もし突然かわいい女の子に告白されたら、どんなにいいだろう。勇太も一度はそんな事を夢想したことがある。  
でも、例え相手がかわいい女の子でも、あらぬ関係を噂されるのはかなり不条理なんだ、実際のところ。  
そう、森崎勇太は、ある朝学校に行ったら「楠瀬緋菜の彼氏」になっているのを発見した。  
 
「いい加減、しらばっくれないで答えなさいよー」  
「だから、違うって言ってるだろ……」  
曜子の執拗な追及に、勇太はいい加減うんざりしながら答えた。  
もうすぐ夏休みという浮かれた気分にあてられたのか、緋菜の親友曜子の追及も、何か遊び半分のような雰囲気があった。  
朝、クラスメートの異様な視線に驚いた勇太は、誠太郎から「お前、楠瀬と付き合ってる事になってるぞ」という一言で、きっかり5分間棒立ちになった。  
悲劇はそこから始まった。  
休み時間毎の嫉妬した男共の謂れなき暴力と、ほとんど面識も無い女子からの質問攻撃。この二つに、勇太は完全に消耗していた。  
そして、放課後待ち受けていたのが緋菜の友人曜子の追及だった。どうやら彼女は緋菜の告白の背中を押した張本人らしい。  
その仕掛け人が「自分の知らない間に話がまとまった」と勘違いして、付き合うまでのなれそめを聞き出そうとしているのだから性質が悪い。  
ちなみに緋菜も付き合っている事を否定し続け、放課後になるとすぐ部活に逃げたそうだ。勇太は心から緋菜に同情した。  
「何よ。ふたりして口裏あわせちゃってさー。確かにウチの高校はカップル少ないし、隠したくもなるだろうけど、それは許されないわよ?」  
と、怒ったように言う曜子の口調も、どこか楽しそうだ。楽しそうというか、目の前のおもちゃで徹底的に遊ぶまではそれを放さない、という意思にあふれている。  
教室を出るところを曜子に捕まえられてから、歩きながらずっと二人の押し問答は続いている。  
「だから、そんなこと隠さないって。もし付き合うんだったら君にも楠瀬さんから話がいくはずだろ?」  
「話がこないから、森崎君に聞いてるのよ。緋菜を口止めするとしたら、付き合ってる相手のあなたしかいないだろうからね」  
「だーかーらー」  
うんざりしてもう一度同じ事を繰り返そうとしたとき、一年生の教室の方からおなじみのオデコがやってきた。  
 
「……あ、勇太……じゃない森崎先輩」  
弥子の顔が心なしか険しい。勇太は背中にひやりとしたものを感じた。  
「あ、ああ弥子、いま帰る……」  
「綺麗な彼女ができて、良かったですね」  
勇太の顔が凍りつく。それを見て、弥子はふん、と鼻をならして、二人の目の前を通り過ぎようとする。  
「違うってやっこ、別に僕たち付き合ってるわけじゃ……」  
「……幼馴染とはいえ、私みたいなのに話しかけてたら、彼女に怒られるわよ。それに、『やっこ』って呼ぶのやめてよね」  
とりつくしまもない。一年生にまで広まっているとしたら、なんとしても噂が広がるのを食い止めねば。その一心で勇太は弥子の肩をつかんだ。  
「……何よ、勇太」  
「だから、誤解だって。僕ら付き合ってるわけじゃないんだ。ただの友達で……誰かが変な噂を……」  
「ただの友達?告白されたってのに、それは無いんじゃない?」  
勇太の言葉尻を捕らえて、曜子がすかさず口を挟む。それを聞いて、弥子の眉間に深いしわが寄る。  
「ふーん。そうなんだ……。モテモテで良いわね、勇太」  
「だから違うって!」  
「……それじゃあ、私いまから部活だから!」  
そういうと、弥子は一目散に走っていく。その後姿に、すがるように手を伸ばす勇太。勇太の手が、むなしく何度か開いたり閉じたりした。  
「……二股?」曜子の顔が怖い。今までのふざけていた顔つきとは違う。  
「ち、違うよ。あいつはただの幼馴染で……」  
「ただの幼馴染にしちゃ、ずいぶん彼女、お怒りのようだったけど?」  
そういえば、何で弥子があんなに怒ってるんだ?そんな疑問が一瞬勇太の頭をよぎるが、そんな感情をすぐに振り払った。  
今は誤解を解くのが先だ。まず二股の誤解。次に付き合っているという誤解……。  
「あいつ、昔からあんな感じなんだ。すぐ人と張り合うって言うか……」  
「それじゃあ、なんで幼馴染の女の子があなたと張り合うのよ?」  
「それは……あ、そうそう!『かっこいい彼氏を作りたい』とか言ってたから、僕が先に彼女が出来て怒ってるんだよ、きっと!」  
言ってから失言に気づき、口を押さえる勇太。曜子は見事獲物を捕らえた猟師のような、会心の笑みを浮かべる。  
 
「なるほどね。彼女が出来て、浮かれてつい幼馴染に言ってしまった、と。で、うかつな事をしたと思って黙ってる事に決めた、と」  
「ち、ちがうちがう。楠瀬さんとは付き合ってないから!そこから誤解だから!」  
だがもう曜子は聞いていない。なるほどなるほど、とつぶやきながら何度もうなづいている。勇太の言葉など全く意に介さないようだ。  
そこへ。  
「あら、森崎。どうしたの、……この色男」  
神谷菜由が、ノートパソコン片手に通りがかった。勇太は思わず天を仰いだ。物事をひっかき回すことにかけては、姫にかなう人間はいない。  
「聞いたわよー。学園のアイドルをものにするなんて、あんたなかなかやるわね。……ねえ、お祝いにさ、今度学食おごってよ」  
「あ、あのね、神谷さん。別に僕は楠瀬さんと……」  
そう言いかけたとき、今度は渡り廊下の方から、もう一人の「学園のアイドル」が現れた。そして、勇太を見つけると微笑みながら近づいてくる。  
「あら、森崎くん……どうしたの?こんなところで」  
女二人に挟まれてうろたえている姿に、瞳美が不思議そうにたずねた。  
「あ、有森さん、こんにちは……」  
「何?あんた有森先輩にまでコナかけてたの?」  
と曜子。  
「へー、学園のツートップ独占かー。こりゃ学食どころじゃないわね。マックとゲーセンも奢ってもらおうかな」  
と菜由。  
にやにや笑う二人。瞳美は首をかしげている。  
だが、勇太は覚悟を決めた。もうどうにでもなれ。どんな言い訳も現状には無力だ!!  
「だから、全部誤解!僕は楠瀬さんと付き合ってないし、告白の返事もしてないから!」  
そういい捨てて、勇太は猛然とダッシュした。  
「あっ、コラー!待てっ!」「こら、逃げるな!」「森崎くん!?」  
そんな叫びを背中で聞きながら、勇太は一目散に走った。曜子と菜由は追いかけてきたが、いくら帰宅部とはいえ、女子に負ける脚力ではない。  
しかし、明日も学校で同じことが待っているかと思うと、目の前が暗くなる勇太だった。  
 
さて次の日。  
ふたたび女性軍の興味本位の追求と、男共の張り手からプロレス技まで多種多様な攻撃に苛まれながら、勇太は何とか昼休みを迎えていた。  
さすがにみんな食欲には勝てないらしく、勇太のことはひとまずおいて、各自弁当をほおばったり、パンをかじったりしている。  
疲れ果てた勇太が自分の机に突っ伏していると、誠太郎がひょい、と目の前に座った。  
「疲れてるな」  
「……そりゃ、身に覚えの無いことで、あれだけ追求されりゃあね」  
顔もあげず、勇太がつぶやく。どうやら食事を取る元気も無いらしい。一方、どうでもいい、といった風に誠太郎はカメラを弄っている。  
ふと思い立って、勇太は顔を誠太郎に向けた。  
「そういえば、誠太郎だけは何も聞いてこないな。なんでだ?」  
その言葉に、さも当然といったように誠太郎は答える。  
「そりゃ、毎日のように被写体として楠瀬を見てるからな。もしキミらが付き合ってるなら、どこかしら変化があるだろう。でも無い。つまり……」  
「……僕と楠瀬さんは付き合ってない、と確信してるわけか」  
このときだけは勇太は誠太郎を心の底から尊敬した。  
「ありがとう。お前は変人だが、いい奴だ」  
そう言って握手しようとする勇太。だが誠太郎は手を出さない。  
「残念だが握手はできないな。噂のおかげでお宝生写真の売り上げがガタ落ちだ。売れ線は他にもあるが、さすがに有森瞳美さまだけではキツい」  
ああ、と勇太は机に崩れ落ちた。そんな影響がでるようでは、噂は相当な範囲に広がっているのだろう。  
「そんなことより、次の時間の心配をしたほうがいい」  
「次?」  
勇太はあっけにとられて誠太郎を見つめている。やれやれ、といったように誠太郎は肩をすくめて立ち上がった。  
「四時限目は体育だ。2年A組との合同授業だぞ」  
勇太はあっ、と目を見開く。  
「両クラスの生徒の目にさらされるんだ。直接追求されなくても、結構きついと思うが」  
「勘弁してくれ……」  
「確かに辛いだろう。だが、楠瀬はもっと辛い。せめて君だけでも毅然としているべきじゃないか?」  
 
誠太郎はちょっと真剣な目つきで、勇太を見た。勇太はそう言われて、しばらくその言葉を頭の中で咀嚼していたが、やがてゆっくりうなづいた。  
「そうだな……うん、そうだ。楠瀬さんだって、被害者なんだしな」  
「わかれば、いい」  
誠太郎はそう言ってどこかへ去っていった。勇太は、そんな誠太郎を、もう少しの間だけ尊敬しておくことにした。  
 
だが、何事も思い通りにはいかない。人生は不条理なのだ。  
両クラスの注目の視線を集める中、突如として倒れるというのも、楠瀬緋菜にとっては十分不条理だった。  
 
ふと額に冷たいものを感じて、緋菜は目を覚ました。小さいころ、母親がしてくれたような、懐かしい感触。  
ああ、誰かが絞ったタオルを当ててくれているんだ。そう思って、緋菜はそっと手を伸ばした。  
タオルとは対照的に暖かい手が、緋菜の額の上にある。それを緋菜はやさしく握った。  
「楠瀬さん……」  
男の声に驚いて、緋菜ははっと目を開ける。ここは家ではない。家であるはずがない。突然気が遠くなって倒れたあと、確か……。  
「良かった。目、覚めたんだね」  
隣に座っていたのは、森崎勇太だった。いつもの学生服姿で、緋菜の額にそっと濡れタオルを当てている。  
「も、森崎くん!?」  
あわてて手を引っ込める緋菜。だが、そんなことは気にせず、勇太は穏やかに微笑んでいる。  
「突然倒れたから、びっくりしたよ。保健の先生が言うには、緊張とストレスで体調を崩したんだろうって」  
何のストレスなのかは言うまでも無かった。勇太との噂。周りの好奇の目。  
現状がつかめなくて、緋菜はあわてて回りを見回す。ここは保健室だ。自分と勇太以外、人の気配はない。  
窓から差し込む夕日が、すでに放課後であることを緋菜に告げている。ゆっくりと上半身を起こし、周りを見渡す。  
二つ並んだベッドの一つに自分が寝かされていること。そして自分がまだ体操服のままであることに、緋菜はようやく気がついた。  
不意に恥ずかしくなって、緋菜はシーツを自分の顔まで引っ張りあげた。そして、目だけを出して、勇太を見ている。  
「どうして……?」  
あなたがここにいるの?その言葉を最後まで言えず、緋菜は口ごもってしまう。  
 
「僕が、ここに楠瀬さんを運んだんだ。それからまた授業に戻って、今さっき楠瀬さんの様子を見に来たところ」  
「え?……なんで、森崎くんが?」  
合同授業とはいえ、倒れた人間の世話はそのクラスの保健委員がやるのが普通だ。  
だが、緋菜の言葉に勇太は申し訳なさそうにうつむく。緋菜は不振に思って、その顔を覗き込もうとした。  
「ごめん。僕……火に油を注いじゃったかもしれない」  
そう言って勇太は緋菜が倒れた後のことを語りだした。  
簡単に言えばこうだった。何事もなく体育の授業が進んでいたとき、突然緋菜が倒れた。それはあまりに突然だったので、その場にいた誰もが動けなかった。  
ところが、そのとき勇太が真っ先に行動を起こした。  
何しろ、緋菜のすぐそばにいたクラスメイトより、勇太が緋菜を助け起こす方が早かったぐらいだった。  
勇太は緋菜に怪我はなく、その一方高熱を出していることを確認すると、ためらう事なくあることをやってのけた。  
「……僕、気が動転して、楠瀬さんをこういう風に……だっこして保健室まで連れてきちゃったんだ」  
と言って勇太は立ち上がると、想像上の緋菜を両腕で下から抱え上げるしぐさをして見せた。  
「あの、それって……つまり、おひ……」  
「……そう、『お姫様だっこ』」  
そこまで言って勇太はまた頭を下げた。クラスメイトの目の前で、噂のカップルがお姫様だっこ。いいわけ出来るような状況ではない。  
いや、もはやみんなの前で堂々と交際宣言したに等しい行為だった。  
「ごめん、悪気はなかったんだ。ただ……」  
そう言って頭を下げ続ける勇太に、緋菜はそっと手を伸ばした。勇太の手に指でそっと触れる。  
「……森崎君が、あやまることない」  
その言葉に、はっと顔を挙げる勇太。緋菜は微笑んでいる。恥ずかしそうに、でも心から幸せそうな、笑み。  
「ありがとう。森崎くん、一生懸命私のこと助けてくれたんだね。……ありがとう」  
その自分の言葉に、なぜか緋菜の目から涙がこぼれる。  
「私ね、すっごくうれしい。森崎くんを好きになってよかったって、ほんとうに思う……」  
「楠瀬さん……」  
 
緋菜は両手で勇太の手をぎゅっと握った。そしてそのままその手を自分の胸元に引き寄せる。  
「く、楠瀬さんっ!」  
手にあたる柔らかな二つの感触。思わず勇太は手をひっこめようとした。  
しかし、緋菜は強く勇太の手を握って放さない。そして、まるでロザリオを握って祈るクリスチャンのように、勇太の手を握ったままそっと目を閉じた。  
「私、森崎くんが私のこと好きになってくれなくてもいい。……私は森崎くんが好き。それだけで、いい」  
緋菜の頬に、細い涙の筋が流れた。  
しっかりと握った勇太の手のぬくもりを感じながら、いつまでもこうしていたい、緋菜はそう願った。  
ぎしっ  
ベッドのきしむ音がして、緋菜はぱっと目を開けた。勇太がベッドに腰掛けた音だった。  
勇太はそっと緋菜に自分の顔を近づけた。  
「森崎くん……」  
そうつぶやいた緋菜は、またそっと目を閉じ、自分の唇を勇太のほうに差し出した。  
熱い息が緋菜の顔にあたる。そしてうっすらと感じる勇太の体温。目を開ければすぐ前に勇太の顔がある、それを緋菜ははっきり悟った。  
次の瞬間、緋菜はほのかに濡れた感触を唇に感じた。  
軽く触れただけの、なんてことのないキス。  
だが、緋菜にとっては今はその感触だけが感じられる全てで、それ以外の感覚は消えてなくなっていった。  
一瞬だけ勇太の唇がぎゅっ、と緋菜のそれに押しつけられ、そして離れていった。  
おずおずと目を開ける緋菜。目の前に、困ったような顔をした勇太がいる。  
「森崎くん」  
顔を真っ赤にした勇太に、小さな声で呼びかける。勇太ははにかみながら、緋菜を見た。  
「……もっと」  
自分の顔も紅潮していることが、緋菜にも分かった。恥ずかしさのあまり、また目を閉じて、口をつぐむ。  
 
勇太の近づく気配。  
二度目の接吻は、一度目より長く、そして濃厚だった。  
勇太の唇は緋菜の上唇をかるく挟んで、そっと吸った。応えるように緋菜も勇太の唇を愛撫する。  
二人はしばらくお互いの唇を味わっていたが、やがてどちらともなく舌を伸ばし、唇の間にそっと差し入れた。  
「……ふぅ……」  
緋菜の口からため息のような熱をもった吐息が漏れた。  
緋菜はぎこちなく勇太の舌に自分の舌をからませる。ぬるぬるとした感触が伝わってくる。  
勇太の舌は、緋菜の口の中で緋菜と絡まりあい、緋菜の中をつんつんとつつく。そして、一個の生命体のように緋菜の中で動き回る。  
緋菜の両手は勇太の頭を抱き、勇太は緋菜を抱きしめた。  
緋菜の手が精一杯勇太を求め、その体をつなぎとめようとする。反対に勇太はやさしく緋菜の背中に手を回している。  
「ふう……」  
長い、長いキスが終わり、二人は見つめあった。緋菜の潤んだ瞳に、勇太の姿が映る。まだ軽く開かれた唇は湿り気を帯びていた。  
そのとき、緋菜は、勇太の体の変化にいち早く気づいた。  
「森崎くん……おっきくなってる」  
思わず緋菜は口に出してしまう。ズボンの上からでも勇太の物が屹立しているのがはっきりと見えた。  
「……楠瀬さん」  
勇太は我慢しきれなくなって、緋菜の両肩をつかむ。はっとして体をこわばらせる緋菜。  
そのまま、ベッドにゆっくりと緋菜を押し倒す。  
重なり合う二人の体。  
……だが、最後の瞬間に、緋菜の大きな瞳に見つめられ、勇太は動けない。  
「もり……さき……くん」  
おびえた緋菜の声。勇太の胸に後悔が黒雲のように巻き上がる。  
(……なにをしているんだ!?僕は!)  
そう自分を叱責する。だがそのとき、緋菜がおずおずと口を開いた。  
「ちょっと、待って……」  
緋菜はそっとベッドから足を下ろす。小さな足、しなやかな両脚、そして紺色のブルマに包まれた下半身が、シーツの下から姿を現した。  
 
緋菜はゆっくりとベッドを降りると、ベッドに座る勇太の足元に跪いた。勇太の怒張が、緋菜の目の前にある。  
「……お、男の子って、……したいときに、こうなっちゃうんだよね?」  
小さな声で、見上げるようにしながら緋菜が尋ねる。勇太はうなづくしかない。  
「あ、あの……ごめんね。私、もうすぐ……き……日なんだ……」  
「……え?それって……」  
「う、うん……もうそろそろ、危ないの……。だから……」  
そう言って緋菜は勇太の股間に手を伸ばす。そして、おびえるような手つきでズボンのチャックを下ろしていく。  
まるで、危険物に触れるかのように、緋菜の細い指が勇太のズボンの中に進入する。  
やがて、トランクスの布越しに熱い肉の棒に行き当たると、それを恐る恐る二本の指でつまみ、ズボンの外へと解放した。  
緋菜の目の前に、トランクスに包まれた勇太のペニスが現れた。  
「……く、口でしてあげる……ね?」  
そういってちらり、と上目遣いに雄太の顔を伺う。雄太は黙って緋菜を見つめている。  
それを承諾と受け取った緋菜は、両手を使って、そっとトランクスの前を開いた。  
充血した肉棒が、緋菜の前にさらされた。  
初めて見る、勃起した男のもの。緋菜は想像を超えたその姿に、目を丸くして見つめている。  
「楠瀬さん……そんなにじっと見られたら……」  
さすがに勇太も恥ずかしくなって、そうつぶやく。  
「あ、ごめんなさいっ……初めてだから、びっくりしちゃって……」  
そう言ってから、緋菜は勇太の物を両手で挟むようにして握る。  
緋菜が触れた瞬間、勇太自身がびくっと動いた。  
「きゃっ!?」  
「ご、ごめん。ぼ、僕も緊張してるから……」  
真っ赤になってあやまる勇太。その顔を見て、緋菜は少しだけ落ち着きを取り戻した。  
「かわいい」。そんな感情が、緋菜の胸にわきあがる。勇太も緊張しているのがはっきりと分かる。  
 
そっと、緋菜はそっと肉棒の先に口を近づけていく。以前、るりと練習したときのことを思い出しながら。  
赤く充血した亀頭の先から、透明な液が滲み出しているのが見えた。  
緋菜はまずその液を舌の先で軽く舐めると、キスするように亀頭の先を口に含んだ。  
口に軽く含んだ肉棒を、緋菜は舌を使ってゆっくり舐めはじめた。まず亀頭の裏側を、そして顔を動かして、カリ首全体に舌を擦りつける。  
緋菜は、不思議と汚いと思わなかった。それどころか、喜びで胸がいっぱいになる。  
「き、気持いい……?」  
咥えながら、勇太を見つめる。勇太は小刻みに何度もうなづいて見せた。それを見て微笑む緋菜。  
ゆっくりと肉棒全体を咥える。緋菜の口には余るほど、勇太のそれは大きくなっていた。  
それを無心にしゃぶる緋菜。  
「あっ……楠瀬さん……とっても……とっても、気持いいよ……」  
「う、うん……頑張るね」  
勇太のつぶやきに応えるように、緋菜はさらに一生懸命に顔を動かす。  
ねっとりとした愛撫に勇太は恍惚の表情を浮かべ、緋菜の柔らかな口腔が絡みつく感触に酔いしれた。  
ふと、緋菜は勇太からいったん口を放す。  
「な、何するの?」  
不意にフェラチオを中断され、驚く勇太。  
緋菜は黙って自分の体操服のすそを捲り上げた。白い上着の下から、ブラジャーに包まれた緋菜のバストが現れた。  
ぷちん、と音がして、緋菜のブラのホックが外される。はじけるように、緋菜の双丘があらわになる。  
それは雪のように白く、みずみずしい張りを持っていた。花のつぼみのような小さな乳首は桃色に輝いている。  
まるで神話をモチーフにした絵画の、女神のような胸だった。  
普段、制服の上からでもはっきりと分かるほどの大きさを持った緋菜の胸が、今全ての縛めを解き放って勇太の目にさらされている。  
緋菜は自分の胸を勇太の下半身へと近づけながら勇太の問いに答えた。  
「……男の人って、こういうことされるの、好きなんだよね……?」  
緋菜は自分の両手を使って、そのたっぷりとしたバストで勇太の物を挟む。  
 
そして、体全体を使って勇太の肉棒を激しくしごき始めた。  
「く、楠瀬さんっ……」  
あまりのことに、勇太は快感より驚きに身を震わせた。緋菜は顔を真っ赤にしながら、無心に勇太自身に奉仕している。  
「森崎くん、いつも見てたよね……?私の胸……」  
本当のことを言い当てられ、勇太は言葉を失う。それを見ながら、緋菜はちょっと笑ったように見えた。  
「気づいてたんだよ?だから……森崎くんに、いつかこうしてあげよう、って」  
そう言いながら緋菜はなおも激しく胸を勇太にこすりつける。緋菜の体が前後に動くのに合せて、二つのお下げ髪が揺れた。  
勇太は完全に緋菜にされるがままになっている。  
唾液に濡れた勇太のペニスと緋菜の乳房がこすりあい、ぬちょぬちょと淫らな音をたてた。  
勇太はその肉棒で緋菜の胸のぬくもりを味わい、緋菜は胸全体で勇太の熱い怒張を感じていた。  
すでに勇太自身はまるで石のように硬くなっている。緋菜は動きを止め、また勇太のものをそっと両手で覆った。  
「ぁっ……楠瀬さん……」  
「私、本当は、とってもエッチなんだよ。森崎くんの事考えて、いつも……独りで……」  
ずっと夢に見た、勇太との交わり今の現実が信じられず、緋菜からいつもの恥じらいを奪い去っていた。  
もし夢なら、覚めないで欲しい。いつまでも「森崎くん」とこうしていたい。だから緋菜は、自分の欲望のまま行動していた。  
再び、緋菜は勇太のペニスを一気に根元までほおばった。小さな口いっぱいに、勇太のものを押し込む。  
緋菜は歯を立てないよう、ゆっくりと動き始めた。そして、勇太のそれを優しく舌と唇で味わう。  
緋菜の片手が、ゆっくりと自らの内股に伸びる。緋菜は勇太にフェラチオをしながら、ブルマ越しに秘所をいじくり始めた。  
緋菜の秘所はブルマの上からでも分かるほど、じっとり湿って熱を帯びている。緋菜は二本の指でそこをゆるゆると擦っていく。  
「ふ、うぅ……ん……」  
思わず、緋菜の口から淫らな息があふれた。  
「ねえ、森崎くん。……こんな私……軽蔑する?」  
緋菜の言葉に、勇太は無言で首を振る。安心したように、緋菜は笑う。そして一層勇太と自分を気持ちよくするため、動く。  
あやしく動く緋菜の手。やがて、おしゃぶりの動きに合せて、緋菜の腰もゆったりと前後に動きだす。  
 
「く、楠瀬さん……もう出るかも……」  
勇太が搾り出すように言う。  
「あっ……待って、私も一緒にいきたいから……ね?」  
「……分かった。一緒にいこう、楠瀬さん……」  
緋菜は高みを目指して、さらに激しく、割れ目に沿って指を動かし陰核を転がした。  
緋菜の秘所から聞こえる、粘り気を帯びた衣擦れの音。そして、緋菜の口元から漏れる、肉と肉が擦れあう音。  
「……うぅん……もりさきくん……ふぅん……」  
「ああ……ああ……くすのせ、さん……」  
絶え間ない快楽の波が緋菜の体を走る。  
「ふぅ……うぅん!……んン……!」  
「あぁ……くすのせさん……!」  
勇太と緋菜を何度もしびれるような快感が襲う。熱に浮かされたような二人の声が次第に高まっていく。  
そして、何度目かのうねりが通り過ぎたとき、不意に勇太が叫んだ。  
「あっ……楠瀬さんっ……!!」  
次の瞬間、緋菜の口へと、勇太の熱い精が放たれた。  
「あっ!?……ふわぁっ……!」  
驚いて口を放す緋菜。しかし、とどまる事をしらない勇太の奔流は、緋菜の顔へ、髪へ、そして胸元へと飛び散った。  
だが、緋菜の自慰は止まらない。それどころか、勇太の熱いシャワーを浴びながら、激しく陰部に指を擦りつけた。  
「あっ……はぁっ……あああぁ……!!」  
そして、勇太の精を浴びながら、緋菜も絶頂をむかえた。絶え絶えに息を吐きながら、体を震わせる。緋菜の腰が激しく痙攣し、やがて力尽きた。  
最後の振るえが去ったあと、緋菜はぺたりと床に腰を降ろし、一つ大きな息を吐き出した。  
勇太も力尽きたようにベッドに倒れる。そして、荒々しい息をゆっくりと整えていく。  
「ねえ、森崎くんの……あったかい……」  
緋菜のつぶやきを聞いて、勇太ははっと我に帰る。見ると、緋菜の顔や、乳房に大量に白い精液が滴っている。  
「あっ!ご、ごめん、楠瀬さん!!」  
 
勇太は慌てて萎えたペニスをズボンに収めると、タオルを一枚とって、それを洗面台で濡らして戻ってきた。  
「…・…ごめん、ごめんね……」  
そう言いながら、勇太は緋菜の顔や、髪や、乳房についた自分の分身たちを拭い取る。  
半裸の姿をさらしながら、緋菜は勇太にされるがままになっている。勇太の手が胸にのびた時、  
「森崎くん……」緋菜はためらいがちに勇太に声をかけた。  
「な、何?」  
「もっと、やさしく拭いて欲しいな……おっぱい……痛いし」  
そういって緋菜はうつむく。勇太は思わずタオルを落としてしまった。  
「ご、ごめん!ゴシゴシ拭いたら痛いよねっ」  
「うん……ちょっとだけ、ね?」  
改めて、勇太はまるで壊れ物を扱うかのように、そっと緋菜の乳房を拭く。乳首の周りも、円を描くように丁寧に。  
それを見ながら緋菜がつぶやく。  
「なんか……森崎くんの手つき、いやらしい」  
「そ、そう言われても……」  
耳まで赤くした勇太を見て、緋菜は幸せそうに笑う。それを見て、勇太の顔にも笑みが戻る。  
「うそ。……これからも、やさしくしてね」  
「……うん」  
「森崎くん。大好きだよ」  
「僕もだよ、楠瀬さん」  
微笑みあう二人。  
やがて勇太は緋菜の体を拭き終わる。  
乱れた二人の服を直して、汚れたタオルを洗って、勇太と緋菜の初めての愛の営みは終わった。  
そして最後に、二人はもう一度だけ軽いキスを交わした。  
 
 
それからしばらく後。時刻はすでに6時をまわっている。  
「今日は本当に疲れた……」  
帰宅した勇太がそうつぶやいて、居間のテーブルに突っ伏していると、るりが自分の部屋から降りてきた。  
「どうしたの、そんな疲れた顔して」  
「な、なんでもないよ」  
るりの何気ない質問に、思わず動揺してしまう勇太。そんな勇太を見て、るりはすっと勇太のそばに近づいた。  
「お姉さまに隠し事?」  
そう言ってるりがボキボキと拳を鳴らすものだから、勇太も仕方なく重い口を開いた。  
姉のパンチなど痛くもないが、しつこく付きまとわれるのはこりごりだった。  
「……って、わけで、今日一日は質問攻めでさ」  
「ふーん」  
あえて体育の時間のこと、そしてもちろん保健室でのことは触れず、勇太は緋菜との噂のみを語った。  
だが、るりはそれに感想らしい感想も言わず、勇太の話を聞いている。  
不意に、るりは顔を勇太に思い切り近づけた。  
「な、なんだよ」あわてる勇太。  
「……」  
黙ってるりは勇太の体をじっと見つめている。勇太は思わず椅子から立ち上がり、数歩あとずさった。  
「……緋菜ちゃんと、何かあったわね」  
勇太の目をまじまじと見つめながら、るりは静かにつぶやいた。  
「なっ、何を!?」  
「……あんたの体、アレの匂いがする」  
「っ!」  
またも、動揺を隠せない勇太に、るりはそっと背を向けた。心なしか、うつむいているようにも見える。  
 
「そうやって、段々お姉ちゃんから離れていっちゃうんだね……?」  
その言葉に、勇太の顔が一瞬こわばる。  
「あ、当たり前だろ!あんな事、もう二度としないって……」  
るりの体に電気が走ったように震えた。言ってから、勇太はしまった、と口をふさいだ。  
「そうだよね……」  
「るり姉……」  
途切れ途切れにるりは言葉を吐き出す。罪を告白するように。  
いつの間にか日は沈み、二人の姿は深みを増す夜の闇に包まれていく。  
「ごめんね……嫌な事思い出させて。私が悪いのよね」  
「るり姉……」  
「ごめんっ」  
そう言うと、るりは小走りに階段を上っていった。勇太にはとめる暇もない。伸ばしかけた手が、だらりと下がる。  
それから、勇太は居間に独り、いつまでも立ちすくんでいた。  
 
― 続く…… ―  
 

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