「雅人クン、だ、だめだよ…こんなところで」
「誰も来やしないって」
「ひょっとしたら来るかもしれないよ」
「来るはずないだろ。こんな時間に」
二人が問答をしているのは、暗がりに落ちかけている理科室だった。
帰り際に雅人が忘れ物をしたと言って理科室に取りに来ようとしたのを、かすみがついてきたのである。
暗くなりかけた校舎で独り待たされるのが嫌だというのが理由だった。
「で、でも」
「な?すぐ終わるって」
雅人がかすみの腰に手を掛ける。
「だ、だめだよぅ…雅人クン」
「嫌なのか?」
「ま、雅人クンとするのが嫌なんじゃなくて…もし誰か来たら…」
「だから、来ないって」
雅人はきっぱりと言い切る。
かすみはドアの方を横目でうかがいながら、どうしようかと逡巡している様子だった。
「ぜってーすぐ終わる。約束する」
「じゃ、じゃあ雅人クン…私がしてあげる…」
「あ?」
かすみは手に持った手提げ鞄を床に置いて、雅人の前にひざまづいた。
「お、おい」
「電気、つけないよね?そうしたら、もし誰か来てもなんとかごまかせると思うから…」
かすみは雅人のジッパーに手を伸ばしていった。
「ひょっとして、お前」
「だ、だめかな?」
「…いや。いいけど…」
「じゃあ、開けるね?」
ジー…と音を立てて、雅人の学生ズボンのジッパーが下がっていく。
かすみはそこに指を入れて、トランクスの裾から何とか雅人の分身を引っ張り出そうと試みた。
「取った方がいいだろ」
雅人がホックを自分で外す。
窮屈だった空間が開けて、半分飛び出していたペニスがかすみの前に思い切り突き出された。
「あっ」
「じゃ、かすみ…」
「ま、雅人クン、これじゃ誰か来たとき困るよ…」
「だから、来ないんだって。それにもし誰か来たら、1秒で元に戻して見せるって」
「ほんとう…?」
「ああ、ほんとだ」
「ぜ、絶対だよ…?」
かすみはそう言って、雅人の分身にそっと触れる。そして、ぺろんと舌で先端を舐め上げた。
ぺろ、ぺろ…
手で軽く固定した肉棒を、先端の部分を中心としてまんべんなくなめ回していく。
一点に集中していないために快感は分散していたが、一回一回の間隔は結構短かったし、こするような強い舐め方のために加わる刺激も大きかった。
ふぅ…
雅人が鼻腔から小さく息を吐き出す。早くも、身体の底に確かな高ぶりを感じ始めていた。
「かすみ、なんかすげー上手いよな」
「……」
無言でかすみは行為を続けていた。
固定する手は片手ではなく両手になっており、垂れてきた唾液を使ってぬるぬると大きく撫でる。
時折軽く肉棒を締め付ける動きや、袋の部分をくすぐったりする動きが加わる。
舐める対象も、先端に集中してきた。どんどん雅人は高まっていく。
「なんだか…すげーや」
感嘆の評価をして、雅人はかすみの行為に全てを委ねた。
肉棒を恋人の口で愛してもらうという経験ははじめての時にしてしまっているから、その事自体による感激は少ない。
だが、冷静にかすみのフェラチオを感じてみると、妙に上手いという印象を受けた。端的に言えば気持ちいい。
だからと言って、すれている印象を受けるわけではない。いつもと同じようなひたむきさが、身体の奥まで響くような性感につながってくるのだ。
「かすみ」
雅人はかすみのボブの髪をくしゃくしゃと撫でる。
すると、かすみは雅人の肉棒をぱくりとくわえこんで、前後にしごく動きに切り替えた。
「ああ…」
ちゅぷっ、ちゅぷという淫らな水音が理科室に響く。辛気くさい薬品の香りをはねつけるかのように、雅人とかすみは熱気に包まれていた。
しかも、かすみが鼻から漏らす息と前髪の先端が肉棒にこすれて、煽り立てるような刺激になっている。
ペニス全体が、じーんと痺れるような感覚に包まれてきた。
「う…出ちまうっ…」
だが、かすみは一向に行為の速度を緩めず、少しだけ潤んだ目で雅人の事を見上げた。
「…いいのか?」
ちゅぷ、ちゅぶ、ちゅぶっ!
「わ、わかった…」
その行為自体が、何よりの答えだった。それに、今引き抜いても思い切りかすみの顔面にぶちまけてしまうだけだろう。
雅人は、ペニスを通り抜ける射精感があたたかなかすみの唇に包まれる感覚を目一杯に感じた。
びゅっ、びゅっ、びゅっ…
放出感がある。尿道口のすぐ近くにはねっとりとしたかすみの舌の感触があって、かすみの口の中に出してしまっているという感覚をより強めていた。
…こく、こく…
放出からやや遅れて、かすみが白濁の液を飲み下していく音が聞こえてくる。
はじめての経験であるのに全く躊躇もなく、絞るように綺麗に飲み込んでいった。
「全部…飲んじゃったな…」
ちゅる…
「うん…」
肉棒を口から離し、口元をぬぐいながらかすみがうなずく。
「かすみ…お前って、なんだかすごいな」
「え…だって、ここで外に出しちゃったらお掃除もできないし…」
「…なんだよ、かすみ、お前俺のをそんな風に思ってたのか」
肉棒を服の中にしまいながら、雅人が言う。
「えっ!えっ…そんな事ないよ、私雅人クンのを飲めて、すごく嬉しかったよ…」
「ばーか、んな見え透いたウソ言ったってバレバレなんだよ。こんなもん飲んだって気持ち悪くなるだけだろ」
「ううん…嬉しかったのはほんとうだよ…」
かすみは鞄を持ちながら言った。こんな暗がりでも、頬を染めているのがわかる。
「ったく…」
雅人は興味なさそうに言ってかすみに背を向けた。
「あ、雅人クン待ってっ…」
「なあ、このまんま俺んち来るか?」
「え…」
「来るんなら来いよー」
すたすた、と歩き出す。
「う、うんっ…私、行くよ…!」
かすみは戸惑った声を上げながらも、嬉しそうに雅人の横に並んだ。
完