勉強部屋の片隅のベッドの上で、若い男女は無言のまま見つめ合っていた。
閉じられたカーテンの隙間から、観客のいない夕日が名残惜しげに洩れている。
床には無造作に脱ぎ捨てられた制服類。二人は下着のみの姿だった。
それが何を意味するのかは、誰の目にも明らかだった。
「緊張してる?」
張り詰めた糸を断ち切るように、勇太が声をかける。
「大丈夫。普通よ」
と、恵子は気丈に答えてみせた。
「そっか」
安心した勇太は、恵子の背中に両手を回した。
慣れない手つきでブラのホックを外していく。
心臓が、まるで別の生き物のように跳ね踊っている。
その鼓動は、外の蝉の大合唱をかき消さんばかりに彼の中で鳴り響いている。恵子の白い双丘が蛍光灯の人工的な光に晒された。
まだまだ未発達だがつんと上向きで形は良い。乳首もほのかな桜色だ。
恥ずかしさのためか、恵子は祈るように目を閉じていた。
勇太は思わず唾を飲み込んだ。そんな自分を慌てて取り繕うように、
「綺麗だよ」
と、用意された台本を読み上げるような陳腐なセリフを放つ。
「そんな・・・普通よ」
と、恵子はそっぽを向く。
勇太は恵子を仰向けに寝かせ、彼女の胸に鼻を近付けた。
ああ、これが女の子の・・・。
懐かしいような、それでいてどこか扇情的な匂いが、脳の奥まで浸透していく。
いつか見たビデオに倣って、勇太は恵子の乳房を逞しい手で被った。
乳房を鷹揚にこねながら、勃起した乳首を人差し指の先でリズミカルに弾く。
「どう? 感じる?」
探るような問いに、恵子は小さく頷く。
勇太はほっと息をついた。初めてにしては上出来かもしれない。
「何カップあるの?」
勇太の不意の質問に、
「ふ、普通よぉ」
と、恵子は声を震わせた。
勢いに乗った勇太は、思い切ってパンティーの中に右手を伸ばした。
指にねっとりとした感触が絡み付く。先程の愛撫が功を奏しているのか。
戸惑う恵子に構うことなく、勇太の右手は意志を持った触手となって、恵子の股間のスリットを手当たり次第にまさぐっていく。
「気持ちいい?」
しかし、彼女の反応は、
「普通・・・」
「そうか、じゃあ・・・」
勇太はめげることなく、スリットの上部の小さな突起をつんつんと弾いた。
「あっ・・・」
電気に打たれたように恵子の反応が鋭くなる。
それに合わせて、愛液がどろりと分泌されるのが指先で分かった。
勇太はクリトリスを集中的に攻めていった。
ぬちゃ、ぬちゃと湿った音が沈黙を埋めていく。
恵子の鼻息が荒くなり、勇太の前髪をわずかにそよがせる。
「感じやすい体質なんだね」
「ふ、普通よ」
ギアをシフトアップしていくように、徐々に指を動かすペースを早める。
「一人でしたことある?」
恵子は黙って頷く。
快楽のためか、羞恥心が宙に浮いてしまっているようだ。
「年頃の女の子は、みんなそうゆうコトしてるのかな」
猫じゃらしでくすぐるように、勇太は甘い声で問い掛ける。
「普通よぉ」
「どれくらいのペースでしてるの? 週1くらい?」
「ふ、普通っ」
卑猥な質問にたじろぎながらも、それがかえって理性を狂わせるのだろうか。恵子は今や、快楽のメリーゴーランドに完全に身を委ねているようだった。
「どうやってしてるの? 手? それとも道具? 電動歯ブラシとか」
「ふっ、普通・・・んんっ!!」
恵子は突如、背中をブリッジのように突っ張った。
数秒間痙攣を続けたかと思うと、糸が切れたようにぐったりと弛緩して、
肩で大きく息をついた。
オーガズムに達したのだ。
初めて見る女のオーガズムに戸惑いながらも、自分の拙いテクで彼女をイカせた事実を、勇太は無上の満足感とともに噛み締めていた。
さあ、いよいよだ。
恵子のパンティーを脱がすと、透明の粘液が股間との間に糸を引いた。
可愛らしい陰毛、そして恥丘があらわになる。恵子は羞恥のためか顔を逸らした。
勇太は自分もシャツを脱ぎ捨て、恵子と体を重ね合わせた。
にじんだ汗のため、肌がべっとりと吸い付いてくる。
嫌な感じはしない。
むしろ彼女の体温が直に伝わってきて、それがとても心地よかった。
「じゃあ、いくよ」
神聖な儀式に臨むような口調で合図する勇太に、恵子は無言で頷く。
恵子が勇太の背中に回した両腕に力が入る。勇太は彼女の信頼が嬉しいとともに、それがより大きなプレッシャーにもなった。
何しろ初体験だった。
挿入するポイントを探って悪戦苦闘しながらも、どうにかこうにかポイントに辿り着くと、爆弾処理のように恐る恐る、しかし確実に自分自身を恵子の中に沈めていく。
初めての膣の感触は、勇太がこれまで想像していたどんなものとも違っていた。
勇太は今、体全体が男性器と同化して、母なる海に帰っていく海亀の赤ん坊のように、情欲の波に翻弄されていくのを感じていた。
不意に、何かを破った感触。
「ふ・・・痛っ!!」
小さな、しかし鋭い悲鳴が、勇太を現実世界に呼び戻す。
「だっ、大丈夫?!」
予想どおりの反応とはいえ、勇太はやはり狼狽せずにはいられない。
「ふ、普通、よ・・・」
我慢強く答える恵子。だが、恵子のそんなけなげさが、勇太にはかえって痛ましかった。
「チカラ抜いて。そのほうが楽だから」
恵子は小さく頷く。
気を取り直した勇太の情欲が、再び加速をつけはじめた。
パンッ、パンッ。
肉と汁の淫らなハーモニーが、六畳一間の部屋に響き渡る。
「はあっ、はあっ」
勇太の情欲のギアが、五速全開に向けてシフトアップしていく。
快楽のチキンレースは、しかし長くは続かなかった。
「も、もう・・・ダメだっ」
「えっ?」
目の前でフラッシュを焚いたような恍惚が、突如として勇太に襲い掛かる。
「あ・・・」
「大丈夫?」
一通りの処理を終えたあと、自分の情けなさをごまかすように、勇太は訊ねた
「普通よ」
ベッドに腰掛けた恵子はにっこり答えたものの、どこか辛そうだった。まだ痛みが収まっていないのだろう。
ベッドのシーツには血の染みが広がり、日の丸のような赤と白のコントラストを成している。
「一人で突っ走っちゃってごめんね。もっと優しくしてあげればよかった」
「普通よ、普通」
「明日はアナルファックにしよう。二回目ならそれくらい普通だよね」
「・・・不通よ」