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前期試験もやっと終わった。
いつもどおりのだめっぽい手ごたえは、短い秋季試験休暇を勉強に費やすことを決意させた。
その決意もまだ揺るいでいない初日の午後、来客を知らせるチャイムが鳴った。
ルリ姉が応対に出る様子はない。
どこかまだすこし夏の残滓が残っている日差しを窓の外に見ながら、仕方なしに問題集を閉じる。
どうせまた誠太郎だろうとおもってドアを開けると、そこに、彼女が立っていた。
「ふふ、久しぶりね、元気だった?」
正直、幻覚を見てるんじゃないかとおもった。もしくは、あまりの会いたさに、煩悩が実体化したのかと。
「あれ? ルリに聞いてない? 今日から1週間、お世話になります。」
深々と頭を下げる彼女につられ、同じように頭を下げる。というか、いろいろメールしているんだから、そのとき教えてくれてもいいのに。
「ん、もう、じれったいわね。せっかく感動的な再会を演出してあげたんだから、会いたかったよハニーとか、なんとか気の利いた台詞のひとつも飛ばしなさいよ。」
背後から聞こえた声に納得した。僕にこれを伝えなかったのは、わざとだ。それも、深い理由なんてない『なんとなくそのほうが面白そう』という理由でだ。
「ふふ、ルリ、お言葉に甘えるわね。はい、おみやげ」
「あ、悪いわね、じゃあこれ、今日の夕食ね?」
ルリ姉は瞳美さんから預かったそれを、僕にぽんと渡し、彼女の荷物を取る。
「そろそろ、わたしを『義姉さん』って呼ばない?」
「ふふ、そんなこといってると『おばさん』って呼ばれるようにしちゃうぞ」
ルリ姉と対等にやりあえる瞳美さんにちょっとショックを受ける。
そんな僕をおいて、二人はルリ姉の部屋に上がっていった。
気が付いたら、ルリ姉の持っていたはずの荷物が、目の前に置いてあった。
「ほらー 荷物もちー 早くこーい」
ルリ姉の声が階段の上から聞こえた。
気づけば、彼女とまともに言葉を交わさぬまま、その日が終わろうとしていた。
彼女と話したいことはたくさんあるはずだった。勉強の愚痴をこぼしたり、あえない日々の出来事を話したり、たとえば愛してるの一言でもよかった。
なのに、なぜか、ああ、とか、そうだねなんて気の利かない返事を返すことしかできないでいた。
理由は一つ。何か話そうとするたび、横から彼女を連れ去ってしまうやつがいるのだ。
もんもんとしたままベッドの中で寝返りを打ち、壁に向く。
窓からこぼれる月の光が、カーテンの隙間から長く足元まで伸びていた。
窓の外からは虫の声が静かに響き、時折、夜風が窓辺のカーテンを揺らすさらさらという音が秋の気配を次第に濃くしている。
キー
ドアが、小さく鳴った。
風の音だろうとおもった。
衣擦れのようなさらさらという音が聞こえた。
カーテンの音が反響して聞こえるのだとおもった。
壁に影が落ちた。フローリングで反射した月の光がさえぎられ、ぼんやりとその形を浮かび上がらせる。
動くことができなかった。自分の後ろにいるのが誰かはわかっていた。
だって、ルリ姉なら、ドスドスと足音をたてるから。
「……こら、おきてるんでしょ? こっち向いてよ。」
やさしく、静かな彼女の台詞にびくっと体が震える。
彼女がそうしているようにできるだけ音を立てないように、そして、できるだけ速く起き上がり彼女を見る。
彼女がカーテンを手で少し開き、外を見ていた。
蒼い光が、くっきりと彼女の顔に陰影を落とす。
もし、自分が画家ならばこの光景を一生のモチーフにするだろうとおもった。
「ねぇ、なにも言ってくれないの?」
カーテンを離すと僕の横に腰掛ける。水色のすこし大き目のパジャマがよく似合っていた。
「あ、あの。」
それだけ言ってつばを飲み込む。さっきまで考えていたはずの台詞が、どうしても思い出せない。
「いい月夜ですね」
必死になって搾り出した台詞に先輩が一瞬きょとんとする。ついでくすくすと笑った。
「なにそれ。でも、なんか、あなたらしくて、いいわ。
あーん、もう。いっぱい話したいことがあって、どんなふうに話そうかあんなに悩んでたのに、なんだか、そんなこと、どうでもよくなってきた。」
彼女がベットに体を投げ出す。
「不思議ね。何にも話していないのに、一緒にいるだけで、こんなにしあわせ。」
そんな彼女の顔を見下ろし、こちらがまた混乱する。彼女が伸ばした手をどぎまぎしながらそっと握る。
「ねぇ、……す……て」
彼女が口の動きだけで僕に告げる。握った手を彼女が引き寄せるから、どうしても彼女に覆い被さる形になる。
唇をそっと近づける。待ちきれないように彼女が首を起こし、ついばむような小さなキスをする。
「ふふ、つかまえた。」
彼女に体重がかからないように支えた手を、彼女が空いたもう片方の手で引っ張る。
「あなたと、くっつきたいの。ほら、もっと」
ひざだけでは支えられない体重が彼女にかかる。自分の体の下に彼女のやわらかいカラダを感じる。
「だめね、わたし。弱いわ。」
彼女が何を言っているのかよくわからなかった。
「あなたと話せたら、それでもうずっと我慢できるとおもってたんだけど…… キスまでしてくれたのに、たぶん、ここでやめたら、帰れなくなっちゃう。」
彼女の手が僕のTシャツにかかる。すそからやわらかい手が差し入れられ、僕の肌に直接触れる。
「あなたが大学に合格してからって、きめてたんだけどな……」
彼女に導かれるままTシャツを脱ぐ。彼女が自分のパジャマのボタンをはずす様から目をはなすことができない。
ボタンをはずして前をはだけた格好のまま、彼女が身を起こす。
思わず身体を引くと、逆に彼女が覆い被さってくる。
腿の間に膝立ちになった彼女がブラとショーツだけの姿で僕に体重を預けてくる。
「ひと……み」
「うん…… あなたのせいよ。あなたがやさしいから、わたし、どんどんえっちになっちゃう。」
彼女が僕の首にだきつき、唇を求めた。
唇が、ねっとりと押し付けられる。少し開いた彼女の唇が、僕の唇を甘噛みする。
隙間から舌が僕の中に入ってくる。やわらかいそれが、僕の舌を求めていた。
不意に、彼女が顔を離した。
「ねぇ、変じゃなかった? わたし、本で読んだだけだら。」
僕にもそんな経験はなかった。だからそう正直に答えた。でも、気持ちよかったというと、彼女が笑った。どちらともなく、また顔を寄せる。
今度は、息が苦しくなるまで、二人でお互いの唇を、舌を、唾液を味わった。
「して、あげたいことが、あるの。」
はぁはぁと荒い息をしながら彼女が言う。身体をおこした彼女が、僕の下着ごとズボンを引き剥がす。
「やっぱり、太ももに当たってたよ、それ。」
止めるまもなく、彼女の手が、それをにぎる。感じたことのない他人の手に、それがびくりと震える。
「あは、動いた。」
ちゅっ
それに顔を寄せた彼女が、迷うことなくそれにキスした。続けて、アイスを舐めるように舌を這わせる。
「これで、気持ちいいのかな?」
上目遣いでこちらを見る彼女に、ただ、大きく首を振ってうなずく。
ぎこちない手つきだった。ぎこちない舌使いだった。だけれども、とてもうれしかった。
「だめだ、もう出ちゃう。」
彼女にかけないように振りほどこうとしたけれど、手を離してくれなかった。
「いいよ んっ わたしに んんぅ かけても」
唾液をすするちゅばちゅばという淫音にもう耐えられそうになかった。
ドピュっという擬音が、やっぱりいちばんあってるかもしれない。
ビクビク震えるペニスから噴出した精子が彼女の額にぶつかった。続けてほほに、そして顔全体に。
彼女はキャッというかわいい悲鳴をあげて、射精を続ける僕のペニスをじっと見つめていた。
彼女が顔についたそれを指ですくい、口に入れて顔をしかめる。
「おいしくない。」
その様子に思わず笑みがこぼれる。どんな本で勉強したんだか……
「じゃぁ、つぎは、瞳美の番だよ。」
僕の台詞に彼女がちょっとびっくりする。そして、恥ずかしながらも自らブラのホックに手をまわす。
「がっかりしちゃうかも。」
美しいものを見ると、声なんて出せないと言ったのは誰だっただろうか。
それはどこかのジャーナリストが仏像にあてた賛辞だった気がするが、それは彼女にこそふさわしい言葉だとおもう。
「もう、何か言ってよ。恥ずかしいんだから。」
ただ声もなく見つめる僕に、顔を真っ赤にしながら、それでも彼女は隠さずにさらけ出してくれた。
「きれいです。とても。」
ただ、ただ、見とれていた。息がかかるほど近くに、美しい二つの丘があった。
「見てるだけじゃなく、さ、触って…… ほしい。」
彼女の台詞にびっくりして思わず顔と胸とを何度も見比べる。バカとつぶやく彼女の声を聞きながら、恐る恐るそこに手を伸ばす。
「っん」
触れたとたん彼女が息を飲んだ。びっくりして手を離すと、ちょっとびっくりしただけと笑った。
改めて手を伸ばす。さらさらとした肌触り、あったかく、やわらかく、力をどれくらい入れていいものか悩む。
胸全体をなでるように動かすと、手のひらの下で、胸の先端が硬く突き出してくるのがわかる。
指先でそこに触れたあと、舐めてもいいかと聞くと、彼女はばかと言った後、小さくうなずいた。
唇を寄せる。触れた瞬間、彼女が小さく振るえた。舌先でそれをなぞると、ぅんという吐息が彼女の口からこぼれる。
唇でそこを甘噛みすると、何かに耐えるように、ぎゅっと僕の頭を抱いた。
彼女の吐息が、甘く、切なくなっていた。それを味わいたくて、自分の唇を彼女の唇に重ねる。キスをしながら、彼女が時折こぼす吐息を吸う。
彼女がたまらなくいとしかった。
しっかり抱きしめようと腰に手をまわすと、彼女の身体がビクビクと震えた。
目が会うと、彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。
腰にまわした手をショーツの中に差し入れる。彼女は腰を浮かせ、僕の手に身を任せる。
ショーツを下に下ろし、そこから彼女の足を抜く。視界の隅でみたそれは、クロッチの部分の色が変わって見えるほどぬれていた。
彼女が僕の顔に手をかけ、もう一度キスをせがむ。唇を交わしたあと、身体を下にずらそうとすると、僕の顔を両手で抱いたまま、彼女がいやいやをする。
手を彼女のバギナに伸ばすと、音が出そうなほど濡れていた。
「きみの、そこ、見てみたい。」
彼女がまたいやいやをする。手でバギナをもてあそびながら、もう一度言う。
「きみの、そこが、見たいんだ。きっと、とってもきれいだとおもうから。」
彼女がいやいやをやめた。目を開けて、僕の顔をチラッと見る。そして、ついにうなずいて、僕から両手を離し、自分の顔を覆う。
僕が身体をおこすと、彼女が膝を立て、ゆっくりと開く、その膝の間に顔を近づける。
「花びらみたいだ。」
そう、僕が言うと彼女が膝を閉じようとして、頭がはさまれる。
手をまわし、足を開くように促すと、彼女が力を抜く。
改めて見ると、そこは呼吸をするようにヒクヒクとうごめいている。
指を差し入れると、吸い付くようにきゅっと締まった。
剥き出しになったそこに唇を寄せる。
「ひゃぁん」
彼女の口からこぼれた嬌声にすこし満足する。
舌を奥に差し入れ、味わう。少しすっぱいような気がした。
身体をおこす。射精もしていないし、もっと彼女の身体を味わいたかったけれど、これ以上していると、押さえが利かなくなりそうだった。
「ど、どうしてやめるの。」
とろんとした目で、足を開いたまま彼女が言う。それに、避妊具を持っていなかった。
「も、もし、ここでやめると、わたし、ずっと、エッチなことで頭がいっぱいになって、おかしくなっちゃう。
いいの、そのまま、入れて。だって、もう、耐えられない。」
流されているのはわかっていた。だけど、我慢なんてできなかった。
剥き出しのペニスが、剥き出しのバギナに突き刺さる。
ぎゅうぎゅうと締め付ける肉を押し分けるように突き立てる。
彼女が涙を一筋こぼし、はじめて我に返る。そんな僕を見て彼女が言う。
「ふふ、『あなたの痛み』だから、とってもうれしい。」
ぎょっとして結合部を見ると、シーツの上まで血がこぼれていた。
慌てて抜こうとすると、彼女が足を巻きつける。
「いいの、続けて。あなたが気持ちよくなってくれれば、わたしも気持ちいいとおもうの。」
そうは言うものの、あれほど膨れ上がっていた欲望は急速にしぼみ始めていた。
そんな様子に気づく風でもなく彼女がキスを求める。
なんとなく居心地の悪さを感じながら、キスをした。そのキスは熱く、甘く、やさしかった。
しぼみ始めていた欲望が、むくむくと力を取り戻す。また、大きくなったねと言って彼女が小さく笑った。
思わず、彼女を抱きしめる。とてもとても幸せだった。このままずっと抱きしめていたいとおもった。
そのまま、何も言わず、もちろん彼女の何も言わず、じっとお互いを抱きしめた。
ガタン
不意に部屋の外で物音がした。二人でびっくっとする。彼女の中がきゅっとしまり、その刺激に自分のそれが暴発した。
あっ……ん
彼女が思わず声を漏らす。慌てて抜こうとしたのだがぎゅっと抱きしめられて抜くことができない。
ギシギシと階段を下りていく音がする。
その間中、彼女が僕を締め上げ、搾り出していく。
「あったかくて…… きもちいい」
ペニスがビクビクと震え、彼女の中に精液を吐き出す。括約筋が痛くなるぐらい精液が出ている。
最後の一滴まで彼女の中に放出したあと、やっと彼女が力を抜いた。
ごめんと、思わず謝ると、彼女が眉をひそめる。
「わたしは、あなたと、したこと、後悔していない。だから、謝らないで。」
そんな彼女にまた、ごめんといってしまう。
「ふふ、そうゆう、あなたらしいところ、私は好きよ。」
彼女の笑顔が、とてもとても愛しかった。
そのまま、彼女を抱きしめていると、再び階段がギシギシと鳴る。
息を殺してルリ姉の部屋のドアが鳴るのを待って、二人でくすくすと笑った。
彼女からペニスを抜くと、あふれる精液と破瓜の血を慌ててティッシュで処理する。記念に何とか取っておけないかしらという彼女にちょっと驚く。
デジカメならありますけどというと、記念撮影しようと喜んでいる。
なえたペニスと、血まみれのバギナ、精液の染み込んだティッシュが入るように撮影したけれど、絶対にだれかに見つからないようにしようとおもった。
その後、血のついたシーツを持って、彼女と一緒に浴室へ行く。
階段のギシギシなる音にルリ姉が起きてくるんじゃないかとおもったが、見逃してくれたようだ。
シャワーで汚れを落とし、シーツの血のしみもなんとか落とす。
全部終わったのは、空が明るくなり始めるころだった。
また、階段を静かに上る。最後にキスをして、二人分かれて部屋に入った。
それから1週間、彼女は滞在し、帰っていった。
身体を交わす機会は、最初の日しかなかったが、ルリ姉の目を盗んで何度かキスはした。
大学受験のときも、彼女に会うことはなかった。今日会うと邪魔しちゃうからと、電話で話しただけだった。
何のことかよくわからなかったけど、私のほうも順調よと言っていた。
合格発表の日、彼女から祝福を受け、そして報告を受けた。
彼女が言うには、せめて受験が終わるまで待ってから相談しようとおもっていたら、そのころには中絶可能期間は過ぎていたらしい。
もちろんおろすつもりなんてなかったけどと彼女は言ったし、僕もそうするつもりはなかった。
学生結婚で赤ちゃんを育てるのは大変かもしれないけれど、なぜか、彼女と僕、そして生まれてくる子供とみんな幸せに暮らせると確信していた。
「パパになるのは夏休みくらいね」
彼女が笑った。そして、僕も笑った。
「うん、きっと、君に似てかわいい赤ちゃんだね。」
-fin-