その日、勇太は朝から何か落ち着きがなかった。まるで瞳美のことを避けるかのように、三年の教室や図書館へ足を運ばないようにしていた。  
 しかし、下校時。  
 校門の前で、彼が憧れ、そして恋して止まない人の姿を見つけてしまった。  
「あっ、森崎くん」  
「あ、あ、有森さん」  
 頬を染めながら声をかけてくる瞳美に、勇太は裏返った声で返事をするのが精一杯だった。  
「い、今、お帰りですか?」  
「ええ。あなたを待っていたの。一緒に帰りましょう」  
「え、ええ、よろこんで」  
 ダラダラと汗を流しながら、勇太は瞳美に応えた。  
 いつもと同じ帰り道。いつものように二人で歩く。  
 そしていつもの分かれ道。  
「あ、あの、有森、さん」  
「なぁに?」  
「あの、その、」  
「るりちゃんから……聞いているわよね?」  
「は、はいっ」  
「よろしくお願いするわね」  
 僅かに頬を染め、しかし視線を反らす事なくにっこりと微笑んで、瞳美は勇太の退路を絶った。  
 
「おじゃまします」  
「ええ、どうぞ」  
 最初彼女をリビングに通そうとした勇太であったが、しかし瞳美は彼の部屋を見たいと告げた。いや、部屋を見るというのは目的ではない。昨日るりから与えられた『ご褒美』のためというのは明白であった。  
「で、で、でも、本当に、い、いいんですか?」  
「さっきも言ったでしょ?」  
 うっすらと頬を染め、熱い視線を向ける瞳美。  
「あなたにお願いするの。あなたにお願いしたいの。……あなただから」  
「……はい」  
 こうなれば覚悟を決めるしかない、勇太はそう思った。もっとも、校門の前で逃げ出さなかった時点で、あるいは昨日るりの要求にこたえた時点で彼の運命は決まっていたのであるが。  
「そ、その、有森さんも、あの水着を?」  
 瞳美を部屋に通し、よく冷えた麦茶を出した勇太がそう切り出す。  
「ええ。今年の流行なんですって。るりちゃんが選んだのよ」  
 何もそこまで付き合わなくてもよかろうにと思い、勇太は頭がくらくらするのを感じた。  
 昨日るりが着ていたあの小さな小さな水着。あんな破廉恥なものをこの楚々とした佳人が身に付けるのかと思うと、それだけで体温が2、3度上昇してしまう。  
「見てみる?」  
「え?」  
「ふふ、見てみないと、綺麗にできないでしょう?」  
 そう囁き、瞳美は立ち上がった。  
 
「……」  
「……」  
 真っ赤な顔をした瞳美が、スカートの裾を摘んでそろそろと持ち上げる。かつて学校で、彼女のスカートが風にまくれたところを見た事があったことを思い出しながら、勇太はごくりと生唾を飲み込んだ。  
 やがて、真っ白な太股の付け根まで、完全に露になった。  
「……あ……」  
 小さな……小さな水着。るりが身に付けていたものとおそろいのそれは、しかし対照的に黒く、それゆえに瞳美の白い肌にこれ以上ないほどよく似合っていた。  
 そして、やはりというか、るりの時と同じように、隠すべき物が隠しきれずにはみ出してしまっていた。  
「私って、るりちゃんより濃いみたいなの。だから……ね?」  
「は、はい……」  
 スカートを摘んでいた手を離し、そのまま水着に手をかける瞳美。一瞬躊躇った後、思いきり良くそれを脱いでしまう。その態度が、彼女にしても一大決心の上での行為なのだと勇太に理解させた。  
(ル、ルリ姉の仕掛けた手の込んだ悪戯なのかもしれないけど、す、据膳……)  
 勇太が、昨日ルリのそこを手入れした後で片づけ忘れていた安全剃刀と鋏を手にした時には、瞳美はベッドの上に腰掛けて彼を待っていた。  
 さすがに堂々と脚を開く事はできないのか、真っ赤になって視線も反らしてしまう。  
「も、森崎くん」  
「は、はい」  
「おねがい……」  
「……わかりました」  
 
 自ら脚を開けない瞳美。そんな彼女の両膝をそっと掴む勇太。  
「……いいですか?」  
「ええ……」  
 ごくりと生唾を飲み込んだのはどちらであろうか。そして、勇太の手が瞳美を、瞳美の脚を割り開く。  
「ああ……」  
「……」  
 恥ずかしさのあまりに目を閉じてしまう者。  
 そして、目の前に拡がる光景に視線を奪われる者。  
「あんまり……見ないで……」  
「……とても……綺麗……です」  
 そして、勇太は瞳美の前に膝をつく。すぐ目と鼻の先に、恋しい人の全てが露になっている。このまま貪ってしまいたいという衝動を必死に抑え込んで、彼は剃刀を手に取った。  
「い、いきます、よ」  
「ええ」  
 二人とも声が震えている。おずおずと伸ばされた勇太の左手が太股に触れた瞬間、瞳美が身を堅くする。  
「あ、あぶないから、動かないで、ください」  
「え、ええ……」  
 珠のような肌を傷つけたりしないよう、細心の注意を払いながら剃刀を当てる勇太。ゆっくりと刃が滑り、瞳美のヘアが剃り上げられる。  
 
「……」  
「……」  
 無言のままの二人。  
 瞳美は、恥ずかしさのあまり瞼をきつく閉じてはいるのだが、それゆえに鋭敏になってしまった感覚は、勇太の視線がどこに注がれているかを感じてしまう。  
 刃で触れての一撫でごとに、瞳美のそこが脱がされてゆく。一枚、また一枚と薄衣をはぎ取るかのような行為で、自分が脱がされてゆく。そして、露になった肌を確かめるかのように注がれる熱い視線。  
(ああ……)  
 羞恥が、瞳美の鼓動を高める。  
 そして、勇太の鼓動もまた、これ以上無いほどに高ぶっていた。実の姉であるるりとは違う異性。憧れの対象であり、恋焦がれる相手である瞳美の……。そう思うだけで、そこを見ているだけで、ズボンの中のものが弾けてしまいそうだった。  
(だめだ、絶対にだめだ……)  
 ともすれば野獣になってしまいそうな自分自身を必死で抑えながら剃毛を続ける。  
 瞳美のそこは、昨日のるり同様に綺麗な逆三角形型に整えられ、残すは、その下の部分だけであった。  
「こ、こっちも、剃ります、から」  
「……ああっ!」  
 勇太の左手が、瞳美の大陰唇を確かめるかのように撫でる。その瞬間、羞恥のためか、あるいは快楽のためか瞳美がびくんと跳ねる。勇太の指先が、溢れ出した蜜に濡れた事は、二人とも口にする事ができなかった。  
 
「あ……ああ……」  
「…………」  
 それは、当事者二人ともにとって甘美な拷問であった。  
 勇太は、指先に触れる肌の感触、そして左手で引っ張る事によって開く花園、その美しい花弁と、立ち上るオンナの匂いの誘惑に耐える事が。  
 一方の瞳美は、その部分を見られ、触られる羞恥と快楽に耐える事が、これ以上ないほどの責め苦であった。  
 コップに注がれた水が溢れんばかりになり、表面張力でぎりぎり零れずに済んでいるようなそんな感覚。何か一言口にすれば壊れてしまいそうな緊張感の中、いっそ厳かと言えるほどの調子で『儀式』が執り行われてゆく。  
 そして、勇太の手にした鋏がトリミングを終え、仕上げにそこをティッシュで拭って……『ご褒美』は終わりの筈であった。  
 だが、二人とも動けずにいた。  
 勇太は、瞳美の太股を掴んで大きく広げたまま、その中心に見取れて心を奪われていた。  
 瞳美はと言えば、羞恥に真っ赤になりながらも、その部分を手で覆い隠そうともしなかった。  
「有森……さん」  
「……なあに……?」  
「ごめん……なさい……僕……もう、もう、我慢……できない……」  
「……ええ……いいわ……」  
 その言葉に、勇太の心臓が跳ね上がった。  
 
「あなたが……欲しいのなら……奪って……私が、あなたのものだという証を、刻みつけて……」  
「あ、あ、ああああ!」  
 勇太は、瞳美のそこにむしゃぶりついた。恋しい人の大切な所に唇を押し付け、舌を這わせ、その味と匂いを貪った。  
「ああんっ!」  
 既にこれまでの羞恥責めで濡れきったところにしゃぶりつかれ、瞳美が甘い声を上げる。稚拙な愛撫も、しかし今の彼女にとっては最高の快楽であった。  
「あっ、あ、ああんっ」  
 勇太の手が花園を広げ、こんこんと蜜を溢れさせるその中心に舌が潜り込む。生まれて初めて味わう淫蜜の味と匂い。それが彼の獣欲に火をつけ、さらなる行為へと駆り立てる。舐め、しゃぶり、啜り、吸い付く。そのたびに甘美な歌声が響き、それもまた勇太の劣情を煽る。  
『女の子の、一番気持ちいい場所なんだから……覚えときなさい』  
 るりの言葉を思い出す。彼の鼻先に当たっている突起。るりに比べて幾分大きなそれは、充血しきってピンク色になっていた。  
 かわいらしい雌蘂を包む薄皮をそっと剥きあげる。  
「あああああっ!」  
 強過ぎる刺激に、反射的に脚を閉じようとする瞳美。だが勇太はそれを許さず、彼女のそこに吸い付き、強く吸い上げた。  
「きゃああああああーーーーっ!!」  
 勇太の頭を挟み込む太股が、まるで万力のような力で締めつけられる。制服に包まれた肢体がびくっ、びくっ、と痙攣し、やがてがっくりと崩れ落ちた。勇太は理解した。瞳美がイッたのだと。自分が、彼女をイかせたのだと。  
 
 勇太は、腰に手を回すとベルトを緩め、制服のズボンを脱いでしまう。  
 そして下着も脱ぎ去ると、堅くそそり勃ったモノを手で抑えるようにしながら、瞳美の上に覆い被さった。  
「ああ……」  
 重なる身体と身体。絶頂の余韻から抜けきっていない瞳美は、敏感になった全身で勇太を感じてしまう。擦れ合う肌と肌、制服ごしでさえも、それは甘美なものであった。  
 まして、じんじんと痺れたように疼くその中心に、熱い熱い切っ先を感じたとあっては。  
「……有森さん……」  
「ええ……いいわ……でもその前に……」  
「え……?」  
「キスして」  
「え?」  
「ロストバージンよりも、キスの方が後だなんて、なんだか可笑しいわ」  
「そ、そう、ですね」  
 欲望のままに彼女を貪ろうとした自分を恥じながら、勇太は腕で唇をぬぐうと、瞳美の唇を奪った。  
 だた唇を合わせているだけのキス。しかしそれは、勇太のに落ち着きを取り戻させ、そして瞳美への想いを何倍にも高めていった。だから、荒々しく奪うようにではなく、優しく、そっと、舌を差し出す事ができた。  
 そして、瞳美もまた、うっとりと瞼を閉じたまま、彼を優しく迎える事ができた。  
 絡み合う舌と舌。交じり合う滴が、互いの喉を潤してゆく。  
 ただ、ただ、愛しくて。  
 だから、勇太は、手探りで狙いを定め、瞳美もそれに応じて、そして二人は一つになれた。  
 
 溢れ出した蜜のせいで滑りがよかったのか、それは驚くほどするりと侵入を果たした。先端が熱いぬめりにつつまれたことを感じた勇太は、そのまま一思いに腰を突き入れた。  
「!!」  
 声を上げまいと歯を食いしばる瞳美。  
 勇太にもそれはわかっていた。  
 だが、以前悪友に借りて読んだ本のなかでは、ここで止めると却って苦しみを引き伸ばすだけだとか何とか書いてあった。それが本当かどうかわからないけれど、今の彼にはそうするしかなかった。心の中で瞳美に詫びつつ、己自身を、根元まで突き込んだ。  
「ああああっ!!」  
 背中に回された腕に力が入り、制服の上から爪が食い込む。やがてその指先から力が抜け、弱々しく抱きしめるだけとなった。  
「……」  
「……」  
 しばらくの間、二人とも身じろぎ一つ出来なかった。  
「……勇太くん……」  
「!! はい、ひ、瞳美……さん」  
「あなたが、いるのね」  
「……はい」  
「……嬉しい……」  
 ぎゅっ、と勇太を抱きしめる瞳美。その目じりには、僅かに涙が浮かんでいる。  
「……もう、いいわ」  
「え?」  
 
「あなたの、好きに、動いて……私は、もう大丈夫だから」  
「でも」  
「いいの。あなたを感じさせて」  
「……はい」  
 たとえそれが苦痛であったとしても受け入れてくれるという瞳美に、勇太は従う事に決めた。彼女の願い通りに、己の全てをもって、彼女を貪る決意をした。  
 突き入れたままの腰を二、三度ゆさぶってから、ゆっくりと前後させる。  
「あ……!」  
 まだ多少痛むのであろう、瞳美が声を漏らす。だがそのまま、抜けない事を確かめるかのような前後運動を続ける。たっぷりと湛えられた蜜が滑りをよくしてくれたおかげで、思ったよりは楽に動かす事ができる。  
 だが、トロリと融けた柔らかな肉洞は、内側に複雑な凹凸が幾重にも重なり、前後に出し入れするだけでこれ以上ないほどの快楽を勇太に与えてくれる。そして、彼のモノを食いちぎらんばかりの締めつけが、彼の欲望の全てを絞り取ろうとする。  
(すごい……っ)  
 一突き、一突きごとに増してゆく快楽。愛しい人が与えてくれる悦びに融けてしまいそうになる。  
「ああ……ひとみ……ひとみ、さん……」  
「気持ち、いいの……?」  
「は、はい……ぼく……もう……ああ……」  
 
 そんな勇太の唇を奪い、言葉を遮る瞳美。  
 互いの性器が一つになっている上に、こうして唇で、舌で絡み合い、勇太は身も心も融けてしまうと思った。このまま、融けて一つになってしまいたいと思った。  
「いいわ……きて……あなたのすべてを……ちょうだい……」  
「はい……ああ……」  
 再開される前後運動。  
 下手くそだった腰の動きは、慣れてきたのか次第にリズミカルなものへと変わってゆく。瞳美も、苦痛のピークは去ったのであろう。優しく、勇太の全てを受け入れるかのように脚を開き、彼の欲しいままに全てを差し出している。  
「ひとみ……ひとみ……」  
「ああ……あなた……」  
 何度も求め合い、重なる唇。ギシギシと軋むベッド。  
 激しく出し入れされる肉柱。  
 開ききった花弁から滴る淫蜜。  
 そして迎える限界。  
「あっ、あっ、もう、もう、ああっ」  
「いいわ、ああ、きて、きてっ」  
「あああーーーーっ!!」  
 ドクッ!!  
 一際強く、深く打ち込まれた肉楔、その先端が弾けて、熱い熱い濁流を解き放った。  
 ビン、とのけ反った勇太が、やがて力なくくずおれる。瞳美は、そんな彼の頬に手を当てて愛しげに撫でると、もう一度唇を重ねた。  
 
 
「……転校……するんですか……?」  
「……ええ……」  
 しばし抱き合ったままでいた二人であったが、勇太が理性を取り戻したところで、瞳美がその話題を切り出した。  
 今回、こんな性急な形で彼を求めた理由は、自分が彼の物だと言う証が欲しかったからだと。  
「……ルリ姉に何か吹き込まれたでしょう?」  
「……ええ……」  
 まったく、とむくれる勇太。  
「でも、るりちゃんには感謝しているわ。こうして、あなたが私を求めてくれた……」  
「……」  
 瞳美は、勇太をもう一度抱き寄せて、そして二人はまた唇を重ねた。  
 
 
 終  
 
 
 
 
 

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