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 ライバル。そんな安易な言葉で、彼女と私を片付けないでほしい。  
 それはもっと複雑な関係。……たぶん。  
 
 窓の外で1組と2組が体育の授業をしている。男子がサッカー、女子はバレーボール。  
午後、最初の授業。古文の教師は単調に方丈記を読み上げる。クラスの半数は睡魔と闘っている。  
「よーし、いくぞー」  
 彼女がサーブを打つ。レシーブをするバチンという音がそれまでとはけた違いの大きな音を立てている。  
「次、ここを…… 安藤、読んでくれ」  
 彼女から目を離し、耳の端で捕らえていたそのページを読み上げる。先生の顔になんでわかるんだという表情が浮かんだが、気づかないふりをして読み続ける。  
「よし、そこまで。次を……」  
 先生は睡魔との戦いの山場を迎えたと思しき生徒を次の獲物に選んだ。その声をまた意識の隅に追いやり、グランドに目を落とす。  
 ちょうど決まったスパイクに、ガッツポーズを取った彼女は、なぜかサッカーをしている男子の方をちらりと見た。  
 
 昼休み、彼女に声をかけようとしてちょっとためらう。ここのところ彼女と七瀬さんと……はよくいっしょにいて、何故だか声をかけるのをためらってしまう。  
「ちょっといいかしら」  
 彼女はあきらかにうんざりした顔で私を見る。  
 なにかしらと七瀬さんが言いかけるのを彼女が押しとどめる。  
「だから、もうテニスはやめたって言ってるだろ」  
 いつものやり取りが始まる。この緊張感のある台詞の応酬。クラスの誰もがわたしを”恐い人”みたいに扱う中で、唯一対等に話せる相手。私と同じ立場で話してくれる相手。これを、ライバルなんて簡単な言葉で片付けたくない。  
 ブーン  
 ふと、どこからか羽虫が飛ぶような低いうなりが聞こえた。  
「あら?何か聞こえない?」  
 彼女たちに聞いてみる。  
「え? な、なにも聞こえないけど? なぁかすみ」  
「え? えぇそうね」  
 妙に不自然なやりとり。こんなとき疎外感をかんじるのは、考えすぎなのかと思う。  
「まぁ、いいわ。それより、試合、考えといてね」  
 何かいいたげな彼女に手を振って自分のクラスへ戻る。そのときの違和感は、なぜか胸に残った。  
 
 今日はなんだか部活に出たくなかった。また先輩がうるさいんだろうなと思いながら、夕陽の差し込む窓辺でぼんやりと過ごす。窓の下を通り過ぎていく誰かの声が、ふいに耳に飛び込んできた。  
「ねぇ、演劇部の波多野先輩、なんか女っぽくなったよね」  
「うんうん、なんかね、親友と、その幼馴染とで三角カンケイらしいよ〜」  
「え〜 あのいつもいっしょにいる人たちでしょ? なんかいつもいっしょで仲良さそうだけどな〜」  
 不意に、昼休みの光景が脳裏によみがえる。七瀬さん、そして彼女に感じた違和感。  
 ちらちらと……を見ていなかっただろうか?  
 やけに、顔が、赤くなかっただろうか?  
 胸に、黒い想いが去来する。もし、彼をおとしたら、彼女に勝ったことになるだろうか?  
 今、何を考えたのか、自分で自分がいやになった。対等に話せる相手。そんな彼女に、そんなコトで勝とうなんて思うなんて。あわてて教科書をかばんに入れると教室を後にする。  
 でもなぜか、気が付けば彼の住む団地の前にいた。  
 
 建物の1階にある郵便受けを確認しながら、部屋番号だけ見たら帰ろうと思った。階段を上がりながら、彼の家のドアだけ見て帰ろうと思った。そして、あたりを見回し、ドアをノックしていた。  
「「おかえりなさい」」  
 ドアが内側から開けられ二人分の声がする。そして、わたしの思考は凍りついた。  
「え? あ、あなたたち、なんでここに、そ、それにその格好?」  
 波多野がわたしの手を引っ張りドアの中に引き込まれる。七瀬さんがすぐにドアを閉め、鍵をかう。  
 波多野の手がわたしの制服のスカーフをすばやく抜き取ると、私の手を後ろできつく縛り上げる。正直な話、まったく理解できていなかった。玄関の板の間にぺたんと座り込む。  
「ここは……の家よね? なんであなたたちがいるの? それにその格好は……」  
 目を合わせることができない。ううん、彼女たちを見ることができない。彼女たちは、身に付けているものが極端に少なかった。  
 首にチョーカー、そして靴下。  
 恥ずかしさを我慢して、彼女の方を向いて、さらに驚く。チョーカーと思ったものは、大型犬用の首輪らしい。ネームタグがついており、それぞれあおい♥、かすみ♥と書き込まれている。そして乳首と、局部に金色のピアス。  
「うーん、実際に、見てもらったほうがいいかな」「そうね」  
 後ろから彼女たちに支えられて、居間に入る。  
「あれ、かすみちゃん、その人は?」  
 まだ幼い顔立ちの女の子が部屋の中にいた。白いブラウスにカーディガン、膝丈のチェックのスカート。この娘と、部屋だけを見れば、ごく普通の光景だ。  
「君子ちゃん、この娘は安藤って言って中学からの同級生だよ。今日は……見学、かな」  
 君子と呼ばれた娘は手にもった小さなノートになにやら書き込んでいる。わたしが見ると忘れっぽいからといってえへへと笑った。  
 そのこといっしょに部屋の隅に座る。まもなく……が帰ってきて、波多野と七瀬さんがうれしそうに玄関へと駆けて行く。  
 簡単な説明で……は納得したようで、わたしにはかるく”よっ”と声をかけただけだった。  
 
「いつものことなんだけど…… すごいね、びっくりだね」  
 となりの君子ちゃんがぽつりと言う。  
「ねぇ、いつから、その、こんなこと……」  
「うーん2週間くらい前かな、かすみちゃんがまず。それから2、3日したら波多野さんも。」  
「ふーん」  
 私は瞬きをするのも忘れるくらい、3人の様子に目を奪われている。  
 君子ちゃんは時折、……の合図でデジカメを構える。こちらに向く波多野や七瀬さんの表情がわたしの脳裏にも焼きつく。  
 そして2時間ほどがすぎ、……が波多野のアナルの中で果てる。七瀬さんがずる〜いといってるのを……がつぎはおまえの膣[ナカ]で出してやるといって慰めている。  
 後背座位で貫かれたままぐったりしていた波多野がのそりと起き上がり、アナルから白濁液を滴らせたままの恍惚とした表情で私に近づいて来る。足に力が入らないのか、私の前で力なく床に倒れこむ。  
とても、とても、淫靡で、いやらしく、きれいだった。  
「悪いことはいわないから…… はぁ 全部忘れて…… んっ 帰ったほうが…… ぁん いいと思うぞ……」  
 肩で息をしながら余韻が巻き起こす嬌声のからまった声で言う。  
 彼女の顔の中に、私が知らない何かがあるように思えた。そしてそれは今の私にはないものだと思えた。  
 帰ろうかと思った。たまらない敗北感を感じた。彼女とのテニスも、これも、負けて当然だと思った。  
「ふふん? それで勝ったつもり? わたしならもっと彼を感じさせてあげられるわ」  
 私の中で、だめよと叫ぶ何かがいる。すべて忘れて、逃げ出そうと言っている何かがいる。  
「おまえな〜、そうゆうこと普通言うか? そこまで言うなら、今日、わたしに増やしてもらうはずだったピアスつけてみるか? 痛いぞ〜」  
「望むところよ!!」  
 そうこれでまた対等の関係。消して失われてはいけない対等の関係。そして、とてもとても複雑な関係。  
 
 -END- 

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