学園祭の前の日に学校で一夜を過ごしてから、俺と佳織に新しい関係が始まった。  
 あれから半年近く経ち、俺たちは1年生を終えようとしていた。  
 結局あの晩から肉体的な関係は進展していない。胸までが俺たちの上限になっていた。  
 その代わり精神的な結びつきは強まったように感じる。  
 俺は『中里さん』から『佳織』と呼ぶようになった。  
 佳織は恥ずかしがって名前では呼んでくれない。依然として『小笠原くん』のままだ。  
 だがその中に甘い響きがあるのを俺は感じていた。より親しみを込めた『小笠原くん』だった。  
 
 デートは休日に少し離れた大きな街に行くことが多い。  
 人目を気にしたわけではなく、大きな本屋がその街にあったからだ。  
 佳織が本を好きなのは知っていた。しかしそれは俺の想像以上だった。  
「ごめんね、いつも付き合わせちゃって……」  
 申し訳なさそうに佳織が言う。  
「気にしなくていいよ。本当にいやなら俺ちゃんと言うから」  
「……うん」  
 本心だった。  
 もともと本が嫌いではなかった俺は、佳織に付き合いながら自分でも楽しんでいた。  
 探していた本にめぐりあったときなど、俺のほうが熱中することもあった。  
 そんな時、佳織は本当にうれしそうな笑顔を俺に向けた。  
 
 春めいた日々が続いている。今日もぽかぽかと暖かい。絶好のデート日和だ。  
 本屋を出た俺たちは、いつもそうしているようにあてもなく歩く。  
 時にはいかがわしい雰囲気の場所に迷い込むこともあった。  
 ホテルの看板が目に付く。……意識するなという方が無理だ。  
 だが俺には佳織をホテルに誘う勇気はなかった。  
 佳織は俺のものになってもいいと言ってくれた。だが断られたら……。それが怖かった。  
 俺たちは、少しぎこちない会話を交わしながらその場を離れるのが常だった。  
 佳織が欲しい。  
 そんな晩は自分で処理することで悶々とした欲求を解消していた。  
 
 
 そんなある日、  
「小笠原くんと一緒のところ、友達に見られちゃった」  
 佳織が言った。  
「友達ってメガネかけた東女子の子?」  
「佐和子を知ってるの?」  
「名前は知らなかった。でも佳織と並んで歩いてるの見たことあるよ」  
「そうなの? 私、全然気が付かなかったわ」  
「俺と一緒のところ、見られたくなかった?」  
「ううん、そうじゃないの。ただ、佐和子に言われたことがあるから……」  
「何を?」  
「あのね、私が小笠原くんの事しか見てないって」  
「?」  
「自分のことしか考えてなくて、小笠原くんの負担になってるんじゃないかって……」  
「俺は負担だなんて思ってないし、頼ってもらって嬉しいけど?」  
「……ありがとう。でも、重荷になるようならちゃんと言ってね」  
 
 たしかに佳織は一つのことに集中するきらいがある。  
 本を読みながら歩いていて、赤信号に気付かなかった佳織を見たこともある。  
 悪いことではないが、度が過ぎるようなら注意が必要だろう。  
 俺がそばにいて守ってやらねば……。  
 
「俺のほうが迷惑かけてない?」  
「小笠原くんは、私がそばにいて欲しいって思うときにいつもいてくれた……」  
「え?」  
「それがうれしいの……」  
 佳織はそう言って笑顔になる。  
 俺はこの笑顔をいつまでも守っていけるのか?  
 付き合いはじめた頃に感じた不安。今も心のどこかにそれはある。  
 俺が佳織にできる最善のことはなんだろう?  
 
 俺はクラブに入っていない。授業が終わればあとは帰るだけだ。  
 これまではそうだった。だがすぐに帰ることは今はほとんどなくなった。  
 佳織が図書委員の仕事を終えるのを待ち、一緒に下校するからだ。  
 当番制のため毎日ではないが、佳織が担当の日は最後まで学校に残っている。  
 
 青葉台高校の図書室はあまり利用者も多くない。  
 ために佳織と静かに二人の時間を過ごすことが出来たのもその理由だった。  
 
 人のいないときを見計らい、何度か口づけを交わした。  
 制服の上から佳織の胸を愛撫したこともある。  
 佳織は自分の胸が小さいことを気に病んでいるようで、  
「ごめんなさい。私の胸、小さいでしょ?」  
 何度も俺に謝った。  
『そのままの佳織が好き』。  
 俺は何度もそう伝えた。俺が好きになったのは佳織の人柄だからだ。体が目的ではない。  
 ましてや胸の大きさなんかにまったくこだわりはない。  
 だが佳織は胸の小さいことが気にかかるようで、しきりにそれを詫びた。  
 
 ……たしかに標準よりは小ぶりかな?  
 でも他の女の子の胸、知らないから比べられないなぁ。  
 それに、胸の大きさに関係なく佳織が魅力的なことは変わらなかった。  
 
「どんな女の子を彼女にしたい?」  
 クラスでたまさか豊乳の話題が出ていた日に佳織が聞いてきたことがある。  
「佳織」  
 即答した俺だが、佳織の真意は別にあったようだ。  
「もぅ、そうじゃなくて……どんな子が好みなの?」  
「だから佳織」  
「……スタイルがいいとか明るいとか元気とかあるでしょ?」  
「う〜ん……」  
 何かを期待する目で俺を見ている佳織。何を求めてるんだ?  
「ねぇ、どういう子が好きなの?」  
「だから佳織だってば。……どうしてそんなこと聞くの?」  
「……じゃあ私に求めるとしたらどういう感じがいい?」  
「今のままで何の不満もない。というより、今がベスト」  
「………」  
「その答えじゃ不満?」  
「………」  
 何か言いたげな佳織。……な、何か答えないとまずいな。  
「そ、そうだなぁ、男はスタイルのいい子が好き、かな?」  
「……スタイル。それって背が高いってこと?」  
「いや、胸の大きい子って意味。そういう子といっしょだと自慢できるっていうか……」  
「胸……」  
 何か物憂げな表情で佳織が去っていった。  
「あ、一般論だから……」  
 その部分は聞こえなかったと思う。俺は佳織に不満はないのに……。  
 
 
 昼休み、混雑する学食で俺は誰かとぶつかった。  
「あ、ごめんなさい、大丈夫……佳織?」  
 そこには大量の牛乳パックを床に落とした佳織がいた。  
「ずいぶんたくさんの牛乳だね……あ、拾うの手伝うよ」  
「あ、ありがとう」  
「ごめんね。でもそれ、どうしたの? あ、佳織……」  
 佳織は牛乳を拾うとそそくさと立ち去ってしまった。  
(まさかあれ、一人で飲むつもりじゃないだろうなぁ? ……まさかな)  
 
 放課後、顔色の悪い佳織とすれ違った。  
「佳織! どうしたの? 顔色が優れないけど」  
「ちょ、ちょっとお腹壊しちゃって……」  
「まさかさっきの牛乳、全部飲んだんじゃないよね?」  
「………」  
「佳織?」  
「だって…胸を……大きくしたかったから」  
「もしかして俺が言ったこと気にしたの?」  
「………」  
「バカだなぁ、あれは一般論だって言ったろ?」  
「小笠原くんはどうなの?」  
「え?」  
「小笠原くんも胸の大きい子のほうが好きなんでしょ?」  
「それは誤解だって。俺が好きなのは佳織。さっきもそう言ったろ?」  
「……」  
「俺が好きなのは佳織の人柄だよ。胸なんか関係ないから」  
「でも、大きい方が……」  
「佳織はまだ高校生だろ? 成長段階だと思うよ」  
「……そうかしら?」  
「揉むと大きくなるっていうから手伝おうか?」  
 冗談めかした俺の発言に真剣な表情で考え込んでしまう佳織。  
 それほど悩んでいたのか?  
 
 佳織の乳房はセーラー服からほんの少しだけ存在を主張していた。  
 大きいわけではないが、まったくないわけでもない。  
 男がモノの大きさに拘泥するのと似たようなものなのか?  
 正直なところ、佳織が悩むのが俺には理解できなかった。  
「とにかく、俺が好きなのは今の佳織。いいね! はい、もうこの話はおしまい!」  
「……うん。ありがとう」  
 その後、佳織が牛乳を暴飲することはなくなった。  
 そんなことしなくても佳織は充分に魅力的だし、俺は佳織に夢中だよ。  
 
 
 その日、図書委員の当番を終えるのを待ち、俺たちは一緒に学校を出た。  
 佳織はバスで通学している。  
 いろいろな通学手段を持つ俺は、佳織に付き合ってずっとバスで通っていた。  
 今日も一緒にバスで帰る。俺の降りるバス停の方が手前だが、しばらくは一緒にいられる。  
 バスが来た。……いつも以上に混んでいる。  
 街の中心部を抜ける路線の関係で、混む混まないは時の運だった。  
 一本待てば空いているバスが来ることもある。もちろん続けて混んだのが来ることもある。  
「一本待とうか?」  
 佳織と少しでも長くいたい俺が聞く。  
「そうね、待ちましょうか」  
 佳織も賛同し、俺たちは次のバスを待った。  
 
 取り留めのない話をするうち次のバスが来た。  
「これも混んでるなぁ」  
「今日ははずれかしら」  
「乗る?」  
「そうね」  
 前のバスの方が空いてた気がする。そんなことを考えながら乗り込む。  
 
 背の低い佳織は人の中に埋もれてしまう。  
 そのため、いつも俺が守る形で佳織のために空間を確保している。  
 しかし今日はそれも出来ないほど混んでいた。  
 押された佳織が密着してくる。決して楽ではないだろうが、佳織は俺を見上げて微笑んだ。  
 自然とそういう状況を作ってくれた混雑すら楽しんでいるかのように佳織はうれしそうだった。  
 
 俺たちはぴったりとくっついたまま揺られていた。  
「……小笠原くん」  
 泣きそうな、そして消え入りそうな声で佳織が俺を呼ぶ。  
「どうしたの?」  
 それには答えず、下を向いて肩を震わせる佳織。  
「お腹でも痛いの?」  
 ふるふると首を振り、俺にしがみつくように身を寄せる。  
(こんなこと初めてだ。どうしたんだ?)  
 
「佳織?」  
 そこで気が付いた。佳織のお尻に誰かの手がある。  
「!」  
 バスは混んでいる。偶然かもしれない。意に反してそういう体勢になったのかもしれない。  
 血が昇った頭を冷静に保ち、その手の動きを観察した。  
 
「!!」  
 その手はまぎれもなく意志をもって動いていた。  
 俺ですらまだ触れていない佳織の下半身を這い回る手。痴漢だ!  
「佳織?」  
 間違いないか佳織に確かめる。  
こくん。  
 佳織がうなずく。  
 許さない!  
 その手をねじりあげ、男をにらむ。  
 男は観念したように黙って下を向いた。  
 痴漢を告発すれば佳織が恥ずかしい思いをするかもしれない。  
「佳織、どうする?」  
「………」  
「突き出す?」  
 佳織が静かに首を横に振った。……許すのか?  
「わかった」  
 佳織にささやくと、男にだけ聞こえるように言った。  
「今日は許す。だけど、次にこんなことしたら絶対に許さない!」  
 男が一瞬顔を上げ、すぐに下を向いた。  
 俺は男を解放した。男はちょうど停まった停留所でそそくさと降りていった。  
 佳織に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった俺は、そっと佳織を抱きしめた。  
「ごめんね、俺気付いてあげられなかった。佳織を守れなかった」  
「ううん、ごめんね。私が不用心だったから……」  
「佳織……」  
 
 この一件で佳織が怯えてしまったようだ。俺の制服の裾をつかみ、離そうとしない。  
「佳織?」  
「なんでもない、平気」  
 そう答える佳織の声は緊張が色濃くあふれていた。  
(ちっとも平気じゃないじゃないか)  
 俺の降りるバス停が近付くにつれ、佳織がますます強く握りしめる。  
(佳織を一人で帰すわけにはいかない)  
 裾を握る佳織の手に俺の手を重ねる。  
 振り切られると思ったか、佳織がビクッと身をすくませる。  
「佳織、今日はずっと佳織と一緒にいるよ」  
 努めてやさしく声をかける。  
「え?」  
「あんなことがあったんだもん、佳織を一人では帰せない」  
「………」  
「佳織がいやじゃなかったら家まで送っていくよ。……だめ?」  
 佳織が強く首を振る。そして俺の胸に額をつけた。  
「ありがとう」  
 小さな声で佳織が言った。  
 
 佳織の家に行くのは二度目だった。  
 学園祭の準備で買い込んだ多すぎる荷物を持っていったのが最初。  
 あれ以来行ったことはない。もちろん中に入ったこともない。  
「もう大丈夫? じゃあ俺、帰るから」  
「待って!」  
 そこまで言ったものの、そこから先の言葉が出ず、黙る佳織。  
「佳織?」  
「今日は本当にありがとう……」  
 佳織はそれだけを言うのにかなり手間取っている様子だった。  
 精神的に参っているのがうかがえた。  
「俺、もう少しいようか?」  
「……いいの?」  
「うちの人、いないの?」  
「お父さんとお母さんは仕事で、お姉ちゃんは学校」  
「じゃあ誰か帰ってくるまで佳織といるね」  
「ありがとう、ごめんね」  
 俺たちは佳織の家に入った。  
 
 佳織の両親が遅くなることは前日から聞かされていたそうだ。  
 姉からは大学の仲間と飲み会があるとの電話が来た。  
 佳織は夜遅くまでこの家に一人きりなんだ。今日だけは不憫に思った。  
 俺は佳織に断って電話を借り、遅くなることを家に伝えた。  
 
 自宅にいることで安心したのか、佳織が少しずつ落ち着きを取り戻す。笑顔も出るようになった。  
(これで一安心だな)  
 そう思うことで俺にも余裕ができた。自然と頬が緩む。  
 
「紅茶淹れるわね」  
 そう言って佳織が立ち上がった。  
 佳織は学園祭のとき、ケーキの作り方とともに紅茶の淹れ方も勉強していたっけ。  
 そんなことを思った。  
「レモンがいい? それともミルク?」  
「あ、レモンで」  
「うん」  
 
 何の気なしに佳織を目で追っていると、偶然冷蔵庫の中が見えた。  
 ……大量の牛乳。  
「佳織、まだ牛乳飲んでるの?」  
「あ……健康にいいから」  
 少しばつが悪そうな声で佳織が答える。  
「ほんとに?」  
「………」  
「佳織」  
「ごめんなさい。ほんとはそうじゃないの」  
「胸?」  
こくん。  
 佳織がうなずいた。  
 
「佳織」  
 俺は立ち上がると佳織のそばに寄った。  
 そしてそのまま抱きしめる。  
「気にしないでって言ったでしょ?」  
「……うん」  
 静かに佳織の胸に手を伸ばす。  
 ふくらみを手のひらで包むようにして  
「ほら、俺はこれぐらいが一番好きなんだから。ね?」  
 そう優しく声をかけた。  
 
 ただ触っただけだった。その後の展開を求めたわけではない。期待したわけでもない。  
 しかし俺の頭に先ほどの光景が浮かんできた。  
 知らない男が佳織に触れた。佳織の体をまさぐった。  
 おかしな話だが、そのことが俺を興奮させていた。  
「佳織!」  
 思わず強く抱きしめ、唇を重ねてしまった。  
 誰もいない二人だけの密室。その気になれば佳織を力ずくで奪える。  
 股間に血液が集まっていくのがはっきりと自覚できた。  
 だが一方、あんな目に遭った佳織を暴力で支配することは絶対に出来なかった。  
 そんなことをしようとする俺自身が許せなかった。  
 
 ともすれば誘惑に負けそうになる心を押さえつけ、俺は佳織から身を離した。  
 にもかかわらず、佳織が自分から俺の胸に飛び込んできた。理性が保てなくなりそうだった。  
「佳織、ダメ……やめて」  
 苦しい思いでそれだけを口にする。  
「どうして?」  
 不思議そうに俺を見上げて聞く佳織。  
「襲っちゃいそうだから……俺、すごく我慢してるんだぞ」  
 声がかすれた。  
「! ……ぃょ」  
 驚いた顔のあと、しばらくの間があって佳織が何かをつぶやいた。  
「え?」  
 よく聞こえなかった。聞き返す。  
「襲って……いいのよ」  
「佳織……」  
「……うん」  
 静かに、だが力強く佳織がうなずいた。  
「本当に嫌なら……本気で抵抗してくれ」  
「……」  
「そうしないと……俺、もう止まらなくなるぞ」  
 佳織はじっと俺の目を見、  
「うん」  
 再び首を縦に振った。  
「初めての人が小笠原くんなら……幸せ」  
「! 佳織!」  
 佳織を抱き寄せる。ほんのりとした思春期の髪の匂いを感じた。  
 
 ふっくらとした柔らかい唇を吸うと、佳織が舌を伸ばしてきた。  
 舌を絡めあう。  
 舌の根がしびれるような濃厚なキス。  
 佳織の舌を、唇をむさぼる。耳たぶを噛み、甘い言葉をささやく。  
「佳織、好きだよ。誰よりも佳織を愛してる……」  
 首筋に舌を這わせ、頬に口付ける。再び舌を絡ませ、互いの唾液を交換する。  
 俺たちは激しいキスを交わした。  
 
 唇が離れる。  
 うっとりした表情で佳織は俺に体重を預けている。  
「佳織」  
 一言声をかけ、ほんのりと自己主張する佳織の胸に手を伸ばす。  
 初めて触った頃に比べ、心持ち容積を増したように感じられる半球を静かに撫でまわす。  
 ブラジャーを押し上げると、ふくらみを持った乳房が俺の目の前に現れた。  
 頂に小さく突き出た可憐な蕾を転がす。俺の指に薄紅色の乳首がツンとしこる感触があった。  
 ……佳織は感じている。  
 何度か佳織の胸を愛するうち、俺はそれを刺激する方法を会得していた。  
 芯に若干の固さを残し、それでいて全体に柔らかさと弾力とを併せ持つ佳織の胸。  
 小柄な佳織からすれば豊かに見える丘を俺はもみしだいた。  
「佳織、気持ちいい?」  
「……うん」  
 恥ずかしそうに、しかし嫌がらずに俺に乳房をゆだねる佳織の声が艶を帯びた。  
 
「佳織の部屋行ってもいい?」  
「あ、うん。……こっちよ」  
 俺は佳織に先導されて廊下を進んだ。突き当たりのドアを開けるとそこが佳織の部屋だった。  
 天井まで届く大きな本棚。そこに入りきらず、積まれたままの本、本、本……。  
 話には聞いていたが、佳織の本好き、そして蔵書の量には圧倒された。  
「女の子らしくない部屋でごめんね……」  
 佳織は申し訳なさそうに言ったが、俺は佳織らしさに本心から安堵した。  
 
 佳織をそっとベッドに横たえる。  
 再び唇を合わせる。耳の後ろから後頭部を手で梳き、髪をなでる。  
「佳織」  
 名前を呼びながら佳織の首筋に顔をうずめ、耳たぶを甘噛みする。  
「小笠原くん……」  
 鼻にかかった甘い声で俺の名を呼ぶ佳織。羞恥による佳織の甘い体臭が俺の性欲を刺激した。  
 俺は佳織から身を離すと、トランクスを除いて手早く着ているものを脱ぎさった。  
 付いているだけになっていたセーラー服のスカーフをはずしながら、佳織が  
「見ないで……」  
 耳まで朱に染めて言う。  
 俺は後ろを向いた。後ろで衣擦れの音がする。  
(佳織が脱いでいる。裸になっている)  
 心臓が破裂するのではないかと思うほど激しく脈打っていた。  
 
「小笠原くん、いいわよ」  
 佳織の声に振り向く。  
 装飾の少ない純白のショーツ一枚の佳織がベッドの脇に立っていた。  
「佳織」  
「うん」  
 静かに、しかし力強く佳織がうなずいた。  
 
 ベッドに近付く。  
 佳織の前に立った俺は、その場でトランクスを下ろした。  
「!」  
 息を飲む佳織。最大限に膨脹した一物は佳織に恐怖を与えたのか?  
「どうしたの?」  
「前見たときより大きくない?」  
「いや、変わらないと思うけど……」  
「そ、そう……」  
 俺は佳織の手を取ると、勃起に導いた。  
 
 急角度で屹立するグロテスクな肉棒に、恐る恐るといった感じで佳織が触れる。  
 そしてカリ首のくびれに指を這わす。  
「ずっと思ってたんだけど、これって中に骨入ってないの?」  
 固さを確かめるように力を入れて握りながら佳織が聞いた。  
「入ってないよ。海綿体っていう組織が固くなるんだ」  
「不思議……」  
 佳織が俺のモノをいとおしげに撫でながら言った。  
 
 素直な興味からか、佳織が勃起を撫でまわしている。  
「佳織っ…そんなに……したら…うっ……出ちゃうよぉっ!」  
 あの夜は佳織の手で性の絶頂を得た。  
 俺はそれを思い出し、幾度となく自分で欲望を処理していた。  
 その記憶がよみがえり、思いもかけず射精感が募る。このままではイッてしまう!  
「あ! ご、ごめんなさい!」  
 佳織があわてて手を離す。  
「佳織ぃ…今日は…佳織の中で……」  
「……う、うん」  
 こわばった表情の佳織が、ぎこちない笑顔を浮かべてうなずいた。  
 そして、大きく深呼吸するとショーツを脱ぐ。  
 俺の前に女神のように美しい裸身が現れた。  
 
 佳織をベッドに掛けさせ、その隣に俺も座った。  
「好きだよ」  
 そうささやいて口づけを交わす。  
 頭では手順を踏むことは分かっているが、股間の一物がそれを邪魔するようにいきり立つ。  
 さっきの佳織の愛撫で射精の一歩手前まで追い詰められた肉棒ははちきれんばかりだ。  
 出したい! 正直、それ以外のことは考えられなかった。  
 それに、もしこのまま佳織に挿入してもあっという間に射精してしまうだろう。  
 処女の佳織を気遣うなら、なるべく早く終わった方がいいことはわかる。  
 だがあまり早すぎるのも男の沽券にかかわると思えた。  
 唇が離れる。  
「佳織、ごめん……やっぱり一度手でイカせてくれる? 我慢できそうにない……」  
「うん。……いいわ」  
 佳織がうなずいた。  
 
「えっと……ここが感じるのよね?」  
 あの晩、簡単にだが俺は性感帯を佳織に教えていた。そこを佳織は重点的に攻めてきた。  
「覚えてるの?」  
「だって、小笠原くんに少しでも気持ちよくなってほしいから……」  
 そう言ってにっこり笑う。  
「佳織……うっ! 気持ち…いいよぉ……っ!」  
 高まっていく射精感。  
 佳織は俺の勃起を刺激しながら片手でティッシュを広げた。そして亀頭を覆う。  
「出したくなったら我慢しなくていいのよ」  
 俺の瞳を覗き込むようにして言う佳織。興奮が頂点に達した。  
「うん、うん……あっ! イクっイクよ佳織! うっっっ!」  
びゅっ! どぴゅっ! どぴゅっ! どくっ!………  
 あっけなく限界がきた。  
 ティッシュを破るのではないかと思える勢いで精液が射ち出される。  
「あ……すごい。いっぱい出てる……」  
 佳織の声を聞きながら俺は射精しつづけた。  
 
「はぁはぁはぁ……」  
 たっぷりと精液を吐き出し、ようやく俺は落ち着きを取り戻した。  
「大丈夫?」  
 俺の様子を心配したのか、佳織が声をかける。  
「はぁはぁ……ありがとう、平気だよ。あんまり気持ちいいんで…ちょっと意識飛んだ……」  
「そんなによかった?」  
「うん。佳織、ありがとう」  
 そう言って俺は佳織を抱きしめた。  
「うふっ」  
 嬉しそうに佳織が笑った。  
 
「ティッシュここ捨てて平気? うちの人に見つからない?」  
 ベッド脇のくずかごを見つけて聞く。下手に捨てると佳織に迷惑がかかる。  
「大丈夫よ。私の部屋のくずかご、誰も見ないから」  
「そう……。佳織、ちょうだい」  
 受け取る。持った感じでも相当の量が出たことが分かるそれを、俺はくずかごに捨てた。  
 
 俺は何度か触った胸よりも、未知の場所である佳織の「その部分」を見ようと思った。  
「佳織…佳織のあそこ、触ってもいい?」  
「……うん」  
 静かにうなずく。  
 佳織の声に後押しされた俺は、佳織の目を見たままそっと足の合わせ目に手を持っていく。  
 やわらかく煙る和毛を指先が感じた。  
 そのまま指を下に進める。だが指はそこで止まった。佳織の足に力が入っていた。  
「佳織、力抜いて」  
「う、うん」  
 抵抗がゆるむ。そろそろと、左右の太ももをかき分けるように溝に沿って指を送る。  
 ……そこは熱くぬめっていた。  
びくっ!  
 佳織が肩を震わせ、唇を噛んだ。  
 俺もそのまま動きを止めた。  
 
「佳織?」  
「あ、大丈夫……」  
「いやだったら言ってね」  
「……いやじゃないわ」  
「佳織……」  
 意を決し、指をさらに奥に潜りこませた。  
 
 粘度を感じる液体に指が包み込まれる。その中をくちゅくちゅと音を立ててかき混ぜる。  
「んっ、んんっ!」  
 俺をまっすぐに見据え、佳織が鼻にかかった声で鳴く。  
(佳織が感じている!)  
 確信した俺は、さらにひだの中で指を動かした。  
 少しずつ佳織の足が開く。それにあわせて俺の手の自由度も増した。  
 何度か溝の中で指を動かすうち、上のほうに小さな突起があるのに気付く。  
「ひゃぅっ!」  
 そこに指が触れると、佳織はひときわ高く声を上げた。  
「佳織?」  
「そこ……気持ち…いい」  
 クリトリスだ!  
 敏感が故、刺激が強すぎると苦痛を感じる。そう思い出した俺は力を弱めた。  
 一方、今は佳織が快感を訴えている。場所は間違っていない。  
 そう決意した俺はその場所を静かに、そして重点的に攻めることにした。  
 
「痛かったら言ってね」  
 佳織に声をかけ、指の腹でそっと揉んだ。  
 雑誌や木地本たちとの猥談で得た知識を総動員する。  
 円を描くようにゆっくり動かす。上下に揺する。そして軽く押し込んでみる。  
 指の側面ではさんで静かにこする。かすかな力で叩くような刺激を送る……。  
 その間も佳織の耳元で愛をささやく。息を吹きかけ、耳たぶを甘噛みする。  
「ぅんっ、ふんっ…あ……ンっ、あ……」  
 初めて聞く佳織の淫らな声!  
 たしか佳織はオナニーの経験がないって言っていた。なのにこんなに感じやすいのか?  
「佳織? 気持ちいいの? 感じたことあるの?」  
 疑問が思わず口をついた。  
「っ…あれから…小笠原くんのこと…思って…んっ、一人で……するように…なったの……」  
「!」  
 佳織はオナニーをしている! それも俺を思って!!  
「小笠原くん……好きぃ…大好きっ!」  
 俺の名前を呼びながら、佳織が胸に飛び込んでくる。  
「佳織!」  
「うん……」  
 唇が重なる。舌を吸いあい、唾液をすすりあう。俺たちは激しく求めあった。  
 佳織はすでに性の満足を知っていると知った俺は、キスをしながらより強くクリを攻めた。  
 
 少し強めにクリを揉みこむ。爪で引っかくようにこする。指先で弾くように何度か叩く。  
 指先でつまむと引っ張るように動かす。ぐっと力を入れて皮膚の中に押し込む……。  
 唇をふさがれ、それでものどの奥から快楽の声を響かせて佳織が悶える。  
(感じている。佳織が感じている!)  
 秘唇は濡れたいやらしい音を立て続ける。その分泌液でさらにクリをくじった。  
 呼吸が苦しくなったのか、佳織が俺から唇を離すと大きく息を吸う。そのまま嬌声を上げる。  
「いや…だめ! おかしくなっちゃう! 小笠原くん、小笠原くん……うぅっ! あぁっ!」  
 佳織の絶頂が近いと感じ取った俺はクリを回し揉みながら、えぐるように強く押し込んだ。  
「ひゃぅうっ!」  
 佳織の身体が突っ張る。……俺の胸に顔をうずめたまま、佳織がイッた。  
 
「はぁはぁはぁ……」  
 まだ息の荒い佳織を抱きながら髪をなでる。  
 しばらくそうしていると、呼吸を整えた佳織が俺の胸から顔を上げ、  
「えっちな子だって思わないでね」  
 赤い顔で言った。  
「どうして? そんなこと思うわけないでしょ?」  
「………」  
「ひとりエッチ? そんなの誰だってしてることだよ。もちろん俺だって佳織のこと思って毎日してる」  
「………」  
「それより、佳織が俺のこと思ってくれてるってことのほうが嬉しい。幸せだよ、俺。」  
「……ほんとに?」  
「うん!」  
「えっちな子だってわかって、嫌われたらどうしようって思った……」  
「佳織の本当の姿を教えてもらって、むしろ感謝してるぐらいだよ」  
「もう!」  
 そう言うと佳織はこぶしを丸めて俺を叩くまねをした。  
 その佳織の腕を取り自分のほうに引き寄せると、そのまま抱きしめる。  
「あはははは」  
「うふふふふ」  
 抱き合いながら俺たちは笑った。  
 
 佳織の痴態を見ていた俺の股間はすっかり硬度を取り戻していた。  
 お腹に当たる感触でそれを知った佳織が  
「小笠原くんのものになるのね」  
 勃起を見ながら静かな口調で言った。  
「うん。佳織を俺の……俺だけのものにする」  
 その言葉に、俺の目を見て  
「うん」  
 と佳織がうなずいた。  
 
 俺は立ち上がると財布からコンドームを取り出した。  
 いつか佳織とこうなるときのため、事前に買い求めておいたものだ。  
 着ける練習もすでに何度もしてある。今日その成果が試されるんだ……。  
 
「小笠原くん……ありがとう」  
 俺の持っているものに気付いた佳織が言った。  
「まだ俺たちに子供は早いもんな」  
「……うん」  
「いつか……俺の子供、産んでほしい」  
「!」  
「……ダメ、かな?」  
「私で……いいの?」  
「私『で』じゃない。佳織『が』いいんだ。佳織でなくちゃダメなんだ」  
「……ありがとう。いつか…私たちの子供……産むわ」  
 
 佳織の目の前でコンドームを着ける。  
 あれだけ練習したはずなのに、いざ佳織に見られると手が震えた。……緊張していた。  
 
 すんなりとはいかなかったが、勃起に正しく装着できた。いよいよ佳織と……。  
「佳織」  
 名前を呼んで抱きしめ、そのまま横になる。  
 もう一度、今度は插入のために佳織の秘裂に手を伸ばす。  
 さっきはクリを攻めることにだけ集中し、膣にまで手が回らなかった。  
 どこに入れればいいのか。それを確かめるため、俺は佳織の股間に顔を寄せた。  
 
 ひくひくとうごめき、粘り気のある液体にまみれた佳織の女の部分。  
 そこからはなんともいえない芳しい香りが漂っていた。  
 オスの本能を刺激する香り。淫らな気持ちを高める香り。射精を引き起こしそうな香り……。  
 ぼってりとした肉のひだの間に膣口を見つける。  
(ここだ。ここに入れるんだ!)  
 佳織と結ばれるため、俺は佳織の股間にひざをついた。  
 
 怒張の極限にある肉棒を握りしめると佳織に告げる。  
「いくよ」  
 佳織が静かにうなずく。ついに俺たちは一つになるんだ。  
 俺は佳織の腰をひきつけると秘裂にこわばりをあてがった。  
 陰唇の溝に肉棒をなすりつけ、吐液をまぶす。そして熱い肉茎を静かに押し込んだ。  
「ぁあう!」  
 佳織の悲痛な叫びが響く。  
 処女の本能か、腰を必死に引き、俺から逃げようと体をずり上げる。  
 たぎる欲望で獣と化した俺は佳織を押さえつけると、そのままえぐるように剛棒を押し入れた。  
「ひぐっ! 小笠原…くん……。ぅあぁ!」  
 佳織の表情がゆがみ、閉じたまぶたからは涙がこぼれ落ちる。  
 叫びながら俺の体を押しのけようと両腕を突っ張る。  
 
「痛いっ! 痛いよっ! 裂けちゃうっ!」  
 佳織の声や態度に俺の中の獣性が霧散した。  
「佳織! 大丈夫? 抜くからね!」  
「いい、続けて!」  
「でも……」  
「小笠原くんが好きなの! だから大丈夫!」  
「佳織……」  
「小笠原くんの赤ちゃん産むときはもっと痛いと思う。だから平気よ……」  
 佳織は俺との将来まで見据えて今日のことを決意したんだ。……胸が熱くなった。  
 自然と涙が出てきた。涙でかすむ瞳で佳織を抱きしめ、そっとキスをした。  
「小笠原くん……泣いてるの?」  
「……ありがとう。俺……すごく嬉しいんだ、俺……」  
 俺の頭に佳織の手が添えられたのが分かった。そして優しく撫でられる。  
 佳織の顔を見る。その笑顔は慈愛に満ちた女神のようだった。  
「私も……私も嬉しいわ。小笠原くん、動いて……」  
「うん」  
 
 俺は佳織に痛みを与えないよう、注意して腰を前後させる。  
「くっ……」  
 佳織の食いしばった歯から苦痛をこらえる響きが漏れる。  
 痛いんだ。小柄な佳織の、しかも処女の膣は決して大きくない。痛くないわけはないんだ。  
 だが俺のために、俺だけのために激痛に耐えてくれている佳織。  
 
「佳織、見てごらん。俺たち一つになってるよ」  
 佳織の頭の後ろに手を添えて少し持ち上げ、二人がつながっている場所を見せる。  
「恥ずかしい……」  
「俺、佳織と本当に愛し合えた……うれしい、うれしいよ佳織」  
「……うん」  
 苦悶に似た声で佳織が答える。  
「佳織、佳織はもう俺のものだ!」  
 佳織を一生大切にする。俺が守る!  
 
 佳織の処女をもらえた喜び。初めてのセックスの興奮。愛する佳織と抱き合う幸せ。  
 それらが渾然となり、あまりにも早く俺は高まっていった。  
 ……そして限界が訪れた。  
「イク、イクよ佳織っ………うっっっ!!」  
 佳織の中で登りつめる。  
どびゅっ! どぷっ! どぴゅっ! ずびゅっ! びゅびゅぅぅ!………  
 熱い塊が尿道を走り抜ける。そのたびに快感で目の前が真っ白になる。  
「うっ! 佳織っ! うぅっ!」  
 うめき声を上げながら俺は何度も精液を射出した。  
 
 夢にまで見た佳織とのセックスは大きな満足とともに終わった。だが佳織は……。  
 コンドームが外れないように佳織から抜くため、二人の結合部を見る。  
 血がにじんでいたが、大きな傷はないように見えた。  
「佳織、平気? 痛くない?」  
「ヒリヒリするけど、平気よ」  
「ほんとに?」  
「最初だから痛いのは当たり前だわ。……小笠原くんは痛くない?」  
「うん。俺は……気持ちよかった……ごめん」  
「小笠原くんが気持ちいいなら私は幸せよ」  
 そう言うと佳織は俺にキスをした。  
 
 初めての証をティッシュで拭うと並んで横になる。抱き合い、キスを交わす。  
 いとおしい佳織を胸に抱き、ぬくもりを感じているうちに股間が熱を帯びていくのが感じられた。  
「また…勃っちゃった……」  
 下腹部に当たる感触に、佳織も赤い顔でうなずく。  
「佳織、またしてもいい?」  
「そんなこと言わないで……」  
「ごめん、やっぱり痛かったよね? ……俺、我慢するね」  
「もう!」  
 佳織が俺にしがみついてきた。  
「小笠原くんの好きにしていいのよ……」  
 真っ赤な顔でそう言う佳織。そしてそのまま唇が合わさった。  
 

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