高2の夏、沢田璃未が卒業まで青葉台にいられることが決まった。  
それまで人を拒むかのように孤高を持していた彼女は一転して明るく社交的になった。  
それが真の姿だったことをそのときまで気付かなかった俺は次第に彼女に魅かれ始めた。  
以来、彼女に積極的に話し掛け、なるべく多くの接点を持とうと努力した。  
素っ気なくされても俺は何度も何度も彼女にぶつかっていった。  
そのかいあってか、秋の学園祭の頃には彼女はすっかり打ち解けた様子を見せた。  
スケッチに行く彼女についていくこともできるようになった。  
秋の虫についての彼女の知識を知って驚かされたこともある。  
やがて彼女は冬の球技大会の頃には俺に心を開くようになってくれた。  
学年が変わる直前、クラス替えで離れてしまうことを恐れた俺は彼女に告白した。  
いったんは返事を保留されたが、彼女は俺の思いに応えてくれた。  
 
俺はいま璃未と付き合っている。3年でも同じクラスになれた。交際は順調だ。  
初夏までに俺たちはキスを済ませた。夏前には胸まで進んだ。  
だがそこから先は頑として許されなかった。  
俺のたぎるような性欲は璃未を自分のものにしたいとはやっている。  
その気持ちもはっきりと、そして何度も伝えた。  
しかし璃未はどうしても俺に体を委ねてはくれなかった。  
 
秋の気配が色濃くなってきたある日、俺は璃未の家に招待された。  
仕事柄留守の多い璃未のお父さんはその日も家にいなかった。  
璃未がいつものように手料理でもてなしてくれる。  
その後は身を寄せ合い、抱き合うようにしてのんびりとした時間を過ごす。  
それだけで十分に幸せだった。心は満たされていた。  
だがその一方、若い性欲ははけ口を求めていきり立っていた。  
 
璃未と口づけを交わす。胸をまさぐる。  
俺の手がスカートの裾に伸びたとき、璃未は俺の手をつかんで拒絶した。  
「いや!」  
「璃未、俺どうしても璃未が欲しい!」  
「………ごめんなさい」  
璃未が身を固くする。いつものことだ。  
「今日もダメなの?」  
「………」  
黙ったまま答えない。  
「俺のこと嫌いなの? そうならちゃんと言って。俺、璃未の負担にはなりたくないから……」  
「違う! 誰よりもあなたが好き!」  
璃未が即座に否定する。  
「だったらどうして……」  
「あなたには……雅人くんにだけは嫌われたくないから」  
「? どういうこと?」  
「………」  
「璃未……」  
「……ちゃんと理由、言わなくちゃいけないわよね」  
ためらうように璃未が口にした。  
「璃未が言いたくないことは無理に言わなくていい」  
「でもあなたには嘘はつきたくない……」  
「………」  
「ごめんなさい……私、初めてじゃないの……」  
「!」  
「前に付き合ってた人と……したの」  
 
「……それってここに来る前の人?」  
「ううん、もっと前。三つ前の学校」  
「中学?」  
「……うん」  
「璃未……」  
「私はこんな女だから誰も好きにならないようにしてた」  
「……璃未」  
「転校して裏切られるのはいや。汚れた女だって知られて嫌われるのもいや!」  
「………」  
「でもあなたが好き。どうしようもないぐらい好きなの!」  
「璃未……」  
「ずいぶん迷ったの。本当のこと言ったら嫌われるんじゃないかって」  
「………」  
「でも私思った。雅人くんには本当のことを言わなくちゃいけないんだって」  
「璃未が経験あると俺が嫌がると思った? 璃未のこと嫌いになると思った?」  
「え?」  
「璃未の最初の男になれなかったのは残念だけど、だからって璃未を嫌いにはならないよ」  
「本当に?」  
「当たり前だろ。経験があってもなくても璃未は璃未だよ」  
「………」  
「璃未が処女だから好きになったと思ってた?」  
「でも……」  
「俺、璃未の性格とか考え方を好きになったんだよ。体で好きになったんじゃない」  
「嫌われるの覚悟したのに……ありがとう」  
璃未の瞳から大粒の涙がこぼれた。そして俺の胸に顔を埋めて泣きだす。  
「ばかだなぁ……泣くなよ」  
優しく璃未の背中をさすりながら俺は答えた。  
 
 
その後、璃未は当時のいきさつを語ってくれた。  
璃未が処女を捧げた相手は以前の学校の同級生だったこと。  
璃未が好きになった男は転校が決まった璃未を、『思い出を作りたい』と言って抱いたらしい。  
そして『どんなに離れても好きでい続ける』。そう言ったそうだ。  
璃未はその男に何度も抱かれた。その男にいろいろなことをされたし、したという。  
だが転校後しばらくして男からの連絡は途絶えたことも教えてくれた。  
 
「手紙の返事が来なくなって、電話しても出てくれなくて……」  
「………」  
「そうなって初めて『終わったんだ』ってわかったの」  
「璃未……」  
「遊ばれたなんて思いたくないけど、そうなのかもね」  
「璃未…信じてはもらえないかもしれない。でも俺、璃未のこと本気で思ってる」  
「………」  
「いい加減な気持ちで璃未と一つになりたいって言ってるんじゃない!」  
「信じてもいいの? もう傷つくのはイヤ……」  
「璃未!」  
「こんな汚れた私でもいいの?」  
「汚れてなんかない! 璃未はきれいなままだ!」  
「……雅人くんにあげたかった」  
璃未が泣いた。  
「璃未……。璃未の心の初めて、俺にくれる?」  
「え?」  
「璃未が初めてじゃないことはちっとも気にしてない」  
「………」  
「璃未が俺のこと好きだって言ってくれることの方が嬉しいから」  
「うん…もらってくれる?」  
「ありがとう、璃未」  
「うん」  
 
「璃未、俺……初めてなんだ」  
「うん」  
「その……リードしてくれる?」  
「え?」  
「俺、上手くやれる自信ないんだ」  
「……うん」  
 
璃未が服を脱ぐ。  
18歳を迎えたばかりの璃未の体はすべてが美しかった。  
女神のようでもあり、天使のようでもある。俺はそう思った。  
「そんなに見ないで……恥ずかしいから」  
 
俺は急いで服を脱いだ。  
すでに痛いほど勃起している。璃未に射精したい!  
あせっていたこともあり、ズボンとパンツを脱いだだけで璃未にむしゃぶりついた。  
「璃未…璃未……」  
「平気よ……どこにも行かないから。ね?」  
「璃未……好きだよ璃未ぃ……」  
俺は熱に浮かされたように璃未の名前を呼び、剛直をなすりつけた。  
「ちょ、ちょっと待って」  
「璃未…」  
出したい一心で璃未の声も耳に届かず股間を押し付ける俺。  
「もう出ちゃいそう?」  
ガクガクとうなずく俺。  
「じゃあ一回出す?」  
璃未はそういうと俺の怒張を握った。そしてそのまま上下にしごきだす。  
強からず弱からず、絶妙の力加減が俺の勃起に加わる。  
さらに璃未は手のひらを亀頭にかぶせた。  
右手で竿をしごき、左手で亀頭を揉む刺激に俺の腰が自然に動く。  
急速に高まる射精感。  
「あぁっ! 璃未っ! イクぅ!」  
びゅびゅっ! ずびゅっ! どびゅっ!………  
耐え切れずに発射される精液。璃未の手が俺を射精に導いた。  
 
指先を汚した白濁を拭き取ると、璃未は  
「ごめんね……慣れてるみたいでイヤでしょ?」  
そう聞いた。  
「またその話? 俺は気にしてないから」  
「……うん」  
「それより俺の方こそごめん。なんか動物みたいだったんじゃない?」  
「ううん、大丈夫」  
「ありがとう。ごめんね璃未」  
「なんか二人で謝ってばかりね」  
「そ、そうだね」  
「うふふふ、おかしい」  
「あ、あはははは」  
引きつった笑いの俺。璃未には絶対勝てないな……。  
 
射精によって落ち着きを取り戻した俺はそのまま璃未を抱きしめた。  
璃未と見つめ合う。璃未の耳や頬、髪を撫でながらキスをする。  
「璃未、キスマーク付けてもいい?」  
「だ、だめよ」  
「璃未が俺のものだって印をつけたい」  
「そんなことしなくても私はあなたのものよ」  
「だめなの?」  
「だってお父さんに見つかったら……」  
「タートルネック着るってのは?」  
「まだそれほど寒くないわ」  
「じゃあ見えないところならいい?」  
「……どうしてもしたいの?」  
「うん」  
「仕方ないわねぇ……いいわ」  
「ホントに?」  
「うん。その代わり雅人くんにも付けるわよ」  
「え? 俺にも?」  
「おあいこよ」  
「うん、いいよ」  
俺たちは互いの首筋、それも外からは見えない位置にキスマークを付けた。  
「二人だけの秘密だね」  
「なんだかドキドキするわね」  
「うん」  
そうして璃未と恥戯に耽っていると、俺の股間は再び熱を帯びだした。  
 
全裸の璃未に対し下半身だけ裸の俺。脱ぐタイミングを逸したままここまで来てしまった。  
そして今、すでに準備が整った状態のモノは白濁を吐き出したくてうずうずしている。  
脱いでいる時間すら惜しいほど俺の気持ちは昂ぶっていた。  
「璃未、入れてもいい?」  
「……うん」  
そこで俺は気が付いた。  
「だめだ……俺、コンドーム持ってない」  
「あ、あのね……今日、危なくない日なんだ」  
頬を染め、璃未が答える。  
「それって?」  
「うん。着けなくても……できにくい日」  
「絶対に出来ないってわけじゃ…ないんだよね?」  
「うん…可能性は……ある」  
「もしものときは俺、責任取る」  
心を決め、きっぱりと宣言する。  
「え?」  
「高校卒業したら働く。璃未と俺たちの子供、頑張って養う!」  
「ま、まだ赤ちゃん出来るって決まったわけじゃ……」  
「その覚悟がないなら璃未は抱けないよ」  
「雅人くん……」  
「しばらくは俺の親にも援助してもらうかもしれないけど……」  
 
「ね、えっちするの、もう少しだけ待ってくれる?」  
「え?」  
「ゴムないならある時にしよ」  
「璃未……」  
「雅人くんに変な心配かけたくない」  
「………」  
「私は雅人くんの赤ちゃん欲しい。でも、まだ私たち高校生なのよ」  
「だから責任は取るよ!」  
「違う。私のために雅人くんの夢や将来を犠牲にはできない」  
「俺は璃未のために生きていく!」  
「そんなの私がいや! 好きな人には自分の人生を歩んでもらいたい」  
「俺の人生は璃未のためにあるんだよ」  
「本当にそう思ってる? ヘンな気分でそう思ってない?」  
「璃未……」  
「私、男の人のイヤな面や自分勝手なところいっぱい知ってるわ」  
「………」  
「雅人くんより大人なの。男の人がどういう気持ちで女を見るか……知ってるの」  
「俺は璃未のこと……」  
「本当に私が好きなら、今日はやめてくれるわよね」  
「………」  
「安心して赤ちゃん産めるようになるまでは避妊して。ね」  
「……わかった」  
「避妊してくれたら、私いつでも雅人くんのものになる」  
「……ごめん。俺、自分が出すことしか考えてなかったかもしれない」  
「いいのそれで。雅人くんが気持ちよくなってくれれば私は嬉しいのよ」  
「璃未……」  
 
「出さないと……苦しいわよね」  
「え?」  
「雅人くんがイヤじゃないなら……口でしてあげる」  
「璃未……」  
「じっとしてて」  
璃未はそう言って俺を横たえると、勃起を握り静かに咥えた。  
舌先を器用に使い、カリや裏スジをねぶる。  
口をすぼめ、頭を上下させて茎を摩擦する。  
横からはさむように全体をこすりあげる。  
「うぁあっ……んっ!……」  
璃未の知るすべての技巧を凝らした攻めに俺はうめいた。  
初めてのフェラチオ。しかも、最愛の璃未がしてくれている。  
決してきれいとは思えない部分を唇と舌で丹念に愛撫する璃未。  
いけないことをさせている。そういう思いが俺を興奮させた。  
だが一度射精しているため、今度は時間がかかる。  
俺は璃未の整った顔を見ながら快楽をむさぼっていた。  
 
「……気持ちいい?」  
肉筒から口を離し璃未が尋ねる。  
「うん、すごくいい。璃未がしてくれてるって思うとよけい感じる」  
「いっぱい気持ちよくなってね」  
そう言って璃未はフェラを再開した。  
璃未は右手を茎に添えると軽くしごく。  
そして左手を俺のシャツの裾から差し入れると乳首に触れた。  
俺は今まで男の乳首が感じるなどと考えたこともなかった。  
しかしそれが誤解だったことを璃未の手によって知らされた。  
下半身の疼きと胸を愛撫される快感。  
それらが一緒くたになって俺を絶頂へいざなおうとする。  
頭の奥のほうがじんじんするような陶酔感。  
さらに背すじを電流に似たしびれが走る。  
頭の中が真っ白になる。もう何も考えられない。  
だめだ、出る!  
「璃未っ…璃未っ……イクよ!」  
せめて口の中にだけは出すまい。そう思った俺は璃未の肩に手を当て合図した。  
だが璃未は口を離さなかった。  
「璃未っ! 璃未っ! あああっっ!!」  
どびゅっ! ずびゅびゅっ! どくっ! びゅっ!………  
目もくらむほどの快楽の中、俺は璃未の口内に精を放った。  
射精の最中、璃未は舌先を使って裏スジに圧を与える。  
それは結果として俺からより多くの精液をしぼり取った。  
 
これまでのすべての射精の中で、もっとも時間の長い放出が終わった。  
大量の精液を射出したことにより、さしもの律動も収まる。  
腰が抜けたような脱力感に襲われ、俺は身動きできずに横たわっていた。  
璃未は陰茎を咥えたままだ。  
口の中には俺の精液が入っているはず。  
「はぁはぁはぁ……璃未」  
俺の萎えた肉棒を口に含んだまま、璃未が見上げた。  
「ありがとう璃未……こんな気持ちいいの、俺初めて」  
璃未はやっと顔を離す。頬が膨らんでいる。  
このふくらみの中に俺の精液が……。  
「璃未ちょっと待ってて、今ティッシュ取るね」  
俺の言葉が終わらぬうち、璃未はのどを反らした。  
と、  
こくん  
音がして細いのどが上下する。  
「けほんっけほんっ……飲んじゃった」  
「り、璃未!」  
「おいしくな〜い……けほっけほっ……」  
「璃未!」  
「初めて飲んだけど、こんな味なんだ……けほん」  
「大丈夫? なんで飲んじゃうの?」  
「だって雅人くんのだから」  
「璃未ぃ……」  
俺のためにそんなことまでしてくれた璃未。  
愛しさが増した俺は璃未を強く抱いた。  
 
今日は俺だけが満足を得た。璃未にもイッてもらいたい。  
そう思った俺は璃未に声をかけた。  
「璃未、今度は璃未をイカせたい」  
「ううん、いいの。雅人くんが気持ちよくなってくれれば私はそれで満足だから」  
「それじゃ俺が不満だよ」  
「……うん。でももうすぐお父さん帰ってきちゃうから」  
「そ、そうなの?」  
「日曜出勤だから5時ごろには帰るって言ってたわ」  
「あと30分ぐらいか……」  
「ね、私には今度してくれる?」  
赤くなり、小さな声で璃未が言う。  
「う、うん。もっとゆっくりできる時に璃未をイカせてあげるね」  
「う、うん……」  
「あ、璃未、そろそろ服着ないと」  
「そうね」  
璃未が脱いだ服を身に着けはじめた。  
「今度はアレ用意しとくよ」  
「え? あ……」  
とっさに何のことかわからなかったのか、怪訝な顔をした璃未。  
だがその頬が見る見る染まった。  
「男の子ってそんなことしか考えてないのね!」  
軽くにらむような目をすると、璃未は手を挙げて俺を叩くまねをする。  
「あははは、ごめん璃未」  
「えっちなんだからぁ」  
「だって璃未のこと大好きなんだもん」  
「もう……ねぇ、ホントに私なんかでいいの?」  
「違うよ。璃未『で』いいんじゃなくて、璃未『が』いいの。璃未じゃなくちゃだめなんだ」  
「……ありがとう」  
 
俺は璃未を抱きしめた。そして髪を撫でる。  
「ギュッてされると……うれしいな」  
「そうなの? じゃあもっと強く抱いてあげるね」  
俺は璃未が苦しがらない程度に力を入れて抱きしめる。  
「雅人くん……好き。大好き」  
「うん。俺も璃未が好き。大好きだよ」  
「……うん」  
「俺、俺の全存在を賭けて誓う。いつまでも一緒だよ。離さないからね」  
「………うん。信じるわ」  
「璃未」  
「雅人くん」  
俺たちは見つめあい、口づけを交わした。  
 
                 おわり  
 

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