ピピピピッ、ピピピピッ……
ん?何だ?なんの音だ?
「ごめん、起こしちゃった?」
誰だ?
寝ぼけた頭であたりを見回す。
のぞみ!どうして?
思い出した。俺たちは昨夜……。そうか、あのまま眠っちゃったんだ。
「いま何時?」
「5時半」
「いつもこんなに早いの?」
「ううん、今朝はお母さんの代わりに私が全部やらないといけないから」
「大変だな」
「そうでもないわ」
だんだん目が覚めてくる。
昨夜の記憶が少しずつよみがえる。
俺たち、経験した………のかな?
「大輔、朝からなに考えてんのよ!」
突如、批判的な口調ののぞみの声がした。視線の先には……朝勃ちしていた。
「ち、違う、これは生理現象だ!」
あわてて弁解する。
と言いつつ、朝の光を浴びたのぞみの裸身に反応したのも事実だった。
「いいから早くしまって!」
「なんだよ、昨夜はしっかり見てただろ?」
「バ、バカ!」
枕で殴られた。
床に散らばった衣服を集める。
トランクスを履こうとしてペニスの根元の毛がパリパリになっているのに気付いた。
ちゃんと拭いたつもりだったのに…。
気になって体を点検する。
精液の乾いたあとがあちこちにあった。
(まずいな)
「のぞみ」
声をかけ振り向くと、ショーツを身に着けたのぞみがブラのホックを留めたところだった。
「やだ!」
俺が振り向いたためあわてて下着姿を隠そうとする。
「おいおい、昨日はもっと凄いもの見ちゃったからその程度じゃ興奮しないって」
「大輔ぇ!」
のぞみが目を吊り上げた。
「ち、違う。のぞみの体、何ともないか?」
「え?」
頬が染まる。
「ありがと…ちょっとヒリヒリするけど、それ以外は平気」
「え?」
「え?」
「いゃ、ちゃんと拭いたと思ってたけど、精液が乾いてパリパリに……」
「バカ!」
「いや、大事なことだぞ。シーツも洗濯しないといけないし……」
「もういい!」
パジャマを着たのぞみは無言でシーツを丸めると、それを手に出て行った。
「の、のぞみさん?」
バタン!
ドアが音を立てて閉まった。
階下に降りる。洗濯機の回る音がする。
のぞみは?
部屋を見て回ったがのぞみはいない。どこにいるんだ?
見てないのはトイレとバスルームだ。さすがにトイレは気まずいよな。
風呂に向かうとシャワーの音がする。曇りガラスに人影が映っている。
「のぞみ」
声をかける。
……返事がない。
まだ怒っているのか?それとも水音で聞こえないのか?
そこにいるのは分かっている。どうする?
いくら昨夜あんなことがあったとはいえ、入っていくわけにはなぁ……。
ためらっているとドアが開き、バスタオルに手が伸びた。やっぱりのぞみだ。
俺の姿を認めるとのぞみの体がビクッ!と震える。
「あビックリした!いるならいるって言ってよ」
「呼んだんだけど返事がなかったから」
「あ、ごめん。多分シャワーで聞こえなかったんだと思う。なに?」
「いや、さっきはごめん」
「あ、うん。私こそごめん。大輔に言われる前から乾いたところが引きつれたみたいになってたの気付いてた」
話しながらバスタオルを巻いたのぞみが出てきた。
「それでシャワーか」
「シーツ、やっぱり凄いことになってた」
言いながらのぞみの頬に朱が差した。
「洗濯機はそれか」
「昨日の汚れ物も洗ってるけどね」
「俺もシャワー使っていいか?」
「うん」
「一緒に浴びる?」
「バカなこと言ってないの」
俺を簡単にあしらうとのぞみは出て行った。
シャワーを済ませる。
起きてきた弟たちやのぞみと一緒に朝食を摂る。
あわただしい朝の時間が過ぎていく。
「じゃ俺、帰るから」
「あ、うん。学校でね」
「あぁ」
のぞみの家を出、自宅に戻った。
すると玄関前に誰かがいるのが見えた。
「お兄ちゃんどこ行ってたのよ!」
あれ?みさき?
「なんでお前ここにいるんだ?」
「教科書取りに来たの!」
「お前、バカだろ」
「なんですって!」
「だって友達の家に直接行ったら教科書ないぐらい考えられない?」
「だから取りに来たんでしょ!」
「やれやれ」
「そんなことよりどこ行ってたのよ!」
「のぞみン家でメシ食ってた」
「まったくもう、帰ってきたら誰もいないんでどうしたのかと思ったじゃない!」
「『のぞみお姉ちゃんに作ってもらえばぁ〜』って言ったのお前だぞ」
「そ、そうだけどぉ……」
「とにかく、俺も着替えるからお前先行ってろ」
「当たり前じゃない。誰が一緒に行くもんですか!」
みさきはそう言うと、プンプンしながら歩いていった。
みさきを見送った俺は家に入った。
制服に着替える。カバンに教材を詰め込む。
念のためガスの元栓を確認すると戸締りをして外に出た。
「大輔、一緒に行こ」
のぞみが立っていた。
「先に行ったんじゃなかったのか?」
「うん。一緒に行こうと思って待ってた」
「そっか……うん、行こう」
いつもと変わらぬ朝。いつもどおりの毎日。
憎まれ口を叩いたり、時にはケンカもしたり。でも憎みあってるわけじゃない。
クラスメート。でも幼なじみ。互いのいい面も悪い面も知っている。
友達以上恋人未満の関係。
何もなければ、きっといつまでもこうした日々が続いていくんだろう。
昨日まではそうだった。
でも今日は違う。俺たちの関係は確実に変わったと思う。
性器を刺激しあい、うめき声をあげて性の絶頂を迎える姿も見せあった。
のぞみに対する真剣な気持ちを伝えた。
のぞみも俺を好きだと言ってくれた。
今日が俺たちの新しいスタートだ。
「まだ言ってなかったよな」
「なに?」
立ち止まり、のぞみとまっすぐ向き合う。
「のぞみ。好きです、付き合ってください」
ビックリした顔ののぞみ。
だが相好を崩すと、気をつけをしてばか丁寧に頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺たちの交際が始まった。
だが十何年間の関係はそう簡単には変わらない。表面上は何一つ変化がないのだ。
気がつくとのぞみの視線を感じることが多くなったわけでもない。
俺も無意識のうちにのぞみの姿を追い求めているわけでもない。
お互いの気持ちを確認した以外、これまでと同じ日常がくり返されている。
のぞみは今日も腰に手を当てて俺にいろいろと指図するし、俺は俺でそんな状況を楽しんでいる。
熱愛カップルのようにベタベタはしないが、俺たちには年を経て初めてにじみ出るような落ち着いた雰囲気があった。
このままでいい。このままで……。
だがそれを良しとしない俺もいた。
セックスしたい。
それは無理でも、のぞみと触れ合いたい。肌を合わせたい。
だが家族と暮らす俺たちに二人きりになれる場所も時間もなかった。
あれ以来オナニーの頻度が増えた。
気付くと陰茎をしごいている。
のぞみとの甘いひと時を思い出しながらの自慰。
これまでは想像でしかなかったもろもろが実体験として脳裏に刻まれている。
(だめだ。また勃ってきた……抜こう)
何分かののち、閨で見たのぞみのちょっと照れたような笑顔でフィニッシュ。
後頭部がしびれるような感覚のあと、急速に波が引いていった。
情欲が放散した液体を拭き取る。
捨てるためにくずかごへ。
汚れたティッシュでいっぱいのくずかご。俺、何やってんだろ……。
のぞみの気持ちはどうなんだろう?
俺と肉体的なつながりを持ちたいと思っているのか?
それとも今のままがいいのか?
こればかりは本人に聞かないと分からない。
何度も逡巡した。悪い結果を聞くのが怖かったのだ。
迷っててもしょうがない。うじうじ悩むよりはっきり聞こう。
そう決めた俺は電話を取ると、のぞみのナンバーを押した。
『大輔?どうしたの?』
「うん…」
『なに?様子が変よ』
「うん……」
『はっきりしなさいよ、男でしょ?』
「のぞみさぁ、俺のこと…どう思ってる?」
『え?』
「好きって…言ってくれたよな」
『うん』
「それって」
『本気よ!』
さえぎって力強く答えるのぞみ。
「え?」
『嘘じゃないわ。ほんとに大輔が好き。大好き』
「ありがとう…」
『そんなこと心配してたんだ』
「そうじゃない。ただ……」
『ただ?』
「今までみたいな付き合いだけじゃなくて…その……」
『………』
「俺、のぞみと……」
『……分かってる』
「え?」
『大輔がどんなこと考えてるか分かるわ』
「のぞみ……」
『私もね、ほんとは大輔と……』
「ありがとう」
『え?』
「ほんとは……それが知りたくて電話したんだ」
『………』
「のぞみ?」
『大輔には私の恥ずかしいところ全部見られちゃった』
「俺のだって見たろ?」
『バカ…』
「またのぞみとエッチなことしたい」
『!』
「だめ?」
『……言い方がストレートすぎる』
「ごめん」
『でも二人っきりにはなれないわよ』
「そうだよな」
『………』
「キスしたい」
『!』
「それぐらいなら、学校のどこかででも……」
『……大輔』
「ごめん、変なこと言っちゃった」
『ううん、私こそごめんね。男の子ってそうなのよね』
「え?」
『そういう気持ちが強いんでしょ?』
「………」
『私だってそれぐらいは知ってるわ』
「のぞみ……」
『………』
「のぞみはどうなの?」
『え?』
「俺、毎日のぞみのこと考えてる。のぞみのこと思って……その……」
『ごめんね』
「………」
『私がしてあげないから……』
「そ、そうじゃない」
『………』
「………」
『大輔……私も…大輔のこと思って……してる』
「!」
『一緒ね』
「………」
『……黙らないでよ、恥ずかしいんだから』
「ご、ごめん」
『大輔』
「なに?」
『あ、ううん……なんでもない』
「………」
『………』
「のぞみ、俺、我慢できない」
『え?』
「のぞみの声聞いてたら、またしたくなっちゃった」
『………』
「ちょっとだけのぞみの声聞かせて。それ聞きながら自分でする」
『………』
「ごめん、怒った?」
『ううん……いいよ』
「ありがとう」
『ね、私も…大輔の声聞きたい……』
「うん」
『一緒に……しよっか?』
「のぞみ」
『大輔』
俺は最大限に容積を増した肉筒を握るとその手を上下し始めた。
「うっ…好きだよ…のぞみ…」
『あっ…あっ…大輔……好きぃ…』
「はぁ、はぁ、うっ…のぞみ…」
『あ…んん……大輔…ん……』
のぞみが目の前にいるわけではないのにのぞみを感じた。
息遣いだけでなく、のぞみの体温や香りまでが体感できた気がした。
「あっ…のぞみ……だめだっ……イク!」
『あっあっあっ……あぁーーーーー』
イッた。
自分の手で出したにもかかわらず、精液はいつも以上の量が出た。
「はぁはぁはぁ……のぞみ?」
返事がない。
「のぞみ?」
『あ、ごめん……電話できない……』
「え?」
『うん…力が入らない……』
「のぞみもイッた?」
『教えない……』
イッたんだ……。俺はうれしかった。
そして何より、のぞみの気持ちが確かめられたのがうれしかった。
続く