とある暑い夏の日。
一人の少女がとある建物の前に来ていた。
建物は、どうやら何階建てかのアパートのよう。
その少女のいでたちは、一言で言うならば異質。
この、超能力を科学する都市に於いては、非科学の象徴とも言える神仏に仕える装束。
つまり、巫女装束。
上条当麻の住む男子寮に、巫女装束の姫神秋沙(ひめがみあいさ)が訪れたということだ。
(先日の一件では。随分と助けられた。ここはひとつ。御礼をすると同時に。新たな関係へと進もう。うふふ。)
両手に下げたスーパーのレジ袋には、ジャガイモ大根、卵にちくわ、こんにゃくはんぺん。どうみてもおでんです。ありがとうございました。
(あの。居候が。小萌の家で。焼肉食べてるのは確認済み。あの部屋には上条当麻ただ一人。うふふ。この暑い日に焼肉なんて。)
この暑い中におでんもどうかと思うが。
(それに。)
もうひとつの袋をちらりと見る。薬局の袋。中にはコンドーム1グロス(144個)。
(やはり。こういうエチケットは。男性が負担すべき。小分けに買うよりもお得なサービス品。私の経済観念に感謝してほしい。)
彼女の立ち寄った薬局では、ひとつの伝説が生まれていた。
巫女さんにコンドームをグロス単位で買わせる男、上条当麻。ちゃっかりと領収書には彼の名前がかかれてあった。
そしていよいよ上条当麻の部屋の前。
呼び出しベルのボタンに指をかける。
(これで私にも。既成事実が。)
かち。
・・・・・・。
(でない。)
かち。
・・・・・・。
(もしや留守? いやそんな。)
かち。
・・・・・・。
(この暑さの中。出かける気力が。あるとは思えない。)
かち。
・・・・・・。
かち。
・・・・。
かち。
・・・。
フェードアウト。
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「なんか、誰か来たんじゃないか? ドアベルが鳴らないけど、気配がする」
「隣人への来訪者では? とミサカは推測してみます」
「そーかもな。つうかいま新聞代を集金に来られても、とてもじゃないが出れねぇし、ま、いっか」
「(ドアベルの配線を切断しておいて正解でした、とミサカは自分の判断の正しさに満足します)」
姫神秋沙、スルー。