彼が転校して4ヶ月。最初の頃は電話もあったし手紙も来た。  
 でも最近は電話をしてもいないことが多いし、手紙を書いても返事がない。  
 電話をするたびに、代わりに出た妹さんが申し訳なさそうな声で謝ってくれる。  
 私から電話があったことは伝わっているのに、どうして彼は答えてくれないのだろう……。  
 
 『卒業したら戻ってくる』。その言葉を信じていた私の心にも少しずつ不安が広がっていく。  
 彼はどう考えてるんだろう? 私のこと、どう思ってるんだろう?  
 
 あの日、待ち焦がれた彼からの手紙が来た。  
 でもそこにはただ一言、『もう俺のことは忘れてくれ』とだけ。  
 あわてて電話をかけると、電話口で彼が言った。『他に好きな子が出来た』と。  
 懐かしい彼の声。ずっと聞きたかった優しい声。いつも私を励まし、慰めてくれた声。  
 私が聞きたかった声は、私に最も残酷な現実を突きつけた。  
 ……私の恋は終わった。  
 
 抜け殻のようになった私は笑わなくなった。  
 心に穴が開いた生活。他人が信じられない恐れ。感動を失った魂。  
 彼と一緒に過ごしたときはすべてが輝いて見えた。すべてが新鮮に感じられた。  
 でも今は……。  
 
 そんな私を癒してくれたのは勇次くんだった。  
 赤ちゃんのときから家族のように、兄妹のように過ごしてきた勇次くん。  
 相談に乗ってくれた。悩みを聞いてくれた。愚痴をこぼさせてくれた……。  
 私たちしか知らない秘密や思い出を共有する二人。昔のことも、今のことも……。  
 ……私はいつしか勇次くんに惹かれていった。  
 
 
 表面上は変わらない日々が続いた。  
 だけど、私には勇次くんが必要になっていた。勇次くんに頼りきっていた。  
「勇次くん、好き……」  
 そうして私は告白した。  
 
 勇次くんは驚いた顔をした。  
 そして照れくさそうに、でも誠実に私に言った。  
「僕もだよ茜ちゃん。ずっと、ずっと君が好きだった」  
 私たちは幼なじみから恋人になった。  
 
「茜ちゃんがお兄ちゃんのことを吹っ切って小笠原くんと付き合ったとき、ちょっと悔しかった」  
「え?」  
「いつまでもお兄ちゃんに縛られているのはよくない。それは茜ちゃんも思ってたろ?」  
「……うん」  
「でもね、その相手は僕がなりたかった」  
「勇次くん……」  
「僕は茜ちゃんを裏切らない。これまでもそばにいた。そしてこれからもずっとそばにいる」  
「勇次くん!」  
 私は勇次くんの胸に飛び込んだ。  
 勇次くんの厚い胸でたくましい腕に抱きしめられる。幸せだった。  
 
「茜ちゃん」  
 勇次くんに名前を呼ばれて顔を上げる。目の前に勇次くんの顔があった。  
「うん」  
 自然に目を閉じる。……唇に柔らかく温かいものが触れた。  
 
 唇が触れ合うだけのキスが終わる。  
 目を開ける。  
 いつもの優しそうな笑顔の勇次くんではなく、「男」の顔をした勇次くんがいた。  
(勇次くん、我慢してる……)  
 私は転校前の彼に抱かれていた。私の初めての相手。何度か体を重ねた。  
 彼は私に男の人の仕組みや生理を教えた。私も進んでそれを覚えた。  
 そんな私に、いまの勇次くんの状態を察するのはとても簡単なことだった。  
「勇次くん、抱いてほしい……」  
「!」  
 明らかに動揺した勇次くん。  
 
 勇次くんが好き。抱いてほしい。ううん、抱かれたい。  
 でもきっと勇次くんに経験はない。タイミングもつかめないだろう。  
 ならば私から声をかけたほうがいい。  
 
「勇次くんのものになりたいの、勇次くんのものにして」  
「茜ちゃん……」  
「彼のこと、忘れさせて……」  
「……分かった」  
 勇次くんがうなずいた。  
 
 服を脱ぐ。  
 彼の前で脱いだときの何倍もドキドキする。  
 体が熱い。性の興奮とは別の何かが体の中でうごめく。  
 今まで感じたことのない感覚。今まで味わったことのない興奮。  
 
 生まれたままの姿になる。  
 勇次くんの股間にはオチンチンが赤黒く大きくそそり立っていた。  
(子供のころはあんなにかわいらしかったのに……)  
 突然昔のことが思い出された。  
 これまでの人生の大半を一緒に過ごしてきた勇次くん。  
 私のことを誰よりも知ってくれている勇次くん。いつも守ってくれた勇次くん。  
 気付くのが遅かった。もう私の体は、キレイじゃない……。  
 
「勇次くん、私ね、初めてじゃないの……」  
「……小笠原くん?」  
「……うん。ごめんね」  
 謝る私に、勇次くんは優しさをたたえた瞳で  
「気にしないで。僕はずっと前から、そして今でも茜ちゃんが好きなんだよ」  
 そう言ってそっとキスしてくれた。  
 
「茜ちゃん、お願いがある」  
「なに?」  
「僕、経験ないんだ……。だから、上手く出来ないかもしれない。だから、その……」  
「勇次くん、私がリードするわね」  
「ありがとう」  
 
 勇次くんをベッドに横たえる。  
 どうすれば男の人が歓ぶのか、私は知っている。でもそんな姿を勇次くんには見せたくない。  
「勇次くん」  
 勃起したペニスをそっと手のひらにくるむ。固さを確かめるように、熱さを確かめるように。  
 ズキズキと脈打って硬直するオチンチンに指を絡め、静かに上下する。  
 破裂しそうなぐらい大きく張った亀頭と、まわりのくびれを指先でこすってみる。  
 手の力加減に心を配り、軽く滑らせるように茎全体を刺激する。  
「はぁはぁはぁ……」  
 何かに耐えるような苦しい息遣いの勇次くん。愛しさが増した。  
 
「茜ちゃん……出ちゃいそう……」  
 切羽詰まった勇次くんの声。  
「ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ我慢して……」  
 リズミカルにしごいていたオチンチンから手を離すと体勢を入れ替え仰向けになる。  
 勇次くんが私の股間に移動する。  
 私は勇次くんのオチンチンに手を添えると濡れた秘裂にあてがう。  
「ここよ、来て……」  
 次の瞬間、  
ぐっ!  
 膣壁を押し広げて勇次くんが侵入してきた。  
 すでに男の人を受け入れる準備が整っていた私の体はそれを難なく受け止める。  
 狭い肉穴が締めつけるのか、勇次くんの形がはっきりと感じられた。  
 
 闇雲に、乱暴ともいえるほどの勢いで勇次くんは私に腰を突き立てた。  
「あぁっ!」  
 衝撃に思わず声が出る。  
 そんなに手荒く扱われていながら、私は少しもいやではなかった。  
 それどころか、勇次くんを受け入れられる喜びに心が震えるのを感じていた。  
 
「茜ちゃん! うっっっ!」  
 勇次くんの体に力が入った。  
 私の上で前後していた動きが止まると全身がこわばる。  
 直後、二人がつながっているあたりにピクピクとした感触が伝わった。  
(あ……いま勇次くんが射精してる。勇次くんの精液が注ぎ込まれてる……)  
「うっ、あぁっ、くっ……」  
 男の人が達したときの快楽のうめきをあげて、勇次くんは射精を続けた。  
「勇次くん……勇次くん……」  
 名前を呼んで、私は勇次くんに強くしがみついた。  
 
 大きく息をついて勇次くんの体から力が抜けた。  
 私の上にぐったりともたれかかり、耳元で荒く乱れた息をつく。  
(イッたんだ……)  
「勇次くん、気持ちよかった?」  
 勇次くんの頭を撫でながら聞く。  
「うん……すごくよかった」  
 私の目をまっすぐに見据え、いつもの優しい笑顔の勇次くんが答えた。  
「うれしい……」  
 そのまま勇次くんにキスをした。  
 
 顔を離すと勇次くんが泣いていた。  
「どうしたの?」  
「わからない……うれしいとか悲しいじゃなくて、なんだかたくさんの思いがあふれるんだ」  
「勇次くん……」  
 私も涙が出てきた。万感の想い。勇次くんとひとつになれた。勇次くんに愛してもらえた。  
 涙を拭うと私は勇次くんにささやいた。  
「勇次くん……もう一回してくれる?」  
 

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