森下さんの子供のころのつらい思い出、サイレンを聞くと出てくる涙のわけを知ったのは最近だ。
高林に聞くと、あいつは『茜ちゃんに聞け』とだけ言い詳細を教えてくれなかった。
小さな胸の奥にずっとしまってきた秘密。俺に心を開き、それを教えてくれた森下さん。
俺はいま森下さんと付き合っている。
森下さんを『茜ちゃん』と呼ぶのは高林だけだ。俺も『茜ちゃん』と呼べるほど親しくなりたい。
同時に『雅人くん』と呼んでもらいたいとも思う。森下さんが名前で呼ぶのも高林だけだ。
俺たちの間にそういう空気はある。だがお互い恥ずかしいのか、なかなか思い切れなかった。
今日もいつものように一緒に下校する。
昇降口まで来たとき、白衣姿の高林が森下さんを呼び止めた。
「茜ちゃん、この間言ってた観望会だけど、茜ちゃんの参加も許可されたよ」
「勇次くんホント? 私も参加していいの?」
「茜ちゃんは科学部員じゃないけど、入部希望者ってことにしておいたからね」
「うれしい! 勇次くんありがとう!」
森下さんは本当にうれしそうだった。
こんな笑顔、俺もめったに見たことがない。だがなぜか高林には嫉妬心がまったく沸かない。
「勇次くん、もう一人誘ってもいい?」
少し遠慮がちに森下さんが言う。
「そう思って、ちゃんと小笠原くんの件も話してある。二人とも大丈夫だよ」
わかっている。そう言わんばかりに高林が即答した。
森下さんは俺の顔を見るとにっこりとした。そして高林に
「ありがとう勇次くん!」
そう言って手を握った。……いいなぁ高林。俺も森下さんと手をつなぎたいよ……。
「おい高林、それ俺が行ってもいいものなのか? そもそも『かんぼうかい』ってなんだ?」
二人が何を話しているのかが理解できず呆然としていた俺は高林に聞いた。
「観る望む会って書くんだけど、簡単に言うと天体観測だよ」
「へぇ〜、科学部って天体観測もやるんだ」
「うちの学校は天文部とか生物部とかないだろ? 科学部が理科全般を扱ってるんだよ」
高林の話では夏休み中に学校に一泊して天体観測をするのだという。
夏の代表的な星座である狼座やアンタレスといった星を見るのだそうだ。
他にもいろいろな星座や星の名前を聞いたが、細かいことは忘れてしまった。
この観望会はクラブ活動の扱いなのだが、顧問も同席せず生徒だけで執り行われるらしい。
すべては先輩たちが築き上げた信頼と、高林たちの真摯な活動の賜物だろう。
実際、毎年何らかの観測データや実験レポートが学園祭で発表されていると聞く。
学校側も高林たち科学部を絶対的に信用しているからこその特例措置ということだった。
俺と森下さんはその集まりに参加させてもらえることになった。
夏休みまであと約二週間。
夏休みには森下さんと海水浴やフリーマーケット、科学博物館などでデートすることにしていた。
そのうちのひとつとして二人で学校で星を見ることも決まった。
二人っきりにはなれないだろうが、それでも俺たちに不満はなかった。
早く夏休みにならないかなぁ……。
一学期もそろそろ終わるというある日。
「小笠原くん」
俺は後ろから誰かに呼び止められた。
「おぉ高林か。……今日は白衣じゃないのか?」
「科学部がないときは制服だよ。それより聞きたいことがあるんだ」
「なんだ?」
「君は波多野さんと仲がいいよな」
「……お前はあれが仲がいいように見えるのか?」
ケンカするほど仲がいいとはよく言うし、実際波多野は嫌いではないがそれだけだ。
「? どういう意味だい? それより僕、波多野さんと友達になりたいんだ」
「なればいいじゃないか。あいつ、誰とでも気軽に友達になるぞ」
「僕が言いたいのはそういうことじゃないんだ。……その、交際したいんだ」
「は?」
高林、お前は勇者だ。マニアだ。漢だ。それはお前の趣味である動物の生態調査か?
そんな言葉が出かかったが、直前で飲み込む。
「どうだろう、君から口利いてもらえないかな?」
「……なあ高林」
しばしの沈黙のあと言葉を継ぐ。
「なんだい」
「たとえばさぁ、誰かが森下さんと付き合いたいから仲を取り持ってくれって言ってきたとする」
「いま君たちは付き合ってるだろ? 理由を話して断るよ」
「そうじゃないとして、まだ森下さんが誰とも付き合ってなかったとしてだ」
「ああ、だとしたらすぐにでも茜ちゃんに話を通すかな」
「なに!?」
「茜ちゃんが誰と付き合うか、それは彼女が決めることだからね」
「お前それでいいのか? そういうものなのか?」
俺としては『直接自分で言え』という答えを期待したのだが、高林はそう考えなかったようだ。
「? どうしてだい? もっとも、ちょっと前の茜ちゃんなら誰とも付き合わなかったと思うけど……」
「そりゃあ俺もあの話を聞くまではどうして誰とも付き合わないか不思議だったしな」
今の俺は森下さんの心の傷を埋めることができた唯一の男だった。
もっとも、そこまでの関係は一朝一夕に築けたわけではないのだが。
……と、そうじゃない。いまは高林の話だ。
「なぁ、人に頼むより自分でやった方がいいと思うぞ」
「……うん」
「もし俺が『高林が波多野に告白したらしいぞ』って言いふらしたらどうする?」
「君がそんなことをしない人間だってことはよくわかってるつもりだよ」
「……いや、そうじゃなくて」
どうも話がかみ合わない。
「お前と森下さん、付き合ってるんじゃないかってみんな言ってたけどな」
実際、俺も木地本も『森下さんの本命は高林だ』と一時期は本気で信じていた。
「僕と茜ちゃんは兄弟みたいなもんだよ。君だって妹さんに恋愛感情は持ってないだろ?」
「ま、まあな。時々は女っぽいとか色っぽいとは思うけど、女として好きってわけじゃないし」
「茜ちゃんは僕にとって妹みたいなものさ」
「……お前、この学校の男のほとんどを敵に回すぞ」
「いま敵に回してるのは君だろ?」
……高林、冷静なツッコミありがとう。
やぶ蛇だ、と微妙にへこんだ俺の態度に気付かずに高林が続ける。
「そんなことより波多野さんなんだけど、彼女は付き合ってる人っているのかな?」
「いないはずだぞ。かすみもそんなこと言ってなかったしな」
そもそも波多野を女として見てるのはお前だけだ高林。
「波多野さん、誰か好きな人でもいるのかなぁ?」
「……さあ? いないんじゃないか?」
「そうか……。小笠原くんありがとう。悪かったね呼び止めて」
「いや、それはかまわないけど……」
「そうだね、やっぱり自分で言わないとね。とにかく一度波多野さんと話してみるよ。それじゃ」
「あ、ああ、がんばれよ………」
そうか、あいつ波多野が好きなのか。
(がんばれよ、高林!)
俺は心の中で声援を送った。
夏休みに入る。
暑い日が続いた。俺は何度か森下さんと会い、デートをしたり小学生とバスケをしたりした。
一緒に海に行ったときは森下さんの真っ赤なビキニにドキドキした。
フリーマーケットに行ったときは星のペンダントを贈った。
教会の前で結婚式を見たときは森下さんがうっとりと花嫁さんを見ていたのを覚えている。
科学博物館ではいっしょに月の石を見たっけ。
俺たちはいろんな思い出をたくさん作っていった。
そんなデートの中で、俺は森下さんと手をつなぐようになった。
最初は意識していた俺たちだが、いつのまにか手をつないでいるのが普通になった。
少しだけ二人の関係が進展したのを俺は感じた。
そうして迎えた観望会の日。
当日は朝から蒸し暑かったが、夕刻を過ぎる頃になると風が涼しくなった。
台風の接近による気圧の変化がどうとか高林が解説してくれたが、俺にはよくわからなかった。
ただ、風があるせいで雲が吹き飛ばされ、星空を観察するには絶好の天気だという。
今日集まったのは1年生から3年生まで11人。男7、女4という構成だ。
森下さんは星についての知識はあるし、他の部員もそれなりに詳しかった。
つまりまったくの初心者は俺だけということになる。
他のメンバーはただ観測するだけではなく、データを集めたり写真を撮ったりの作業がある。
漫然と星を眺めてロマンチックな思いに浸れるのは俺と森下さんだけだった。
俺たちは高林に断り、他のメンバーの邪魔にならない場所へ移動した。
満天の星空。
決して都会とは呼べない青葉台の空は、まさに降るようなという形容がしっくり来る星空だった。
一面の星、星、星……。
屋上ということもあるのだろうが、どこを見ても星しか見えない。
そんな世界が俺たちの前に広がる。
俺たちは手近なところに腰を下ろし、空を見上げた。
「青葉台にずっと住んでるけど、こんなに星が多いなんて知らなかったよ……」
あまり夜空を見上げたことのない俺には信じられない光景だった。
「綺麗よね。……なんか見てるだけで吸い込まれそう……」
隣で森下さんも息を飲んで空に見入っている。
あまりの多さに星の中に一人で放り出されたような錯覚に陥る。
いいようのない不安感にさいなまれた俺は森下さんの手を握った。森下さんも強く握り返す。
そのまま森下さんを引き寄せ肩を抱く。ポニーテールが揺れ、森下さんの髪が甘く香った。
「……茜ちゃん」
自然にそう呼んでいた。
「小笠原くん……」
俺たちは肩を寄せ合い、一面の星の中で二人の息遣いだけを感じていた。
「茜ちゃん」
名前を呼んで茜ちゃんを見る。
「小笠原くん」
茜ちゃんと見つめ合う。
地上の明かりはほとんどない。新月の光も地上を照らしてはいない。
かすかに表情が読み取れる程度の暗さが俺を大胆にした。
ぎゅっ
茜ちゃんを抱きしめる。
「あ……」
突然のことに驚いたのか、茜ちゃんは声を立てたが逆らわずそのままにしている。
「好きだよ」
俺は茜ちゃんを抱く腕に力をこめ、そっと耳元でささやいた。
「……私も」
茜ちゃんが小さな声で言った。
もう一度見つめ合う。
今度はさっきよりも顔が近い。あまり顔が近すぎ、恥ずかしいほどだ。
薄着の茜ちゃんは柔らかく、いい匂いがする。
(茜ちゃんとキスしたい……)
俺の心がそれを訴える。俺はそのまま顔を近づけていった。
軽く唇が触れる。触れただけでまた離れる。
「茜ちゃんの唇、やわらかい……」
「やだ……」
恥ずかしそうな声。
「小笠原くんの唇もやわらかい。……それに熱い」
「茜ちゃんがそうさせてるんだよ」
「……キス、しちゃったね」
「……うん」
俺たちのファーストキスだった。
手を伸ばし茜ちゃんの頬を撫でる。
その手を茜ちゃんの耳元から後頭部にあてがう。親指が茜ちゃんの耳たぶに触れる。
「茜ちゃんも熱くなってるよ」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、今度は茜ちゃんから唇を寄せてきた。
唇が重なる。
ただ唇を合わせるだけのキスだが、二度目は長く続いた。
俺は舌で茜ちゃんの唇をなぞってみた。
茜ちゃんは唇に力を入れ体を震わせたが、抵抗はしなかった。
舌を戻し、また唇だけのキスをする。
すると今度はためらいがちに茜ちゃんの舌が俺の唇に触れてきた。
唇をわずかに開く。
……探るようにゆっくりと茜ちゃんの舌が中に入ってきた。
舌先が触れ合う。一瞬
ビクンッ
と身を縮こめた茜ちゃんだが、俺の首に両腕を回すと積極的に自分の方に抱き寄せてきた。
それに応え、俺も茜ちゃんの腰を抱く。
二人の舌が絡まった。
舌を強く吸う。
「んっ……っ!…んん……」
茜ちゃんが苦しそうな声になる。
「そんなに強く吸うと……痛い」
顔を離すと茜ちゃんが言った。
「ごめん、経験なくて加減がわからなかった」
「ううん。私も初めてだから……」
「茜ちゃん、またキスしよ」
「……うん」
恥ずかしそうに茜ちゃんがうなずいた。
唇の横。下唇とあごの間。のど。チュッと音を立てるような軽いキスをいろいろな場所に降らせる。
茜ちゃんがいとおしくてたまらない。茜ちゃんに唇を押し当てるのがうれしくてたまらない。
首筋。耳たぶ。頬。鼻の頭。まぶた。額。そのまま何ヶ所も口づけていく。
「くぅ…んッ……ふん、んん……」
茜ちゃんは俺に抱きつき、のどを鳴らして小さな声であえぐ。
さらさらした洗いたての前髪から、シャンプーなのか甘い匂いがする。
官能的な気分に満たされた俺は茜ちゃんの唇を再び求めた。
下唇を唇ではさむようにしごく。少しだけ強く噛んでみる。
同時に耳のあたりの髪を指先に取り、手触りを味わう。
ゆっくりゆっくりと舌先を茜ちゃんの唇でうごめかす。その舌を押し込むように挿入する。
歯に沿って舌を動かす。唇の裏側を舐め、唾液をすする。
力が抜け、かすかに開いた歯から舌をもぐりこませると歯の裏に当てる。
歯の裏や舌の裏を力を入れた舌先でなぶるように蹂躙する。
「んっ…んっん……んんっ……」
唇をふさがれた茜ちゃんが声にならない声を出して悶える。
茜ちゃんの腰のあたりを抱きながら俺は何度も茜ちゃんを攻めた。
唇が離れる。
「小笠原くん、なんでこんなにキスうまいの?」
荒く息をつきながら茜ちゃんが聞く。
「雑誌で見たやり方を必死に思い出してるんだ」
「そう、なの?」
少しだけ疑っている感じの茜ちゃんの声。
「俺、そんなに上手かった?」
大好きな女の子を感じさせてうれしくないわけがない。喜びをにじませて聞く。
「ドキドキする。ほら」
そう言って茜ちゃんが俺の手を自分の胸に持っていった。
夏の薄手のセーラー服を通してふくよかなふくらみが手のひらに当たる。
(茜ちゃんって意外と胸が……)
俺は手のひらと指を曲線に沿って自然に曲げた。
手から少しこぼれる感じの大きさがはっきりと感じられる。
「茜ちゃん……」
茜ちゃんの胸をまさぐる。服の上からとはいえ、初めての経験に心が打ち震える。
「んんっ……」
俺に触られることで興奮するのか、茜ちゃんの声も甘い響きを帯びる。
(直接さわりたい!)
セーラー服の前を開け、パステルカラーのかわいらしいライトブルーの下着を上へとずらした。
そこは白く柔らかな双丘が小さな突起を携え、茜ちゃんの呼吸に合わせて優しく上下していた。
「きれいだ……きれいだよ茜ちゃん!」
とっさに手が伸びた。頂で尖った桜色の小さな出っ張りを指先でつまむ。
「あっ! そこは…ぁっ!」
切なそうな声を漏らす茜ちゃんに欲望がたぎる。
「茜ちゃん」
少し汗ばんだ茜ちゃんの肌を俺の指が這いまわる。
豊かなふくらみを付け根からやさしく揉みあげる。
俺はふくらみに口を寄せると舌先で突起を転がし、周りを舐めるように口に含んだ。
茜ちゃんはそれに反応するが、指を口元に当てて声を出さないようにする。
茜ちゃんの胸を悪戯する。
まるく円を描くように、薄紅色の乳輪から乳首へと舌でなぞる。
乳首をほんの少しの力で軽く噛んでみる。そしてわずかな力で引っ張ってみる。
いちごグミのようだった茜ちゃんの乳首が見る見るうちに固くなっていく。
(感じている!)
本で得た知識だが、俺はそう確信した。
(もっと茜ちゃんを知りたい! もっと茜ちゃんと経験したい!)
そう思った俺は、胸に当てていた手をスカートの裾から忍ばせた。
そのまま太ももの内側を撫でるように奥へと進む。
だがその手は肝心なところにたどり着かなかった。なめらかな太ももにぎゅっとはさまれたからだ。
「こわい……」
そう言って茜ちゃんが俺の手を押しとどめる。
「茜ちゃん……」
すでに我慢できないほど俺の分身は猛り立っている。自分を抑えられる自信がない。
俺は茜ちゃんの太ももに手をはさまれたまま、彼女の頭を抱えるようにして胸に抱いた。
そして
「ずっとそばにいるから。……茜ちゃんのことだけをずっと見つづけるから」
ささやく。髪に頬ずりし、抱きしめる。
「……うん」
茜ちゃんの手が離れ、太ももから力が抜けた。
左手でうなじをなでる。右手は太ももをゆっくりさする。
すぐにでも茜ちゃんの大切な部分をさわりたかったが、我慢してそれを続ける。
俺の手が這い回るたびに茜ちゃんがわななく。俺の胸に抱かれたまま切なげな吐息を洩らす。
(茜ちゃんが感じている!)
ひざから太ももの奥近くまでを丹念に愛撫した俺は、いよいよその奥に手を滑らせた。
布地に手が触れる。
ビクンッ
茜ちゃんが跳ね上がるように身をすくませた。
……そこはすでにたっぷりと湿っていた。
そろそろと指先で湿った部分を撫でる。そしてクロッチの布地越しに中心を揉みほぐす。
そこは微妙な起伏があり、くちゅくちゅと柔らかく、俺の指に従って形を変えた。
初めての経験に陶酔しきった俺はその部分を触りつづける。
ずっと触っていると、俺の指に小さな出っ張りが捉えられた。
「んんっ!」
茜ちゃんが声を上げる。
(ここがクリトリスだ!)
そのあたりに攻めを集中させる。
布地でひだをはさんで揉んだり、クリトリスをつまんだりといった動きを続ける。
「あぁっ……んッ…んん……」
感じていることがうかがえる茜ちゃんの小さな喘ぎ声。
俺はクロッチをずらし、すき間から直接茜ちゃんの「女の部分」に触れた。
「ひゃぅ!」
息を飲むような声を上げ、茜ちゃんが硬直した。そして「はぁはぁ」と荒い息で俺にしがみつく。
たっぷりの水分を帯びたヌルヌルの熱い空間が俺の指にまとわりつく。
ぬめぬめとしたひだの感触と、コリコリした肉芽に感情が昂ぶる。
自分で欲望を処理する際、何度も夢想してきた場所をいま俺は触っている!
あまりの興奮に思わず暴発しそうになる。すでに先走りで先端はヌルヌルになっている。
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
再開して溝をなぞっているうち、少しへこんだ部分があることを指が探りあてた。
(膣だ! ここに入れるんだ!)
それを理解した途端に急速に高まる射精感! まずい、イク!
あわてて茜ちゃんから身を引く。空を見上げ、大きく息をつく。
……どうにか暴発を免れることに成功した。
急に愛撫が中断したせいか、茜ちゃんがすがるような目で俺を見ている。
「……ごめん」
茜ちゃんのえっちな部分をさわっただけでイッちゃいそうになった。
恥ずかしくてそんなことは言えない。俺は一言だけ詫びてまた茜ちゃんに身をすり寄せた。
右手は茜ちゃんの股間を進み、くぼみの奥へ。……熱いしずくが指先を伝わる。
先ほど場所だけ確認した膣に、今度は指先を静かに沈み込ませた。
「あぁっ!」
茜ちゃんがあえぐ。
「茜ちゃん……茜ちゃん……」
何度も名前を呼ぶ。
そうして乱暴にしないように、傷をつけないように注意して指をもぐりこませる。
奥の方にコリコリする肉のひだが見つかった。
その部分を摩擦すると茜ちゃんが嬌声を上げる。
(ここが気持ちいいのか?)
そこを刺激したまま、クリトリスにも指を持っていく。
中指を膣内の上壁へ、親指の腹は外側の突起の上へ。
時々指と指を絡ませ茜ちゃんの潤滑油をまぶす。
指と指で内と外から突起と肉壁をこすり合わせるように刺激する。
右手全体で強めたり弱めたり、時には膣奥へ微妙な振動を加えたりする。
「んっんっ、はぁっ! ……くぅ…っ! っっ! ……んんっ!」
茜ちゃんの息がせわしなくなり、声にならない声を上げて俺にしがみつく。
そして
「あぁっ! なんか来る、来るっ……イッちゃうぅ〜〜〜!」
押し殺したような声を出して茜ちゃんの体全体が突っ張った。
きつく目を閉じ、ビクビクと痙攣し、口を開けたままガクガクと震える。
次の瞬間、がっくりと俺に体を預けて動かなくなった。
イッた。茜ちゃんが俺の指でイッた。
俺はなんとも言えない幸福な気持ちになっていた。
茜ちゃんを抱いたまましばらくじっとしている。
そのうち、ようやく息が整いだした茜ちゃんが
「こんなになったの初めて……」
小さな声で言った。
「茜ちゃんはオナニーしたことあるの?」
茜ちゃんの耳元に口を寄せ、ささやくように聞く。
「下着の上からアソコ全体をさわるの。あと胸も」
恥ずかしそうに、それでもしっかりと答える茜ちゃん。
「イッたことは?」
「ううん。気持ちよくなってきたら、怖くなってそこでやめちゃう」
「じゃあ茜ちゃんがイッたのって俺の手が初めて?」
「……うん」
そう言うと俺の肩に頭を乗せ、そのまま目を閉じた。
イッた余韻に浸っているらしい茜ちゃん。
だが俺の欲棒は放出を求めてズボンを突き破らんばかりに屹立していた。
出したい。その思いが強くなる。
「茜ちゃん……俺もイキたい……」
「え? うん……どうすればいいの?」
まだ力が入らないのか、茜ちゃんがぼーっとした感じの声で聞く。
茜ちゃんが拒絶しなかったことが俺の意を強くした。
「出したい……」
素直に自分の想いを伝える。
「射精?」
「うん」
「いいよ、してあげる。小笠原くん、イカせてあげる……」
茜ちゃんの言葉を聞いた俺は、立ち上がるとベルトを緩め、下着ごとズボンを下ろした。
茜ちゃんの前に膨脹しきった一物をさらす。
「こんなに……大きくなるものなの?」
恐怖なのか緊張なのか、俺の顔を見上げる茜ちゃんの声に震えが混じる。
それに答えず、俺は茜ちゃんの手を取ると勃起に導いた。
俺のモノを握ったが、茜ちゃんはそのままだった。自分の手を添えて茜ちゃんの手を上下させる。
しばらく続けてから手を離すと、茜ちゃんは自分の意思で勃起をしごいてくれた。
「うっ! 気持ちいいっ!」
たどたどしい動きながら、初めて味わう感覚に自然と悦楽の声が上がる。
「小笠原くん……雅人くん、好き!」
そう言うと、茜ちゃんがいきなり俺の下半身に顔を寄せた。
「えっ?」
次の瞬間、俺の剛直は茜ちゃんの口の中に収められていた。
茜ちゃんがフェラチオしてくれている!
一気に興奮が高まる。
しかし茜ちゃんは口に咥えただけで動かない。
処女の茜ちゃんには全部を口に含んでストロークするのは苦しいのだろう。
やがて茜ちゃんは亀頭を口に含んだまま舌を絡ませた。それが信じられないほど気持ちいい。
さらなる快感を求めた俺は茜ちゃんに指示を出した。
「あぁっ、すごくいい。……裏側の段になってるところが特に感じるんだ」
茜ちゃんが俺の言うとおりに舌をうごめかす。舌だけではなく、茎にも手が添えられる。
柔らかな手に握られ性感が増す。茜ちゃんはソフトクリームを舐めるようにモノに舌を這わせる。
「そのまま口を上下に動かしてくれる?」
柔らかくて温かい唇が勃起にまとわりつく。
「これでいいの?」
淫らな顔の茜ちゃんが俺を見上げた。
「うん、そのまま袋も揉んで」
茜ちゃんの柔らかい指が俺の袋を揉む。精液をしぼり出すような揉み方だ。
すでに限界近くまで高まっていた俺が一連の口撃に耐えられるわけもなかった。
「あっ! イクっ!」
どくっ!
「むぐっ!」
最初のほとばしりをのどの奥に受け、茜ちゃんが思わず口を離す。
「けほっけほっ……」
咳込む茜ちゃんに容赦なく精液が発射される。
びゅびゅっ! どぴゅっ!……
続く二撃、三撃はそのまま顔に。
「んっ!」
いきなり起こった出来事に驚いた茜ちゃんは、すくんでしまったのかとっさには動けない。
ずびゅっ! びゅっ!……
そこに何発もの白濁が降りかかる。茜ちゃんの顔を汚して俺は最後の一滴まで出し尽くした。
俺はすべてを解き放った満足感と快感に力尽き、へなへなとその場にくず折れた。
「はぁはぁはぁ……」
荒い息をつく。
一方の茜ちゃんは何が起きたのか理解できないようで、呆然とした顔で横座りしている。
顔を伝い、あごからしたたり、胸のあたりやスカートにしみを作る粘液にまみれる茜ちゃん。
と、我に返り
「ひっ!」
息を飲む。
「ご、ごめんっ!」
急いでポケットからティッシュを取り出し茜ちゃんの顔を拭う。
「けほっけほっ……ごめんなさい。突然だから…けほっ……びっくりしちゃった」
茜ちゃんはそう言うと、俺からティッシュを受け取って口元や顔を拭く。
そして
「男の子がイクって……こういうことなのね」
実感した様子で茜ちゃんが言った。
「ほんとにごめん。出す前にちゃんと言わなきゃいけないのに」
もう一度謝る。
「ぴゅっ、ぴゅっ、って出るのね……けほっ……私、おしっこみたいに出るんだと思ってた……」
咳込みはするものの、怒っていないのか茜ちゃんは別の話題で答えた。
「う、うん。何度かに分けて出るんだ」
「知らなかったわ……けほん」
「ごめん、顔、洗わなくて平気? うがいは?」
気持ち悪くないかな? そう思って聞く。
「うん。拭いたから大丈夫よ」
「茜ちゃん……」
「ちょっと飲んじゃった。けほっ……。あ…射精すると小さくなるの?」
茜ちゃんが萎えた一物を見ながら言う。
「う、うん」
「そうなんだ……」
これも知らなかった。そう言いたげに茜ちゃんが言った。
性の満足は得た。思ってもいなかったことだが、茜ちゃんに口でしてもらえた。
だが俺の中ではまだ不完全燃焼気味の部分があった。
茜ちゃんは口でしてくれた。だが俺は茜ちゃんに口でしていない。
「茜ちゃん、俺も茜ちゃんのを口でしたい」
「え……いいわよ私は」
「俺がしたいんだ。だめ?」
「どうしても?」
「うん」
「雅人くん……恥ずかしい」
そう言ったが、茜ちゃんは結局俺の思いを受け入れてくれた。
足元に絡まって動きの邪魔になるズボンを、俺は下着ごと脱ぎすてた。
茜ちゃんを立たせると柵に寄りかからせる。
「スカート、めくるね」
断ってスカートをまくり上げる。そしてさっきまで触っていた部分に目をやる。
淡い水色の下着のクロッチの部分が濃いブルーになっていた。
「茜ちゃん、スカート押さえてて」
声をかけると茜ちゃんが恥ずかしそうにしながらもスカートをまくった状態で保持してくれた。
「脱がせるよ」
たっぷりと水分を含み、重くなったショーツに手をかけると静かに引き下ろす。
夜目にも白い下腹部があらわになる。
そのままショーツを下ろし、片足を抜く。もう片方の足からも抜き去る。
恥ずかしそうに唇を噛み、俺から目を逸らして立っている茜ちゃんの顔を見上げる。
そして俺は、今までショーツに覆われていた部分に静かに顔を寄せていった。
こもっていた熱気なのか、熱い空気が顔に感じられる。
間近で見ると、茜ちゃんの肌は小麦色と白とに区分けされていた。
スクール水着の日焼けのあと。
淫靡な感覚にとらわれた俺は、日焼けしていない白い部分との境目を舌でなぞってみた。
「ひゃっ!」
そんなことをされると思わなかったのか、不意の刺激に茜ちゃんがびっくりした声を上げる。
そのまま手を離してしまったようで、俺の頭がスカートの中に入る。一瞬で暗闇に包まれた。
だが俺は構わず、茜ちゃんが動かないように太ももを押さえ顔をこすりつけた。
そして恥丘に鼻を押し当て、思いっきり息を吸う。……茜ちゃんのオンナの匂い。
「ぃゃ……」
小さな声。だが本気で嫌がっているわけではなさそうだ。
今度は恥丘全体に口を当て、舌で舐めまわす。……しゃりしゃりした恥毛の感触。
と、太ももを押さえる手に温かい液体の感触があった。股間から垂れた愛液が腿に伝っている。
(茜ちゃんが感じている。愛液がしたたるほど濡らしている!)
口でしながら腿を抱える俺の手にそれが感じられる。
(よし、俺の愛撫は間違っていない。ここを攻めればいいんだ)
そのまま舌をずらし、クリトリスの周りで円を描くように這わせる。
指で時折中心のくぼみに触れながら恥丘を揉む。さわさわとした陰毛の感触が心地いい。
「うふぅ……くぅ…ンっ! ……あぁ……雅…人…くん……」
クリが感じるのか、茜ちゃんの声が艶を帯びる。
(茜ちゃんはオナニーはクリ派みたいなこと言ってたな)
先ほどの会話を思い出す。外陰部を中心に攻めた方がいいのか?
膣に指を入れてみる。
「あぁっ!」
茜ちゃんがのけぞる。
膣に入れた指を動かしてみる。中でかき混ぜ、振動させる。
「ひゃうぅ!」
より大きな反応で茜ちゃんの体がわなないた。
俺は両方を攻めることにした。
クリトリスを唇で押しつぶしながら舌でしずくをすくい取る。
続けてクリを唇にはさみ、筒状にすぼめた舌の先で根元をくすぐるように舐める。
茜ちゃんの匂いを感じながら、ふっくらとした恥肉のかたまりに吸い付く。
俺は中心から流れてくる粘り気のある液体を音を立ててすすった。
「くぅ……っん! んッ……」
茜ちゃんが身をくねらせて悶える。
「ぃゃ……吸わないで! 恥ずかしいぃ〜……」
自分の体から出てくる液体を俺に吸われるのが恥ずかしいようだ。
腰をガクガクと痙攣させた茜ちゃんは、立っていられなくなったのかお尻をついた。
俺はそこにのしかかるようにして股間を舐めまわす。茜ちゃんが俺に押される形で横たわった。
息苦しくなった俺はスカートから顔を出し大きく息を吸い込む。
「いっ……」
その時ゴツゴツしたコンクリの感触が不快なのか、茜ちゃんが顔をしかめたのが見えた。
が、止められない。
尖らせた舌を膣内に差し込む。
「あぁあ! んっ……はぁ…はっ……っん! んっ……雅人…くん……」
入口の付近しか舐められないが、それでも充分に快感を与えているようだ。
腰を前後に揺するように動かし茜ちゃんがよがる。クリが大きくなったのもわかった。
(茜ちゃんが感じている。イクのが近いのか?)
俺の頭に手を置き、自分の股間に押しつけるようにして茜ちゃんが体を反らす。
「だめっ! だめぇ……イクっ……イッちゃう!」
もう少しだ!
クリを舐めながら膣に入れた指でコリコリするひだを押しつぶすように強く揉んだ。
「っっっ!」
茜ちゃんの体が硬直した。足をピンと伸ばし、腰を跳ね上げるようにして動きが止まる。
「あぁ……」
そして静かな吐息とともに力が抜けた。
乱れる茜ちゃんの痴態に股間が反応していた。すでに限界近くまで張りつめている。
ここまで来たらもう最後まで行くしかない。
俺はこわばりを握ると茜ちゃんの足を開き、女の部分にこすりつけた。
「あ……」
茜ちゃんが目を開け俺を見る。
未だ朦朧とする意識の中で、しかし俺の行動の意味がわかったのかしっかりとうなずく。
「茜ちゃん」
名前を呼んでひざでにじり寄ったが、屋上のコンクリは足に痛みを与えた。
(俺でも茜ちゃんでも、下になった方はお尻が痛いかもしれない)
そう考えた俺は立ち上がる。
「茜ちゃん、立って」
茜ちゃんを立たせると後ろ向きにした。そして柵につかまらせ、お尻を突き出す恰好にさせる。
「え……」
ためらいを口にする茜ちゃん。
「好きだよ」
茜ちゃんの声を聞き流すと、俺はそう言って後ろから抱きすくめた。
スカートをまくる。
股間に手を伸ばす。
そして人差し指をそーっと奥まで挿入し、やさしく中を愛撫した。
「あぅ! ……んッ」
茜ちゃんの濡れた声が俺の官能を刺激する。
「いくよ」
指を目印がわりに中に入れたまま、指と入れ替わりに剛直を挿入していく。
「いっ!」
顔をしかめ、茜ちゃんが柵にすがりつくようにして俺から逃げる。
「大丈夫だからね」
やさしく抱き寄せて元の位置に戻す。
「雅人くぅん……」
涙声。
「うん」
安心させるようにうなずくと、俺は茜ちゃんの中に入っていった。
「ぐうっ! 雅人……くんっ!」
のどの奥から苦悶の声を出して茜ちゃんが逃げるように身をよじる。
ポニーテールを振り乱し、愛らしい顔をゆがめてうめく。
「茜ちゃん……茜ちゃん……」
名前を呼びながら剛直を押し込む。
前に逃げられない茜ちゃんの腰を抱えると、ついに俺は根元まで茜ちゃんの中に収まった。
根元まで入った時点で俺は動きを止めた。
もはや声も出さず、茜ちゃんは柵にもたれてぐったりしている。ただ息だけが荒い。
茜ちゃんの中は温かく、俺の剛直をきつくきつく締め上げた。
「茜ちゃん、動くよ」
そう言って腰を前後させる。
「うぐっ! ひっ! あぁっ!」
俺の律動に合わせるように茜ちゃんは悲痛な声を上げた。
柵につかまらせて後ろから攻める。
合意の上でのセックスなのに、茜ちゃんを無理やり犯しているような感覚にとらわれる。
もっとも、破瓜の痛みに耐える茜ちゃんからすれば犯されているのと変わらないのかもしれない。
「くっ……んんっ! ……あ…っ! ……っ!」
それでも茜ちゃんは一度も『痛い』と言わず、俺に抱かれていた。
「茜ちゃん好きだよ。愛してる……大好きだよ」
少しでも茜ちゃんの苦痛が軽減することを願い、自分の想いを言葉として伝える。
「……うん……雅人くん……好きぃ」
苦しい息の下から茜ちゃんがそれに応じる。
後ろから深々と茜ちゃんに差し入れたまま上体を重ねる。
茜ちゃんの背中から腕を回して、はだけたセーラー服の間から胸に手を伸ばした。
胸をこねるように揉む。耳元に熱い息を吹きかける。軽く耳たぶを噛む。
汗ばんで甘い匂いを発するセーラー服の首筋に顔をうずめ、キスをする。
「好きだよ、大好きだよ茜ちゃん……茜ちゃん」
何度も何度もささやく。ささやきながら少しずつ腰を振る。
何度目かに腰を打ちつけたとき、限界近くまで性感が高まるのを感じた。
だめだ、イク。
俺は茜ちゃんの腰を押さえると、最後の一突きとばかりに根元まで押し入れた。
イク!
達する一瞬前に引き抜く。茜ちゃんの背中を避け、角度を下に向ける。
「茜ちゃんっ! うっっ!」
直後、背すじから腰、さらにモノにかけて強烈な感覚が走った。
びゅっ! どぴゅっ! ずびゅっ! どくっ!………
茜ちゃんの白いお尻を見下ろしながら俺は何度も精を放った。
「うっ! ぐっ! うぅっ!」
うめき声を発し、先端から白濁を何度も吐き出す。
飛び散った精液がコンクリートの床に散る。
……俺は長い射精を終えた。
行為後の気だるい感覚の中、俺たちは後始末をし、服装を整えた。
やはり『ここが学校であること』を頭のどこかで意識していたのだと思う。
茜ちゃんを抱く。そのまま口付ける。
唇が離れたあとも俺たちは強く抱き合っていた。
「茜ちゃん、小笠原くん、どこだい?」
しばらくそのままでいると、高林が俺たちを探す声が聞こえた。
身を離す。
そして高林の声の方向に叫んだ。
「ここにいるぞ。なんだ?」
「あ、こんなところにいたんだ。お腹空かないかい? 先輩が夜食作ってくれたから食べようよ」
のんきな声で高林が言う。
さっきまでの淫靡な、そして甘い雰囲気がたちどころに消えていく。
そういえば少し腹減ったな。俺は空腹を覚えた。
「いいねぇ、ちょうど腹減ってきたところだ。で、メニューは?」
「おにぎりだけど、いいかな?」
「もちろん! 茜ちゃんも食べるだろ?」
「小笠原くん、『茜ちゃん』って呼ぶようになったんだね」
「!」
一瞬ドキリとしたが、平静を装って言う。
「お前がうらやましかったからな、真似して呼んでみた」
「小笠原くんだって七瀬さんのこと『かすみ』って呼ぶだろ? 昔から知ってる仲なら普通だよ」
「そ、そうよね。私も名前で呼ぶのは勇次くんだけだし」
「そうか? さっきは何度も『雅人くん』って呼んでくれたじゃん」
「そ、そうだった?」
動揺しきった調子で茜ちゃんが答えた。
「はははは、二人は本当に仲がいいんだね。さ、みんな待ってるから行こう」
それに気付かなかったのか、高林が笑う。
俺たちは屋上をあとにした。
校舎に入り、周囲が明るくなった。
おかげで、経験してから初めて明るいところで茜ちゃんの顔を見ることができた。
……なんとなく恥ずかしい。
茜ちゃんを見ると、同じことを考えているのか顔が見る間に赤くなっていくのがわかる。
「あ、私先に行ってるわね」
やはり恥ずかしかったのだろう。茜ちゃんはそう言うと一人で行ってしまった。
「茜ちゃーん、場所は家庭科室だよぉー」
その背中に高林が声をかけた。
俺と高林が残される。
と、
「茜ちゃんと深い関係になったみたいだね」
高林が淡々と言った。
「! ご、ごめん。俺……」
茜ちゃんと初体験したことは誰にも恥じることはないと信じている。
だがそれを高林に言われると、詫びの言葉が最初に口をついた。
しかもとぼけることも出来たのに、なぜか素直に白状してしまう。
「責めてるわけじゃないよ。茜ちゃんも子供じゃないし、彼女が自分で決めたことなんだろ?」
「……うん」
「茜ちゃんを幸せにしてやってくれよ」
そう言って高林は俺に微笑みかけた。
「高林……。誓うよ。茜ちゃんは絶対に俺が幸せにする。どんなことがあっても泣かせない!」
「はははは、君になら茜ちゃんを任せられるな。よし、次は僕の番だ。波多野さんに告白するよ」
「……お前、まだ言ってなかったのか?」
俺の問いに高林はさわやかな笑顔を向けると、そのまま清々しそうに窓から星空を仰いだ。