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 マルコという男はわたしの大切な自転車に乗るとよろよろと走りだす。  
どこへ行くつもりなのかすぐに、脇道へ入って姿が見えなくなった。  
ダリオ「なぁ、誰も見てないんだから、さっさとおっぱじめようぜ。」  
 じれた若い方の男が早くもベルトのバックルをカチャカチャといじり始める。  
アル「そうあせんなよ。時間はたっぷりあるんだぜ」  
 そういうとその男も下卑た笑いをあげ、ベレッタを突きつけたまま、片手でわたしのほほをなでる。  
ダリオ「しかしよぉ、自転車で取りに行くってコトは20分ばかりかかるぜ。  
 そのあいだ別嬪の嬢ちゃんに何もしないってのは、"失礼"なんじゃないのかぃ?」  
 ベルトを足元に落とし、ファスナーにまで手を伸ばした男が下卑た笑いを返す。  
アル「それもそうか。よし、お嬢ちゃん、こんな外でわりぃが、たぁっぷりかわいがってやるからな。  
   よし、おめ〜 嬢ちゃんのお洋服を脱がしてやんな」  
 わたしのほほを何度もなでていた男が突きつけていたベレッタでダリオに合図を送る。  
 目の前にあった銃口が、その男の方を向いたとき、わたしは無我夢中で目の前の男を突き飛ばした。  
 タン  
 乾いた銃声が響いた。  
 自分が引き金を引いたことが信じられない顔をしている男に、体からぶつかる。  
 腕からはじかれた銃が転がり、道路わきの茂みの中に落ちる。  
 いっしょに転がるように倒れた自分の体がその男の上にあった。  
 無我夢中で腕を振るう。何度も何度も腕を振った。  
 ガス ガス  
 何か赤いものが飛び散り初めて、やっと我に返る。  
 はっと、横を見ると、腿を銃で撃たれた男が足を引きずりながら、茂みに向かっている。  
 全身の力を振り絞り、ダッシュすると、後ろから腰に飛びついた。  
 男の首ががくんと後ろに振られ、勢いをつけてその顔面が地面に激突する。  
 そのまま腕を振ろうとして、こぶしについた赤い液体に気がついた。  
 脳震盪でもおこしたのか、わたしの下の男は動かない。  
 振り返ると、最初の男もヒューヒューと息をしているが動く気配はなかった。  
 血だらけの手を見ながらゆっくりと起き上がる。  
 もみ合っているうちに落ちたらしい男たちの財布から、先ほど奪われた額と同じだけを取り出してポケットにねじ込む。  
 
 Tシャツで血をぬぐうとパスポートを拾い、カバーの裏にはさんであった彼の写真を取り出す。  
とたんに涙が出てきた。  
 不意に車の音が近づいてきた。目を上げるとボロボロのバンが近づいてくる。  
 もう体中が悲鳴をあげていた。でも、まだ、やらなくてはいけないことが残っていた。  
 パスポートをズボンのポケットに仕舞い、うつぶせに倒れた男を踏み越えて、茂みを覗き込む。  
 黒く光るハンドガンを拾い上げると、地面に転がった男たちから少しはなれて、車に銃をむける。  
マルコ「お、おい、どうしたんだ。こ、この、イエローが、おまえがやったのか。」  
 男の声に応えず、銃を男に向ける。体中が震えている。  
 がちがちに指が固まっていて、どうやって動かしていいのかわからない。  
マルコ「そんな震えた銃で、人が殺せると思ってんのか? あぁ?」  
 男が近づいてくる。  
 必死で指を握る。  
 タン  
 反動で腕が振られ、バランスを崩しかける。  
 倒れないように足を踏ん張り、何度も何度も引き金を絞る。  
 カチ カチ  
 一発もあたらないまま、弾が尽きた。  
 にやにや笑いを浮かべながら男が近づいてくる。  
 手の中の銃を男に向かって投げつけたのも、軽くよけられた。  
 もうだめだと思った。あんなことをしてしまったから、殺される。ううん、もっとひどいことをされるかもしれない。  
 もういちど、彼と、デートをしたかった。カラオケで歌って、ゲームセンターで遊んで……  
 脳裏に、なにかよぎった。それは小さいけれど、希望の光だった。  
 おちついて。大丈夫、彼が、待ってる。  
 軽く後ろにステップを取り、距離を測る。  
 そして、踏み出して、全身のばねを使い、体がねじ切れるぐらい強く、そしてコンパクトに捻る。  
 振り出した右足が、男の膝に、真横から入った。  
 バキとも、メキとも取れる感触が、スニーカー越しに伝わる。  
 倒れる男の驚愕の表情が視界に入る。  
 そのまま全体重をかけ、足の裏とつま先に鉄板が入った安全靴をかねたスニーカーで顔面を踏み抜く。  
 鼻骨の折れる感触は、先ほどよりも軽い音だった。  
 肩で大きく息をしながら歩き出す。車の後部ハッチを開けると、大切な自転車が見つかった。  
 ほっと力が抜けそうになるのを、気力だけで支える。  
 
 パンクは応急処置剤を注入してとりあえず直す。これを使うと後でチューブごとかえる必要があるけれど、  
一刻もはやくここを離れたかったし、どちらにしてもあの男がパンクしたまま走り回ったからチューブは  
換えないといけないだろう。  
 荷物を詰め込むと、必死に走り出す。涙が出てきた。帰ろう。彼のもとに帰ろう。  
 そしてしっかり、抱きしめてもらおう。どこへも行くなと抱きしめてもらおう。  
 疲れた体に鞭打って、わたしは空港を目指した。  
 
……  
 
 その後しばらくして、フィレンツェの裏社会で"キリヤ"が恐怖と誤算の代名詞として使われるようになるのは、また別の話である  
 

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