明日は学園祭だ。  
高校に入学して初めての学園祭とあり、すべてが手探りだった。  
うちのクラスは喫茶店をやることになっている。  
学園祭実行委員の中里佳織さんが発案した郷土研究を否決しての喫茶店。  
中里さんの案も乗り気とは言いがたかったが喫茶店とは……。  
正直、他と代わり映えのしない喫茶店には俺は否定的だった。  
が、決まった以上やるしかない。  
 
だがみんなは非協力的だった。  
面倒な仕事はすべて中里さんに押し付け、誰も手伝おうとしない。  
こつこつ努力するタイプの中里さんは、それでも嫌な顔一つ見せずに準備に励んだ。  
俺はそんな中里さんに魅かれていった。  
最初は同情だったのかもしれない。だがいつしか俺は彼女の人柄が好きになっていた。  
中里さんと少しでも多くの時間を過ごすため、俺は積極的に彼女を手伝った。  
 
いよいよ明日は学園祭だ。  
俺たちの喫茶店が活況を呈すればこれまでの苦労が報われる。  
そのためにやれることは全部やった。今日はゆっくり休もう。  
風呂も入った。メシも食った。あとは寝るだけだ。  
ベッドに横になりながら、俺は今日のことを思い出していた。  
 
客席と厨房、その他の準備スペースのレイアウトに最後まで迷った。  
下校時間も近付いていたため切り上げて帰ったのだが、本当にあれで良かったのか?  
レイアウトに用いた図面を出して眺めていると、さらに動線を活かす配置が浮かんだ。  
なぜこれに今まで気がつかなかったのか?  
明日の朝、早めに登校しても机や椅子を動かすのには時間がかかる。  
いま頭で考えているものが、実際に並べてみるととんでもない的外れなものかもしれない。  
どうする? 今から学校に行くか? 並べ替えてダメだったら戻せばいい。  
そうだ、今から行こう。  
時計を見た。10時か……。徹夜仕事になるかもしれない。  
俺は制服に着替えるために立ち上がった。  
 
高校に通った経験を持つのは家族で俺と両親だけだ。  
両親が高校生だった頃とは時代が違う。今の学園祭とはそういうもんだ。  
そう言って家族に承諾させ俺は夜の街に出た。  
両親を納得させるのには青葉台高校の自由な校風も説得力を持っていた。  
一例だが、クラブ活動も生徒の自主性が重んじられている。  
なにしろ3組の剣道部の女子はテストの日も防具を持って登校していた。  
話によると3学期の球技大会の日も練習があるらしい。ある意味それはすごいことだ。  
ともかく、俺は堂々と抜け出すことに成功した。  
 
学校に着く。  
青葉台高校は宿直の先生も置いていないし、警報システムも導入していない。  
いくら治安のいい街とはいえすこし無用心だと思うが、今日はそれがありがたかった。  
侵入路は一階の男子トイレだ。窓の鍵が壊れていることを生徒の何人かは知っている。  
そこから入れるはずだ。  
 
校門を乗り越えようとしていたとき、  
「小笠原くん?」  
誰かに声をかけられた。  
ドキッとして振り向く。  
「中里さん?」  
「なにしてるの?」  
門扉にまたがった俺をいぶかしげに見ているのは、やはり制服の中里さんだった。  
 
一旦は上った門から降りると、浮かんだアイディアのことを手短かに話した。  
「あ、あのね。私も同じこと考えたの。それで、試すのは今晩しかないって……」  
中里さんも俺とまったく同じことを考え、そして来たのだと言う。  
「なんで学校にいるとき思いつかなかったのかって、俺ちょっと自己嫌悪しちゃったよ」  
「私だってそうよ……でも、喫茶店のこと真剣に考えてくれてうれしいわ」  
中里さんが本当にうれしそうに言った。  
俺はこの笑顔のために頑張ってきた。この笑顔をずっと見ていたい。その思いが強くなった。  
 
「中里さん、まさかうちの人に黙って出てきたわけじゃないよね?」  
「大丈夫。ちゃんと言ってきたわ」  
「俺は男だからいいけど、女の子がこんな時間に出歩いちゃダメだよ」  
「何かあったら小笠原くんが守ってくれるでしょ?」  
そう言って中里さんが微笑んだ。  
俺を信じきったかのように見上げる中里さん。ちょっとドキドキした。  
中里さんはどんなことがあっても俺が守る。そんなことを思った。  
 
「昇降口は鍵がかかってるわよね、どこから入るの?」  
「一階の男子トイレの窓が開いてるはずだよ」  
「え?」  
中里さんは男子トイレと聞いて一瞬表情を曇らせた。  
「こんな時間、誰もいないから気にしなければ平気だよ。それとも他に入るとこ知ってる?」  
「ううん。学校に来たのはいいけど、どこから入ろうかずっと迷ってたの」  
「じゃあ決まりだね」  
「……そうね」  
俺たちは校舎の裏手に回った。  
 
「大丈夫、開いてる。ここさぁ、カギが壊れてるんだ」  
「そ、そうなの」  
緊張気味の中里さんの声。  
街灯の明かりがほの暗く差し込むだけの場所。男の俺だってちょっと不気味だ。  
一人だったら逃げ出していたかもしれない。中里さんがいてよかった。  
 
「よいしょ」  
掛け声とともに窓枠に飛び乗る。  
タイルの床に着地すると、中から中里さんに手を差し伸べた。  
「つかまって」  
「う、うん」  
平均より身長の低い中里さん。  
手を引っ張るだけでは上げきれないと判断した俺は  
「ちょっとごめんね」  
一言謝ってわきの下に手を入れ、抱えあげた。  
「きゃっ!」  
小さな悲鳴をあげて、それでも逆らわずに中里さんは俺に持ち上げられた。  
顔が接するほど近付く。だが意識していては中に入れることが出来ない。  
多分いま俺は真っ赤になっているはずだ。周りが暗いことに感謝した。  
 
中里さんと夜の校舎に入る。  
非常灯のグリーンのライトと、火災報知器の赤ランプしかない一階の廊下を抜ける。  
階段を上がって俺たちのクラスのために用意された3階の空き教室に向かう。  
3階まで来ると塀や民家でさえぎられていた街灯の光も届き、廊下は明るくなった。  
今夜は満月なのだろうか?  
ほぼ真円の月が頭上に輝いているのに俺はそのとき初めて気付いた。  
 
月明かりに照らされた校舎は、見慣れた場所なのにいつもとどこか違って見えた。  
深夜の学校。  
本来なら恐怖心が優るはずだが、中里さんが一緒のせいかちっとも怖くなかった。  
それどころか神々しい感じさえした。月の魔力……。そんなことをふと思った。  
 
喫茶店の飾り付けが施された教室に入る。  
蛍光灯を点けないと作業できないのではという心配は杞憂に終わった。  
月や街灯の明かりで俺たちが作業できるだけの明るさは確保されていた。  
これなら外部から発見されることもないだろう。  
 
二人で協力して机や椅子を動かす。  
配置が変わることにより、壁の飾り付けも架け替える必要が出てくる。  
俺たちは作業に没頭した。  
 
いくら月が明るいとはいえ、それにだって限界はある。  
図面を見るときなど、自然と俺たちは顔を寄せ合って覗きこんだ。  
中里さんから石鹸の香りが漂った。いい匂いだった。  
 
作業が終わる。  
俺たちの考えが果たして正しいのか、実戦を想定して動いてみる。  
これがダメならまた元に戻さなくてはならない。  
……結果は大成功だった。交差していた動線がスッキリまとまり、効率が上がった。  
 
「やったね」  
「うん。でも小笠原くんがいてくれなかったら出来なかったわ」  
「違うよ。俺が最初考えたのだとダメなところあったじゃん。中里さんのおかげ」  
「私一人だったらまだ終わってないわ。ううん、中に入れなくて帰ってたかもしれない」  
「……ま、とにかくちゃんと出来てよかったよ。明日みんな驚くだろうな」  
「そうね、ふふふ」  
その様子を想像したのか、中里さんが楽しそうに笑った。つられて俺も笑った。  
 
「ちょっと疲れたね、休もっか」  
「うん」  
椅子を引いて中里さんが腰を下ろした。  
一つのことをやり遂げた達成感が俺たちにはあった。  
 
俺は見るともなしに中里さんを見た。  
月の光に照らされた中里さんの横顔は幻想的なまでに美しかった。  
気高ささえ感じられる美しさに、俺は直視できなくなって正面を向いた。  
 
「学園祭が終わったら、私たち話すこともなくなっちゃうのね……」  
少しの間を置き、つぶやくように中里さんが言った。  
「え?」  
「あ、ううん、なんでもないわ」  
「……俺はそんなのいやだな」  
「え?」  
中里さんがこっちを見たのがわかった。だが俺は正面を向いたまま続けた。  
「学園祭が終わっても中里さんとの関係は続けたい。終わりにしたくない」  
「小笠原くん?」  
戸惑いを含んだ声。  
「俺、中里さんを手伝うことでいろんなことを知った」  
「………」  
「どんな考えの人なのかとか、どういうものに心を動かす人なのかとか」  
「……どういうこと?」  
「俺、自分の気持ちに気付いたんだ。中里さんが好きだってことに」  
中里さんの顔をまっすぐに見据え、俺は自分の気持ちを告げた。  
「っ!」  
中里さんが息を飲むのが聞こえた。  
「いきなりこんなこと言って迷惑かもしれない。でも俺、本気なんだ」  
「………」  
拒絶とも受容とも判断できない表情で中里さんが俺を見ている。  
「中里さんのことが……誰よりも好きです」  
言った。どんな結果になろうと後悔はしない。  
このことで中里さんに嫌われ、避けられてもすべて自分の責任だ。  
「私のどこがいいの? 私なんかのどこを好きになってくれたの?」  
「そんなこと言わないでくれよ。『私なんか』じゃない。中里さんだから好きなんだよ」  
「私……私……」  
俺をじっと見つめたままの中里さんの瞳から涙がこぼれた。  
「中里さん……」  
「私なんか好きになってくれるはずないって思ってたのに……」  
あとは言葉にならなかった。  
 
「中里さん……」  
俺は立ち上がると中里さんに近付いた。そして椅子の後ろから中里さんに腕を回した。  
中里さんは俺の腕に頬をすり寄せ、  
「ありがとう」  
そう言ってまた泣いた。  
 
ひとしきり泣き、落ち着いたらしい中里さんが立ち上がった。  
「私、言われるだけでまだ自分から言ってなかったわね」  
振り向いてそう言った。  
俺たちはだいたい25センチほど身長差がある。自然と中里さんが俺を見上げた。  
「私も……小笠原くんが好きです。初めて逢ったときから、ずっとあなたが好きでした」  
そのまま俺に体を預けてきた。  
俺は中里さんを抱きとめる。そして背中に手を回しやさしく抱きしめた。  
 
どれぐらいそうしていただろう。俺たちはずっと抱き合っていた。  
と、中里さんが顔を上向け、背伸びをして目を閉じた。  
(これって……)  
中里さんの肩を抱くと、俺は目を閉じて唇を合わせる。  
初めてのキスだった。  
 
唇が離れる。  
「私のファーストキス、小笠原くんでよかった」  
月明かりでもはっきりわかるほど頬を染めて中里さんが言った。  
「俺も初めてだよ」  
「そうなの?」  
「女の子と付き合ったこともないよ」  
「波多野さんや4組の……七瀬さんだっけ? あの人たちは?」  
「あいつらは同じ中学ってだけで、彼女でもなんでもないよ」  
「……そうなんだ」  
はにかみ、うれしそうに答える。  
「俺が好きなのは、中里さんだけ」  
「……ありがとう」  
「ねぇ、もう一度キスしていい?」  
「そんなこと聞くもんじゃないわ」  
「……ダメってこと?」  
「もぅ……」  
今度は中里さんから俺にキスした。  
 
キスしただけなのに、俺の股間はそれ以上の関係を求めいきり立っていた。  
おそらく中里さんのお腹には異物感が伝わっていることと思う。  
だが中里さんはずっと俺に密着していた。  
そうされることが俺にとってつらいなど、おそらくまったく気が付かないのだろう。  
俺の心に邪悪な欲望が芽生えた。  
 
俺は唇を合わせたまま中里さんの胸に手を伸ばした。  
中里さんは一瞬ビクッと身をすくめたが、抵抗せず俺のなすがままになっている。  
スカーフをよけ、セーラー服の合わせ目から右手を入れる。  
唇をふさがれた中里さんが声にならない声を上げる。  
俺はそれを聞きながらブラウスのボタンをはずした。  
 
唇を離す。中里さんの顔を見る。  
中里さんは瞳を潤ませ、だがしっかりとうなずいた。よし、続けよう。  
指先にブラジャーが触れた。下から押しあげ、直接胸に触れる。  
ほとんど隆起が感じられない中に、一ヶ所固くしこった突起が見つかった。  
それを人差し指と中指で転がすようにしながら、親指や手のひらで全体を揉む。  
 
鼻を鳴らすような声を立てて中里さんが身もだえする。  
感じているのか、それともくすぐったいだけなのか……。  
「中里さん、気持ちいい?」  
「……ごめんなさい、わからないの」  
「え?」  
「……男の人に触られたことないからなんか変な感じで」  
 
女性の胸を触るなんて母親の乳房以来だ。十何年振りになるのか?  
力の加減も攻めるべきポイントもわからない。中里さんに快感を与えているとは思いがたい。  
「どうすれば中里さんは気持ちよくなってくれるの?」  
おずおずと切り出す。  
「え……小笠原くんがしたいようにしていいわよ」  
「中里さん、自分で触ったりしないの?」  
「……うん。私、したことないの」  
『したことがない』ってのはオナニーの経験はないってことか?  
 
そんなことが浮かんだ途端、射精の衝動が強くなった。  
何もかもメチャクチャにしたい欲求に駆られる。  
中里さんを犯したい! 膣中に精液をぶちまけて俺のものにしたい!  
 
性欲に負けそうな心をギリギリ理性が押しとどめる。  
レイプなんて出来ない。中里さんの笑顔は消せない。消したくない。  
 
ともすれば朦朧としそうな意識の中、中里さんの手をズボンのふくらみに持っていく。  
「あ……」  
引っ込めようとする中里さんの手を押さえて勃起に押し付けた。  
俺の手をかぶせたまま、中里さんの手で剛直をこする。  
「ごめん、ちょっとでいいからこうして……でないと、中里さんに何かしそうで怖い」  
事態が把握できないのか、中里さんは困惑した表情のままだ。  
だが無理に手を振り払うことはなく、俺に従って手を動かしている。  
 
間接的とはいえ、中里さんの手で愛撫してもらっている。  
直接ではないため、モノに伝わる感覚は物足りないものがある。  
だが中里さんの小さな手のひらが牡の器官を刺激してくれていると思うとひどく興奮した。  
すでにパンツの中は先走りの液体でヌルヌルだった。  
ズボンを濡らすまでには至っていないが、下着にはシミが出来ているはずだ。  
「中里さん……ごめんね……」  
それには答えず、無言の中里さん。  
しかし手を引き剥がそうともせず俺に合わせて手を動かす中里さん。  
きっとどうしていいかわからずに混乱しているのだろう。  
 
性の衝動は腰の奥で渦巻いたまま放出の瞬間を待っていた。  
すでに俺の股間は限界まで張り詰めていた。  
だめだ、イク。  
その瞬間、亀頭の先端から感電したような衝撃が走った。  
「っっっ!」  
俺はビクビクと体を痙攣させながらドクドクと熱い精液を噴き出しつづけた。  
 
パンツの中を汚して射精が終わる。荒く息をつき、俺はすべての動きを止めた。  
突然の俺の変貌に驚いた中里さんが  
「ど、どうしたの? 大丈夫?」  
不安の色を隠さず聞いた。  
「……イッちゃった」  
「え? ……あっ……射精…しちゃったの?」  
「ごめん……」  
「ううん、いいの。……私こそごめんね、もっとちゃんとしてあげればよかったわよね」  
「あぁ、気にしないで。俺の方こそごめん、中里さんに嫌な思いさせた」  
「イヤじゃないから……私は平気」  
「ありがとう」  
 
しばらくの沈黙のあと、中里さんが口を開いた。  
「ごめんね……今日、女の子の日なの……」  
「そうなの?」  
「うん。だから今日は許して」  
「許すだなんて……。中里さんがいいって言ってくれなきゃ、俺しない!」  
「……ありがとう」  
 
もし生理でなければ、中里さんは俺に体を許してくれたのか?  
そう言っていると気付いた俺は  
「中里さん、いやじゃないの? 俺でいいの?」  
恐る恐る聞いてみた。  
「……うん。でも、今日はだめ」  
月明かりでもはっきりわかるほど紅潮した中里さんが答えた。  
射精したばかりの陰茎が一瞬ピクンと反応した。  
 
パンツの中に射精してしまった。下着を通して外に湿った感じが広がる。  
ズボンの中はベタベタだったが、処理のためにトイレに行くのはやめにした。  
一人で行くのが嫌だったのと、中里さんを一人残すのが気がひけたからだ。  
 
俺は中里さんに対し、これまで以上に愛情を注ぎたい気持ちを抱いた。  
中里さんを優しく抱き、そっと口づける。  
お互いの気持ちを確認し、思いを遂げることも約束できた。  
俺たちはこれからなんだ。そう思った。  
 
唇を離すと中里さんは俺の胸に額をつけたまま  
「ねぇ……えっちしないなら、他は何してもいいのよ……」  
と聞こえないぐらいの声で言った。  
「え?」  
「男の人って、ちゃんとしないと我慢できないんでしょ?」  
静まり返った深夜の教室でも注意しないと聞き漏らしそうな声。  
「あ……うん。でも俺、いま中里さんにイカせてもらったから大丈夫だよ」  
「そう…なの?」  
「うん。しばらくはエッチな気持ちにならないと思うよ」  
「じゃあまた少ししたら……」  
「あ…そ、そうかもね」  
「えっちな女の子だって思わないでね……」  
中里さんがこれまで以上に小さな声で言った。  
「そんなこと思わない。俺の方こそ、エッチなことばかりでごめんね」  
「ううん、平気よ」  
初めて顔を上げ、俺を見た。吸い込まれそうなほどきれいな瞳だった。  
 
さっきの愛撫で俺がはだけた胸元が見えた。中里さんは何をしてもいいと言った。  
「中里さんの胸が見たい」  
「大きくないから……恥ずかしい」  
「だめ?」  
中里さんは黙ってスカーフをはずすと、セーラー服を脱いでいった。  
 
かすかなふくらみを持つ両の乳房を隠すように腕を胸に置き、俺の前に立つ中里さん。  
月の光に浮かび上がる中里さんの裸身は女神のように美しかった。  
「きれいだ……」  
思わず言葉がついて出た。  
「やだ……」  
中里さんがうつむく  
スカートを身にまとい、上半身は裸という奇異な恰好ながら何者にも優る美しさだった。  
一歩近付く。  
ビクッと身を震わせ、しかし逃げようとせずに俺が近寄るのを中里さんは待っていた。  
「こわい?」  
「ううん、そうじゃないの。ごめんなさい……緊張してるのかな」  
「俺もだよ。心臓が破裂しそうなぐらいドキドキしてる」  
「私も……」  
「ほら、触ってごらん」  
そう言うと中里さんの手を取り、左胸に持っていく。  
「本当……鼓動がすごく早いわ」  
「だろ」  
そのまま中里さんを抱きしめる。  
中里さんも俺の背中に手を回すとしがみついてきた。  
俺たちはそのまま抱き合った。  
柔らかく、いいにおいのする中里さんの体。体温や息遣いが官能を刺激する。  
俺はそのとき、ズボンの中で肉茎に力がみなぎっていくのを意識した。  
 
「中里さん、俺も脱ぐね」  
ズボンの中で体積を増しつつある物体をくびきから解き放ちたくなった俺は声をかけた。  
そうして体を離すとベルトに手をかけ、ズボンを下げる。  
淫筒はまだ完全には回復していないものの、下着はやや突っ張りを見せていた。  
先ほどほとばしった液体のせいで全体が湿っている。不快感が湧いた。  
下着を下ろすとむっとする青臭いにおいがした。欲望にまみれたオスの匂い。  
俺にはかぎなれたにおいだが、中里さんはそうではなかった。  
「精液ってこんな匂いがするの?」  
「……うん」  
「知らなかったわ。白いっていうのは聞いたことがあったけど……」  
中里さんは静かに手を伸ばし、淫液にまみれた肉棒にそっと触れた。  
そして指先に白濁をからめる。  
俺は中里さんの手を取ると勃起から離した。  
「汚いよ」  
「小笠原くんのなら汚くないわ」  
中里さんは指を口に運んだ。  
「変な味……」  
「な、中里さん!」  
「ほらね。あなたのなら平気よ」  
「……だめだよ、そんなこと」  
俺の口調から困惑を感じ取ったのか、中里さんは顔を曇らせる。  
そして  
「……ごめんなさい。私もどうかしてたわ」  
と頭を下げた。  
 
俺はティッシュを取り出すと一物を拭った。  
下着にせき止められての発射だったため、行き場を失った精液はそこら中に広がっていた。  
陰毛の間に入り込んだ粘液をこそぐように拭き取る。  
陰嚢の方にまでしたたり落ちた欲液はしわを伸ばすようにして清めていく。  
中里さんはそれらの行為を興味深そうな面持ちで眺めていた。  
注目されていることが恥ずかしかった。  
「ねぇ、小笠原くんの……触ってもいい?」  
「え?」  
もちろん直接触ってもらいたい、それも中里さんに。  
しかしそんなことを言い出すのに若干のためらいがあった。  
「だめ…かな?」  
断られるのを恐れている。そんな表情と控えめな声が続く。  
「……いいよ」  
「ありがとう」  
そう言うと笑顔になった中里さんが  
「興味はあったんだけど、今まで機会がなかったから」  
と言いながら少しずつ硬度を取り戻していた肉筒に指を巻きつけた。  
 
動かすわけではなく、ただ固さや手触りを確かめているだけのようだ。  
中里さんに握られている。それを見た途端、力がみなぎりだした。  
ピクン!  
中里さんの手の中で勃起が跳ねた。  
「きゃっ!」  
小さく悲鳴をあげ、思わず手を離してしまう中里さん。  
支えを失ったにもかかわらず、自らの意思で天を指して屹立する剛直。  
完全に勃起した。  
 
「お、小笠原くん……これ」  
かすれた声で中里さんが聞く。怖いのか? 緊張しているのか?  
「うん。男って興奮するとこうなるんだよ。……中里さん怖い?」  
「こんなに大きくなるなんて思ってなかったから……」  
「ごめん、びっくりした? でもこれが男なんだよ」  
「……うん」  
中里さんが少し引きつった顔で勃起を見ている。  
「こんなに大きいのが……ほんとに入るの?」  
「前ね、木地本たちとビデオ見たことあるんだ。エッチなやつ」  
「うん」  
「それだとちゃんと入ってた」  
「そ、そうよね。私も知識はあるけど、でもなんか信じられないわ」  
「中里さんが許してくれるまで、俺絶対にしないからね」  
「え?」  
「中里さんが怖くなくなるまで、セックスはしないよ」  
「……ありがとう」  
「ね、また触ってくれる?」  
「あ、うん」  
中里さんの手が再び俺の勃起を握った。  
 
「こんなに固くなって……痛くないの?」  
静かに力を入れないように把持して中里さんが聞く。  
「痛いぐらいに勃つことはあるけど、普通はちっとも痛くないよ。気持ちいいから勃つんだし」  
「そうなんだ」  
「だからもっと力入れて握っても平気。強く握られる方が気持ちいいかな?」  
「じゃあこれぐらい?」  
中里さんが手のひらに力をこめる。  
「うん、気持ちいい。中里さんなら力いっぱい握っても痛くないよ、きっと」  
「そ、そう?」  
「女の子の中ってもっとすごく力がかかると思うんだ。それに耐えられるだけの固さはあるよ」  
「そんなに強く握ったら、私のほうが痛くなっちゃうわ」  
「ははは、そうだね」  
 
俺たちは淫猥な行ないを続けた。  
中里さんは興味のままに俺の男性器官をいじり、質問する。  
俺はそれに答え、自分が感じる部分を教え、刺激してもらう。  
少しずつ射精感が増していくのを俺は感じていた。  
 
「中里さん、ティッシュかぶせて」  
射精の瞬間は中里さんを抱いたまま迎えたかった。  
俺は中里さんを抱き寄せるとキスした。もういつイッてもおかしくないほど高まっている。  
そのことが伝わったのか、中里さんの手の動きに熱がこもった。  
舌を絡めながら俺の感じる部分を適確に愛撫する中里さん。  
俺の我慢も限界に来た。  
射精の衝動が勃起を究極の固さにした。  
イク!  
どぷっ! ずびゅっ! どぴゅぴゅっ! どくぅ!………  
目もくらむ快感の中、俺は中里さんの手の中で爆発した。  
何度も精液が射ち出される。  
自分でも信じられないほど大量に白濁を吐き出し、俺は果てた。  
 
 
……………  
「……ろよ。おい、起きろよ小笠原」  
誰かの声がする。体が揺すられる。なんだ?  
目を開けた俺の前に波多野が立っていた。  
「波多野? なんでお前こんなところにいるんだ?」  
「小笠原、お前バカだろ? 今日は学園祭だぞ」  
「あ!」  
思い出した。  
身づくろいを整えた俺たちは抱き合ったままいろいろな話をした。  
そのうち眠ってしまったようだ。  
気がつくと朝になっており、波多野が目の前にいた。  
「ゆうべはなかなか熱い夜を過ごしたようで」  
ニヤニヤしながら波多野が言う。  
 
教室の時計は7時を回ったばかりだ。さすが寿司屋の娘。朝はめっぽう強いらしい。  
……そんなことはどうでもいい、中里さんは?  
あわてて隣に目をやる。  
中里さんは安心しきった顔で俺の横で寝息を立てていた。  
俺は中里さんを抱きかかえるように眠っていたようだ。  
マズイ。俺がいぎたなく眠る姿だけならまだしも、中里さんも見られた。  
「おい、波多野……」  
「子供だけは出来ないように注意しろよぉ〜」  
中里さんを起こさないように小さな声で、しかしにやけた顔で波多野が言う。  
「なっ! なにを証拠に!」  
あせる。  
だが波多野は動じた様子もなく、  
「いいっていいって。うち兄貴と弟だろ、ソレが何か知ってるよ」  
と汚れて丸まったティッシュを指差す。ソレからはまだかすかに精液の匂いがした。  
 
そんな遣り取りに目を覚まされたのか、中里さんが起きたようだ。  
「は、波多野さん!」  
半分泣きそうな声。  
「ありゃ、起こしちゃったかぁ〜。じゃあ邪魔なあたしは消えますか」  
「ちょ、ちょっと待て波多野!」  
「心配するなよ、おまえたちのことは誰にも言わないよ」  
中学から一緒だった波多野の性格は把握しているつもりだ。  
こいつが黙っていると言ったら、どんなことがあっても絶対に漏らすことはないだろう。  
そう思うと少しだけ安心できた。  
俺はどうでもいい。中里さんの名誉さえ守れれば……。  
 
俺は中里さんと黙って顔を見合わせていた。  
そんな俺たちを気にする風でもなく波多野が続ける。  
「今日はあたしが日直なんだよ。それにお祭りだろ、血がうずくって!」  
いつもと変わらぬ波多野にようやく俺も安心できた。  
「バカかお前、学園祭と町内会の祭りをいっしょにするなよ」  
軽口を返す余裕も出来た。  
「でもさぁ、これやるために忍び込んだのか?」  
波多野がそう言ってぐるりを見回す。  
「ああそうだよ、こっちの方がいいかなって思ってな」  
「うん、いいかもな。みんな驚くぞぉ!」  
「波多野さん……」  
「中里さんは顔洗ってきなよ。もうしばらくしたら早いやつは来るよ」  
「悪いな、恩に着るよ」  
「小笠原にはあとでなんかおごってもらうか」  
「お手柔らかに……」  
 
その日の喫茶店は大成功だった。  
レイアウトの変更は俺が深夜に一人でやり、中里さんが朝来た時には終わっていたことにした。  
そして波多野は宣言どおり誰にも俺たちのことを言わなかった。  
 
学園祭は終わった。ただ一点を除き生活は日常に戻った。  
あの一夜があってから、中里さんが俺を一途に見ていることに最近よく気付く。  
微笑みかけると、あわてて視線を逸らして下を向く。  
級友たちとしゃべっているとまた視線を感じる。  
中里さんに笑顔を向けると赤い顔でうつむく。  
俺はそんな初々しい感じに好感を持った。  
 
波多野はたしかに誰にも言わなかったが、俺たちの雰囲気はすぐにみんなに伝わった。  
俺たちはいつしかクラス公認となっていった。  
いまでは中里さんが隣にいるのが当たり前になった。  
将来のことはまだわからない。破局が来るかもしれない。  
だが俺は中里さんと一緒に人生を歩んでいく。そう予感していた。  
 

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