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「あ…雪」  
「どうりで寒いと思った」  
 帰り道、ちょっと寄り道して河原を歩いていたら雪が降ってきた。  
「早く帰ったほうがいいな」  
 俺だけならともかく、中里さんが風邪を引いてしまう。  
「あ…」  
「どうしたの?」  
「あ、あの、もう少し…」  
 中里さんが小さな声で言う。内気な彼女にしてみれば、精一杯の勇気を振り絞ったのだろう。その勇気に応えてあげたかった。  
「寒くない?」  
「平気よ」  
 微笑む中里さん。そんなわけないよ。握っている手がこんなに冷えているじゃないか。  
 そう思ったとき、子供の頃の思い出が蘇った。いささか気恥ずかしいけど、彼女の勇気に比べれば大したことじゃないさ。  
「えっ!」  
 俺は制服の上着の前を開くと、中里さんを背後から抱きしめ、制服で包むようにして風をさえぎった。  
「えっ!? えっ!? ええっ!?」  
 中里さんはもう真っ赤だ。いつも下校の時に、恥ずかしがって先に行ってしまうときのように。  
 でも今は彼女は俺の腕の中にいる。…彼女を放したくない。  
「子供の頃に、さ」  
「え?」  
「君子と遊んでいて、こんな風に寒いとき、こうしてやるとあいつ喜んだんだ」  
「君子ちゃんが…」  
「本当はコートでも着ているといいんだけどね」  
 中里さんもだいぶ落ち着いてきたようだ。姿勢こそ恥ずかしいけれど普通に会話ができる。  
 
「…今でも」  
「えっ?」  
「今でも、こんなことしてあげるの? 君子ちゃんに」  
「まさか」  
「…よかった」  
「え?」  
「なな、なんでもないの」  
 また真っ赤になる中里さん。  
 でもこうしていると暖かいな。それにとっても柔らかくて。  
「あ…」  
 少し強く抱きしめて、長い髪に顔をうずめる。…いい匂いがする。  
「お、小笠原、くん?」  
「…いよ」  
「え?」  
「…君子相手じゃ、こんな気持ちにならないよ」  
「え? え?」  
 中里さんの耳元に唇を寄せる。  
「好きだ」  
「!」  
「中里さんのことが好きだ。ずっとこうしていたい。  
 もっと…中里さんを感じたい…」  
 半ば無意識に、俺の手が彼女の胸を撫でてしまっていた。  
「…………」  
 真っ赤になってうつむいている中里さんは、それでも、俺の手を払おうとはしなかった。  
 俺はもっと大胆に、彼女の胸を…小さいだなんて気にしているけど、それでも柔らかくて、暖かい膨らみを揉みほぐした。  
「軽蔑されるかもしれない…でも…俺…」  
 俺の分身はこれ以上ないほどにいきり勃っていた。制服のズボンと、中里さんの着ているスカートごしに、彼女にもはっきりわかっているだろう。  
 
「…………」  
「ごめん、勝手なことばかり、でも、俺、俺…」  
「あっ…!」  
 胸の先を摘むようにして愛撫する。堅くなったものを背後から彼女にこすりつける。  
 片手がスカートの上から、彼女の腰のあたりをまさぐる。それでも我慢できなくなって、スカートのファスナーを探り、引き下ろす。  
 そこから中にもぐりこみ、スリップの上から撫でる。  
「あっ、あ…ああ…」  
 スリップをたくし上げるようにして太股に直に触れる。柔らかな感触がさらに俺を煽る。  
「ああっ、そ、そこは…」  
 ショーツの上から触れた。…濡れている。ヌルリとした感触。  
(中里さんも…?)  
 その瞬間、俺の心臓が跳ねた。  
「うっ!」  
「えっ!?」  
 俺は、彼女に後ろから抱きついたまま、果ててしまった。  
 
 ようやく二人の時間が動き出したとき、俺は自分が何をしてしまったかを理解した。  
 急速に体温が下がっていく。  
「ご…」  
「…………」  
「ごめん…ごめん、ごめん!!」  
 俺はなりふり構わず土下座した。最低だ。俺は最低な男だ。  
 河原の地面に額をこすりつけるようにして俺は謝り続けた。  
 中里さんが、ようやく口を開いてくれた。  
「本気?」  
「え…?」  
「さっきの。本気?」  
 真面目な顔。本当に怒っているのだろう。  
「お、俺…」  
「好きって言ってくれたの、本気?」  
「え?」  
 彼女の表情は真剣だった。  
「…好きだ。本当に、中里さんのことが。  
 いつもいつも中里さんのことを考えていて…さっき、中里さんを抱きしめたら…止まらなくなって…。  
 あんなこと、するつもりじゃなかったのに」  
 いつの間にか俺は泣いていた。  
 中里さんは俺の前にしゃがみ、優しい声で囁いた。  
「…私も、好き」  
「え?」  
「私も、小笠原君のことが好き…抱きしめて欲しいって、ずっと思ってた」  
   
「それじゃ…?」  
「許してあげる。今回だけ」  
 今回だけ、か。  
 それでも俺にとってその言葉は、何よりもうれしかった。  
「無かったことにしてあげる。そのかわり…」  
 彼女が言葉を区切る。ああ、何でも言ってくれ。許してくれるのならどんなことだってする。  
 君に嫌われずにいられるなら…。  
「今度の日曜日、デートして」  
「え?」  
「場所はあなたが決めて。そして…あんな風じゃなくて、ちゃんと告白して」  
「…うん」  
 中里さんが立ち上がる。さっきと違って,少し悪戯っ子のような微笑を浮かべて。  
「それで、今度は、最後までして」  
「へ?」  
「と、途中で終わっちゃたりしたら許さないから」  
 真っ赤になってそう言うと、かばんをもって一目散に走っていってしまった。  
 そう、いつもいっしょに下校した時みたいに。  
 
 リターンマッチは、日曜日。  
 今度は失敗しない。そう決意した。  
   

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