レーサーパンツに手をかける、桐屋さんの身体が、びくんと緊張する。かまわず乱暴に剥き下ろしてゆく。  
引っ掛かってうまく下ろせないけれど、桐屋さんはおずおずとお尻を上げて協力してくれた。  
ショーツは身につけていなかった。そのまま、完全に脱がしてしまう。  
桐屋さんの淡い茂みが、月の光の下に露わになる。僕は桐屋さんの両足を掴むと、その茂みをさらに曝すべく  
広げようと力を込める。  
「…………!」  
かすかに拒むように、桐屋さんの筋肉が緊張する。彼女の脚力なら、その気になれば僕など永遠に  
拒み続けることができるだろう。だけど、やがてその両足は抵抗なく開かれた。  
 
明らかになった桐屋さんのそこは、先刻までさんざん主の手によって嬲られていたせいか、  
湯気も立たんばかりにほころんでいた。陰毛に粘液がまとわり付いているのが、ひどく扇情的だった。  
蒸れたように、桐屋さんの匂いが立ち昇る。ルリ姉のそれとは違う、発情した女の子の匂いだ。  
僕はその匂いに引き寄せられるように、桐屋さんのそこに口をつけた。  
「あ、だめっ……!」  
桐屋さんが戸惑った声を上げる。僕は一切に無頓着に、桐屋さんの両足をさらに広げる。  
これ以上ない程にくつろげられた女芯からあふれる蜜を、一心不乱に舌ですくい取る。  
すくい取った粘液を、蜜壷の上の狭い庭や、合わせ目に震えている肉芽にすり込む。  
「あ……ぁあ……ああ、あ、はぁ…」  
僕の舌が動く度に、桐屋さんがせつなげな吐息を洩らす。あふれる淫液が流れ落ち、桐屋さんの会陰部までも  
濡らしてゆく。  
僕はその液を指にすくいとり、十分に指になじませる。そうしておいてから、その指を、桐屋さんの秘部の下で  
つつましく息づいていたすぼまりに押し当てた。  
「……! だめ、そこ……!」  
桐屋さんの全身が、これからされる事への予感にうち震える。僕は無慈悲に、指を菊門に埋めてゆく。  
「あ、…あぁぁあああぁぁ……」  
感極まったような桐屋さんの声。指を動かす。にちり、と音が立つ度に、桐屋さんの前門から淫液が噴き上がる。  
空いている方の手指を、だらしなく蜜を吐き続ける膣口に突き立てる。舌を這わせることを止めないまま。  
ざらりとした胎内の感触。両手の指を桐屋さんの薄壁越しにこすり合わせる。  
「ひ、ひぃぃっ、ひぃぃぃっっ…!!」  
もう僕の手は桐屋さんの足を掴んではいない。けれどもう桐屋さんは足を閉じることはなかった。  
舌に感じる桐屋さんの味。甘味、酸味、塩味。脳髄を麻痺させるその味に、かすかに鉄錆のような  
味が混じり始めていた。  
 
桐屋さんの秘部から離れる。彼女のうえに覆いかかる。  
「ふぅ……ぅふ…」  
桐屋さんは全身を上気させて、荒い息をついている。月明かりの下でも、頬が染まっているのが判る。  
僕は、さっきまで桐屋さんの膣内を苛んでいた指を、桐屋さんの唇に押し当てた。  
桐屋さんの目に、戸惑いの色が浮かぶ。けれども彼女は、やがて目を閉じ、自身の淫液にまみれた指を  
おずおずと口に含んだ。  
舌が絡みつく。桐屋さんが、僕の指を汚した自分の分泌物を、きれいに舐めとってゆく。  
そんな桐屋さんの痴態を眺めながら、僕は桐屋さんの淫門に、はちきれんばかりの自分を押し当てた。  
腰を押し進める。けれど僕の肉茎は、ずるり、と上方に滑ってゆく。かまわず僕は腰を使い、  
桐屋さんの秘裂をこすり上げる。  
にちゃり、と桐屋さんの愛液と僕の先走りが混ざり合って音を立てる。指を含んだままの桐屋さんが、  
んふ、んふ、とせつない息を洩らす。いつしか桐屋さんの腰もゆるやかに動き始める。  
何度かこすり合わせると、不意になにかの拍子に僕の先端がつぷり、と沈み込んだ。  
「あ……」  
かすれた様な桐屋さんの声。僕はそのまま、一気に貫いた。  
「ぁぁぁぁあああああぁぁああああああっ!!」  
桐屋さんの可愛い悲鳴が、心地よく耳に響く。そのまま彼女の胎内へと侵略を続けると、半ば程で  
こつり、と僕の先端を阻む器官に当たった。  
ここまでかな?と、少しだけ戻った理性で考える。じゃあ、こんどは下がって…と抜き去る方向に  
動き始めたとき、荒い息の下から桐屋さんが僕を呼んだ。  
「もりさきくん…だめ、もっと…ちゃんと奥まで…」  
「桐屋さん…?」  
「めちゃめちゃにして……。わたしに、ちゃんと、跡をのこして…」  
絶え絶えの息で、桐屋さんは訴えてくる。瞳に、涙が浮かんでいる。  
「…いいの?」  
こくり、と桐屋さんが頷く。戻りかけた理性が霧消してゆく。  
一旦抜きかかったものを、再び深く押し込む。こんどは、本当に深くまで。桐屋さんの、形のいい眉が  
苦痛に歪む。  
とつん、とつん、と桐屋さんの奥のわだかまりを突きほぐしてゆく。先端に当たるそれは、やがて溶けるように  
消えてなくなっていった。僕のものが余さず桐屋さんに納まる。夢中で腰を動かし続けた。  
「はぁん、あぁっ、あん、あ、あ、あん、や、ひ、ひぃぃいっ…!」  
突き上げる度に桐屋さんの口から嬌声が洩れる。悦楽か苦痛か。たぶん後者だろう。それなのに僕は  
壊れたおもちゃのように、腰を振り続ける。止めることができなかった。  
「もりさきくん…もりさき、くん…」  
うわごとのように、名を呼ばれる。桐屋さんの爪が、僕の体のあちこちに、滅茶苦茶に立てられる。  
二人で急速に高まってゆく。僕の奥底で、灼け付くような感覚が急激に膨張する。  
「桐屋さんっ…、ごめん…!」  
「はぁ、あぁ、おねがい、だして、おもいっきり、お願い…!」  
最後のひと突きを、桐屋さんに思い切り深く叩きつける。僕の先端が、桐屋さんの子宮を蹂躙して…  
そして僕は炸裂させた。  
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」  
声にならない、かすれて高い桐屋さんの悲鳴。  
胎内を灼かれる感覚に、わなわなと桐屋さんの全身が痙攣する。  
背筋を弓なりに反らして。口の端からだらしなくよだれを流しながら。  
僕は桐屋さんの奥深く、長い長い射精を繰り返した。  
 
 
どの位の時間そうしていたのだろう。うとうとしていたのかも知れない。  
桐屋さんの身体の上で朦朧としていた僕の意識を、鋭い痛みが引き戻した。  
桐屋さんが突然、僕の肩先に強く歯をたてたからだ。  
驚いて身体を起こす。にちゃり、と音を立てて僕と桐屋さんの結合部が離れる。  
桐屋さんは片腕で目元を覆っていて、その表情は伺えない。けれど、その両足はしどけなく開かれ、  
その奥の秘唇のあわいから、たった今僕が射込んだものがとろとろと溢れ出している。  
ほつれた肉の壁が、ゆっくりと形を戻してゆく。僕はごくりと生唾を呑み込み…けれど、その時僕は気付いた。  
 
誰かが泣いている。  
しゃくり上げる声。すすり泣く声。  
桐屋さんが、肩を震わせて泣いている。  
血の気が引く。失われていた理性が戻ってくる。僕は……僕は、なんてことを。  
誰より繊細な女の子。誰より傷つき易い女の子。本当の桐屋さんを、僕だけが知っていたのに。  
それなのに、僕は。  
「…桐屋さん、」  
「…ごめんね」  
けれど、先に謝罪の言葉を口にしたのは、桐屋さんの方だった。  
「もりさきくん…ごめんね…」  
弱々しく震える声で。  
「わたし…森崎くんにひどい事してる。…置いてゆくのに。切り捨てて行こうとしてるのに」  
「桐屋さん…?」  
「それなのに、森崎くんを縛り付けようとしてる。わたしのものだったらいいなって」  
感情の堰を切ったように、桐屋さんが続ける。  
「何もかも…何もかも捨てていけるなんて嘘…。何も持ってなかっただけなのよ…」  
「………」  
「ごめんね…森崎君…、ごめんね…ごめんね……」  
「桐屋さん、僕は」  
彼女の手を取る。抱き寄せる。泣き腫らした瞳が僕を見上げた。  
それから必死に言葉を探す。今迄で一番必死に。  
桐屋さんが泣きやむように。僕の気持ちがどうか、正しく桐屋さんに伝わるように。  
「僕は…桐屋さんはとても強い女の子だと思ってて…すごい夢を持ってて、すごく、尊敬してて。僕なんかが  
 どうやっても追いつけない人だと思って…だけど」  
肩の傷が鈍く痛む。桐屋さんが僕につけた疵。  
「僕の存在が、桐屋さんの何かの支えになればいいなって、いつも思ってて。きみが笑ってくれたらいいなって、  
 だけど、僕の助けなんか、桐屋さんは必要としてないと思ってて、だけど」  
もうどこを探しても次の言葉は見つからない。だから僕は、最初から心の中にあって、最後に残った言葉を  
そのまま口に出した。  
「…好きだ。」  
桐屋さんの目が大きく見開かれる。充血した瞳に映る下弦の月が、大きくゆらめいて、いくつにも割れる。  
割れたひとつひとつの月が、ぽろぽろと頬を伝ってゆく。  
「もりさきくん…もりさきくん…」  
桐屋さんを強く抱きしめる。腕の中の桐屋さんは、思ったよりずっと小さく思えた。  
「うゎあああぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!」  
桐屋さんが大声で泣き出す。辺り憚らず、夜の空気を震わせて。  
とても大きな泣き声。校舎の誰かに聞かれてしまうかもしれない。かまうものか。  
誰に聞かれても、どんな目で見られても。かまうものか。  
長く長く、桐屋さんは泣き続けた。今まで聞いたこともない程大きな声で。  
 
 
「ほんとに送らなくて大丈夫?」  
僕らは校門を出た所で別れることにする。  
「押して歩くより、乗って飛ばした方が安全よ…。それとも、走ってついて来る?」  
「はは…無理」  
足、ガクガクだし。  
「……っ!」  
愛車に跨ろうとする桐屋さんが、一瞬苦痛に表情を曇らせる。  
「桐屋さん?大丈…」  
キッと睨まれてしまう。心なしか桐屋さんの頬が赤い。  
「ははは…大丈夫なわけない、よね。」  
まあ、原因を作ったのは僕なのだが。桐屋さんの顔が茹ったように赤く染まる。彼女はつい、と  
目を逸らして、ぽそぽそと呟いた。  
「ちょっと…意外だった」  
「え?」  
「森崎くん…思ったより、けだもの」  
「………」  
今度は僕が赤くなる。省みてそのとおりなので、ぐうの音も出ない。  
「冗談よ、バカね。」  
桐屋さんは素早く僕に唇を重ねると、それじゃ、とそっけなく言い残して走り出した。  
僕は桐屋さんが見えなくなるまで見送ってから、来た道を歩き出す。  
いつの間にかずいぶん高く昇った下弦の月は、妖しい光のことなど忘れたように、美しく輝いている。  
肩口の傷から滲む血が、Tシャツに染みを作っていたけど、足取りは軽かった。  
 
 
翌日からの日常は、別にいつもと変わらなかった。  
僕は毎日掃除に洗濯、それから庭の草むしり、と休む間も無く走り廻った。  
たまに時間が空くと、誠太郎とプールなんかひやかしてみたり…そんな毎日だ。  
 
八月に入る。とうとう部活を引退したのに未だに進路が決まらない、と僕に八つ当たりをするルリ姉や、  
ニッパチとやらでやけに早く帰ってくる父さんの食事の支度もじき慣れた。  
それでも、干し物の最中や買い物の途中に見上げる夏空に、桐屋さんを思い出すこともある。  
寂しくないと言えば嘘だ。けれど、この同じ空の下を、桐屋さんは今日も夢の為に汗みどろで走り廻っている。  
なら、それでいいやと思えた。  
 
夜が更けると、僕と桐屋さんは電話で話した。  
お互いに今日起こった事とか、昔の自分に起こった事とか。ゆっくりと時間をかけて僕らは話した。  
それはとても穏やかな時間で、難しい事なんてひとつもなかった。  
お互いの翌朝に影響が出ない時間に、おやすみ、と言い合って電話を切る。  
それもたやすい事だった。  
桐屋さんが肩につけた歯形は、跡になって残った。ちょうど古傷の火傷跡を覆い隠すように。  
 
ある夜に、僕は父さんに、調理師になりたいんだけど、と切り出してみた。  
父さんは簡単に、お、そっか、みたいな返事を返しただけで、拍子抜けだった。  
「…もっとなんか無いの?反対とか、意見とか」  
「お前がやりたい事なんだろ?なら別に問題ない」  
父さんはそう答えただけで、あとは、母さん見てるか、勇太がとうとう…とか、それに比べてるりと来たら、  
いらん所ばかり俺に似て…とか、ぶつくさ繰り返すばかりだった。父さんの言う事は良く判らない。  
 
テレビを見ながらけらけらと笑っている受験生に、父さん反対しなかった、と言ってみた。  
「ふーん。父さん喜んだでしょ。」  
テレビから目を離しもせず答えるルリ姉。  
「…そんなに僕が飯作るの上手くなるのが嬉しいか。この親子は」  
「バカ、そーゆーこと言ってんじゃないの」  
ルリ姉が不機嫌そうな顔を向ける。  
「そりゃ父さん喜ぶわよ…、あんたにやりたい事ができて、なんだか知んないけどいつの間にか  
 女までこさえて。わたしへの当てつけかっつうの」  
あーあ、と溜息をついてルリ姉はテレビの方へ向き直ってしまう。  
「二学期から、わたしの弁当、作んなくていいわよ」  
「え?」  
「あんたはもう、わたしの後ろを歩いてるんじゃないんだね…」  
テレビを見たままルリ姉が呟く。ルリ姉の言う事もよく判らない。  
 
 
新学期が始まってからも、僕らの日常は変わらない。  
もっとも、始業式に桐屋さんの姿は無かった。きっとまたサボったんだろうな…  
僕は相変わらず誠太郎とバカばっかりやっていて、覗き見るB組の教室の桐屋さんは、いつもひとりだ。  
放課後になれば、僕は家事で忙しいし、桐屋さんは相変わらずバイト漬けの毎日だろう。  
廊下で束の間行き逢ったり、昼休みを一緒に過ごす事だけが、相変わらず唯一のふれあいだった。  
 
2学期が始まって何日かしたその日の昼も、僕は購買に行って二人分の飲み物を買ってから、  
自分の弁当と、サンドイッチの包みを持ってB組に顔を出した。  
生徒でごった返す入り口のドアから教室の中を見やると、人待ち顔で席についたままの桐屋さんが僕を見つける。  
サンドイッチの包みをちょっとだけ掲げて見せる。少しだけ花が咲いたように彼女は笑った。ように見えた。  
そのまま二人で屋上に向かう。奇異の目で僕らを見る人間ももういなくなった。  
 
屋上へ向かう階段を昇る。桐屋さんは僕の少し後ろをついてくる。  
1学期と比べ、ひとつだけ変わったことがある。僕らの間の会話はずいぶん減った。  
もう僕は必死に話題を探したりしない。無言でいることは苦痛じゃなかった。  
少し振り返ってみると、桐屋さんも僕を見ていた。あの大きな瞳がやわらかく僕を包んだ。  
 
「…ごちそうさま」  
食べ終わった桐屋さんから包みを受け取り、僕は自分の弁当箱といっしょにしまい始める。  
今日も全部食べてもらえた。心の中でガッツポーズ。  
道具をしまい終えると、視線を感じる。桐屋さんが黙って僕を見つめている。  
その大きな瞳には、あの妖しい月光も、冷たい水面のゆらめきも、もう映っていない。  
ただあたたかな9月の陽の光だけがまたたいている。どちらともなく差し出された手を、僕らは黙って取り合った。  
彼女の指が僕の指を包む。そのまま二人で、屋上からの景色を眺めた。  
 
いつかこの手を離さなければならない日が来る。その先のことはわからない。でも今なら不安はない。  
僕らは繋がっている。火傷跡を上書きするように残った、新しい傷跡がそう教えてくれる。  
そんなことを考えていると、まるで心の中に返事をするように、桐屋さんはひと言、  
「…おいしかった」  
と言ってくれた。  
 

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