人を寄せ付けない雰囲気のあった沢田璃未も、今ではすっかり小笠原雅人と打ち解けていた。
「沢田さんって、ちょっと接しただけだとそっけなく感じるけど、本当はやさしいよね」
「……ど、どうしてそんな風に思うの?」
「動物と話をしている時とか、とても優しい目をしてるからさ」
「そ、そうかしら……」
その日も二人は一緒に下校していた。
「じゃあ、マンションに昼間は君一人だけ?」
「そうよ。特に今日と明日は父は出張でいないの」
その言葉を聞くと、雅人の心にときめきがひろがった。
「淋しいんじゃない?」
「というより、マンションが四LDKで広いから怖いわ」
無口だとばかり思っていたのに、璃未はよくしゃべった。ようやく心を開ける相手にめぐり合えたという喜びから、その反動でおしゃべりがしたいのかもしれない。
「ねえ、これから私のところへ来ない?」
突然の申し出に、雅人はドギマギした。君の部屋を見たいという言葉が、喉から出かかっていたのだ。
「ねえ、いらっしゃいよ」
小首を傾げた表情は、十七歳と思えないほど可憐だった。
「いいでしょう? ね、いいわね」
雅人が無言でいるので、断られると思ったらしい。しきりに積極的に誘い、雅人の手を握って揺さぶった。二週間ほど前に初めて璃未と言葉を交わしたときは暗い印象を抱いたものだが、思ったよりも話好きだし、無邪気だった。
「わかった。行くよ」
璃未のマンションは青葉台でも比較的高級とされている住宅地にあった。建物の高さに規制があるのか、マンションは六階建てで、璃未はその最上階に雅人を連れこんだ。
「ここが私のプライベートルームよ」
十畳ほどの洋室はいかにも女の子の部屋らしく飾られ、壁に沿ってセミダブルのベッドが置かれていた。
「ここで寝るんだね」
ベッドを見ながら、雅人は当然すぎるほど当然のことを聞いた。
「ちょっと着替えるわ」
クローゼットから衣裳を取りだすと、璃未は部屋を出ていった。
雅人はベッドを見おろした。
ひょっとして、沢田さんはここでオナニーしているのかも……。
股間に指を這わせて悶えている璃未の姿を想像すると、制服のズボンの下が痛くなるほど膨らんできた。こうなると始末が悪い。放出しない限りもとに戻ることはないのだ。
雅人はへっぴり腰で部屋を出た。まだトイレの位置は確認していなかったが、おおよその見当はつく。キッチンの奥にそれらしい空間があったので、足音を殺すようにしてそこまで足を運んだ。
トイレと並んで、洗面台と浴室がある。アッと思った。脱衣室で璃未が着替えをしているところだったのだ。斜め後ろ向きなので、雅人に見られていることに気づいていない。ブラジャーをはずしたとき、腋から小ぶりの乳房が垣間見えた。
璃未はベネトンの色鮮やかなトレーナーを頭からかぶった。
制服のスカートが足もとに落ちると、Tバックに近いパンティが露出した。布切れが小さいぶん、ヒップの双丘が豊かな感じだった。すぐにミニスカートをはいてしまったので、雅人が目の保養をしたのはほんの一分ほどであった。
雅人は音をたてないようにトイレに入った。たったいま見たばかりの璃未の姿を、閉じた瞼の奥に思い浮かべながらペニスを擦ると、ほんの十数秒の後、白濁した精液が便器に派手な音をたてて飛び散った。
学校にいるときと違い、家のなかの璃未はお洒落だった。目の覚めるようなトレーナーと、単色のミニスカートの配色がよく似合う。ベッドの端に座って脚を組むと、スカートの奥が今にも見えそうになった。
あの下にTバックのようなパンティをはいているんだな……。
雅人の脳裏に、璃未の股間に食いこんだ白い布切れと、顔に似合わぬ丸いヒップがちらついた。
二人の話はとりとめのないものだった。前の学校のことを話していたと思うと、次は旅行の話になり、また映画や最近読んだ本のことなど、さまざまだ。
「私、よかった。あなたと知り合えて」
璃未のホッとしたような言い方が、雅人にはうれしかった。
「ね、いいお友だちになってね」
「そうだね」
「お茶入れるわね」
そう言って璃未がキッチンに立った。しばらくして紅茶を持って戻ってきた。
取り留めのない会話をする。雅人の座っている位置から、時折りスカートの奥が見えた。ほの暗いところに、白い紐状になった布切れが食いこんでいる。再び雅人は勃起した。
手もとが狂って、カップの紅茶をズボンにこぼしてしまった。そこに染みが大きくひろがった。
「大変!」
璃未は部屋を出ていき、すぐに濡れタオルを持って戻ってきた。
「自分でするよ」
「いいから。こういうのは女の役目なの」
膝の前にかがみこんだ璃未は、どぎまぎする雅人には目もくれず、太腿の汚れた部分をゴシゴシと擦った。
雅人は気が気ではなかった。十数センチしか離れていないところで、勃起が疼いている。異性馴れしている女なら、男の微妙な変化に気づいたに違いない。
気づかれないだろうか?……
雅人は腰を引きながら、上から璃未を見つめた。璃未は熱心だった。
「もういいよ」
雅人は自分の声の渇きに気づいた。恥ずかしさだけでなく、欲望が勃然と湧いた。
「これでいいかしら?」
璃未は片手を雅人の太腿に置くと、その上に顎をのせて雅人を見あげた。言葉もずっと甘ったるいものになっている。
「ああ、充分だよ」
璃未は悪戯っぽい笑みを浮かべた。何かかまってもらいたいような感じで、雅人の次の言葉か行為を待っている風情だった。
雅人は得体の知れないものに衝き動かされて、両手で璃未の髪をまさぐった。乳房の感触が、押しつけられた膝頭のあたりからふんわりと伝わる。そのまま璃未の顔全体をかかえこむようにして引きあげた。
璃未はずりあがるようにして、雅人の隣りに座った。そのときにはもう笑いはなく、次に起こることを予想したのか、真剣な表情になっていた。
雅人は震えだしそうになる体を必死でこらえた。物心がついてから、女体にこんな形で触れるのは初めての経験だったし、自分の体でありながら、まるで他人のように手足が勝手に動きだしてしまうのも、かつてないことだった。
雅人が璃未を引きつけると、それを待っていたように璃未は胸のなかに崩れるようにして顔を埋めた。
二人はそのまま勢いに押されて、小さな肘掛椅子に、抱き合うように丸く倒れこんだ。黒髪からムッとするような女の匂いが立ち昇っている。それは明らかに牝が牡を誘うときの匂いだった。
頬と頬が触れ合うと、必然的に唇も重なり合った。雅人はガチガチと歯を鳴らしながら、やみくもに相手の柔らかい唇を吸った。璃未が逃げないとわかると、唇を吸う要領が次第につかめてくる。
甘美な味わいを貪りながら、雅人は硬くなった下腹部を璃未の腰のあたりに夢中で押しつけた。二人の間に数枚の衣服が存在していたが、摩擦することによって生じる性的な快感は並み大抵のものではない。
璃未も同じように下半身をぐいぐい突きあげてくる。女陰の柔らかな厚みが、雅人にも手に取るようにわかる。湿った感じもした。
ああ、この下にアレが……。
雅人が夢中で唇を貪ると、ヌルッとした璃未の舌が口のなかに入ってきた。舌を絡ませることを雅人は初めて学んだ。璃未はキスの経験があるのではないだろうか。雅人は圧倒される自分を感じた。
何もかも彼女がお手本になっている。迂闊に「好きだ」とは口に出せないと思った。しかし、もはやここまできた欲望を中途で放棄することなどできない。最後までいかなければ気がすまなかった。
トレーナーの上から胸に手を伸ばした。ブラジャーをはずしたままなのは、さっき脱衣室で見ていたが、あまりにもふんわりと柔らかいのでびっくりした。
もっとゴムマリのように弾むものと思っていたのに、予想していたよりはずっとソフトである。しかも、見た目よりも大きい。妹の裸身を見たときは、乳房の小ささに驚いたものだ。やはり年齢差からくるものだろうか。
璃未は背丈はそこそこあるが、若いだけにスリムである。雅人は安堵した。自分にふさわしい肉体のような気がしたのだ。
「痛いわ」
璃未は小さい声で訴えた。
「ご、ごめん」
頼りないくらいそっと触れると、璃未の口から小さな喘ぎ声がもれた。
こんな調子でいいのか……。
思いきってトレーナーの下に手を差しこむ。柔らかくて火照った肌にじかに触れた。心臓が破裂しそうだ。大きく深呼吸してから手を上に移動すると、乳房の裾が感じられる。
「そっと触ってね」
璃未が望むように、かすかに表面の皮膚だけをなぞる。またしても璃未は切なげな喘ぎ声をあげて、自分から胸全体を押しつけた。そっと触ってと言っているのに、そういう態度は解せない。
雅人はちょっと意地悪な気分になって、わざと触るか触らないかといった程度にてのひらで乳首を擦った。
「あっ……あああン…。」
乳首がツーンと硬く尖った。
雅人は、いつか見たアダルトビデオで女が男に向かって「もっと強く触って!」と叫んで身悶える姿を思いだした。つまり女をそういう気分にさせるには、はじめはほんのお触り程度に触れるのが、もっとも効果があるようだ。
こういうところは、独学で勉強しているだけに呑みこみが早い。雅人は根気よくソフトタッチをつづけた。
すると璃未は、ますます強く乳房を押しつけてくる。それだけではない。下腹部の女の中心も、はしたないくらい強く擦りつけるのだ。
雅人は、さっきまで自分のほうからやみくもに押しつけていたことを忘れた。璃未の乱れようを見るのが楽しくてならない。
「ねえ……ねえ……」
璃未はしきりにそう言った。何が「ねえ」なのかさっぱり理解できない。雅人は自分のやっていることに欠陥があるのかと考えた。
「なんだい?」
「もっとちゃんと触って」
「あれ? さっきはそっとしてって言ったじゃないか」
「意地悪……ねえ、もう少しだけ強く」
雅人は女の状態を聞きたいと思った。だから恥ずかしさをこらえて聞いた。
「だんだん気持ちよくなってきたの?」
声が干からびているのがよくわかった。璃未は返事をする代わりに小さくうなずいて、前よりも強い力でしがみついた。
「このくらいでいいかな?」
ビデオの男が女の乳房を揉むとき、両手で覆ってから、膨張した乳首を人差し指と中指の間に挟む。雅人はそれを再現した。
「ああ……ああ、いい……」
その声を聞いて、雅人は初めて自信のようなものが湧くのを感じた。
しかし、挿入を思うと不安でならなかった。なにしろ生まれて初めてのことをやろうというのである。童貞という言葉が頭のなかを行き交った。
璃未が処女であるかないか……。
それはまったく未知数である。それだけは聞いてはならないと思った。それに、今の雅人にとって、相手が処女であろうがなかろうが関係ない。そんなことにこだわる年代ではなかった。
一番重要なのは女であること、そして、拒んだりしないで受け入れてくれるかどうかであった。
雅人は、璃未が敏感なのにびっくりした。絶えず悩ましい声を放っているし、体をくねくねとうねらせている。歓びが雅人の体の隅々にまでひろがった。男としての歓びであり、自信でもあった。
雅人は平等に左右の乳房を揉んだ。乳首に張りが出てくる。
璃未の声は次第に大きくなり、そして悩ましさを増した。雅人は椅子の狭さを実感した。目の前にセミダブルのベッドがある。そこへ運びたかったが、快楽を与えることが中断してしまうのを恐れた。
それに、もし拒まれたならどうしようという恐れもある。
「ねえ、ベッドへ行こうか」
死ぬ思いでその言葉を口にした。
「うん」
泣いているような声で、すぐに璃未が応じた。雅人の内部に、さらに大きな自信が湧いた。
セックスを生まれて初めて体験する若者にとって、この自信は実に有意義なものとなった。大部分の男は、初体験の自信喪失がのちのちの性生活に影響を与えることを身をもって知る。
雅人はすぐに起きあがると、璃未の体を抱き起こしてベッドに運んだ。璃未はすべてを任せるといった感じで、目を閉じたまま両手をお腹のあたりに置いて横たわった。
ミニスカートがぎりぎりに股間を隠していたが、雅人の立っているところからは白いパンティの一部が見えていた。
雅人は璃未の横に添寝をするような形で横たわると、トレーナーの裾を大きくまくりあげた。乳房の上まで露出させたが、璃未はおとなしくしている。雅人には、こんなに間近で女の乳房を見たのはこのときが最初だった。
「綺麗だ!」というひと言も、自然と口をついてでた。璃未はそのときパッチリと目を開けて、まともに雅人を見あげた。
「初めて見たわけじゃないでしょう?」
不安そうな声だった。
「赤ん坊のときの記憶はもうないよ。だから初めてなんだ」
璃未がはにかんだように笑った。
「本当に綺麗?」
雅人はゆっくりうなずいてから、乳房をてのひらに包み、尖った乳首にキスをした。どこか乳くさい匂いがしたように思った。甘味のないミルク飴を口に含んでいるようだった。その匂いは雅人をリラックスさせた。
舌先だけで乳首を弄ぶと、またしても璃未は喘ぎ声をあげて胸を突きだす。
さっきからの体験で女体に接する呼吸のようなものを自然と身につけた雅人は、そうされたからといって、しゃにむに乳房を頬張ったり、乳首を強く吸ったりしなかった。それがまた効果をもたらした。
「ああん……あああァン……ハァ」
璃未はよほどつらいのか、ひっきりなしに声をあげて五体をうねらせる。その姿は、雅人にはとても刺激的であったし、挑発的でもあった。
体の向きを雅人のほうに変えた璃未が、いきなりむしゃぶりつくようにして体をごりごり押しつけた。
彼女の膝がまったく偶然に、膨張しきった雅人のこわばりを直撃した。直撃といっても蹴ったわけではない。強い力で摩擦したといったほうが適切かもしれない。
雅人は女体の変化の面白さに魅了されて、つい自分のことを忘れていたが、彼だってほんの少し刺激を加えれば、若いだけに射精する状態にあった。
だから、その直撃にたちまち反応して、溜まりに溜まっていたスペルマを一気に吐きだしてしまった。脳天に突き抜けるような快感に痺れた雅人は、「あううッ」と小さくうなって五体を激震させた。
その反応が大きかっただけに、璃未も異変を感じたらしい。
「どうしたの?」
璃未は雅人の顔をのぞきこんだ。
正直に言えるほど図々しくはない。雅人は曖昧に口を動かして、返事をしなかった。
「ねえ」
璃未が興味深そうな顔で雅人を見た。
「もしかして、出ちゃったの?」
「…………」
素直にうなずけなかった。
「ここが……」
璃未は大胆に雅人の股間を膝でグイッと押した。制服の奥のペニスは、出しつくした後は急速に萎えていた。
「湿っぽくなっているわ」
二人は顔を見合わせたまま、しばらく無言だった。璃未の顔は真剣になっていた。
「出したのね」
その声に、今度は雅人はうなずいていた。
しかし、いつも自らの手で慰めた後に来る虚脱感はなかった。体の一部は一時的に衰えたものの、復活するのには大して時間はかかりそうになかったし、何よりも雅人自身がやりたいという気持ちを失っていなかった。
「気持ち悪いでしょう。脱いじゃいなさいよ。ね、そうしよう」
璃未は素早く起きあがると、つづいて起きあがろうとする雅人を制して、ベルトに手をかけた。雅人は任せるしかなかった。放出したものはもう冷たくなっていて、なんとも気持ち悪い。
璃未は制服とブリーフを一緒にして足首から引き抜くと、甲斐がいしく雅人の下腹部の汚れをティッシュペーパーで拭き取った。
ちょっと悪戯っ子のような表情で肉茎をつまみ、興味深そうに縮んだペニスを眺めて「ふふふ、面白いの」と呟いた。
「もういいよ……」
照れくささを隠すように、雅人はつっけんどんに言った。
「ねえ。どうせだもの、全部脱いじゃいなさいよ」
そう言ったときの璃未の声は、どこかせわしなく聞こえたし、また年上の女のようでもあった。今までの落ち着きが欠落していた。
雅人はとっさに従った。ためらったりすれば、チャンスがなくなってしまうような焦燥感があった。雅人は寝転がったまま、着ているものをすべて脱ぎ捨てた。
見ると、ベッドに座った璃未もまた勢いよくトレーナーを脱いでいる。しかし、ミニスカートとパンティははいたまま、彼に添寝をした。
今度は上半身を起こした雅人が、ミニスカートを脱がす番だった。璃未はすっかりその気になっていた。だからさっきのように目を閉じたりせずに、雅人のやることをじっと眺めていた。
鋲やひらひらの飾りのついたミニスカートはジーンズの布地でできていて、手触りがごわごわしている。トラサルディとブランド名の入った皮プレートが縫いつけてあり、なかなかお洒落である。
Tバックに近いパンティは、縦も横もすべてがまるで紐のように細く、特に大事な部分を覆っている中心は、その下の陰阜が強調されたように大きく盛りあがっていた。
しかも陰唇の亀裂に紐状の布地が食いこんでいるから、まるで女陰そのものが露出しているようである。
雅人のペニスは、その刺激的な光景を見たことによって、まるで押さえの効かなくなった遮断機のように、勝手にグーンと持ちあがってしまった。
「ねえ、パンティも取っていいのよ」
璃未はかすれた声を出して、催促するように腰を突きあげた。紐状の布地の脇から、数本の陰毛がはみでているのを雅人ははっきりと見た。手が震えた。
その震えを、璃未は敏感に感じ取った。
うぶなんだ……。
そう思うと、うれしさが体の内部を衝きあげた。股間がスーッとした。ぴっちり腰を覆っていたパンティが引き抜かれると、さすがに股間を晒していることが恥ずかしくなって、そのまま雅人の体にすり寄って抱きついた。
「あ……」
璃未は喉の奥で小さな声をあげ、息を呑んだ。太腿に当たったのは、ほんの少し前にはじけて小さくなったはずの肉茎だった。すでに前と同様に力強く復活して、璃未の肌にじかに心地よい振動を伝えてきた。
二人は体の前面を相手に擦りつけながら、キスに熱中した。雅人は早く璃未の女芯をのぞきたい誘惑に駆られたが、それを露骨に口に出すことはできなかった。
「ねえ……」
璃未はさっきよりもずっとしわがれた声を出して、耳もとに唇を寄せた。
なんだい?……
そんな気持ちで、雅人はうなずきかえした。
「あなたのアレ、見ていい?」
大胆な発言に、雅人は度肝を抜かれた。アレが何を意味するか、雅人にだってよくわかっている。
「おかえしに、おれにも見せてくれる?」
雅人は我れながらうまく切りかえしたと思った。
「ええ。でも、先に見せて」
さんざん見たうえで、「私、やっぱりいやだ」なんて言いだしたりしないだろうか……。
雅人はふとそんなことも考えたが、いざとなれば二人きりなのだから、結局は男の力がものをいうだろうと思い、今度は大きくうなずいた。璃未はそのままの姿勢で、ずるずると足もとのほうへ移動した。
生暖かい息が下腹に感じられると、雅人は首を少し折り曲げるようにして、下腹にはりついている璃未を盗み見た。
前髪がパラリと額から垂れさがっているので、表情そのものはよくわからないが、いかにも観察しているといった感じで、間近に顔を寄せている。
雅人は一瞬、ビデオの女が男にも同じようなことをやっている姿を思いだした。そのとき女はそそり立つペニスに愛しそうに頬擦りしてから、めいっぱい口を開いて咥えこんでいた。
のけぞるような男の反応からして、やはりかなり強い快感を得ていたのではないかという気がする。
それを望んだら、璃未はどんな顔をするだろうか?……
言いたくてうずうずしたが、最初からすべてを望むのは欲張りというものである。それに、いやらしい男と思われたくない。
しかし、頬擦りをしたのは璃未であった。「ああ、すごいんだ」と感きわまったような声をあげると、雅人がびくっとするほど激しく肉茎を掴んで、顔を押しつけたのだ。
興奮と快感が雅人を包みこんだ。
若い女の手で握られているだけでも噴きだしそうなのに、今にも噛みつきそうなやり方で頬や鼻を押しつけるのだから、雅人としてはただうれしいだけでなく、こみあげてくる強烈な性的快感をこらえることに一生懸命になった。
一度放出していたことが救いとなった。もしもそれをしていなかったなら、璃未の顔面に熱い樹液をぶちまけていただろう。雅人はこらえた。そうしながら、もし顔面にシャワーのように浴びせていたならとも考えた。
白いものにまみれて呆然とする璃未を想像すると、是非やりたいという強烈な思いに駆られる。
さすがに単なる想像だけにとどめ、璃未も口に含むことはせずに、「本当にこわいくらいすごい」と呟いて、再びずりあがってきた。目が泣いたように潤み、表情そのものが酔っているようで、上気してもいる。
「さあ、今度はおかえしする番だ」
雅人はそんなことを言う自分の顔を見られたくなかったのと、璃未が心変わりして、見せる約束を反故にしたりしては大変とばかりに、大急ぎで璃未の足もとのほうへとずりさがった。
璃未はさすがに恥ずかしいらしく、両手で股間を覆っている。鼠蹊部に近い部分からチロリと数本の恥毛の先がこぼれていた。それが色っぽくて男の気をそそる。しかし、隠す行為が単にジェスチャーだけであることは、すぐにわかった。
気もそぞろになっている雅人は、乱暴に璃未の両足首を掴んで左右にひろげ、その間隙に入りこんだ。いよいよだと思うと、喉がカラカラに乾き、目の前に星のような光がチラチラと散る。
雅人は何度も目を擦ってから、璃未の両手を静かに掴んで股間からはずした。
璃未はいっさい拒まなかった。あまりの従順さに、むしろ雅人のほうが拍子抜けしたほどである。そして、とうとう雅人は自分と同じ年代の若い娘の大切なところを初めて拝む光栄に浴した。
そこは神秘的な花園だった。男なら誰しもが幻想を抱く憧憬の世界でもあった。恥毛は少なく、その土台になっている女の魅力的な丘は、そこだけ余分な肉をはりつけたように盛りあがっている。
雅人は飽きることなく観察した。今まで夢想していた女体はどこかに吹き飛んでいた。
これが本物なんだ……。
雅人は女のあらゆる部分を記憶にとどめた。そして、璃未がもじもじしだすと、はじめて指先で恥毛をまさぐった。
たったそれだけのことで、璃未はのけぞって喘ぎだした。両脚が知らぬ間にどんどん開いた。雅人はまさぐりながら、熱い地肌にタッチし、次第に深く切れこんだ溝へと指を進めた。
ここから割れ目がはじまる……。
そう思ったとき、璃未の腰が電気にでも撃たれたようにピクピクッと震え、それと同じ数だけ「あっ、あっ、あっ……」と切なげな声を出した。
どうやら指先に触れた肉の結び目のようなしこり状のものが、女にとってもっとも感じやすいクリトリスであるらしい。
なにしろ初めて接触するものだから、確信はない。いつだったか、木地本がノートに卑猥な女陰図を描き「これが女を気持ちよくさせるクリトリスだ」と教えてくれたことがある。
もう一つ、木地本が言った言葉が、雅人の脳裏に鮮烈に甦った。
「馬鹿な男はすぐに強く触るけど、クリトリスは微妙なところだから、ほんの軽くタッチしてやると女は泣いて悦ぶのさ」
木地本は口の端に涎れを浮かべて確かにそう言った。
雅人はそれを忠実に守ることにした。
女の中心の部分はなんといっても頼りないくらい柔らかい。軽くタッチするというのは真実のように思えた。
璃未は絶えずハアハアと荒い息を吐いているくらいだから、決していやな気分でいるわけがない。いくら雅人が性にうとい若者でも、そういった乱れた呼吸が何を意味するかはわかっている。
雅人は用心深く淡い恥毛をかき分けた。スムーズにできたわけではない。指先だけでなく、体も異様な興奮で小刻みに震えた。
肉の裂け目が見えた。頂点に、木地本が図解してくれた小さな突起がある。ホッとした。教えてくれた木地本に感謝した。
本当に木地本が言うように、ここは女を気持ちよくさせるパーツなんだろうか?……
こわごわと人差し指の腹で撫でてみた。その途端だった。
「あううッ!」
璃未が今までの喘ぎ声より数段も高い声を出して、グーンと腰を突きあげたのだ。
雅人は効果の大きさに仰天した。それだけで彼の好奇心は一気に増幅した。だが慎重さだけは忘れなかった。もっと顔を近づけて、恥毛の先が鼻の穴をくすぐるほど接近した。すぐに微妙な女の匂いが鼻腔をくすぐった。
今まで一度も嗅いだことのない匂いだった。匂いをいっぱい吸いこんだことで、雅人のペニスはいっそう力を増した。
「そこ……気持ちいいわ……」
璃未の正直すぎる告白は、雅人の鼓膜を心地よく刺激した。
「そんなにいいの?」
聞かずにはいられなかった。またしても璃未は素直にうなずいた。
雅人は複雑な形をしている表皮をそっと剥いてみた。小さな肉芽がぴょこんと飛びだした。
不意に、女の女陰を舐めているビデオの男の姿が脳裏をよぎった。指先でなく、舌の先端で肉芽を舐めた。その行為は、得体の知れない力に揺さぶられた結果だった。
「ヒィーッ!」
甲高い悲鳴が雅人を驚かせた。あわてて舌先を後退させる。
「もっとそれをして……もっとして」
璃未がせがんだ。内心の動揺とうれしさを隠して、雅人はまた同じことをした。木地本の言ったことはすべて正しかったのだ。璃未はしまいにはわけのわからないことを口走って身悶えた。
おや!?……
雅人は、指先がいつのまにかヌルヌルの粘液にまみれていることに気づいた。それがどういう結果によって生じるものか、もうわからない歳ではない。
とうとうやった!……
まだ女体に真の意味で接していなくとも、雅人がそんな感慨を抱くのは、もっともなことであった。
「ねえ……もっといっぱい触って」
息苦しそうに璃未が訴える。
「いっぱいって、どんなふうに?」
「あちこち……いろんなところよ」
言葉だけでなく、璃未は雅人の手首を掴むと、クリトリスよりさらに下の割れ目へと導いて「ここ……こっちもよ」と呟いた。
雅人はあまりにもひどい濡れようにびっくりした。それは彼の想像をはるかに超えていた。まるで小水をもらしたように、ぐずぐずに濡れている。
ただ小水と違う点は、油でも垂れ流したように、ツルツルと滑りやすい溶液に満ちあふれていることであった。
そっと触るんだ、そっと……。
触るといっても、つまんだりすることは溶液のせいで不可能だったから、ただ指先で柔らかい粘膜の表面だけをスースーと撫でるだけであった。
ところが、こういうやり方もまた璃未の意にかなったものだったらしく、彼女はにわかに信じられないような変わりようを見せた。
「気持ちいいわ……素敵よ……ああ、いいわあ……」
そう絶えず口にしただけでなく、セックスそのものをするときのように時折り腰を突きあげたりもしたのだ。
その卑猥な動作がもたらす若者への挑発は、いかなる剛の者でも耐えることができなかっただろう。ましてや雅人は、すべてが生まれて初めて目にする出来事だったからなおさらであった。
雅人は時折り手を休めて、目の前の淫らな女の中心を観察した。男を夢中にさせるものの正体は、実に複雑な形態と色をしているにもかかわらず、何者をも誘惑せずにはおかない不思議な要素をすべて備えていた。
「小笠原くん……変になりそう」
璃未は股間をびしょびしょに濡らしながら、今にも泣きだしそうな声を出した。そういうときにも、腰を煽情的に突きあげたり、狂おしげに全身をうねらせる。
「どうしたの? どうして変になるんだ?」
雅人は、さすがにこんな場合の女の状況まで把握していなかった。わざと女に恥ずかしいことを言わせるために「どうして?」と尋ねるのとはわけが違う。
「ねえ、なぜだい?」
ひょっとして、自分の触り方や愛撫の方法に間違いがあるのではないか。璃未は痛がったり、気分がすぐれなくなったのではないか。雅人は純粋な気持ちで聞いた。
「だって……だって……」
璃未は半泣きになって両手で顔を覆った。
「あんまり気持ちいいんですもの……死にそうにいい気持ちなの」
雅人にとって、それは思いがけない称賛の言葉であった。
「ねえねえ。小笠原くん、まだ我慢できるの?」
二番目に衝撃的な言葉があった。裏をかえせば「もう私は我慢できないの」ということに他ならない。もっと直接的に言い換えるならば「早く入れて」ということではないか。
「さっきからずっと我慢してたけど……もう……もう駆目だ」
璃未の誘い水が、限界へ挑戦する緊張線をプッツリと切断してしまった。こうなると若いだけに抑えがきかない。一気に突っ走るしかなかった。
しかし、雅人は別の意味で緊張していた。初めてという言葉が重くのしかかっていたのだ。だが、本能が先行した。体が璃未の上に覆いかぶさっていた。
ジャリッと恥毛同士が擦れて絡み合った。すぐに亀頭の先があちこちに当たった。璃未が手を伸ばして肉茎を支え持ち、大きく開いた彼女自身の淫裂へと導いた。
雅人は璃未に握られたときに、もう自分の限界をはっきりと感じた。そこですべてが終わりそうだった。初体験のエネルギッシュな若者なら、それはしごく当然のことであった。
「入れたい! 早く入れたい!」
わめいたのは雅人だった。十七年生きてきて、これほど憧れていたものが二つとあっただろうか。
「押して……」
璃未が肉茎から手を離して、あわてて雅人の尻肉をかかえた。
雅人は全身を震動させながら、めちゃくちゃに腰を突きだした。
ヌルッとした感触だけはわかった。後はすべてが夢のなかであった。肉棒からはじけるような快感が湧くと、それは腰骨と背骨を麻痺させるような激震を与えて、脳天にまで突き抜けた。
閉じた瞼の裏で、数百数千の火花がはぜた。肉棒がとろけるような衝撃が全身を走り抜けたとき、雅人はおびただしい歓喜のしるしを放って、そのまま気が遠くなるような感覚を味わうのだった。
完