その日、緋菜は担任に手伝いを頼まれた関係で、普段は使わない3年生の教室前を通らねばならなかった。
昼休みということもあって、多くの大人びた雰囲気の先輩たちが、教室を出たり入ったりしている。緋菜は、そこを遠慮がちに歩いていく。
そこへ、前からひときわ目立つ2人連れの女性の先輩が歩いてきた。
一人は長い黒髪の、和風美人。一人はボーイッシュなショートヘアの似合う、活発な感じの女の人。
緋菜は立ち止まって、その二人をひととき見つめた。
黒い髪の人物は知っていた。確か有森瞳美さん。
成績優秀で、他の学年にその名前が知られているほどの美人。緋菜のクラスにもファンを名乗る男子は大勢いた。
もう一人は知らない。でも有森さんととても仲がよさそう。そして、よく見れば彼女自身もかなりの美人であると思われた。
(あんな感じだったら、私もすぐに森崎くんに振り向いてもらえるかな)
大人の魅力。自分には一番欠けているもの。それがあれば、森崎くんも私のことを「そういう目」で見てくれるんじゃないか…。
そんなことを考えながら、緋菜は二人が自分の隣を通り過ぎるのを、黙ってみていた。
彼女たちが通り過ぎるそのとき、ショートヘアの人と、緋菜の目が一瞬だけ合った。じっと見つめていた緋菜は慌てて視線をそらす。
…ところが。相手はっ、と立ち止まると、緋菜の顔をまじまじと見返してくる。
「…あなた…」
いぶかしげな声に緋菜はどきりとした。別にやましい所はなかったが、やはり見知らぬ先輩から声をかけられるのは緊張する。
「もしかして、ヒナちゃん?」
その人が、自分の名前を呼んだので、緋菜はびっくりしてその人の方を向いた。
「やっぱりそうだ!ヒナちゃんじゃない!うわーっ、なつかしいわねーっ」
そういって、ショートヘアの人は緋菜の両肩をつかんだ。びっくりして緋菜が硬直していると、ショートヘアの人はちょっと顔をしかめて言った。
「もしかして、私のこと分かってない?」
緋菜に心当たりはない。だが、その人のくりくりとした大きな目にじっと睨まれて、思わず緋菜はいいえ、と首を横に振ってしまった。
とはいえ、この人はどこかで見たことがある。それもそんな昔じゃなく、毎日のように…。そう、よく知っている人に似ているのだ。
「も…」緋菜が知らず知らずそうつぶやく。
「も?」相手はますます顔を曇らせる。
「も、森崎…」
緋菜が勇太君、という前に、相手の女性はにっこりと笑いながら緋菜の肩をばんばんとたたいた。
「そーよ、分かってるじゃない、森崎るりよ。るり。昔よく遊んだじゃない」
るり。その名前を聞いて、緋菜の心にフラッシュバックのように幼少の思い出が蘇った。
あっはっはっはっは。
快活なるりの笑いが、森崎家の居間いっぱいに広がる。
廊下で出会ったとき、とりあえず緋菜はるりにクラスを教えたのだが、早速その日の下校時間に、るりは2−Aに現れた。
そして、緋菜を半ば強引に自分の家に連れてきたというわけだった。
「まっさか、勇太の方が出てくるとはねー」
るりは何がそんなにおかしいのか、涙を浮かべて笑っている。
「ごめんなさい。るりちゃん」
真実を告げ、頭を下げる緋菜。それに向かって、打ち消すように手を振りながら
「いーのいーの。会うのは十何年ぶりなんだし。よく似てると言われるしね」
そう言うと、さもおかしそうにるりは笑った。
居間に通された緋菜は、るりと向かいあってお茶を飲んでいる。勇太はいなかった。るりの言うには、
「晩御飯にはラザーニャ(板状パスタと色々なソースを層状にしてオーブンで焼くイタリア料理)が食べたいな」
とリクエストしたので、勇太は買い物で遅くなるはず、ということだった。田舎町では何よりラザーニャのパスタを手に入れるのが大変らしい。
「それにしても、緋菜ちゃんも勇太のこと気がついてなかったのね?」
るりにとってはそこもまた笑いの原因らしい。緋菜自身も驚いたことに、るりに会うまで、勇太と遊んだ幼いころの記憶は全く蘇ってこなかった。
「しかも、気づかずに勇太のこと好きになって、告白しちゃうなんて…」
そこまで言って我慢できなくなったのか、るりはまたぷっ、と噴き出した。何度も笑われて、さすがに緋菜もむっとした顔を見せる。
「ああ、ごめんごめん。でも、やっぱ可笑しいよ。だって勇太と緋菜ちゃん、結婚式しようねって約束するぐらい仲が良かったのよ?」
緋菜はその約束も思い出していた。何でそんな話になったのかは忘れたけれど、勇太と結婚式しよう、と言ったのは憶えている。
約束の日、彼は来なかったけれど。
緋菜は、るりにそのことを話した。彼はなぜ来なかったのか、そしてそれ以来なぜ遊びに来なくなったのか、と。
そう尋ねられると、るりはぱたりと笑うのを止め、急にさびしそうな顔をした。
「それは…とっても長くて、むずかしい話なの」
るりの態度の急変に、驚きながらも緋菜はその続きを促さずにはいられなかった。
「その前の日、突然電話が入ったのよ。『おかあさんが倒れた。すぐ家に戻れ』って…」
そしてるりはかいつまんで、母親をなくした勇太が昔の記憶を封じ込めたことを話した。悲しい記憶を思い出さないために…。
「…だから、緋菜ちゃんには悪いんだけど、勇太が思い出すまで、緋菜ちゃんは今のままでいてくれないかな?」
るりが目をふせながらそう言ったとき、今日なぜるりが強引に自分をここに連れてきたのか、分かったような気がした。
言い方は悪いが、私の口封じのためなのだ、と。
緋菜が実は幼馴染と名乗り出れば、勇太は必然的に母親のことを思い出す。そのとき勇太がどうなってしまうか、るりにも想像できないのだろう。
「いつかは思い出さなきゃいけないことよ。でもそれは今じゃないと思うの。どうせ、緋菜ちゃんと付き合ってくうちに自然に思い出すだろうし…」
「べ、別に私たち付き合ってるわけじゃないの、るりちゃん」
慌てて緋菜は訂正を入れる。驚いて目を上げるるり。普段から丸い目がよりいっそう丸く見開かれている。
「え?だって緋菜ちゃん告白したんでしょ?じゃあなんで付き合ってないの?」
そこで緋菜は、勇太が答えを保留していることをるりに語って聞かせた。今は勇太の答え待ちだということを。
「…勇太のくせに、ぜいたくねーっ!こーんなかわいい子に告白されて、はぐらかすなんてっ!」
「べ、別に森崎くん、はぐらかしてるわけじゃ…」
矛先が勇太に向かいそうなので、緋菜は必死でフォローする。だが一度火のついたるりの怒りは収まらない。
「緋菜ちゃんも緋菜ちゃんよ。そんなゆーちょーな事言ってるから、勇太がいつまでたっても煮え切らないんじゃない。これは私が一肌脱ぐときね」
そういうと、るりはさっと立ち上がって緋菜の手を取った。そして、強引に緋菜を引っ張って歩く。
「今日は勇太のこと、もっと教えてあげるわ。勇太の弱点とか、弱みとか、暴露されたくない秘密とかね」
それって全部おんなじ意味なんじゃ…と思ったが、緋菜は黙っておいた。
それから一時間ほど、るりの部屋を教室に、るりの「勇太レクチャー」は続いた。
と言っても、弱みとか、秘密ではなく、緋菜と会わなくなってからの勇太の生活のことがほとんどで、簡単に言えば思い出話だったのだが。
「…で、最大の問題。女性の好みね…」
勇太の昔話は楽しく聞いていた緋菜だったが、るりがそう言い出したので、姿勢を正すと真剣な表情をした。それはとても大事なことだ。
「知ってると思うけど、結構あいつはスケベだからね。その点、緋菜ちゃんかわいいし、胸はおっきいし、ウエスト細いし、ぷにぷにで100点満点ね」
るりの表現に顔を赤らめる緋菜。自分の体型は一応客観的に理解しているつもりだが、そうはっきり言われると、流石に照れる。
「ただ、勇太は優柔不断だから、女のほうから積極的に動かないと、なかなかなびかないと思うのよ」
「そう…なのかな?」
緋菜は不思議そうな顔をする。私の前では結構頼りがいがあるように見えるんだけれど…。
「そうよ。あいつちょっとシスコンだし。まあ母親不在だったから仕方ないのかもしれないけどね。だから甘えるより、甘えさせる!これよ」
そう言ってるりは緋菜の肩をぽん、と叩いた。
「緋菜ちゃん、勇太に何かアプローチかけた?」
そう言われて、緋菜はこの前手作り弁当を作って、ふたりっきりで食べたという話をしてみせた。
「ふーむ。手作り料理とは、なかなかポイント高いわね…でもそれだけじゃ押しが足りないわ」
曜子と同じこと言ってる、という感想は胸にしまって、緋菜はるりの話を黙って聞くことにした。
「もっと別のアプローチがあるでしょ?緋菜ちゃんの持ってる『武器』を使ってさ」
「私の………武器?」
るりはにやにや笑いを浮かべて見せたが、緋菜はぽかん、とるりの顔を見上げている。
「私の武器って言うと…テニス、とか…?」
「ちがう」即座に入る否定。
「何にもないところでこけちゃう、とか…?」
「それにグっと来る男もいるけど、そうじゃなくって!…もしかして本気で分かってない?」
緋菜は全然分からない、というように何度もうなづいた。はぁ、とるりが大きなため息をつく。
「さっき言ったじゃない。勇太は『スケベ』だって。だから使うのよ………緋菜ちゃんのに・く・た・い」
「に、肉体?」
緋菜の声が一オクターブ跳ね上がる。
「そう。たとえば、腕を組んでおっぱいをぎゅーっと押し付けるとか、うっかりしたふりで勇太の膝に座ってお尻を…」
「そ、そんなの、私出来ないよっ」
今度は緋菜が即座に否定する番だった。目の前で微笑まれただけで胸がどきどきして動けないときもあるのに、どうしてそんなことが出来るのか?
「………ウブなんだ、緋菜ちゃん」
るりが不意にいたずらを思いついた子供のような顔をしながら、緋菜の背後に回りこんだ。緋菜は、顔だけ動かして、るりの動きを追った。
緋菜の背後に回りこんだるりは、緋菜の後ろに腰を下ろす。
「………こーんなイイもの、持ってるのに」
そういうと、るりは不意に緋菜の両胸を、後ろからわしづかみにした。
「きゃっ!」
突然のことに、緋菜は慌てて逃げようとする。しかしるりは後ろから羽交い絞めにして、緋菜を逃さない。
「へっへっへー。捕まえたー」
「ふ、ふざけないでるりちゃんっ」
手をばたつかせて、必死で逃げようとする緋菜。だがるりはその動きを完全に封じている。
「もー。照れちゃって。…カワイイんだから」
最初からかい口調だったるりの声が、不意に調子を変える。やがて、るりは緋菜の胸にそっと手を回すと、それを制服越しに揉み始めた。
「男の子の喜ばせ方教えてあげる」
そう言って、るりは背後から緋菜の耳たぶを口に含んで、軽く噛んだ。
「きゃふっ」
初めて経験した「甘噛み」に、緋菜の口からそんな声が漏れた。そんなことはお構いなしにるりは緋菜の耳たぶを含んだまま、ぺろぺろと舐め始める。
胸を触るるりの手は、同じ女同士だからなのか、緋菜にとって痛すぎず、かといってくすぐったくもない、そんな強さでゆっくりと乳房を揉みほぐした。
たちまち、緋菜の乳房は張り詰めたように制服の下で圧迫感を増していく。そして緋菜は、次第に自分の乳首が硬くなるのを感じていた。
それを見透かすように、るりの人差し指が乳首をぎゅっと押し、くりくりと転がした。
一方、耳たぶにキスが生み出す粘りを帯びた音と、首筋をくすぐる、るりの吐息が、緋菜の体に淫らな火をつける。
「るり…ちゃん…」
「緋菜ちゃん、かわいい…」
すでに、緋菜は逃げ出すことを忘れていた。それどころか、るりの愛撫をもっと求めていた。
自分の意思とは関係なく動く指が、舌が、緋菜の「感じる場所」を求めて動く。それは緋菜にとって未体験の出来事だった。
まるで絞るように、るりの手が緋菜のバストをもみ上げる。快感のうねりが、緋菜の体を自然にるりの方へとひきつけていく。
るりは片手を胸からお腹へと滑らせる。そして、自分にもたれかかってくる緋菜の、おへその周りを円を描くようになでた。
「あっ…ふぅん…」緋菜が思わずそうつぶやく。
「緋菜ちゃん、おへそが敏感なんだ…ふふっ、今度勇太に教えてあげなきゃ」
そのるりの言葉に緋菜は思わずはっとなって振り向く。
「へ、変なこと森崎くんに言わないでっ…!」
「冗談よ、じょーだん…言うわけないじゃない…」
くす、と笑いながらるりはまた緋菜のおへその周りを指先でなぞった。そして…るりは手をお腹から下腹部へと伸ばす。
緋菜は、自分の体を這っていく、るりの手を熱くうるんだ目で追った。
緋菜の火照った体は、いまや最後に残された、秘所への愛撫を待ち焦がれていた。るりの手が近づくにつれ、緋菜の「あそこ」がきゅっ、と緊張する。
だが、あと少しでそこに指が届くというとき、るりの手がぴたりと止まった。
「あ…?」
突然の中断に、緋菜はとまどう。
「ここから先は、ベッドの上で………ね?」
るりは緋菜の頭をなでながら、そう緋菜の耳元でささやいた。るりの絡みつくような吐息が、緋菜の耳にあたる。
その誘いを断るすべを、緋菜は持っていなかった。思わずるりに熱っぽくささやく。
「は…はい…。お願いします…」
(きれい…)
緋菜はショーツ一枚だけになったるりの姿を見て、思わずごくっ、と息を飲んだ。
しなやかな両腕と、ほどよく引き締まった足。形のいい、お椀型の乳房。きゅっとくびれたウエストに、縦長の形のいいおへそ。
それに薄いピンクのショーツに覆われた、やわらかそうな秘部。動物に例えるなら、俊敏なカモシカを思わせた。
るりと同じく、ショーツだけを身に着けた姿で、緋菜はベッドの上でるりと向かい合っていた。
「どうしたの、緋菜ちゃん、ぼんやりして」
声をかけられて、緋菜は我に帰る。
「あ、あの。るりちゃんの体、とっても綺麗だから…」
その言葉にるりはにっこりと笑う。
「ありがと。でも、緋菜ちゃんの体もとっても綺麗よ」
そういってるりは緋菜のほうへと近づいた。
ぎしっ
ベッドのきしむ音。るりは緋菜の目をじっと見つめながら、鼻と鼻がぶつかるくらいの距離まで顔を近づけた。
そして、軽く目をつむると、緋菜へと唇を突き出す。るりが何をしようとしているか察して、緋菜はあわてた。
「ま、まってるりちゃん。く、唇は駄目なの…私…」
るりの動きがぴたりと止まる。そして目を開くと、しばらく不思議そうに緋菜の顔を見ていたが、やがてははぁ、と何かを察した顔をした。
「ファーストキスは勇太のもの、ね?」
こくこく。恥ずかしさに顔を赤らめながら、緋菜は何度もうなづいた。
「分かった。じゃあ唇にキスは無しね」
るりは微笑みながら、緋菜の頬に軽くキスをする。そしてそのまま緋菜の耳を口と舌で刺激し始めた。
そして、片方の手で緋菜を抱き寄せると、もう一方の手で緋菜の乳房を下からたふたふ、ともてあそんだ。
「ふふ…ほんと、おっきなおっぱい。こんな素敵なおっぱいを自由に出来るなら、どんな男も即OKのはずよ?」
そう言いながらるりは緋菜の乳首を軽く摘む。
「きゃんっ」思わず緋菜が叫ぶ。
「おっきいけど張りがあるし、乳首はツンって上向き。男の子の理想じゃない?勇太は幸せ者ね、こんなおっぱい自分の物に出来るなんて」
挑発的なるりの言葉に、思わず緋菜は自分が勇太に乳房を愛撫される様子を想像した。
るりの手を、勇太の手だと思って、もしもそうなった時のことを考えてみる。
(もしそうなったら…私、どうなっちゃうんだろ…)
るりの愛撫ですら、身も心も溶けてしまいそうなほど熱くなる自分。それがもし勇太に抱かれたら…。緋菜には分からなかった。
「もう、こんなに固くなってる…かわい…食べちゃうね」
そういうとるりは緋菜の乳首をぺろっ、と舐めると、そのまま口に含んで吸った。
「はぁっ、はァ………ん」
「…合格よ、緋菜ちゃん。感度も最高ね」
そんなことを言いながら、るりはこりこりの緋菜の乳首を執拗に嘗め回した。
そして、両手で緋菜の乳房を真ん中に寄せると、まず右の乳首、次に左の乳首、と交互に吸い上げていった。
「きゃんっ…はぁんっ…」
るりが吸うたび、緋菜が甘い吐息を漏らす。乳首をやわらかく噛んだまま、るりは舌先で何度もその先をはじく。
「ふっ…うぅん…そんなに吸ったら、色黒くなっちゃう…」
あんまりいじると、黒くなったり大きくなったりするよ、そう言った曜子の顔が蘇る。
「…馬鹿ね、そんな簡単にならないわ。それより、もっと吸ってほしいんじゃない?」
るりは緋菜の言葉を軽くいなして、さらに緋菜の乳房にむしゃぶりついた。緋菜の胸の先に、ぴりぴりと心地よい刺激が走った。
ゆっくりと緋菜の胸全体に愛撫を与えると、るりはそっとそこから口を離した。
既に緋菜のバストはるりの唾液でべたべたになっている。窓から差し込む夕日に照らされ、緋菜の双丘が淫靡に光る。
「ここは、どうなってるのかな〜?」
るりはそう言って、緋菜のショーツの中へと手を差し込んだ。緋菜はるりに差し出すように腰を前に突き出す。
しかし、るりの指が恥丘に触れた瞬間、緋菜の体がびくっと跳ねた。
それにかまわず、るりの手は緋菜の秘所へと滑っていく。
「こら。逃げないの………うわぁ………緋菜ちゃん、もうぐっしょり濡れてる…」
「い、言わないで…」
既に制服の上から愛撫されていたときに、緋菜のあそこはしっとりと湿っていた。しかし、いまやそこはあふれんばかりの汁気を帯びていた。
「濡れやすいんだ…うらやましいな」
そんな緋菜を、るりは指でいじくりまわした。緋菜の白いショーツの中で、るりの手は変幻自在に動き回った。
「ふァ…す、すごく気持いい…」
そう緋菜がつぶやく。るりの指はまず陰唇を刺激したあと、そして緋菜のクリトリスを執拗に攻め続けた。
「うわあ…緋菜ちゃんのクリトリス、すごく硬くなってるよ」
わざとるりは緋菜の耳元でささやく。
「だ、だから変なこと、い、言わないで…」
恥ずかしさと、興奮に顔を真っ赤にして、緋菜はそう答える。しかし、そう言いながら自らの体の火照りは止めようも無い。
「普段からオナニーしてるのね?でも、これは…」
そう言ってるりが指で緋菜の割れ目をこじ開けようとする。突然走る痛み。
「ひぁっ!?」
「まだ未開発、か…。ふふふ…。ま、勇太のために取っといてあげるわ」
るりはそんなことを言いながら、今まで緋菜のショーツの中に入れていた手を抜く。そして、その指先を緋菜の目の前に突き出す。
「ほら、緋菜ちゃんの『おもらし』のせいで、こんなにべたべた…」
そう言って、るりは人差し指と親指で、自分の手についた愛液を伸ばしてみせる。ねちゃねちゃと緋菜の愛液が糸を引いてるりの指にからむ。
意識していないとはいえ、自分のしたことの結果を見せつけられて、緋菜は赤面した。しかしるりはその手をしっかり緋菜に見せつけた。
「…これ、緋菜ちゃんがきれいにするのよ。口でね」
突然、るりはそう言い放った。緋菜の目が見開かれる。
「そ、そんなっ…」
「これは意地悪で言ってるんじゃないの。練習よ、練習」
「れ、練習?」
思いがけない言葉に緋菜はとまどう。るりは緋菜を見つめながら、確信ありげにうなづく。
「そう。これを勇太のペニスだと思って舐めなさい。フェラチオぐらい、緋菜ちゃんだって知ってるでしょ?」
「フェ、フェラ…」
るりの口から発せられた言葉に、緋菜は驚きのあまり飛び上がってしまう。
確かに緋菜はその行為を知っている。女の子向け雑誌で知った、やり方。曜子が教えてくれた、初めて「彼氏」にフェラしたときの男の喜びよう。
『緋菜にもやり方教えてあげようか?男の喜ばせ方』
そんな曜子の言葉に、その時は緋菜はあわてて激しく首を振って拒否したけれど、後になって少し後悔したものだった。
それを今、るりは実践してみろ、と言う。
「女の子が受身でいられるのなんて、最初だけ。女の子も積極的に…ね。いい?セックスってのは『愛される』んじゃなく『愛し合う』ものなの」
真剣な口調でそう諭するりに、緋菜は決意を固める。手を目の前でぎゅっ、と握ると、力強くうなづく。
「…わかった。やってみます…」
緋菜はるりの差し出された手を両手でそっと自分の口元に引き寄せる。指からは、むせるような自分の『女の匂い』が立ち上る。
(森崎くんの、おちんちん…)
緋菜はそれを心に思い描く。
緋菜が実際に見たことのある男性器と言えば、小学校に上がるまで一緒にお風呂に入った父親のそれぐらいしかなかった。
だが、その記憶はあいまいで、正確な様子は思い出せない。
以前曜子が「勉強用に」とこっそり貸してくれたAVも、その部位にはモザイクがかかっていた。
そこで、緋菜は女性誌の性特集の写真にあった、コンドームをかぶったバナナを想像した。それをモデルが口に含む写真を。
手をそえて、るりの人差し指と中指をそっと口に含む。
しょっぱいような、苦いような、なんとも言えない愛液の味に、一瞬顔をしかめるが、それでも必死でその粘り気のある汁を舐め取っていく。
「駄目よ。ただペロペロ舐めたって、男は喜ばないわ。もっと変化をつけるの」
るりのダメだしに、緋菜は必死で雑誌の記事を思い出す。
「もっと、勇太を喜ばせることを考えて。さっき私が緋菜ちゃんにしてあげたみたいに、いっぱいいっぱい、刺激するの」
その言葉に、緋菜はるりの指にしゃぶりつきながら、勇太のことを考える。
夢の中に出てきた、全裸の勇太。その下半身に、自分の顔を近づけるところ。その男性自身を口に含むところ…。
緋菜はそれを思いながら、自分の口の動きに精一杯の変化をつけようとした。
「…そう、そうやって下から上に舐めあげたり…先っぽをすったり………うまいわ。緋菜ちゃん」
そう言われても緋菜には自分が上手なのかどうか分かるはずもない。るりの言葉も耳に入っていなかった。ただ勇太が喜ぶであろう事だけを考えた。
緋菜は夢中でるりの指を舐める。人差し指と中指から愛液を舐め取ると、次は親指から順番に、一本ずつ丁寧に口に含んでは舐めていく。
「ふぅっ…んっ…ふっ」
緋菜の口から無意識にそんな吐息が漏れる。指の一本一本、その付け根から先まで、裏も表も、丹念に舐める。舌をすりつけ、唇ではさみ、しごく。
緋菜は口だけでなく、頭全体を動かすようにして、るりの手に吸い付いた。
ちゅぽんっ
小さな音と共に、緋菜の口がるりの最後の指−小指−から離れた。そしてベッドの上にへたりこむと、肩で大きく息をした。
「よかったわよ。緋菜ちゃん」
るりがやさしく緋菜の肩を抱く。緋菜は疲労のあまり、倒れこむようにるりの胸にすがりついた。
「本当…?」
不安げな顔の緋菜に、るりはこくりとうなづく。
「うん…だって私のアソコもこんなに…」
そして、緋菜の手を取って自分の秘所に導く。
…緋菜の指に、熱い液体が絡みついた。思いがけないるりの変化に、緋菜は思わず、るりの顔をまじまじと見た。その瞳は何かを求めている。
「…頑張った緋菜ちゃんに、ごほうびあげなきゃね」
「ごほうび…?」
そう言うと、るりは黙って緋菜を仰向けにベッドに押し倒した。
まず自分のショーツを脱ぎ捨て、緋菜の頭をまたぐようにして、るりはその上に覆いかぶさった。緋菜の目の前に、るりの陰部がむきだしになる。
るりは緋菜の腰から荒々しい手つきでショーツを剥ぎ取る。それから、まだたっぷりと湿り気を帯びた部位に、そっと顔を近づける。
「たっぷり、かわいがったげる」
そういうとるりは緋菜の尻を両腕で抱くようにしながら、そっと緋菜の割れ目に口づけを与えた。
「はぁああっ…」
緋菜はその瞬間、ため息交じりの悲鳴をあげた。自慰では感じたことの無い快感。るりのざらざらとした舌が、緋菜の敏感な部位を何度も何度も舐める。
そのたび、緋菜は悦びの声をあげた。
その声に呼応するかのように、るりの舌が緋菜の陰部を動き回る。そして、ますます緋菜の肉壷から液を滴らせる。
緋菜は目を閉じ、夢中でるりの愛撫を受けていたが、顔にぽたり、と何かが当たる感触に、思わず目を開けた。
目の前に見えるるりの陰毛の先から、粘っこい液が緋菜の顔にしたたっている。
「私も、気持ちよくしてくれるかな…?」
そういうと、るりは今まで高々と上げていた下腹部を、るりの顔へと押しつけてきた。
緋菜は押しつけられた陰部に、恐る恐るではあるが、舌を伸ばしていった。そして、るりの黒々とした茂みを舌で書き分けると、るりの陰唇をそっと舐めた。
「ふわっ…いいわ、緋菜ちゃん…もっと舐めて…」
そう言いながらるりも無心に緋菜のクリトリスにしゃぶりつく。緋菜はそれに答えるようにるりの割れ目を舐める。
「あっ…ふぁっ…うん、いいよ緋菜ちゃん…」
「ほ、本当ですか…?」
「お願い…そのまま………そのまま舌を入れて…!」
「はっ、はい…っ」
うっとりとしたるりの言葉に、緋菜はなんのためらいもなく、目の前のヴァギナに舌を突き入れた。
燃えるような熱さとともに、愛液がどっと緋菜の舌にからみつく。るりの膣口からあふれたそれは、舌を伝わって緋菜の顔へと滴り落ちた。
緋菜は無我夢中に、舌をるりの中でこねくり回した。るりは歓喜の声を漏らしながら、緋菜の性器にキスした。
ぬちっ。ぬちっ。
「ふァっ…はぁん…あぁん…」
くちょっ。くちょっ。
「ひぃっ…ん、ひぃぃんっ」
二人の口から押さえようのない声が絶え間なく響く。そして、汁気を帯びた音が二人の耳にも届いていた。
互いが作り出すいやらしい音。そして二人が放つむっとした女の匂い。それらが合わさり、緋菜とるりをますます狂わせていった。
互いの愛撫は終わることをしらないかのように思われた。そのとき。
ガチャッ
一階から、鍵を開ける音が聞こえてきた。そして、ぎぃっという玄関のドアが開く音。
「るり姉ー。帰ったよー。るり姉ってばー」
聞きなれた男の声が二階の緋菜の耳にも届いた。
(も、森崎くん?)
慌ててるりの秘部から顔を話す緋菜。だが、るりはまだ緋菜のそれを舐め続けている。
「る、るりちゃんっ…森崎くん、帰ってきちゃった…っ」
そう声をかける緋菜を無視して、るりは性戯を続ける。聞こえてないのかと思って、緋菜は再び声をかける。
「るりちゃん…早く、服着ないと、森崎くん上がってきちゃうっ…」
だが、るりは一瞬だけ緋菜の方を向くと、にやりと笑って見せた。
「…もし、勇太がこの部屋に入ってきたら、どうなるかしらねぇ…?」
そういって再び自分の行為に戻るるり。緋菜は逃れようとするが、るりに乗りかかられているうえに、るりのテクニックが生み出す快感で力が出ない。
「だ、ダメ。森崎くんに見られたら…」
恐ろしい想像が緋菜の脳裏をよぎった。
「そのときは、勇太にも参加してもらったらいいじゃない。…そんでもって、ここでバージンあげちゃったら?」
「そ、そんなの…っ!」
緋菜の体が恐怖で引きつり、鼓動が高まる。いや、それは恐怖なのか、それとも『期待』なのだろうか。
緋菜の体が動かないのは、もしかしてそれを期待しているからではないのか。今この場で、勇太に抱かれることを…。
だが、そんなことを考えることも出来ないほど、緋菜の体はるりの舌技の虜になっていた。
「るーりーねーえー!いるんだろー」
そう言いながら勇太は階段を軽やかに上がってくる。とんとん、という足音が次第にるりの部屋へと近づいてくる。
だが、るりはそんなことお構いなしに緋菜のクリトリスに歯を立てた。
「きゃうっ」
これまでで一番大きな声が、緋菜の口から飛び出す。あわてて自分の手で口をふさぐ緋菜。
勇太の足音はますます大きくなり、るりの部屋の前でぴたりと止まった。
「るり姉、いるんだろ?入っていい?」
がちゃっ
勇太の手がドアノブにかかる音。
緋菜は最後の力を振り絞って、るりから逃げようとする。しかし、その試みは波のように打ち寄せる快感にたわいもなく打ち崩されてしまう。
「あーっと勇太。ダメよ、入っちゃ!」
という、るりの言葉。その瞬間、緋菜は全身の力が抜けるのを感じた。
「あ、誰か来てるの?下に靴が二足あったね」
すぐドアの向こうには勇太がいる、そして自分はその反対側で全裸でるりの愛撫を受けている…。緋菜の胸は張り裂けそうなほど高鳴った。
「そうよ、あんたのよく知ってる人」
るりは勇太に声をかけながら、キスを続ける。わざと、大きな音を立てるように、今まで以上の強さで。
「誰?有森先輩ですか?」
勇太の声が少しかしこまる。その声を聞いて、るりはまた不敵な笑みを緋菜に向けた。
「違うわよ、楠瀬さんよ」
「く、楠瀬さん?!」
勇太の声がすっとんきょうな調子に跳ね上がる。
「ほら、挨拶しなさいよ」
るりは小さな声でささやくと、また緋菜の股間に顔をうずめた。
「も、も、森崎くん…?ふぅっ…わ、わた、私…」
快楽の吐息を噛み殺し、息も絶え絶えに緋菜が答える。
「本当に楠瀬さん?ど、どうしてウチに?」
「あー、あとでゆっくり話すわ。あとで呼ぶから、あんた着替えてきなさい」
「わかったよ…じゃ楠瀬さん、また後で」
るりの言葉に、勇太が大声で答える…その瞬間、るりは緋菜の陰核を思い切り吸い上げた。緋菜の体を絶頂が襲う。
「う、うんっ!!………ふぅんんんっ!!」
緋菜の口から最後の吐息が堰を切ってあふれた。
がちゃ。
それと同時に、勇太の部屋のドアが閉まる音。緋菜は気が遠くなるような錯覚を覚えた。
るりはゆっくりとベッドから降りると、緋菜の方に向き直った。一方の緋菜は、まだ体に残る快感の余韻にぼんやりとひたっている。
「ふふふ…イっちゃったんだ…」
「る、るりちゃん………私の声、聞こえたかな」
緋菜の目から、自然に涙がこぼれる。緋菜は思った。最後の声がもし聞こえていたら、何もかも終わり、と。
「…大丈夫じゃない?きっと」
だが、緋菜の悲壮な思いとは裏腹に、るりはあっけらかんと言った。それを聞いて緋菜の顔にかすかに笑みが戻る。
「それとも、あとで勇太に聞いてあげようか?『緋菜ちゃんのイった声、聞こえた?』って」
るりはそれが普通のことであるかのように無邪気な様子で聞いた。
「や、やめて…!!」
ぱっと緋菜はベッドから跳ね起きる。一瞬で余韻もなにもかもが吹き飛んでいた。
「バカね、聞くわけないじゃない」
そんな緋菜の必死の形相を見て、るりがけらけらと笑った。
それから服を着た緋菜とるりは、何事もなかったかのように勇太と三人でお茶を飲み、談笑した。
どこで知り合ったの?という勇太の問いに、るりは
「ぐーぜんよ、ぐーぜん」
とだけ答えたが、勇太は別に疑問を挟まなかった。るりの人懐っこさには慣れているのだろう。その質問はそれっきりだった。
一方、森崎姉弟のやりとりをみながら、緋菜は勇太の自分への態度を密かに伺った。
表向き勇太の自分を見る目は、学校でのそれと変わりは無い。でも、もし、気づかれていたら?もし、何も聞かなかったふりをしていたら?
緋菜の頭の中をそんな考えがぐるぐると回り続けた。
小一時間ほどして、勇太は食事の準備をする、と言い出した。夏の太陽はもうかなり傾いていた。
玄関まで送りに出たるりに、緋菜が尋ねた。
「本当に、ばれてないかな…?」
るりはちょっと首をかしげてから、映画の登場人物みたいに、おおげさに首をすくめた。
「わっかんない。ま、姉として一ついえるのは、勇太は知ってて何でもないふりできるほど役者じゃないってことね」
緋菜はその言葉に慰められたが、もちろんその言葉の効き目も長くは続かないことを悟っていた。確かめるすべはないのだから。
「あとでそれとなく聞いとくわ。緋菜ちゃんがちょっとかわいそうだし」
るりはそう言ってくすっと笑った。緋菜はお願いします、と頭を下げてから、もう一つ気になっていた質問をぶつけてみる事にした。
「…ところで、るりちゃんはどこで今日みたいなこと、覚えたの…?」
その質問に、るりは、
「さぁー、どこでしょうねぇー。…ま、もてるオンナは辛いってことよ」
そう言ってわはは、と快活に笑って見せた。緋菜はそんな様子に、いいしれぬ不安を感じ、
「…も、森崎くんにも、今日みたいなこと、教えたの?」
そう尋ねた。
息を呑んで答えを待つ緋菜。るりは演技がかった様子で、額を押さえて考えるポーズをしている。
数秒のときが過ぎた。やがて。
「それはね…」「そ、それは?」
るりは人差し指を自分の口に当てると、ウィンクしながら言った。
「ひ・み・つ!」
−終わり−