森下さんの子供のころのつらい思い出、サイレンを聞くと出てくる涙のわけを知ったのは最近だ。  
 高林に聞くと、あいつは『茜ちゃんに聞け』とだけ言い詳細を教えてくれなかった。  
 小さな胸の奥にずっとしまってきた秘密。俺に心を開き、それを教えてくれた森下さん。  
 俺はいま森下さんと付き合っている。  
 
 森下さんを『茜ちゃん』と呼ぶのは高林だけだ。俺も『茜ちゃん』と呼べるほど親しくなりたい。  
 同時に『雅人くん』と呼んでもらいたいとも思う。森下さんが名前で呼ぶのも高林だけだ。  
 俺たちの間にそういう空気はある。だがお互い恥ずかしいのか、なかなか思い切れなかった。  
 
 今日もいつものように一緒に下校する。  
 昇降口まで来たとき、白衣姿の高林が森下さんを呼び止めた。  
「茜ちゃん、この間言ってた観望会だけど、茜ちゃんの参加も許可されたよ」  
「勇次くんホント? 私も参加していいの?」  
「茜ちゃんは科学部員じゃないけど、入部希望者ってことにしておいたからね」  
「うれしい! 勇次くんありがとう!」  
 森下さんは本当にうれしそうだった。  
 
「ねぇ、もう一人誘ってもいいかな?」  
 少し遠慮がちに森下さんが言う。  
「そう思って、ちゃんと小笠原くんの件も話してある。二人とも大丈夫だよ」  
 わかっている。そう言わんばかりに高林が即答した。  
 森下さんは俺の顔を見るとにっこりとした。そして高林に  
「ありがとう勇次くん!」  
 そう言って手を握った。  
 一方俺は、二人が何を話しているのかが理解できず呆然としていた。  
 
「おい高林、俺が行ってもいいものなのか? そもそも『かんぼうかい』ってなんだ?」  
「観る望む会って書くんだけど、簡単に言うと天体観測だよ」  
「へぇ〜、科学部って天体観測もやるんだ」  
「この学校は天文部とか生物部とかないだろ? 科学部が理科全般を扱ってるんだよ」  
 
 高林の話では観望会は夏休み中に学校に一泊して天体観測をするのだという。  
 夏の代表的な星座である狼座やアンタレスといった星を見るのだそうだ。  
 クラブ活動の扱いなのだが、顧問は同席せず生徒だけで宿泊合宿が執り行われるらしい。  
 すべては先輩たちが築き上げた信頼と、高林たちの真摯な活動の賜物だろう。  
 実際、毎年何らかの観測データや実験レポートが学園祭で発表される。  
 学校側も高林たち科学部を絶対的に信用しているからこその特例措置ということだった。  
 俺と森下さんはその集まりに参加することになった。  
 
 当日は朝から蒸し暑かったが、夕刻を過ぎる頃になると風が涼しくなった。  
 台風の接近による気圧の変化がどうとか高林が解説してくれたが、俺にはよくわからなかった。  
 ただ、風があるせいで雲が吹き飛ばされ、星空を観察するには絶好の天気だという。  
 
 今日集まったのは1年生から3年生まで11人。男7、女4という構成だ。  
 森下さんは星についての知識はあるし、他の部員もそれなりに詳しかった。  
 つまりまったくの初心者は俺だけということになる。  
 他のメンバーはただ観測するだけではなく、データを集めたり写真を撮ったりの作業がある。  
 漠然と星を眺めてロマンチックな思いに浸れるのは俺と森下さんだけだった。  
 俺たちは高林に断り、他のメンバーの邪魔にならない場所へ移動した。  
 
 満天の星空。  
 決して都会とは呼べない青葉台の空は、まさに降るようなという形容がしっくり来る星空だった。  
 一面の星、星、星……。どこを見ても星しか見えない。そんな世界が俺たちの前に広がる。  
「青葉台にずっと住んでるけど、こんなに星が多いなんて知らなかったな……」  
 あまり夜空を見上げたことのない俺には信じられない光景だった。  
「綺麗よね。……なんか見てるだけで吸い込まれそう……」  
 隣で森下さんも息を飲んで空に見入っている。  
 
 星の中に一人で放り出されたような錯覚に陥る。  
 いいようのない不安感にさいなまれた俺は森下さんの手を握った。森下さんも強く握り返す。  
 そのまま森下さんを引き寄せ、肩を抱く。ポニーテールが揺れ、森下さんの髪が甘く香った。  
「森下さん……茜ちゃん」  
 自然にそう呼んでいた。  
「小笠原くん……」  
 俺たちは肩を寄せ合い、一面の星の中で二人の息遣いだけを感じていた。  
 
「茜ちゃん」  
 名前を呼んで茜ちゃんを見る。  
「小笠原くん」  
 茜ちゃんと見つめ合う。  
 地上の明かりはほとんどない。新月の光も地上を照らしてはいない。  
 かすかに表情が読み取れる程度の暗さが俺を大胆にした。  
ぎゅっ  
 茜ちゃんを抱きしめる。  
「あ……」  
 突然のことに驚いたのか、茜ちゃんは声を立てたが抵抗せずそのままにしている。  
「好きだよ」  
 俺は茜ちゃんを抱く腕に力をこめ、そっと耳元でささやいた。  
「……私も」  
 茜ちゃんが小さな声で言った。  
 
 もう一度見つめ合う。  
 今度はさっきよりも顔が近い。あまり顔が近すぎ、恥ずかしいほどだ。  
(茜ちゃんとキスしたい……)  
 俺の心がそれを訴える。俺はそのまま顔を近づけていった。  
 薄着の茜ちゃんは柔らかく、いい匂いがした。  
 
 軽く唇が触れる。触れただけでまた離れる。  
「茜ちゃんの唇、やわらかい……」  
「やだ……」  
 恥ずかしそうな声。  
「小笠原くんの唇もやわらかい。……それに熱い」  
「茜ちゃんがそうさせてるんだよ」  
「……キス、しちゃったね」  
「……うん」  
 俺たちのファーストキスだった。  
 
 手を伸ばし茜ちゃんの頬を撫でる。  
 その手を茜ちゃんの耳元から後頭部にあてがう。親指が茜ちゃんの耳たぶに触れる。  
「茜ちゃんも熱くなってるよ」  
 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、今度は茜ちゃんから唇を寄せてきた。  
 
 唇が重なる。  
 ただ唇を合わせるだけのキスだが、二度目は長く続いた。  
 俺は舌で茜ちゃんの唇をなぞってみた。  
 茜ちゃんは唇に力を入れ体を震わせたが、抵抗はしなかった。  
 
 舌を戻し、また唇だけのキスをする。  
 すると今度はためらいがちに茜ちゃんの舌が俺の唇に触れてきた。  
 唇をわずかに開く。  
 探るようにゆっくりと茜ちゃんの舌が中に入ってきた。  
 
 舌先が触れ合う。一瞬  
ビクンッ  
 と身を縮こめた茜ちゃんだが、俺の首に両腕を回すと積極的に自分の方に抱き寄せてきた。  
 それに応え、俺も茜ちゃんの腰を抱く。  
 二人の舌が絡まった。  
 
 舌を強く吸う。  
「んっ……っ!…んん……」  
 茜ちゃんが苦しそうな声になる。  
「そんなに強く吸うと……痛い」  
 顔を離すと茜ちゃんが言った。  
「ごめん、経験なくて加減がわからなかった」  
「ううん。私も初めてだから……」  
「茜ちゃん、またキスしよ」  
「……うん」  
 恥ずかしそうに茜ちゃんがうなずいた。  
 
 唇の横。下唇とあごの間。のど。チュッと音を立てるような軽いキスをいろいろな場所に降らせる。  
 茜ちゃんがいとおしくてたまらない。茜ちゃんに唇を押し当てるのがうれしくてたまらない。  
 首筋。耳たぶ。頬。鼻の頭。まぶた。額。そのまま何ヶ所も口づけていく。  
「くぅ…んッ……ふん、んん……」  
 茜ちゃんは俺に抱きつき、のどを鳴らして小さな声であえぐ。  
 さらさらした洗いたての前髪から、シャンプーなのか甘い匂いがする。  
 官能的な気分に満たされた俺は茜ちゃんの唇を再び求めた。  
 
 下唇を唇ではさむようにしごく。少しだけ強く噛んでみる。  
 同時に耳のあたりの髪を指先に取り、手触りを味わう。  
 ゆっくりゆっくりと舌先を茜ちゃんの唇でうごめかす。その舌を押し込むように挿入する。  
 歯に沿って舌を動かす。唇の裏側を舐め、唾液をすする。  
 力が抜け、かすかに開いた歯から舌をもぐりこませると歯の裏に当てる。  
 歯の裏や舌の裏を力を入れた舌先でなぶるように蹂躙する。  
「んっ…んっん……んんっ……」  
 唇をふさがれた茜ちゃんが声にならない声を出して悶える。  
 茜ちゃんの腰のあたりを抱きながら俺は何度も茜ちゃんを攻めた。  
 
 唇が離れる。  
「小笠原くん、なんでこんなにキスうまいの?」  
 荒く息をつきながら茜ちゃんが聞く。  
「雑誌で見たやり方を必死に思い出してるんだ」  
「そう、なの?」  
 少しだけ疑っている感じの茜ちゃんの声。  
「俺、そんなに上手かった?」  
 大好きな女の子を感じさせてうれしくないわけがない。喜びをにじませて聞く。  
「ドキドキする。ほら」  
 そう言って茜ちゃんが俺の手を自分の胸に持っていった。  
 夏の薄手のセーラー服を通してふくよかなふくらみが手のひらに当たる。  
(茜ちゃんって意外と胸が……)  
 俺は手のひらと指を曲線に沿って自然に曲げた。  
 手から少しこぼれる感じの大きさがはっきりと感じられる。  
「茜ちゃん……」  
 茜ちゃんの胸をまさぐる。服の上からとはいえ、初めての経験に心が打ち震える。  
「んんっ……」  
 俺に触られることで興奮するのか、茜ちゃんの声も甘い響きを帯びる。  
(直接さわりたい!)  
 セーラー服の前を開け、かわいらしい白の下着を上へとずらした。  
 そこは白く柔らかな双丘が小さな突起を携え、茜ちゃんの呼吸に合わせて優しく上下していた。  
「きれいだ……きれいだよ茜ちゃん!」  
 とっさに手が伸びた。頂で尖った桜色の小さな出っ張りを指先でつまむ。  
「あっ! そこは…ぁっ!」  
 切なそうな声を漏らす茜ちゃんに欲望がたぎる。  
「茜ちゃん」  
 少し汗ばんだ茜ちゃんの肌を俺の指が這いまわる。  
 豊かなふくらみを付け根からやさしく揉みあげる。  
 俺はふくらみに口を寄せると舌先で突起を転がし、周りを舐めるように口に含んだ。  
 茜ちゃんはそれに反応するが、指を口元に当てて声を出さないようにする。  
 
(もっと茜ちゃんを知りたい! もっと茜ちゃんと経験したい!)  
 茜ちゃんのスカートの裾をから手を忍ばせる。そのまま太ももの内側を撫でるように奥へと進む。  
 だがその手は肝心なところにたどり着かなかった。なめらかな太ももにぎゅっとはさまれたのだ。  
「こわい……」  
「茜ちゃん……」  
 すでに我慢できないほど俺の分身は猛り立っている。自分を抑えられる自信がない。  
 
「茜ちゃん、小笠原くん、どこだい?」  
 そのとき、突然高林の声がした。  
 俺たちは我に返り、あわてて飛びのいた。森下さんがはだけたセーラー服を直す。  
 その直後高林が顔を出した。  
「あ、こんなところにいたんだ。お腹空かないかい? 先輩が夜食作ってくれたから食べようよ」  
 のんきな声で高林が言う。  
 暗さのせいで俺たちの表情までは判別できないのか、少しも不審がらずにしている。  
「あ、ああ。ちょうど腹減ったかなって思ってたんだ。茜ちゃんも食べるだろ?」  
「……小笠原くん、『茜ちゃん』って呼ぶようになったんだね」  
「!」  
 一瞬ドキリとしたが、平静を装って言う。  
「お前がうらやましかったからな、真似して呼んでみた」  
「小笠原くんだって七瀬さんのこと『かすみ』って呼ぶだろ? 昔から知ってる仲なら普通だよ」  
「そ、そうよね。私も名前で呼ぶのは勇次くんだけだし」  
「そういえば俺、『雅人くん』って呼ばれたことないな……」  
「こ、今度から呼びましょうか?」  
「のろけ話はそのくらいにして、みんな待ってるから行こう」  
 そう言うと高林は校舎に入っていった。  
 
 茜ちゃんと顔を見合わせる。  
「行こうか」  
「うん」  
「……高林が来なかったら、俺たち……その……経験…しちゃったのかな……」  
「えっ……私はそれでもよかったわよ」  
「茜ちゃん……」  
「なぁんてね。冗談よ、冗談」  
 そう言いながら茜ちゃんはキスしてきた。  
 唇が離れる。  
「雅人くん……今度は誰も来ないところで二人きりになろうね」  
 そう言うと茜ちゃんは校舎に向かって駆け出していった。  
 
「い、今のってもしかして……」  
 もしかしたらこの夏、俺たちはもう一歩進んだ関係になるのかもしれない。  
 そんなことを俺は考えていた。  
 

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