ、もう決まり。諦めて海に行く行く」  
 
ぐずぐずと考えている内に、結局押し切られてしまった。かなちゃんの、関谷くん  
そっくりの楽しそうな笑顔を見たら、断り切れなかった。こんな気持ちのままで、関  
谷くんに会うなんて…わたし、彼にどんな顔をすればいいんだろう。  
 
夏休みが始まろうとしていた。わたしの運命を変える、忘れられない夏休みが…  
 

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