初夏の太陽が照りつける噴水広場に、不意に心地よい風が吹いた。  
 昼食を食べる生徒はみんな木陰に避難しているから、日のあたるベンチはがら空きだ。  
 かといって、そこに座る気力はない。日陰を求めて校舎の裏に回る。案外穴場だったようで、人はほとんどいない。  
「おーい」  
 声をかけられて振り返った先には、かすみと波多野がいた。植え込みの影にある芝生にピクニックマットを敷いて座っている。  
声をかけられなければ気付かず素通りしていたかもしれない。  
 近寄ってみると、そこにはいっぱいのさくらんぼ。  
「親戚がさぁ、山ほど送ってきたんだけど、腐っちゃうから持ってきたんだ」  
 店で出せば良いのにというと、波多野はそれでも余ってるんだとすこしげんなりした表情だ。きっと、毎食後に"ノルマ"でもあるのだろう。  
「そんなわけでさ、ちょっと助けてよ」  
 贅沢よねといいながらまたひとつかすみがさくらんぼを口に運ぶ。まったくだといいながら、おれも遠慮なくそれに手を伸ばした。  
……  
「しかし、あまりたくさん食べると、さすがにちょっと……」  
 もう10個ほど食べたというのにまだ、タッパには半分ほど残っている。  
もちろん、二人の手も止まっている。  
 互いに顔を見合わせ、はははと笑う。知り合いでも通りかかれば"処理"を手伝わせるところだが、あいにくそんなに都合よくは行かない。  
「そういえば、そんな遊びもあったっけ」  
 なんとなく手のひらでもてあそんでいたそれを口に含む。しばらくもごもごやって、手のひらに受ける。  
「ほら、こーゆーのできるか?」  
 口の中でさくらんぼの枝を結んで見せると、わぁすごいとかすみが素直に驚く。  
 しばらくそれを見ながら考え込んでいた波多野が、おもむろにひとつ口にほおりこむ。  
俺とかすみの視線を気にするようすでもなく、口の中に集中していた波多野が、意を決して手のひらに受ける。一見まとまっていたそれが、とたんにほどけ、元に戻る。  
「あぁ、だめか……」  
 
「なにが、だめですって!?」  
 波多野の落胆の声をどこで聞きつけたのか、気が付けば安藤がそこに立っていた。  
「あ、できたよ」  
 空気を読めないかすみが、口から結べたさくらんぼの枝を出す。  
「あら、それなの? たしか、できる人は、キスが上手だって言うわね」  
「そうなの?」「そうなのか、かすみはキスが上手なのか?」  
 二人の質問が、同時に俺に向けられる。  
「…… それより安藤、できるのか?」  
 答えづらい質問を無理やり流して安藤にさくらんぼのタッパを差し出す。  
 …… 一瞬無言になった安藤がおもむろにひとつつまみ、口に含む。  
 全員の視線にちょっと照れながら、安藤が口をもごもごと動かす。  
ぷぺ  
「なんだ、だめじゃん」  
 波多野のセリフに、安藤がキッと目をむく。  
「なによ、アナタだって出来ないじゃない」  
「なんだと」  
「勝負よ」  
「望むところだ」  
 
「じゃぁ、おれたち行くから」  
 声をかけたところで、二人に腕をつかまれる。何気に教室に戻る準備を済ませていたかすみは、がんばってねと教室に戻っていった。  
 見上げる木の葉の隙間から見える青い空に流れる雲がまぶしい。  
 次こそ、これでどうだ、そんなセリフがむなしく流れる。  
「これでラストだな」  
 最後の二粒が、波多野と安藤の口に消える。  
ぷぺ ぽぺ  
 でてきたそれは、ただ、折れ曲がっていただけだった。  
「ドローだな」  
 これで開放されると思った俺に、信じられないセリフが掛けられた。  
「こんなもので、キスの上手さなんてわからないわよ!!」  
「となれば、実際のキスで勝負だな!!」  
 
 目の前で、信じられない光景が繰り広げられている。  
ふぐぅ…… んっ…… ぅ……  
 波多野と安藤が口を重ね、舌を互いに挿し入れ、絡ませあっている。  
 ポジションを替えようとした安藤の手が、波多野の太ももに触った。  
「は、反則だろ、それ!」  
 口を離した波多野が叫ぶ  
「ちょっと当たっただけでしょ。だってしょうがないじゃない」  
「ふーん、じゃぁ、何でもありなんだ……」  
「そっちがそのつもりなら、受けて立とうじゃない」  
 おそらく、酸欠で、二人とも状況判断がつかなくなっているのだと思うが、再び口を合わせた二人が、互いの体をまさぐりあっている。  
 二人の体が、ピクニックマットに崩れ落ちた二人の体が、腿と腿を絡ませ、ポジションを争う。  
 んっ…… ぅ…… んっっんっ…… んっ……  
 徐々にペースが上がり、そのたびにセーラー服がはだけていく。  
 互いの手がスカートの中で何かを探り、反対の手は胸元でうごめいている。  
 「「ん!!」」  
 二人の体が同時にビクビクっと震えた。  
 全身の力が抜けたように肩で息をする二人の顔は、ほんの数センチしか離れておらず、互いのくちびるは、互いの唾液でテラテラと光っている。  
「ど、どっちが、先だった?」  
 波多野が搾り出すように聞いた。  
「…… 同時…… かな」  
「……、き、キスは、互角ね。でも、ほかの舌使いは、はぁ、負けないわ」  
 のそりと起き上がった安藤が、俺の方ににじり寄る。  
 二人の放つ濃密で淫猥な空気が、蛇のように絡みつき、身動きが取れない。  
「どっちが、先にイかせられるか勝負よ」  
 安藤の手がズボンにかけられる。波多野の手が、シャツの隙間からもぐりこむ。  
 初夏の草の匂いを孕んだ熱い空気が、シートの上に押し寄せ、3人を包み込んだ。  
-end-  
 

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