**************【ネクタール】*****************************  
 想像してみてほしい。脳天に突き刺さる臭気というものを。  
 想像してみてほしい。視界が緑色にかすむということを。  
 想像してみてほしい。それが、玄関のドアを開けた瞬間だったと言うことを。  
 
「あら、お帰りなさい」  
 ここが自分の家であることを確認するためにもう一度玄関に戻ろうかと思った。  
 かろうじてそれをしなかったのは、その人の横で君子がすまなそうな顔をして  
いたからだ。  
「何をしているんですか、香坂さん」  
 キッチンを横切り換気扇のスイッチを入れようとして思いとどまる。  
この臭気が周辺にもれると自衛隊の化学防護小隊が出動しかねない。  
これはもう、香りとか匂いとかの範疇ではない。  
「? 料理よ?」  
 彼女の表情を見ると、決してウソだとか、言い逃れだとかそういったつもりは  
無いようだ。彼女は間違いなく、その鍋の中の異様な物体を"料理"の構成物だと  
主張しているのだ。  
「じゃぁ、あとはガーゼで絞って、冷やしましょうね」  
 君子の顔をうかがう。とても済まなそーな顔をしている。  
 ぶくぶくとアブクを浮かべていた鍋の中身がガーゼでこされてて、ガラスの  
ボールに移される。  
 それでもまだ濃厚な液体は迷彩服に使われそうなほど深い緑色をしている。  
 高坂さんがそれをオタマですくって、氷が半ばまで入ったガラスのグラスに注ぐ。  
 氷がパキパキと音をたてて割れ、溶けていく。  
 
「はい、どうぞ」  
 差し出されたグラスを思わず持ってしまった。  
 ちらっと君子の方を見ると、慌てて目をそらしてしまった。  
 臭気は最悪。冷め切らず登る湯気は凶悪。そしてにっこり笑って小首を傾げる香坂さん。  
気分は階段の12段目。もちろん首に綱をつけて登るやつのだ。  
「だって、アナタのために作ったのよ?」  
 そのセリフに耳を疑う。  
「だって、君子ちゃんが『お兄ちゃんが元気ないの』っていうから」  
 ああイエス様、逃れるすべのない災厄を、あなたならどう立ち向かいますか。  
「だから、ね?」  
 微笑む香坂さんの顔に覚悟を決める。  
 鼻で息をしないように。喉に直接流し込むように。すばやくグラスを傾けるのが  
ここでのたしなみ。  
 喉をどろりとした液体が通過する。  
 鼻腔に抜けるケミカルな臭気が危険信号を訴えるが、それはあえて無視する。  
口中に残る異様な味は、これまで口にした何よりも複雑。最も近いのを探すと、  
掃除のときにしぶきが口に入ったことのある、半年かけて緑色になったプールの水。  
 思わず蛇口に飛びつき、直接水を飲む。いつもは塩素くさいと思っていた水道水が、  
ミネラルウォーターのように旨い。  
「あらぁ、おいしくなかった?」  
 香坂さんの表情はいかにも意外といった様相だ。  
「あの、まぁ、良薬口に苦しといいますし…… というか、何が入っていたんですか?」  
 香坂さんがにこっとわらった  
「まず、ケールでしょ、それから朝鮮人参、麻黄……」  
 指折りながら、一つ一つ上げていく香坂さんを止める  
「あの、それ、料理なんですか?というか、そもそもどこでそんな材料を」  
「薬局で『オトコのコに元気を出してもらうには何がいいですか』って聞いたら用意してくれたの。  
でもそのままじゃ飲みづらいかなってね、ちょっとアレンジしてみたの。」  
「……とりあえず、片付けてくださいね」  
 いろいろ突っ込みたいところではあったけれど、納得の表情で頷く顔にそう声をかけて  
リビングへ向いソファーに座る。  
 
 正直なところ、ちょっと気持ち悪い。気分を紛らわすためにテレビの電源を入れて、  
チャンネルをザッピングする。  
「どうかしら、元気は出たかしら。」  
 十分ほどして香坂さんと君子がやってくる。ソファに座る俺の目線に合わせるためか、  
上体を屈めた襟ぐりから、白い肌がチラッと見える。  
 ドクン  
 唐突に、後頭部が熱を持ったかのように脈動する。  
 腕と脚に力が入らなくなり、背筋を冷たいものが走る。  
 体の末端から中心に向かって血液が集まるような不思議な感覚。  
 目の前が真っ赤になったような気がして景色がかすむ。  
 そして、意識が途絶えた。  
 
 だんだんと意識が回復してくる。直前の夢の中で、なにか良いことがあったような気が  
するのだけれど、良く思い出せない。とりあえずソファには座ったままみたいだ。  
 なにか下半身に重みがあり、あたたかい。  
 チュパ チュピ  
 背筋を心地よい脈動が駆け上る。ふぁぁと間抜けな声が出る。  
「あら、おはよう」  
 下半身の方から香坂さんの声。あわてて見るとまたの間の床に下着姿の高坂さんが座っている。  
そしてまるでアイスキャンディーでも舐めるようにそれに舌を這わせている。  
良く見ると髪や顔、胸にまでたくさんの白濁したものがすでに付着している。  
「ごめんなさいね、こんなことになっちゃって」  
 香坂さんの吐息が敏感な部分を刺激する。そして耐え切れず放出する。白いものが香坂さんの  
身体の空いているところを狙うかのように汚していく。  
「へんねぇ、君子ちゃんの本だと、これで元に戻るはずなんだけど」  
 放出を終えてなお、そこは硬度を保っている。むしろ、これまでに無いくらいに膨張している。  
「他の方法も試してみようかしら」  
 床に伏せてあった本を香坂さんが取り上げる。数週間前に紛失して、木地本に弁償したのと同じ本だった。  
「えっと、どこだったかしら」  
「それより、その本は……」  
 香坂さんが本を繰る手を止める  
「そうね、3週間くらい前かしら、君子ちゃんが家庭部に持ってきててね、女の子達だけで"勉強"してたのよ」  
 
 これで一つ疑問は解けた。不意に香坂さんが立ち上がる。  
 目の前にショーツがアップになる。湿っているのか白の薄い布地越しに、うっすらとヘアが見える。  
「これにしようと思うの」  
 目の前に広げられた本には、対面座位であえぐ女の子の姿。  
「えっと、これだと全部脱ぐのね」  
 目の前でブラが落ち、ショーツが脚から抜き取られる。  
 ソファに膝をつき、オレの上にまたがる。目の前にたわわな胸が揺れる。落ちないように彼女を支えようとしたのだけれど、腕にはまったく力が入らない。  
 香坂さんがソファの背もたれをつかんでバランスを取っている。  
 腰を落としてくるのだけれど、先端がそれて上手く入らない。  
「困ったわね〜」  
 こんな状況だと言うのに、香坂さんの口調はのほほんとしたままだ。  
「これって、手をつかってもいいのかしら」  
 香坂さんがソファに広げた本をチラッと見る。  
「いいわよね」  
 目の前で行われていることが信じられなかった。  
 左手は背もたれの手に伸ばしているので身体がかなり近い。  
 胸の谷間越しに互いの下半身が見える。  
 香坂さんの右手がオレのペニスを握り、そこに香坂さんの股が突き出され、ゆっくりと飲み込まれていく。  
 くちゅ  
 一瞬何か引っかかるような感触があったあと、一気にそこに飲み込まれていく。  
 不意に、香坂さんが、背もたれごとオレをギュッと抱きしめる。  
胸の谷間に挟まれて、息が出来ない。首を左右に揺すると、彼女がごめんなさいといって締め付けが少し緩んだ。  
「えっと、それで、これからは……」  
 香坂さんが本を見ながらぎこちなく身体を動かす。体中の感覚がそこに集まっているかのように気持ちいい。  
 ふと『接続部』に目をやると、真っ赤に染まっていた。腰が動くたびに明らかに赤いものがそこから染み出してくる。  
「香坂さん、痛くないの?」  
 ん、ん、と息を詰めながら腰を動かす香坂さんに声をかけると、むず痒い感じでちょっと変だけど平気よと手を頬にあてて微笑む。  
 見ると彼女の指にもべっとりと血がついている。  
「あら?」  
 その指を彼女の舌がさっきまでオレのペニスに這っていた艶めかしさのままぺろりと舐め上げる。  
「あら? ああ、さっき包丁で切っちゃったんだわ」  
 
 おそらくさっきギュッと抱きしめられたときに力が入って傷が開いたのだろうけど、  
痛みは無いのと聞くと、女の子は痛みには強いものなのよと微笑む。  
 目の前に差し出されたままのその指から血が滴り、胸元に落ちる。  
「ひょっとして、舐めてみたいの?」  
 じっと見つめていたのに気付いた香坂さんが口元に指を差し出す。  
 そんなつもりは無かったのだけれど、その指を舐めてみる。  
 口の中に鉄の味が広がる。  
 はぁん  
 探るように舌で傷口を舐めると、不意に、香坂さんの膣が震えた。  
「あ、なんか、すごかった」  
 さっきまでのえっちなのにおっとりと落ち着いた香坂さんの雰囲気が、とても艶めかしいものに変わっていた。  
 胸元を中心に、真っ赤といって良いくらいに、肌が紅色に染まっている。  
 香坂さんの指がまた、口元に差し出される。  
 恐る恐る口を開くと、指が中に差し込まれ、舌にこすりつけられる。  
 いやらしい声が言葉にならない音を耳元でささやく。  
 また傷口が開いたのか、鉄の味が口中に広がる。  
 舌が指に触れるたび、香坂さんが腰を捻り、揺らし、締め付ける。  
 舌のリズムに合わせ、香坂さんの身体も弾む。  
 口中にあふれた鉄さび味の唾液を飲み込もうと指に吸い付いたのと、彼女の中で暴発したのはどっちが早かっただろうか。  
 彼女の中でペニスが脈動し、精を吐く。そのたびに搾り出すように彼女の膣がビクビクと振るえる。  
 どれほどそれが続くのかわからなかった。自分の中にある液体と言う液体が  
すべて精液に変わって香坂さんの中に注がれたんじゃないかと錯覚するくらいだった。  
 彼女の中で自分のソレが急速に力を失っていくのがわかる。  
 香坂さんが腰を浮かせると、中からゴポゴポと音をたてるかのように大量の液体が出てくる。  
「はぁ、こんなにいいものだったなんて?もっと早く知っていればよかった」  
 上気した頬に両手をあてて、香坂さんが隣に座り込む。  
「あの、ひょっとして、初めてだったんですか」  
 オレの問いにけろりとした表情でそうよと微笑む。  
「あの…… おにいちゃん、先輩、終わりました?」  
 キッチンに続くドアの影から除く頭に思わず股間を隠す。部屋は淫猥な香りと液体でひどく汚れている。  
 
 気まずさで、君子の顔が見られない。  
「あらあら、君子ちゃん。これ、すごくいいわ。」  
 香坂さんがまったく空気を読まないセリフを口にした。  
「君子ちゃん。してもらったほうがいいわ」  
 君子も俺も、言葉が出ない。二人で目を合わせ、そらす。  
 きょとんとした香坂さんになんと言おうか迷う。  
「あ、あの…… 香坂さん? もう、あの、出来ませんから。」  
 そのセリフに香坂さんが小首を傾げ、なにやら考え込んでいる。  
「オトコのコに元気を出してもらうには何がいいかしら」  
 とても嫌な予感がした。彼女が気付かないことを天に祈った。  
 木枯しが窓を鳴らし、部屋の中を小さな風が舞った。  
 君子の覗き込むドアの隙間から、脳天に突き刺さるような臭気が舞い込んだ。  
 香坂さんがとびきりの笑顔で微笑んだ。  
 
 
   
 翌朝、君子と二人で泣いて土下座をするまで、開放されませんでした。  
 
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