サマー商戦にわくデパートは、私たちと同じ、女子高生や女子中学生の波であふれていた。  
色とりどりのサマードレス、見た目にも涼やかな浴衣。  
そしてこの夏、ちょっと大人っぽく、セクシーに変身したい女の子のための、水着たち。  
それは来る夏の、素敵な予感を連想させてくれた。  
「うーん、さすがにこれだけあると……候補を絞るだけでも大変そう」  
相原早希が芝居がかった様子で水着売り場を見渡す。くすっと笑う私。  
「とにかく、いったん別れて探しましょ? お互いに似合いそうなのがあったらそれもチェックってことで」  
「おっけー」  
そう言うと、私と相原はそれぞれ求める水着を探して別れた。  
さて。  
そもそも、私こと向井弥子が、なんでデパートの水着売り場に来ているかというと……。  
 
 
「水着? なんで?」  
学校のお昼休み、相原から水着を買いに行かないかと言われて、私は素っ頓狂な声を上げた。  
「そりゃー、この夏に備えて……ね?」  
そう言って相原は隣の水村洵に笑いかける。水村は不思議なくらい真剣にうなづいた。  
「……私、別に水着なんて要らないよー」  
泳ぐのが好きだから、どうもひらひらした女物の水着って、好きじゃない。  
もちろん、競泳用水着と普通の水着は全然違うものだってことぐらい分かってるけど……。  
どうも「泳ぐとき邪魔だなあ」「水の抵抗大きそう」なんて、考える自分がいる。  
でも、相原は私の答えに不満そうだ。  
「向井……考えてもごらんよ。もし、もしよ? カッコイイ男の子からプールとか海に誘われたとして……  
アンタまさか、競泳用水着で行こうなんて思ってないでしょうね?」  
「ま、まさか」  
とはいうものの、ちょっとだけ「それでいいじゃん」なんて思ってたけど。  
「私だって、普通の水着くらい持ってるよ……中二以来使ってないけど」  
「どんなの?」  
「薄いオレンジのワンピで、腰にスカートみたいなのが付いてるヤツ」  
はあ、と相原が大げさにため息をついて見せた。  
 
「そんな子供っぽいの、高校生にもなって着れないでしょ? それじゃあ実る恋も実らないって」  
また水村が真面目にうなづいた。  
私はちょっと呆れて、ひとつ息を吐いて二人をじっと見つめた。  
「あのさあ……そりゃ、万が一に備えるのはいいけど、使うあてもない水着買うの、虚しくない?」  
今月のお小遣いだって大して残ってないのに、そんなもの買う余裕はないってわけ。  
ところが、相原は勝ち誇ったように私を見た。いや、見おろしたって感じに近かった。  
「ふふふ……それが、使うあてがあるから言ってるわけよ」  
「そうなの?」  
「村瀬がね、夏休みの最初の日曜に、みんなで海に行こうって」  
村瀬ってのはウチのクラスの男子。お調子者で、スケベなことばっかり言ってるけど、わりといい奴。  
「みんなって?」  
「隣のクラスの、高崎くんと、山田くんと、渡良瀬くんと、月野さん」  
知らない名前ばかりだった。多分村瀬の友達なんだろうけど。  
「向井も誘ってくれって言われてるんだ。だから、ここは一発、セクスィーな水着を……ね?」  
「私、パース」  
相原の言葉が終わる前に私は答えた。知らない人たちと海に行きたいなんて思わない。  
ぶっきらぼうな私の態度に、相原と水村、驚くかと思ったけど、ところがそうじゃなかった。  
「やっぱりねえ……」  
「私が言ったとおりでしょ。向井は断るって」  
「何?」  
にやにや笑いあう二人に、私は尋ねた。  
「やっぱさあ……集団デートとはいえ、浮気は駄目だもんねえ……」  
「はぁ?」  
水村の言葉に、私はまた変な声を出してしまった。  
「二年生の……森崎先輩がいるもんね。そりゃ、他の男の子に目は行かないはずよ」  
頭にかーっと血が上る。  
「な、何言ってんの! アイツと私は……!」  
「はいはい、ただの幼馴染みね。よーく存じてますわ」  
「きっと、ちっちゃいときに結婚の約束とかしちゃってるんじゃない? 永遠の愛を誓った幼馴染み……」  
うっとりとした表情の水村の言葉に、思わず私は赤面する。  
 
当たらずといえども遠からず。  
恋人にしてもらう約束なら、してる。今は勇太は忘れてるみたい……悲しいけどね。  
でもその時は、私は動揺を隠すためにことさら大声を出した。  
「とにかく、勝手に水着でも何でも買ったらいいでしょ! 私は要らないもん」  
くすくす笑う二人の前で、私は顔を真っ赤にしながらふくれっつらをしていた。  
そうよ。私は、勇太以外の男の子に興味なんかないもの。  
 
 
そんな私が、結局相原とデパートに来たのは、昨日るりちゃんから電話があったからだった。  
「あ、やっこ? 私。あのさあ、もうすぐ夏休みじゃん? そんでさあ、勇太と海に行こうと思ってんの。  
で、二人で行くのも寂しいし、ひさしぶりに三人で行こうと思うんだけど、予定開いてる?」  
なんて。  
思わず私、「ほんと!? 勇太と?」って大声出しちゃった。  
危ないあぶない。るりちゃんにはまだ私が勇太を好きな事は秘密にしておかなきゃ。  
だってるりちゃん、すぐに面白がってひっかき回しそうだもん。  
まあ、そんなわけで。  
るりちゃんは何だか電話の向こうで笑ってたみたいだったけど、とにかく私たちは海に行く事になった。  
だから、私も水着がいるんだ。競泳用とか、子供っぽいのじゃなく。  
勇太が、私を「女の子」だと思ってくれるようなヤツが。  
 
 
しばらくして、私と相原はとりあえず気に入った水着を抱えて、試着室に集まった。  
あ、ちなみに水村は急用で今回はいない。  
「結構、たくさん選んだわねー」  
「向井だって、結構いっぱい選んだじゃん。この前まで要らないとか言ってたのにさ」  
「そ、そりゃ、私だって一着ぐらい大人っぽい水着を持ってたっていいかなーって」  
「はいはい。ま、とりあえず試そうよ。一着試すごとに、見せ合いっこして感想を言う。どう?」  
私はその提案に賛成して、相原と隣り同士の試着室に入った。  
そして、胸に抱えた水着を下ろし、制服を脱いでいく。  
ピンクのリボンを解き、ワンピースのファスナーを下ろす。  
 
ワンピから肩を抜いて、ブラウスも脱ぐ。キャミソール、ブラ、パンティと脱いでいく。  
よく考えたら、こんなところで裸になるって、変な感じ。  
脱いだ下着を全部脱衣カゴに入れて、全裸になる。  
目の前の鏡に、裸の私がいる。なんだかすごく心細い気分になるのは、なんでだろ?  
「そんなことより、試着だ、試着」  
私はそう自分にハッパをかけ、とりあえず一番上にあった水着を着た。  
まずは黒がベースで、胸元に白いレースの飾りがある以外はシンプルなワンピース。  
競泳用とかとあんまり違わないから、抵抗感がない。  
「終わったー?」  
隣から相原が声をかける。「終わったよ」と返事して、試着室から出る。  
お互い、水着姿でご対面。  
相原は、水色がベースのセパレートタイプだった。  
「あ、いいじゃん、それ」  
でも、私の言葉は聞き流し、相原は顎に手をあてて、私の水着姿を見ている。  
「……代わり映え、しなさすぎ」  
「え、そ、そうかなあ……」  
「黒じゃ、いつもの向井と変わんないよ。やっぱさあ、高校生なんだしセパレートでしょ」  
そう言うと、相原はシャンパンカラーにオレンジの水玉が入ったセパレートを持ってきた。  
「これなんか、向井に似合うと思うんだけど……」  
「セパレートは、無理だよ。私日焼けしてるもん」  
私の肌には競泳用水着の日焼け跡がくっきり残っている。  
セパレートタイプをきると、日焼けしてない白いお腹がむき出しになる。  
手足が黒くてお腹が白。パンダじゃないんだから、そんな格好できない。  
「でもさあ、向井あんまり胸ないじゃん? そういうときこそ、セパレート水着の方がいいんだよ」  
「そうなの?」  
「ワンピースは胸がないとメリハリがなくなるでしょ? その点、これなら……」  
「やっぱ、無理。絶対変だもん。私はワンピースから選ぶからね」  
そう言って私は手渡された水着を相原に返す。それを相原はもう一度私に押し付けた。  
「それに、セパレートにはもう一つ利点があるから」  
相原は私に耳を近づけるよう、手招きした。  
 
「利点って?」  
「ふふふ……すぐにぃ……セックスできるじゃない」  
その言葉に私はぱっと顔を赤らめた。  
「ば、ば、ば、馬鹿じゃない? 何言ってんのよ……」  
「夕焼けの浜辺……甘い彼の言葉……抱き寄せられて……彼の手が水着の中に……」  
私の抗議なんか完全に無視して、相原は物語を創りだす。あー、妄想モードだ。  
「するり、と下だけが脱がされて……優しい愛撫。大自然の中で経験する初めての痛み……。  
なんていうか、ロマンチック? 静かな波と、彼の激しい腰使いに揺られて」  
「だから、なんでそうなんの!?」  
「彼のたくましい巨根が何度も何度も……あー、でもやっぱここは受は美少年で……」  
何だかよくわかんない事を言い出してる。とりあえず止めなきゃ。  
私は相原といっしょに持っていたシャンパン色の水着を、ひったくるように取った。  
「もう、いい加減こっち戻ってきなさいって。とりあえず、これ着てみるから」  
「あ、うん。そうそう。もし幼馴染みの彼に求められたとき、ワンピじゃ辛いからね」  
はぁ……。何だか頭が痛くなってきた。  
どこの世界にセッ……ごほんごほん。その、「アレ」のしやすさで水着選ぶ女子高生がいるのよ。  
あー。もしかして今度海に行く中に、相原の好きなヤツでもいるのかな。  
私は気を取り直して、もう一度試着室に入り、黒のワンピースから、今手渡された水着に着替えた。  
鏡の中の自分を見る。  
……やっぱり、パンダだよ。  
水着の色が肌色に近いから、確かにあんまり目立たない。その辺相原も考えてる。  
でも、やっぱり手足と体の肌の色が違いすぎる。  
これじゃ、勇太は黙ってくれてても、るりちゃんがからかい始めて、結局勇太にも笑われて……。  
そんなの、やだ。  
「着替えたー? 私も終わったから」  
相原の言葉に、しぶしぶ試着室を出る。  
相原が次に着てきたのは、お腹の辺りが大胆にカットされたワンピの水着。パレオがかわいい。  
私は他のお客さんに見られるのも恥ずかしくて、おずおずと試着室を出た。  
「あはっ、やっぱ向井それセクシー! 絶対そっちの方がいいって」  
 
「駄目。やっぱり日焼けが気になる」  
私はむすっとした顔で言った。相原、機嫌悪くするかもって思いながら。  
でも、相原は案外あっさりとしたものだった。  
「うーん。そこまでこだわるなら仕方ない。日焼け跡も色気のひとつだと思うけどねぇ……。  
ま、そう言うだろうって予感はしてたけどね。じゃあ、これなんかどう?」  
素早い。  
あらかじめ用意しておいたのか、相原はまた別の水着を取り出した。  
それは確かにワンピース型だったけど、今度は色が問題だった。  
「……それ、白じゃん」  
「そうだよ?」  
もう。わざと私を困らせてる?  
「透けちゃうよ。私水遊びじゃなくて、泳ぎたいもん。これじゃ水につかったとき」  
「大事なところは透けないようになってるんだって」  
今の白い水着生地は濡れても透けない。私だってそれくらいは知ってるけど。  
でもやっぱり白は抵抗がある。  
「水に濡れて、水着越しに透けて見える肌……これにドキドキしない男はいないわ。きっと……」  
腕に力を入れて、相原が語りだす。あー、また妄想入っちゃう。  
分かったわよ。とりあえず着ればいいんでしょ、着れば。  
仕方なく私はその白いワンピースも相原から受け取った。  
呆れながら、試着室のカーテンに手をかける。後ろから、相原が声をかけてきた。  
「向井」  
「……何?」  
「ちょっとは彼をどきどきさせないと、いつまでたっても『幼馴染み』のままだぞ?」  
「なっ……」  
「恋人に見られたいんなら、まず女に見られる努力、しなきゃ」  
にかっと歯を見せて笑うと、相原は私が文句をいう前に試着室に逃げ込んだ。  
 
 
「いつまでたっても『幼馴染み』のまま……か」  
試着室のカーテンを閉めると、私はぽつりと呟いた。  
 
 
そう、勇太にとって私はただの幼馴染み。  
相原や水村が冷やかすから、時々本当に私たち恋人同士なんじゃないかって錯覚するときもある。  
でも、よく考えたら私と勇太の関係は、小学校のときから一歩も進んでない。  
私は、相変わらず元気で男勝りな「やっこ」。  
 
「勇太……カッコよくなったもんね」  
小さいときとは比べ物にならないくらい、たくましくて男の子っぽくなってる。  
「最近女の子と一緒にいる事、多いし」  
同じ二年生のお下げ髪の先輩。かわいくて、胸大きかったな。  
三年生の有名な先輩。私と違って、すごく優しそう。  
小柄な二年生の人。るりちゃんみたいに勇太とじゃれあってた。  
スパッツをはいた背の高い二年生。言葉は少なくても、勇太と仲よさそうだった。  
眼鏡をかけた女の人。華奢で、おっとりとしてて……男なら、守ってあげたいって思うんだろうな。  
それなのに、私は。  
「強がり言って、勇太にからかわれて、何にも、変わってないよ」  
胸に抱いた水着をぎゅっと抱きしめる。  
あふれてくる涙をせき止めるように、固く目を閉じて。  
体が震えてきちゃうのが、抑えられない。  
私は両腕で自分の体を抱きしめた。  
勇太を想う気持ちが納まるのを、そうやってただ黙って待つ。それしかない。  
私は、ふと目を開いた。  
「……着替えなきゃ。相原待たせちゃう」  
顔は涙で少し濡れちゃったけど、誰も見てないから、いいや。  
そう思って少し笑う。  
そっとセパレートの水着を脱ぎ、静かに白のワンピース水着を身にまとう。  
胸元にブランドのワンポイントが入った、シンプルな水着。  
日焼けした私の肌と、はっきりしたコントラストをつくってる。  
「相原……これ、結構ヤバイじゃん」  
私はそう独り言を言いながら、鏡に映った自分に近づく。  
着るまでは気がつかなかったけど、これ、かなりきわどいハイレグだ。  
 
お尻だって、半分ぐらいしか隠れてない。ビキニラインも、すごく切れ込んでる。  
「……ちょっと、はみ出しちゃうかな。お手入れ、しなきゃな」  
そう言って、私は自分の下腹部にそっと手を当てる。  
白い水着のラインから、少しだけヘアが覗いていた。  
手入れはサボってないつもりだけど、やっぱりハイレグだともうちょっと剃らないと駄目みたいだ。  
私はそう思いながら、ビキニライン沿いに指を這わせる。  
「濡れて……ヘアが透けたり、しないよね?」  
もし、勇太に見えちゃったりしたら、あいつどうするだろ?  
目のやり場に困っちゃうかな。それはそれで、面白いかも。  
私はビキニラインからそっと自分の陰部に手を入れた。ふわふわとしたヘアを手で包む。  
「……『弥子、み、見えてるぞ』……なーんてね」  
顔を真っ赤にした勇太が、そう言いながら私に近づくところを想像する。  
「勇太になら、見られてもいいもん」  
私が答える。驚く勇太。私は、背伸びするように勇太を見つめる。  
「勇太……約束、覚えてる? 私を恋人にしてくれるって……」  
さわ。陰部にあてがった指を、ちょっと動かす。  
指先が、茂みをかき分けて、私の敏感な唇に当たった。  
私は、夕暮れの海辺に勇太と向かい合っているところを思い描く。  
勇太が、怯えるように私の体に触れる。  
肩から、脇へ。脇から下へと滑って、腰へ、そしてお尻へ。  
私は、目を閉じて勇太を受け入れる。  
勇太の手が、私の太ももをしばらく撫でていたかと思うと、突然水着の中に入ってくる。  
「駄目だよ……勇太、こんなところで……」  
私が言っても、勇太は聞いてくれない。ビキニラインから差し込んだ手が、私をまさぐる。  
指をそっと割れ目にそって下へと這わせていく。  
時々つんつんとつつきながら、私の谷間を優しく撫でる、勇太……。  
やがて、一番下のところに到着すると、指をぎゅっと割れ目に押し込む。  
「きゃぅっ……」  
少し痛みがあったけど、大丈夫。勇太は優しくしてくれる。  
そう、勇太が私の膣に、そっと指を……。  
そう思った瞬間、私の中で何かが弾けた。  
 
差し込んだ人差し指を伝わって、とろりとした湿りがあふれてくる。  
「勇太、私、とっても濡れやすいんだ……」  
呟きながら、さらに指を奥に入れる。押し開かれた割れ目から、さらに私の愛液が滴った。  
自分の中が、どんどん熱を持ち始めているのが、指から伝わってくる。  
「勇太……毎日、勇太で……こんなこと、してるんだよ……?」  
指を挿入したまま、少し手をひねってみる。  
私の、敏感なところはもうちょっと中なんだけど……勇太に教えてあげたい。  
「もっと、奥……そこだよ……勇太。もっと……触って」  
思わずこぼれそうになる声をかみ殺しながら、私はさらに指をぐりぐりとかき回すように動かす。  
「ん……あぁ……勇太、おなにぃする女の子、きらい? 私のこと、きらい……?」  
軽蔑されたら、どうしよう。でも、私の手は止まらない。  
二本の指でかきぜながら、私はさらにゆっくり指を出し入れさせる。  
ぬちょ……ぬちゅ……ぬちゅ……。  
試着室に私の濡れた音が響く。  
ゆったりとした手の動きにあわせ、のたくるような粘っこい音が、自分にも聞こえた。  
いつの間にか私は試着室の壁に体を預けていた。  
右手はビキニラインから陰部へと、そして左手は自分の胸へと差し込まれている。  
目の前の鏡には、マスターベーションにふける私が映し出されている。  
だらしなく足を開き、はずかしげもなく股間をいじってる、私。  
水着越しにも、私の手が激しく動いているのが分かる。誰かに見せつけるくらいに。  
右手に負けないくらい強く、自分で自分の胸を揉む。  
まるで握りつぶすみたいに荒々しく揉みしだき、それから一転して優しく乳首を転がす。  
「ふぅぅぅ……ん」  
乳首を擦った快感に負け、私は鼻にかかった吐息を吐く。  
「おっぱい、毎日マッサージしてるけど、大きくなんないんだよ、勇太……。  
でも、これからは勇太がマッサージしてね? 毎日、勇太がしたいときにしていいから……。  
……そしたら、きっと大きくなるよね?」  
ささやくように唱える。ああ、勇太が、私の胸に触ってる……。  
「勇太……もっと、おっぱい触って……下も……下も触って……!」  
熱に浮かされたように、何度も何度も私は勇太の名前を呼ぶ。  
 
そして、はっきりと聞こえるほど大きな音を響かせながら、膣を指でかき回す。  
ぬちゃっ! ぬちゃっ! ぬちゃっ! ぬちゃっ!  
次第に感覚を縮めながら、さらに指で愛撫を繰り返し、自分を高めていく。  
「ゆ、勇太……勇太……勇太……いっ、いっちゃうよお……」  
吐息が荒くなっている。  
私は目をつぶると、小刻みに手を震わせて、勇太の顔を想像した。  
んちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっ……  
思いっきり手を震わせ、私は自分の弱点をぎゅーっと刺激した。  
「あっ……いっ、いく……っ」  
最後の理性が働きかけてくれたおかげで、私に唇を噛み、絶頂の声を出さずにすんだ。  
ぴりっぴりっと震えるように背中を走る快感。  
その波にあわせるように、あふれ出す私の蜜。  
私は壁に背を預けながら、その余韻に浸る。  
静かに愛液にまみれた手を水着から引き抜いた。  
まだ熱くうずく陰部へ、静かに目を落とす。私の雫が両足を伝って光っていた。  
「あは……ほんと……透けないんだ……」  
べちょべちょになった私の下腹部が、鏡に映っている。  
でも白の水着はそれでもなお私の大事なところを隠し続けていた。  
 
 
私は、結局二着水着を買う事になった。  
最初に選んだ黒のワンピースと、白のハイレグ水着。  
やっぱり、自慰に使ったものを他の人が買うなんて、考えただけでも嫌だったから。  
自分のせいとは言え、ちょっと痛い出費。  
私が二着も買った事を相原は驚いたけど、あえて深くは尋ねてこなかった。  
相原はパレオ付きのワンピースを買った。結局、セパレートはまだ恥ずかしいみたいだった。  
「これで、夏の準備はオッケーっと」  
笑いあいながら、水着売り場を出る。その時だった。  
「勇太?」  
「あ、や、やっこ?」  
 
突然勇太が目の前に現れたから、私は首まで真っ赤になってしまった。  
だって、さっきまで勇太で……。  
「あ、森崎先輩。何してるんですか?」  
戸惑う私を無視して、相原が勇太に声をかけた。  
勇太は愛想良く笑いながら相原に挨拶する。  
「うん、ちょっと姉に買い物を頼まれてね。そういう君たちは?」  
「ええ。私たち、水着買いに来たんです」  
勇太の顔が少し緩むのが見えた。……ばか、スケベ。  
相原がにやにや笑いを浮かべながら、私の方を見る。  
「向井ってば、あんまり乗り気じゃないとか言ってたくせに、二着も買ったんですよー」  
驚いたように、勇太が私を見る。  
「え? どうして二着も? 結構金持ちなんだな、やっこ」  
不思議そうな顔の勇太に私は黙り込む。  
それでも勇太は、私の顔を覗き込むように尋ねてきた。  
「ね、どうして二着も……?」  
ああ、もう、聞かないで……。私は言葉ではなく、思わず行動に移していた。  
「勇太のせいだーっ!!」  
ばっこーん。弥子必殺、薬きょうパンチみごと命中。  
……やっぱ、恋人になるのはまだまだ先かな。  
―終わり―  
 

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