春といっても、まだ寒い。さすがに吐く息が白く凍えたりはしないが、つま先なんかは結構冷える。こんな朝早い時間は陽射しが弱いせいか、特にそう感じる。
HRにはまだ結構時間がある。体育館うらにまわってみると、剣道部はまだ朝練の最中だった。
さすがに戸や窓は閉めてあるから床を蹴る力強い足音でしかわからないけれど、これだけ激しく動いていれば、寒さなんて感じないのかもしれない。
「はい、今朝はここまで」
凛とした声が同乗に響くと、響く足音が穏やかになる。
朝日の差し込む陽だまりを見つけてしゃがみ、風間さんが出てくるのを待つ。
10分ほどして、剣道部員がぞろぞろと出てくる。なかにはこっちを見て怪訝そうな顔をするものもいるけれど、HRが始まる時間が迫っているからか、何も言わず通り過ぎる。
「お疲れ様」
最後に出てきてカギを閉める風間さんの後姿に声をかけると、ちょっとビックリして、それからおはようと笑った。
「どうしたの?」
そういう彼女にちょっと早く起きちゃったからと、理由にもならない言い訳をする。
彼女も本当にそれを聞きたいわけじゃなかったみたいで、それをさして深く追求するそぶりはない。
「ほらほら、しゃきっとしないと」
そう言って僕のほほに触れた風間さんがキャッと小さく悲鳴をあげる。
「どうしたの、とっても冷たいんだけど。ひょっとして、ずっと外で待ってたの? 中に入ってくればよかったのに」
それには答えず、頬から離れかけた彼女の手を手繰ってもう一度頬にあてる。
とても暖かい手だった。
「風間さんの手はあったかいね」
「あ…… ほ、ほらHRはじまっちゃうわよ」
くるりと振り向いて歩き始めた風間さんは、それでも僕の手をぎゅっと握ってくれた。
翌日は土曜日で、その放課後だった。
彼女の部活が終わるのを待って、二人で帰る。
つなぐ指先からは、彼女の温度が伝わってくる。
なんとなく遠回りをしたくなって、神社の境内へ向かう。ちいさな神社だから無人だし、お祭りとかがない時は、ほとんど人が来ることもない。
「そうだ、こんなの作ってみたの」
社殿の階段に並んで座ると、風間さんがポケットを探って、ちいさなお守り袋みたいなものを取り出す。
「なかにね、唐辛子が入っているの。これをポケットに入れておいたり、首からかけておくと、ぽかぽかとあったかくなるのよ」
風間さんの顔が、ちょっと赤い。今までこれをポケットに入れていたせいだろうか。
ありがとうと言って受け取ると、もう手があったかい。といっても、これは彼女のぬくもりなんだろうけど。なんとなく中をあけようとすると、こぼれると大変だからと止められた。
かけてあげるといって、風間さんがそれを首に掛けてくれる。唐辛子のにおいがほのかに漂った。
風間さんがふふっと笑う。頬に感じる吐息があつい。
「大丈夫? ちょっと顔が赤いけど」
風間さんの頬に触れると、冷たくてきもちいいと小さくささやいた。
ふとその首に、細い紐が見えた。
「じつは、あなたのとおそろいなのよ」
そう言って笑う彼女がとてもいとしく感じた。
そっとくちびるを寄せてみる。
彼女がそっと目を瞑る。
吐息が熱かった。くちびるが熱かった。
くちびるを離すと、彼女の目が潤んでいるのがわかる。
もう一度くちびるを寄せ、舌を絡める。
彼女の舌も口の中も、とろけるように熱い。
もう一度くちびるを離す。
二人とも大きく肩で息をする。
「あれ、なんでかな、とっても熱くて、我慢できないの」
ふふふと笑って風間さんが僕を押し倒すように迫る。
そのくちびるを受け入れると、僕の体の上に心地よい重みが感じられる。
細かく息を継ぎながら、何度もくちびるを重ねる。
こすりつけられる彼女の体が心地よい。
「だれもこないよね?」
熱い目のまま彼女がそうつぶやき、僕の手を制服の中へ導く。
木綿地の肌着は汗でしっとりとにじみ、肌に張り付いている。
薄い布地ごしに、彼女の胸のふくらみがわかる。その頂点に硬くとがったものがあるのがわかる。
「は、はずかしい。ち、ちがうのよ、わたしそんなはしたない女の子じゃないの。
で、でも、あ、あなただから……」
体中を押し付ける風間さんの重みから逃れるのは物理的には簡単なのだけれど、それが出来ない。
手をスカートの下に伸ばしてみる。ちょっとだけ震えたけれど、ちいさく"うん"と声が聞こえた。
指先が熱い。
くちゅ
布地の上からなぞっているのに、その音がはっきり聞こえたような気がした。
風間さんが体を捩り、腰を擦り付け、指先が布地越しにもっと深い場所に押し付けられる。
「ちょ、直接、さわっても…… いいよ」
それは最後の恥じらいなのかもしれない。本当は"直接さわって"と言いたいのかも知れない。
そんなことを脳の奥の少し冷静な部分で考えながら、布地をずらし、隙間から指を差し込む。
その刹那、びくっと体が震え、指先がぎゅっと締め付けられる。風間さんの体から少し力が抜け、重みが一段と増した。そして彼女は小さく笑って舌を出した。
それが何なのか考えるよりも、風間さんの舌がほしくなって彼女の唇を貪った。
呼吸が苦しくなるまで唇を貪った。
唇を離すと、粘液の掛け橋が、二人をつないでいた。
「あなたを、汚しちゃうけど、許してね」
彼女の言葉の意味がわからなかった。
風間さんが柔らかな何かを横に捨てる音がした。視界の隅でレースのついた淡いピンクの布が、湯気を上げている。
ズボンのファスナーが下ろされる。硬く張り詰めたソレが、風間さんの手で引き出される。
「ごめんね」
また、そうつぶやくと、ソレは熱く濡れそぼった柔らかいものに包まれていく。
下半身が溶けていくような感触に襲われる。そしてソレが何かに突き当たった。
「んっ」
風間さんが大きく息を詰め、ぎゅっと力を入れた。
プツ
音が聞こえたような気がした。風間さんがひどく汗をかいている。
視線が、僕を捕らえたまま離さない。
「ふふふ、やっちゃった」
達成感と苦痛が混在したら、こんな表情になるのかもしれない。
そのまま体を押し付けられる。顔が押し付けられる。唇が押し付けられる。
ビクビクと脈動する風間さんのナカが、僕のソレを優しく刺激する。
脳の奥が危険信号を発しているけれど、快感に逆らうことなんで出来ない。
今、風間さんの一番奥にいるんだと感じながら、快楽に全身をゆだねる。
「ひゃぁうん」
風間さんの声でやっと自分が暴発したことを知った。体中の力が、風間さんの奥に向かって注ぎ込まれる。
呼吸すら出来なかった。ぎゅっと抱きしめると、風間さんもそれに答えた。
二人の心臓の鼓動が激しく響く。ドドドという鼓動が頭の、体のすべてで響いている。
そして最後の一滴までが彼女の中に打ち出され、隙間からぷちゅぷちゅと音をたて溢れ出す。
「だめ、まだ、おさまらないの」
風間さんの全身が真っ赤に染まっている。きっと僕もそうだ。
階段から落ちないように身を起こし、階段を背に座った僕の上に風間さんが座る状態になる。対面座位というんだっけと脳裏のどこかで考えていた。
制服の下から再び手を差し入れ、ぴっちりしたスポーツブラと一緒に、制服をたくし上げる。
白い肌はピンクに染まってじっとりと汗をかいていた。
唇をそのふくらみの先端に寄せる。風間さんが身を捩るたびに、つながったままのソコからいやらしい何かがぶちゅぶちゅとあふれる。そこに赤い何かが混じっているのを見つけ、脳の奥のどこかにひどく驚いている自分と、うれしくて興奮している自分が共存していた。
額になにかがあたった。ほんのりと温かみを感じる。
額に触れないようにどけようとするとそのはずみに紐から解けて、僕のお腹の上に落ちた。
それは"お守り"だった。解けた口から爪の大きさほどに切った唐辛子と、なにやら黒い縮れた糸のようなモノが覗いている。捲れあがったスカートから、それと同じモノが覗いている。
風間さんがそれに気付き、僕の首にかけていた手を離してそれを覆い隠そうとする。
バランスを崩した彼女を支えた瞬間、ぎゅっと押し付けられた彼女の中に、再び、精を放っていた。
なんとなく、気まずいまま体を離す。二人だまって、佇まいを直す。
こわれた"お守り"を彼女がハンカチの上に集めて丸めると、カバンの中にしまった。
「おまじないだったの」
さっきまであんなに熱い視線を交し合っていたのに、彼女の目が僕を見ることは無い。
「あなたを、あの子から…… 七瀬さんから奪い取るための」
驚く僕には、まだ目を合わせてくれない。
「わたしの…… それを身に付けてもらって、わたしも同じモノを身に付けるの。
そして、願いが、叶っちゃった」
痛々しい笑顔で僕をやっと見る。でもすぐに目をそらす。
「だから…… これはおまじないが作り出したアヤマチだから、ウソの出来事だから、忘れて。ね?」
目をそらしたまま、彼女が寂しそうに笑った。
脳の中で、なにか熱いものが生まれ、溢れ出す。
「ばかにしないでよ」
彼女の顔を両手で抑え、彼女をにらみつける。それでもそらす視線をじっと待ちつづけ、
彼女の瞳が僕を見るのを待つ。
「そんなおまじないなんか関係ない。風間さんが…… こだちがすきだから…… その…… したんだ」
でもと、言う彼女の前で首から、それをはずす。
「こんなのなくったって、キミを、その、抱きたい」
それでも視線をそらす彼女の手を自分の股間へ押し付ける。
「え、あ、え?」
風間さんの視線が僕を見る。信じてもいいの?とでも言うような視線を真正面から受け止め、頷く。
彼女も頬をそめ、小さく頷いた。
唇を寄せる。
くしゅん
彼女の小さなくしゃみが二人の間に響いた。おでこ同士がぶつかり、目の前に星が散った。
思わず笑っていた。もう、と言って彼女がふいと横を向いた。でも何故か、それは怒っているんじゃないってわかった。
目の前に散った星はすぐに消え、見上げると空に星座がかかっていた。
もう一度と唇を寄せるたけれど、ちょっとお姉さんぶった顔で今日はもうだめと言う。
寒くなってきちゃったからと続ける彼女に"お守り"があればあったかいよというと、いじわると言ってそっぽを向いた。
手をつないで神社の境内を出る。暗いからよくわからないけれど、僕の制服はひどいことになっている。
あしたの朝一番で持ってきてくれれば夕方には間に合うわよと彼女が笑う。
「それはつまり、あしたは…… その…… 一日中?」
思わず声に出していた。
「え?」
彼女の視線をおもわずそらしてしまう
「あ!」
彼女も慌てた表情で目をそらす。
頬を赤らめ、そして……
「うん」
ぎゅ
彼女が優しく、そしてしっかりと、僕の手をにぎりしめた。
-Fin-