10年という歳月は、あのころは永遠と同じ意味を持っていた。  
 
 あの頃住んでいた団地は、新しい建物に変わっていた。  
 潮風にあたりながら散歩した砂浜は海岸通りの道を広げたためか狭くなった。  
 高台のあの場所は転落防止の高い柵が設けられ、児童公園の遊具はいつのまにか撤去されていた。  
 電機メーカー営業職、忙しい毎日を妻、子供と2人の子供の笑顔に支えられている。  
 絵に描いたような幸せ。  
 この幸せを壊さないように、疑わないように毎日自分に言い聞かせている。  
 今日も残業を済ませ、一人食卓につく。電子レンジで温めたご飯に、不満はない。  
 そのときふとテーブルに置かれたクラス同窓会のお知らせと銘打たれたはがきに気づいた。  
 
 波多野寿司の外観は、あのころとほとんど変わっていなかった。  
 よく見ると横手の犬小屋がちょっと新しく、名前も「コハダ」に変わっているぐらいだ。  
 中には懐かしい顔がそろっている。  
 ちょっとだけ昔に戻ったような気もするけれど、中には髪が少しキテルやつもいるし、  
昔の制服を着たら間違いなくファスナーが弾け飛ぶ体になってるやつもいる。  
「おい、ちゃんと飲んでるか? 喰ってるか?」  
「そういうおまえはウーロン茶か」  
 ちょっとおなかが出てきた自分に気恥ずかしさを感じながら、とりあえず軽口を返す。  
「はは、このあと車で帰んなきゃいけないしな」  
 片手でハンドルを握るように動かして苦笑いをする。  
「ああ、そうか、ここはお兄さんが継いだんだっけな。今どうしてるんだ?」  
 波多野の目がやれやれと笑う。傍らのバッグから1枚のお芝居のチラシを取り出し、出演者の名前のひとつを指差す。  
「これ、わたし 最近はそこそこちゃんとした役ももらえてるんだけどなぁ」  
 なんでも小さな劇団に所属し、ドラマやCMにも少しずつ出られるようになってきたらしい。  
「わたしのことより、かすみにもちゃんと連絡とれよな、薄情者」  
 なんでわかるんだという俺の疑問には、驚くような答えが返ってきた。  
「だって、今、いっしょに住んでるからさぁ」  
 
 同窓会が終わることには、意識が朦朧としていた。かろうじて万歳三唱は覚えている。  
 かすみのことを話していたら、波多野につぶされた。  
 かすみが某楽器メーカーの音楽教室の講師をしながら、クラッシックのCDを2枚も出していたなんて初めて知った。  
 二人ともまだ独身で、波多野曰くサビシイモノ同士肩を寄せ合って生きているとのこと。  
「おまえ弱いな!」  
 ウーロン茶のおまえが言うなとは思ったが、言葉にするだけの気力が残っていなかった。  
「しょうがない。わたしが送ってあげよう」  
 波多野の肩をかりて赤いステーションワゴンにもぐりこむ。  
 寝てていいぞという声に甘えて、意識を手放した。  
 
「おーい、ついたぞ」  
 波多野の声に起こされて辺りを見渡すと、見知らぬ風景。けっこう高級そうなマンションだった。  
「ようこそ、わたしのかすみの愛の巣へ。……って、おまえ、住所ぐらい言ってから寝ろよな。  
何べん呼んでもおきないし。まぁ、とりあえずかすみにも会ってけ。もう何年も連絡してないんだろ」  
 すこしボケた頭で波多野についていく。  
 なんとなく家賃を聞いてみたら、結構な値段だった。かすみとシェアしてるにしても、かなり高級だ。  
「こいつさぁ、わたしのこと何にも知らなかったんだぜ。春になったら〜♪ ってCMの後ろで  
スーツ着てるのとか、けっこう良く流れてたんだけどな」  
「あおいのことしらないなら、わたしのことなんてぜんぜんだよね」  
 急に訪ねたのにかすみは嫌な顔一つしないでえへへと笑っている。  
 目の前にはグラスに入ったウイスキー。今日は飲めなかったからという波多野の相手をかすみと2人でしている。  
「ねえ、あなたは今幸せ?」  
 かすみの問いに即答できなかった。  
アルコールが回っていたからとか、そういうことじゃないんだけれど、なんとなく幸せだと言い切ることが出来ずにうやむやにごまかした。  
「わたしたちはね。幸せだよ。すごく運が良かったと思う。二人ともやりたい仕事をして、それでちゃんと生活できてる。  
このさきもずっと一緒にいられたらいいなと思ってるよ」  
 結婚はしないのかというオレの問いに、2人が顔を合わせて不器用に笑った。  
 
「本当に大好きな人となら結婚したいけれど、その人とは結婚できないんだ、二人とも」  
 かすみの答えに気まずくなって、手にしたグラスをあおった。  
 
「ごめん、ちょっと飲みすぎたみたいだ。もう帰るよ」  
 立ち上がりかけてふらついた。テーブルに手をつこうとしたら力が入らず肘と肩をしこたまぶつけた。  
「あー、もう、いいから今日は止まってけ。明日の朝送ってやるからさ。  
奥さんには…… 波多野寿司に泊まってることにしとけ、兄ちゃんに口裏合わせてもらうからさ。」  
 反論する体力は残っていなかった。  
 
 不意に目がさめた。リビングに敷いた布団から身を起こすと、どこからかぼそぼそと声が聞こえる。  
……やっぱやめよう……あおいだって最初は乗り気だったじゃない……そんなこと言っても……  
 ドアの隙間から廊下の明かりがこぼれている。  
 思い切ってドアをあけると、何かを決意したような顔のかすみと、ちょっと迷っているような波多野の顔があった。  
「えっと、なにかな」  
 少しだけ間があった。波多野が目をそらす。  
「わたしたち、幸せよ。でもね、やっぱり、足りないの」  
 かすみはそういうと身に付けた、ナイトガウンを床に落とす。  
ベビードールというのだろうか、面積の限りなく少ないネグリジェのようなものしか身につけていない。  
「あおいがね、あなたを連れてきたのも、酔いぶしたのも、最初から予定通りなの」  
 のどがからからに渇いているのが、お酒のせいなのか、それともこの状況のせいなのかわからない。  
「べつに、あなたの家庭を壊すつもりは無いの。あなたが、わたしや、あおいを選ばなかったことを責めてるのでもないわ。  
ううん、むしろわたしたちが仲良く暮らしていけるのは、選ばれなかったからかもしれない。  
 幸せの量がみんないっしょなら、あなたに選ばれなかった不幸せの分だけ、わたしやあおいはもっと幸せになれるかもしれない。  
 
 
 でもね、やっぱりたりないの」  
 
 
 寄せてくるかすみの瞳から目がそらせない。  
 唇と唇が触れる。そして舌が差し込まれ、唾液が送り込まれてくる。渇いたのどに、かすみの唾液が染み込んでいった。  
「あおいはいいの? わたしだけでもいいの?」  
 かすみの声が波多野に向けられる。  
「うー、よくないよ。でも…… ああ、わたしだめだ、こういうとこ。  
 かすみみたいに強くないから、どうしてもほんとのことが言えない。」  
「ふふ、あおい、それは、もう言っちゃってるのとおなじことじゃない。」  
 かすみの指摘に、波多野の顔が真っ赤になる。  
「あの、その、いや、な? ……うー わかった。わたしもする。」  
 波多野がスエットスーツをもぞもぞと脱ぐと、スポーツブラとシンプルなショーツの姿になる。  
「あんまりじろじろ見るなよ」  
 そういいながら波多野も近づいてきて顔をぶつける。額がぶつかって二人していててと顔をしかめた。  
「よし」  
 衝撃から立ち直った波多野が気合を入れてズボンに手をかけた。反射的にその手を抑えようとしたとき、かすみが俺の手を止める。  
「だいじょうぶ。絶対にあなたに迷惑はかけないわ。だからおねがい。いまだけ、高校生に戻らせて。  
わたしとあおいは、同じ人を好きになって、大好きになって、いっしょに思いをぶつけることにした高校生なの。  
親友だから譲りあってしまって思いを遂げられなかった過去をやり直したいの。」  
 二人の真剣な目を茶化してそらすことも出来ず、断ることも出来なかった。  
 
「まずわたしたちが"する"から。ね?」  
 少し頭がずきずきしている。今でもこのまましてしまっていいのか悩んでいる。  
 布団の上には二人に剥かれて全裸の自分と、下着姿のかすみと波多野。  
 高校時代に何度か妄想したシチュエーションと同じだった。  
 かすみがおなかの上にまたがり、顔を寄せてくる。  
 ついばむようなキスを何度も繰り返すと、そのたびにかすみの乳房の先端がオレの胸をつんつんとつつく。  
 同時におなかにこすりつけられたそこが、粘液で濡れ始める。  
 自分の股間のものが、触られてもいないのに起立してくるのを感じた。  
 10数度目のバードキスのあと、かすみの両手が俺の顔をしっかり捕まえると、体重を全部俺に預けてくる。  
 
 オレがそらすまで目を見つめつづけたかすみが、唇の形をなぞるように舌を突き出す。  
 何も知らないうぶな男子高校生が、えっちな音楽の先生にいい様に弄ばれているように、のどの奥からあうともああとも取れる音が出てくる。  
 その唇の隙間に、かすみの舌がもぐりこんでくる。抵抗できないままにかすみの舌が口の中を這い回り、唾液を流し込まれ、舌を吸われる。  
 引っ張り出されたオレの舌をかすみの唇がやんわりと捕まえている間に、股間にぬるりとした刺激があった。  
 結婚してもう何年にもなるが、妻にはフェラチオなんてしてもらったことがない。  
 初めて肌を交わす波多野のフェラが、初めてのフェラチオになった。  
 カリ首から先だけを咥えたまま舌先が尿道口を探る。いきなりの刺激に少し痛みを感じた。  
 声を出そうとしたのだけれど、かすみにしっかり固定されくぐもったうめき声をあげることしか出来なかった。  
 不意にペニス全体が熱い粘膜に包まれる。喉の奥まで突き当たったのか、先端が少し固いなにかに当たっている。  
 唾液をじゅるじゅるとすすりながら、唇で竿がしごかれる。ときおり歯があたっていたい。  
 微妙にぎこちないわりに、大胆なことをしようとしている。  
 その間も、かすみの舌は休むことを知らない。  
 唇を蹂躙されながら、ペニスをしゃぶられる。  
 呼吸が苦しくなっても開放されることが無い。  
 ペニスは気持ちいいのだけれど、微妙につぼが外れていて、イクことができない。  
「そろそろ、いいかな?」  
 やっと開放された口で、はあはあと息をする。  
かすみがそれほど息を乱していないのは、フルートで鍛えた肺活量のなせる技だろうか。  
「ほら、あおいも」  
 夢中でペニスにしゃぶりついていた波多野がかすみに促されて、名残惜しそうにそれから口をはなす。  
「じゃあ、どっちがいい?」  
 布団の上にうつぶせのまま上目遣いでこっちを見る波多野と、横向きで体を横たえ、  
しっかりこっちをみているかすみの視線を交互に見比べ、一瞬固まる。  
「ふふ、あおい、ホントはもう我慢できないんでしょ?」  
 逡巡している間にかすみの右手が波多野の股間に無造作に伸ばされる。  
「いいよ、じゃあ、あおいからね。」  
 あっぁっとしか言っていない波多野の返事を待たずに順番が決められた。  
 
 左手で波多野の顔を持ち上げたかすみが、オレにしたような蹂躙するキスを  
波多野にもすると、とたんに波多野の体から力が抜ける。  
 かすみが波多野の体を引き寄せると、手と手を握り合わせ、抱き合うような形のまま、布団の上に倒れこむ。  
 仰向けのかすみとうつぶせの波多野のおまんこが重なったままこちらに向けられる。  
 ひざをついた波多野が、おずおずとお尻を持ち上げた。  
「は、波多野」  
 波多野は俺の言葉に小さく首を横に振ってかすみのキスを抜け出す。  
「な、名前をよんで」  
 肩越しに振り返った波多野の目は、追い詰められた小動物のようにおびえていた。  
「あ、あおい?」  
 俺の声にとても安心したように小さく笑い、あおいがうなづいた。  
 あおいの背後から近づくと、すでに唾液でどろどろのそれをあおいのおまんこにこすりつけ、愛液を塗りたくる。  
膣口にあてがうと、ゆっくりと腰を進める。小さな引っ掛かりがあって、前進が止まる。  
「きて!!」  
 一瞬脳裏に浮かんだ疑問を確認するまもなく、あおいの声に反射的に腰を打ちつけた。  
「ああう!」  
 苦痛にみちた叫びがあおいの口からもれる。目いっぱい押し込まれたペニスを  
引きちぎられるんじゃないかと思うくらい強い締め付けが襲う。  
 意識する間もなかった。一番奥に押し付けたまま、精液がほとばしる。  
「あつ、あつい」  
 あおいの声をどこか遠くに聞きながら、脈動がなくなるまであおいの一番深いところに精液を吐き出しつづけた。  
 少し硬さを無くしたペニスをそこから引き抜くと、赤い滴が滴り落ちた。  
「あ? え?」  
 何か苦痛に耐えるような表情で布団に崩れたあおいと、かすみの顔を見比べる。  
「うん、そうよ。あおいも、わたしも、初めて。だって、本当に大好きな人じゃなきゃできるはずないわ。  
 あなたに選んでもらえなくったって、他の人となんて、絶対にできない。  
 20歳をすぎたらとか、24にもなってとか、そんなくだらない理由で純潔をすてるなんて、私たちにはできなかった。  
 ただ、それだけのことなの。だから、次は、わたし。もらって、ね?」  
 そのまっすぐな視線を受け止めることはできなかった。  
 
「オレはそんなに思ってもらえるような人間じゃ……」  
 思わず口をついたセリフに、かすみがやさしく微笑む。  
「うん、あなたならそういうと思った。でも、わたしやあおいにはあなたが一番で、ほかの誰もいらないの。  
 だから気にしないで。あなたにほかの何かを求めたりしない。ただ、私たちに、あなたを刻んでほしいだけなの。」  
 布団から起き上がり、四つんばいで近づいてくるかすみから目をそらせない。  
 そのまま覆い被さられ、またキスの雨が降る。  
 今度はかすみの舌が首筋から下に這い、それといっしょにおっぱいが体中にこすりつけられる。  
「挿んでもらったことあるの?」  
 上目遣いのかすみのセリフに一瞬何のことかわからなかった。慌てて首を横に振る。  
「わたしもはじめただから、気持ちよくなかったらごめんね」  
 かすみがえへへと昔のような笑顔で笑った。  
 やわらかい肉に挿まれ、昔のような一生懸命な笑顔で見つめられると、さっきまでの少しブルーな気分なんてどうでもよくなっていた。  
 かすみの唾液を塗りつけられたそれが、おっぱいの間でこすられる。少し水分が足りないのか、引っ張られるように痛い。  
 オレの表情に気づいたのか、かすみが唾液をペニスにたらす。  
 処女のくせにどこで覚えたのか、乳首の先でこすったり、おっぱいにぐいぐいと押し込んでみたり、  
知っているコトを総動員して、おれに気持ちよくなってもらおうとしている。  
 先端を舌で舐めながら、根元のほうをおっぱいで刺激されたとき、射精が始まった。  
 第一波がかすみの顔にかかると、かかったまま、ペニスに吸い付く。第二波、第三波をちゅうちゅうと音を立てて吸い、  
ごくりと音を立てて嚥下する。そして顔についた精液も指でぬぐい口に運ぶ。  
「次は、こっちで、ね」  
 オレの上にまたがり、すこしやわらかくなったペニスを膣口にあてがうと、ゆっくり腰を落としてくる。  
 出したばかりで少し敏感になっているから、少しの刺激でぴくぴく震え、うまくはいらず何度も逃げる。  
 かすみがちょっと困った顔をする。  
「ごめんね」  
 なんどもなんども聞いたはずのそのせりふが、何かのトリガーを引いたかのように、心の奥に熱いなにかを呼び覚ます。  
「きゃっ」  
 腹筋の要領で起き上がると、かすみをぎゅっと抱きしめ、布団の上に押し倒す。  
 
「あ、だ、だめ、だって、わたしが……」  
 セリフを最後まで言わせないように唇を求め、むちゃくちゃに胸をもみしだく。  
 逃げ出せないように左手をかすみの右手としっかり握り合う。  
「いいか、もう止められないぞ。どんなに痛がっても最後までするからな」  
 かすみが飛び切りの笑顔で微笑むのを待って、ペニスをバギナにあてがう。  
 最初の少しだけゆっくり差し込むと、あとは力任せに押し込んだ。  
 かすみの表情が少しゆがむ。けれど、オレの顔をみるとにっこり微笑んだ。  
 ひたすらに腰を振る。かすみを気持ちよくさせようなんて考えられなかった。  
 童貞を捨てたあのときにもどったかのように、自分の快楽だけを求め、ただ女体をむさぼる。  
 結合部に明らかに血がにじんでいるけれど止められない。  
 ただひたすらに唇を吸い、胸をもみしだき腰を打ち付ける。かすみの体をひねり、よじり、ひっくり返す。  
持ち上げ、組み臥し、押さえつける。  
 そして、一番奥で、枯れるまで吐き出す。  
「ごめん」  
 最奥で吐き出し、抱き合ったままの状態で、おもわずそんなセリフがこぼれた。  
「ううん、すごくうれしかった。すごく、すごく『求められてる』感じがしてうれしかった」  
「でも、生で……」  
「大丈夫。だって、わたしたちね、とっても幸運なのよ。」  
 その自信に満ちた笑顔の前には、何もいえなかった。  
……  
「かすみだけずるいぞ」  
 それまで隣でじっとしていたあおいがそういった。  
「だって、口にも出してもらったし、あんなに長くシテたし。あたしなんか一瞬だけだぞ」  
 かすみとあおいの視線がオレに集まる。  
「わ、わかった。今日は、二人にとことん付き合うよ」  
 なんかちょっと"負けた"ような気がする。  
「あ、じゃぁ、アナルとかもいいのか? こっちならすっごく練習したから自信あるんだ。  
じつはさあ、今日のためにビデオや道具をいっぱい買って練習したから、わたしたちの寝室って『スゴイ』よ?」  
「ちょ、ちょっと、あおい」  
「だって、皮手錠とかギグとかアイマスクとかせっかく買ったのに、一回も使ってないんじゃもったいないじゃん」  
 かすみとあおいの視線がオレに集まる。  
 ちょっと目をそらしてみたけれど、その期待に満ちた視線には、ちょっと逆らえそうも無かった。  
 
 それから1年ほどが過ぎた。あれから2人からの連絡があるわけでもなく、もとの平凡な毎日が続いている。  
 月に1回程度にまで回数の落ちた"お勤め"で、フェラを頼んでみたら、気持ち悪いからやめてと言われて、もう2ヶ月も拒まれつづけている。  
 ある日、会社の同僚がヌードグラビアが売りの週刊誌を持ってきた。  
「ちょっと、これ、おまえの同級生じゃなかったっけ?」  
『売り出し中の若手女優○○がレズ婚マザー?』  
 そんな見出しが書かれている。イニシャルにぼかしてあるが、出演作などからみてあおいに間違いないだろう。  
『かねてから女性フルート奏者と同居し、レズ説がささやかれていた女優の○○が女児を出産し、  
各紙がレズ説否定を伝えたところだが、ところがなんと同じ日にその相手の女性も出産していることが本誌記者の調べでわかった。  
関係者は口をつぐんでいるが、あまりにも一致しすぎていることから、人工授精による同時出産ではないかとにらんでいる。  
詳しいことがわかり次第、追って報告します。」  
「なんだそりゃ」  
 ぼそりとつぶやく。  
「かー、つかえねえな。今度一回話を聞いてこいよ」  
 同僚のセリフが遠く聞こえる。  
『わたしたちね、とっても幸運なのよ。』  
 いつかのかすみのセリフが脳裏によみがえる。  
 
 その日帰宅すると、一通の封筒が届いていた。  
♪わたしたち、女の子がうまれました♪  
 音符やハートマークに彩られた写真に、かすみとあおい、そして赤ちゃんも2人。  
 男親が映っていないことを除けば、よくあるバカ親の写真に見えなくも無い。  
 同封の便箋には簡潔な文章が。  
『ふたりにあかちゃんが生まれました。  
なんと同じ日に出産。わたしたちね、とっても幸運なのよ?  
またこんど遊びにきてね  
ps.女の子ばかりだったので、今度は男の子もいいな? なんて かすみ&あおい より』  
 すこしどきどきしながら、何気ないように装って妻に話をすると興味なさそうに"行けば?"。  
 
 ああ、これは『幸せ』と呼んでもいいのだろうか。  
 
 なつかしい、きみたちに、また、あいたい。  
-fin-  
 
 

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